伯爵夫人と赤ちゃん
 森の真ん中にある扉。扉だけなので入り口も出口もわからない。
 試しにアリスはノック、ノック。
 そこへ貴族の召使い風のカエルがやってきて、オホンと咳払い。懐に入れた書面を確認すると、
「おや、今日はめずらしく扉にノッカーが付いている。」
とアリスを見ながら言いました。
「私、ノッカーなんかじゃないわ。」
「ノッカーじゃないならノッカーみたいなものが付いているのだ。」
 カエルの召使いは、アリスの言い分をあまり聞く風でもなくじろじろ見回すと、おもむろにズボンを下ろしました。
「なんにせよ、叩いて試してみるがいい。」
 脱いだズボンを折り目正しくキッチリたたむと、カエルの召使いは厳かにアリスの後ろに立ち、ぶるんとカールした髪をなびかせました。
中略
 ふんぞり返って伸び上がって、なかなか落ち着かない赤ちゃん。
 なでてさすってキスして抱いて、アリスがあやしているうちに、いつのまにやら赤ちゃんは・・・
 なにをやっても泣きやまない。うるさいだけの赤ん坊。しまいにアリスは放り出す。
 しかしそいつは遅すぎた。涙やよだれや鼻水や、そのほかなんだかわからない汁でべっとりアリスの体。
 「うえ。」
 赤ん坊だかなんだか分からないモノを投げ出して逃げ出したアリスの前に現れたのは、胴体がなく、頭と手足と下半身だけが宙に浮いている不思議な猫。
 その痴者猫は、ニヤニヤ笑いながらアリスの体に手を伸ばし、
「こっちへ行けば帽子屋。あっちへ行けば三月兎。この下の方には秘密の落とし穴が待っている。好きな方角を選べば良いさ。」
と胸や股間をこねくり回して方角を教えてくれる。
つづく
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