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緊張はしなかった。 目の前で一喜一憂している臣人の姿が面白くて。 触れ合った唇が熱を帯びて、逆上せてしまうような気がした。 こんなに柔らかかったのかと少し驚く。 逃がすつもりなど端からなかったが、混乱して固まっている臣人を難なく捕えることが出来た。 まるっきり受け身な姿も珍しい。 野良猫みたいに近付けば威嚇する臣人が今は何故か静かだ。 唇を離してやると息を止めていたらしく、美味しそうに空気を吸い込む。 初めてじゃあるまいし、やけに大袈裟だ。 ──それともまさか初めてだったのか。 「これでいい加減、覚悟決めろよ」 「おい、赤石っ」 抗議を聞く耳は持たない。 今頃になって憤慨する臣人を残し、黙って校門を後にした。 選ぶ道はただ二つ。 好きか嫌いか。 もちろん嫌いと言ったって、引き下がるつもりは毛頭ないが。 本気で惚れているから手離せない。 どんなものより欲しい男。 臣人を思い浮かべた赤石の口元が僅かに緩んだことは未来永劫誰にも秘密だ。 |