ツンデレラ 8
 

 
 
「さあ恋次!」

ルキアが指し示した方向を見て恋次さんはビビりました。

「こ、これは・・・。西瓜?」
「そうだ。生憎、南瓜が季節的に難しくてな。冬瓜とどちらがいいか迷ったのだが見栄えと知名度の点でやはり西瓜がいいと思ってな!」

ルキアさんの厳しい審美眼を潜り抜けた巨大西瓜が、更木家の門前にどどーんと転がっていました。
恋次さんの腹センサーが食料を察知してぐぐぅと鳴りました。

「・・・全部食っていいのか?」
「莫迦者! これは乗り物だ、人力車だ! コレで城まで行け!
 こうやってゲンを担ぐと后の座を勝ち取れると文献には載っておるのだ!」

確かにスイカの周囲には、ツルで出来たと思しき車輪がくっついています。
恋次さんはビックリしてルキアさんを見つめました。

「ルキア・・・。テメー、すっかり物知りになっちまって。すまねえな、世話かけて」

ルキアさんはもちろん自分のためにやっていたのですが、余りに単純且つバカ丸出しの幼馴染を目の前にちょっとだけ情にほだされました。

「や、喧しい。さっさと行け。そして后の座を掴んでくるのだ!」
「ルキア・・・」
「幸せになるのだぞ、恋次」
「すまねえ・・・!」

ルキアさんの目に自己陶酔の涙が光りました。
恋次さんはまた初恋の甘酸っぱい大波が返ってくるのを感じました。
でもダメです!
后になるためには、初恋とかそういう夢を見ていてはいけないのです!
掴むのは后の座。
たいやきとルキアさんの出世、一石二鳥なのです。

見ててくれ、俺の星!

心の中で叫んで恋次さんは西瓜の前へ、人力車を引くべく走り出しました。
だってそこが恋次さんの定位置だからです。

「うおおっ?!」

が、そこには恋次さんを遙かに超える巨大男がいました。

「な、なんだお前は?!」
「・・・・」

しかも反応がありません。シカトです。

「やる気か? 面白れえ・・・!」

恋次さんは戦闘態勢に入りました。

「待て、恋次! そいつは俥夫だ! 貴様は后候補らしくこっちに乗れ」

あわててルキアさんが割り込んできました。
今ケンカでもされたら衣装もボロボロになります。

「乗る? 俺が?! でも俺が乗ったら重くて動かねえし、メイドの身分でこんなもんに乗れねえ・・・。俺、走っていくぜ!」
「莫迦者!! 走ってくる后候補がおるか?! 茶渡、すまぬがそいつを座らせてやってくれ」
「問題ない」

そう言って俥夫の茶渡さんは恋次さんを抱え上げました。
いわゆるオヒメサマ抱っこです。
恋次さんは戸惑いました。
こんな風に軽々と、しかも貴重物のように扱われたのは初めてなのです。

「お、下ろせよっ!」
「暴れるな。落ちると服も汚れる」
「・・・・・」

それはマズイ、たいやきが遠のいてしまう。
そう思った恋次さんはじっと抱っこされるままになりました。
ちら、と見上げると異国風の風貌、立派な体躯。堂々の偉丈夫です。
豪華衣装を通して感じる茶渡さんの筋肉は、恋次さんのものより立派なようでした。
く、くそ!
俺だって!
恋次さんは、同じパワーファイター系として少し悔しく感じ、顔を薄く赤らめました。

おお、恋次が色気づいてきている・・・!
そんな恋次さんの胸中を全く知らないルキアさんは、恋次さんにレデーとしても自覚が出てきたのかと嬉しく思いました。
だってその方が后合格率が跳ね上がるからです。

さて、そんな二人の事情など全く関係ない茶渡さんは、恋次さん抱きかかえたまま、のっしのっしと西瓜の横に来ました。
そしてドアを開けて、その中にそっと恋次さんを下ろしました。

「す、すまねえ・・・」
「問題ない」

スイカの中はなにやら甘い匂いが漂っています。
ちょっと湿度も高いようですが、とりあえず中張りは完璧で、突貫にしてはいい仕事がしてありました。
隅っこに十字架マークが一杯あるなあ、と恋次さんがキョロキョロしていると、

「よいか、恋次。12時だ。12時までに后の座をゲットして城を出ろ」

とルキアさんがドアの外から叫びました。

「12時?」
「そうだ。12時を過ぎると・・・」

その時、西瓜の人力車が走り出しました。
ゴロゴロとすごい地響きがルキアさんの声をかき消しました。

「・・・なんて言ったんだ、ルキアっ?!」
「よいか!! 12時だぞ!」
「ルキアァッ!!」

もう声が聞こえません。
西瓜の馬車が巻き上げる砂埃で、手を振るルキアさんの姿もよく見えません。
長いこと恋次さんに過剰労働を強いてきた、でも唯一の家と呼べる更木家が遠のいていきます。
もう後には引けないのです。
賽は投げられました。

恋次さんは胸がキリリと痛みました。
そして腹もぐぅぅと鳴りました。

「この手で・・・后の座を掴んでやる!」

恋次さんの眼がギラリと暗く光りました。
こうして恋次さんの新たなる旅立ちのときが来たのでした。





なんだか夢の総受け体制になっては来たぞ! とはいえ恋次さんのセンサーは全く機能していない。
まさにヌカに釘、暖簾に腕押し! そんな恋次さんは舞踏会で果たしてレデーらしく振舞えるのか?
 王様のハートはガッツリつかめるのか?! そこんとこは、、
>> ツンデレラ 9 へGO!
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