さよなら、プーちゃん
 街中でゾーマキシン2体が暴れ回っているとの報告に駆けつけるダイビースト。と、片方は偉そうに指揮をしているだけらしく、もう片方が怪力に任せて大通りを破壊している。そこでシャークとタイガーは指揮をしているゾーマキシンを、ホークは暴れている方を、と手分けして退治にかかるが…
 「きゃああああっ!」
 くまのぬいぐるみのような怪力ゾーマに押さえ込まれてしまうダイホーク。そいつはもう片方のゾーマに指揮されるまま、ホークを襲いにかかる。だがホークはのしかかってくるゾーマの感触に、何か記憶を呼び覚まさせられるものがあった。
 なつかしい手触り…見たことのあるパッチワーク…ぬいぐるみの臭い…真っ赤なリボン…
 「まさか…プーちゃん…?」
 それはるりみが幼い日に無くしてしまった大事な大事な友人、テディベアのプーちゃんによく似ていたのだ。
 必死で話しかけるダイホーク。やがてぬいぐるみのゾーマは動きを止め、混乱したかのように咆吼するといずこかへ走り去ってしまった。その様子に慌てたもう片方のゾーマキシンも一時退却する。

 「あれが、るりみの大事なテディベアだって言うの?」
 驚く2人に、るりみは今まで忘れていた幼い記憶をたどって話をし始めた。
 両親が仕事で居ない夜、お母さんに叱られた時、友だちと喧嘩した時、話し相手は大きな抱き人形のプーちゃんだった。破れかければ繕い、布を張り替え、お父さんに貰ったボタンで目も付け替え、リボンも自分で買ってきて結んであげたプーちゃん。だが小学生に上がる頃、引っ越しの荷物に紛れてどこかへ行ってしまった。自分ではあまり覚えてないけれど、お母さん曰く、その時は二日間泣き通したという。
 「そのプーちゃんが、ゾーマキシンになってしまったっていうの?」

 「そう…人間どもから受けた仕打ちを忘れたというのか」
 暗い洞窟の奥でまんじりともしない怪力のゾーマ、ヌイグルミキシンに、先ほど指揮していたもう1体のゾーマ、バーナーキシンが話しかける。
 「人間どもにボロボロになるまで虐められ、捨てられ、地下のこのゾーマ帝国に流れ着いたキサマを何のためにゾーマキシンにしてやったと思っているのだ」
 そう、ヌイグルミキシンは確かにプーちゃんだった。引っ越しの荷物から転げ落ち、るりみの手から離れたプーちゃんは、悪ガキに拾われ、エアガンやバクチクの的として正にボロボロになるまで嬲られた。路上に捨てられ、車に敷かれ、雨に打たれる内にプーちゃんには人間への憎しみが生まれてきたのだ。
 だが今、プーちゃんの心に蘇ってくるのは、るりみにこれ以上ないほど愛を注がれた日々。ゾーマの力で変わり果ててしまったけれど、この心も体も、るりみに育まれたものに間違いはない。

 …そうだ、あの日、確かにボクはるりみの泣いている声を聞いたんだ…
 「次にあんな失態を見せれば、もとのゴミ屑に戻ると思え!」
 バーナーキシンは吐き捨てるように言って、その場を去る。

 次の日、やはり2人組で現れたバーナーキシンとヌイグルミキシン。旧友のプーちゃん相手にまともには戦えないだろうと、選手交代するダービースト。どうにかもとのぬいぐるみに戻せないかと怪力を抑えるだけで精一杯のシャークとタイガー。一方で、プーちゃんが気にかかって仕方がないホーク。
 気が散ってまともに戦えないホークを、バーナーキシンは簡単に押さえ込んでしまう。
 「キサマは昨日、旧友とよろしくやったのだろう?俺様もやらせてくれ」
 熱く燃える一物を押しつけてくるバーナーキシン。ホークはそこで、思わずプーちゃんに助けを求めてしまう。
 ホークの、るりみの叫びに動きが止まるヌイグルミキシン。一瞬にしてシャークとタイガーを振り払い、るりみのもとへ駆けつける。
 「な、なにをする!」
 ヌイグルミキシン、いやプーちゃんは怪力でバーナーキシンを叩き倒すと、るりみを助け上げ、かばうように前に立つ。追いかけてきたシャークとタイガーもバーナーキシンを取り囲んだ。プーちゃんの裏切りに全身から火を噴いて怒るバーナーキシン。
 「やはり半端物は半端物と言うことか!!」
 バーナーキシンの腕から火焔が放射され、プーちゃんは一瞬にして火だるまになる。るりみの目の前で、るりみをかばう立ち往生でくずおれていくプーちゃん。
 その様を見て、言葉を失うシャークとタイガー。
 「・・・・・!」
 プーちゃんの亡骸を見つめながらゆらりと立ち上がるるりみ。両の目からはぽろぽろと涙が止めどなく流れている。
 「親友を亡くして悲しいか!ダイホーク!」
 見得を切るバーナーキシン。だが、るりみの足元を見て、動きが止まる。
 るりみの足下から陽炎が立ち上っている。頬を伝って落ちる涙が、地面に付く前に蒸発しているのだ。
 「あなたは…絶対許さない!!」
 るりみが睨みつけると同時に業火に包まれるバーナーキシン。火を扱うバーナーキシンでもひるむ高熱だ。その炎は渦を巻き始め、やがて竜巻となってバーナーキシンを空高く巻き上げる!
 「ぬおお!?」
 一瞬気を失い、気が付けば宙を舞っているバーナーキシン。しかし、地面にたたき落とされたくらいでは生きている自信があった。空中で体制を立て直し、下を向いたバーナーキシンの目を、高速で近づいてくる光が覆う。
 「レイジング・フェニックス!!」
 るりみの振り上げたバトンから放たれた光が巨大な火の鳥の形となり、空へ登ってくるのだ。何かを言う暇もなく、火の鳥の翼に真っ二つに切り捨てられるバーナーキシン。衝撃波に巻き上げられながら爆発四散していく。

 涙で霞んで空が見られないるりみ。その瞳に、微かに、火の鳥の光跡が上空へ消えていくのが見える。
 まるでプーちゃんの魂が登っていくかのように。
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