ツンデレラ 9
「これが城・・・!」
西瓜の人力車の窓から城を目にした恋次さんは、口をあんぐりとあけました。
無理もありません。
お城、という言葉の響きからは想像も出来ない、奇妙な塔が並び立つ巨大建物群だったのです。
まるで未来映画か何かのようです。
「おいっ! 本当にここなのかっ?」
「問題ない」
恋次さんをのせた重い西瓜の人力車を猛スピードで引きながらも、息一つ乱さない茶渡さんは怒鳴り返しました。
慣れない環境に放り出されて実のところ不安で一杯の恋次さんは、
冷静かつスバラシイ体力の茶渡さんにいらあっとしました。まあ八つ当たりです。
「つかテメー、問題ないの他にいうことねえのかよ?!」
「・・・・・」
「筋肉バカだな? ボカブリリーとかねえんだろっ?!」
「ボキャブラリーだ」
「・・・・!」
天に唾吐きゃ自分に返るということで、すっかり筋肉バカの自覚を新たにさせられた恋次さんは、
顔を真っ赤にして西瓜の馬車のソファーに座りなおしました。
考えてみれば、毎日を生き抜くので精一杯だった毎日。
命令に答えるだけの人生。高尚な会話とかできるわけがないのです。
すっかり恋次さんは開き直りました。
そして方針を決めました。なるべく無言。終始無言。
出発間際にルキアさんも口を酸っぱくしていたではありませんか。
”よいな。なるべく口を開くな。立派なレディは視線と微笑みだけで殿方のハートを射抜けるのだ。”
わかったぜ、ルキア!
俺は立派に眼だけで射抜けるレデーになる!
そう心の中で叫んで、恋次さんは西瓜の人力車の窓から、どんどん近づいてくるお城をギラリと睨みつけました。
その行為は世間一般では「ガンを飛ばす」と言われていましたが、恋次さんはすっかり王様のハートを射抜いた気分でいました。
この勘違いが後々舞踏会で混乱を引き起こすであろうことは想像に固くありません。
さて、やっとのことで城につきました。
どうやら門番と茶渡が話しているようです。
遅れていること、更木家の末娘であることなどを滔々と述べる茶渡さんですが、もちろんこれは、門番突破のためのルキアさんの入れ知恵です。
そんなこととは知らない恋次さんは、びっくりしました。
なんだ、こいつすげえボカブリリーとかあるんじゃねえか!
力もあるし、モノも知ってるし。世の中にはすげーヤツもいるんだなあ。
交渉を無事済ませた茶渡さんが人力車へと戻ってきました。
「降りろ。ここから先へはお前が一人で行くのだ」
「・・・茶渡は行かないのか?」
「俺は俥夫だ。身分違いでこんなところには入れん」
それを言うんだったら恋次さんだってメイドです。
でもそれも今日まで。明日からは后になるのです。
恋次さんはぐっと拳を握りました。
「・・・わかった。いろいろと世話になったな」
「問題ない」
「いつかテメーとも手合わせしてみてえな」
「楽しみにしている」
「きっと俺の方が強えぜ?」
「やってみないとわからん」
ぶつかり合う視線、はじける火花。
そしてがしっと二人は握手をしました。
なんだか急に生まれた熱っくるしい友情に恋次さんはジンとしました。
体育会系の恋次さんと大陸系の熱い血が流れる茶渡さんの二人ですので、こういうのは得意だったのです。
触れ合った手と手を通して流れ込んだ情熱と、互いに対する賞賛。
無言のひと時。
・・・違う時空で、例えば共同戦線を張って、互いに互いを高めるようなどっかの洞窟での二人っきりの鍛錬。
そんな状況が在れば、彼ら二人の関係もノリノリに変わっていたかもしれないのです。
けれどそんなことを嘆いても仕方ありません。
もう恋次さんは、前に進むしかないのです。
「・・・12時まで、ここで待っている。健闘を祈る」
「・・・ああ、勝ってくるぜ」
恋次さんは西瓜の人力車と茶渡さんに背を向けました。
目の前に聳え立つのは、異様な巨大建築群。
あのどこかで王様が、今か今かと未来の后である自分を待っているのです。
「・・・行くぜ、蛇尾丸!」
ルキアさんからお守りにと渡された刀を腰に差して、
恋次さんは賑やかな音楽が流れてくる大扉の方に向かったのでした。
あれ、刀?
それはともかくついに城に来た!
今度はやっと舞踏会!
そして次のお相手は誰?
まだ考えてないけど、キャラは一杯いるから引く手あまただ!
ってなわけで、行き当たりバッタリで続きは
>> ツンデレラ 10 へGO!
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