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二月十四日は好きな相手にチョコを贈って想いを伝える日。 日頃、勇気がなくてもこの日ばかりは不思議と力が沸いてくる特別な一日。 『バレンタイン』 そんな日が世の中に存在するとは知らなかった。 闘い以外の物事にあまり興味を示してこなかったからだ。 今でさえ関心があるのは唯一、赤石のことだけ。 他には特別、琴線に触れるようなものは存在しない。 そんな中、昼休みに富樫や松尾達の会話を耳に挟んだことがそもそもの始まり。 チョコをもらうなら好きな人からもらいたいと富樫が言った。 松尾はもらえるだけで嬉しいと賛同した。 しかし、田沢は女のいない塾内でもらえるものかと否定する。 バレンタインなるものについて賛否両論が巻き起こる中、ふと臣人の脳裏に赤石の顔が浮かんだ。 「……」 好きな相手=赤石。 この図式は否定できない事実だ。 近頃では名前を聞くだけでドキリとする。 我ながら呆れてしまうくらい赤石のことが気になって仕方ない。 「チョコレート……か」 周りの喧騒も気にならない程、臣人は一人物思いに耽っていた。 もしも渡したら赤石は喜んでくれるだろうか。 いつもは憎らしいことを言う男でも、バレンタインの日ならば黙って受け取るかもしれない。 また、自分も時には素直になってみるべきではないのか。 「よし」 その日の夕方、臣人は一生分の恥じらいをもって赤石に渡すチョコを仕入れに出掛けた。 一夜明けた翌日、実に不自然極まりなく校庭へ目を光らせる臣人の姿があった。 探しているのはもちろん赤石。 見つけたらすぐさま手渡そうと学ランにチョコを忍ばせていた。 昼になって校舎の周りを一周した頃に、ようやくお目当ての赤石を見つける。 相変わらず悠然と歩く様に半ば目を奪われつつ、校舎裏で声をかけた。 「おい」 明らかに礼節を欠いていたが、さして気にするでもなく赤石が立ち止まる。 「何だ」 「……」 振り向いた当人に何と言うべきか悩む。 呼び止めたものの渡す手順は何も考えてなかった。 「用があるんじゃねえのか」 「うるせえ」 「てめえが呼んだんだろうが」 そうだった。 今日は素直になると決めたのだ。 「……やる」 学ランから引っ張り出した包みを赤石に差し出す。 台詞が続かない。 ジッとこっちを見るから息が詰まりそうになる。 「珍しいこともあるもんだ」 目の前のチョコを見た赤石が、からかい気味に鼻で笑う。 「渡す時に言う言葉があるんじゃねえのか?」 「ち、違う、これは」 「上手に言えたら受け取ってやってもいいぜ」 何だ、その言い種は。 気に食わない。 「誰がてめえなんか好きになるかっ」 ムカついた臣人が吠えた。 やっぱり素直になんかなれない。 特別な日なんて嘘だ。 勇気どころ苛立ちの方がこみ上げてくる。 ここに来るまでどれほど緊張したと思っているのか。 分からないまでも一生懸命、赤石を想いながらチョコを選んだというのに。 「二度と買うかっ」 近くにあったゴミ箱目掛け、チョコを投げ捨てた。 「おい、それは俺に渡すんじゃねえのか」 「欲しけりゃ自分で買えっ」 怒り心頭で赤石に言い放ち、早足で校舎へと戻る。 歩くたびにムカムカしてきて、向こうからやって来た松尾の頭を一発殴った。 二月十四日──バレンタイン。 初めて買ったチョコは臣人の中で苦い記憶となり、後々まで影響を及ぼすことになる。 |