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アタシ達は運命を 嘲う(あざわらう) side.Asuka

第1話 アスカ 降臨(こうりん)   by saiki 20030909-20060608



低いハム音が、アタシが全身を浸した赤い液体を掻き混ぜ、
自慢の朱金の髪が、まるで海流に弄ばれる黄金色の藻の様に漂う・・・
ゴボッと言う音と共に、肺に残った最後の空気が、艶やかな淡いピンクの唇から水面へと立ち昇って行った。

『・・・あ・・・あ・す・・・アスカ!・・・』
「・・・・」

耳障りな声が、アタシの心の淵を掻き毟る。
この声は、レニ・リーフェンシュタール、そういえば、こんなお婆ちゃんもいたわよね。
アタシは、40に手が届こうかと言う、銀髪、銀縁眼鏡のオペレーターを思い浮かべて、口元をニヤリとゆがめた。

『シンクログラフが乱れてるわ、どうしたの?』
「く・・・クフフフフフ・・・ハ・ハハハハッ・・・」

アタシは高笑いを響かせながら、プラグスーツの左手の表示部分に日付を表示させる。
20150723・・・概ね計算どおりか、ティプラーの円筒は十分な長さにできた様ね、
しかも、ドイツで実機の弐号機を使った起動実験中とは、手間が省けたわ。

「うふふふ・・・やっぱりこれじゃあ、帰ってきたって感じだわね」

思ったとうり、上書きされた記憶の内の、年長の方が優勢のようだ。
アタシは、あの赤い海での記憶を元に、自分の体の改変を始めた、
ATフィールドを利用して最初に合成したたった一つのベクターが、
僅かな時間で数億まで分裂して、アタシの遺伝子情報を人のそれから、
99.89%しか類似性の無い、人外の物へと変更していく。

『どうしたのアスカ?問題ないのなら実験を再開するから集中して!』
「実験?・・・くふふふ、必要ないわ」

アタシの言葉に、実験に参加していたスタッフがざわめくのが聞こえる。

『アスカ?!どういう事?』
「もう誰も、サードインパクトなんて怖がらなくて () いって事よ、
まあ、ゼーレと係わり合いがある人には、悪い事かも知れ無いけどね・・・でも、それも自業自得だし」

アタシは、ケッペウス司令と幾人かのスタッフの顔が、微かに引きつったのを目ざとく見つけた。
なるほど、あんた達も同じ穴のムジナだったって訳ね、
そしてアタシは、コントロールルームの隅で目立たないように佇む、加持さんの目が興味深そうに輝くのも見つけた。
やっぱり、こう言う人よね、加持さんて・・・まあ、いまさらだし、加持さんはミサトに押し付ければ良いか・・・

『どういう事だ、ラングレー?どこでその名を!』
「サードインパクトを狙う悪の秘密結社・・・そうよねぇ、司令?」

アタシの言葉に、ケッペウス司令が顔を真赤にして怒鳴る。
アタシは涼しい顔で、そんな彼をあざ笑った。

『司令!本部でエヴァ零号機ならびに初号機が暴走、弐号機の起動実験を直ちに取りやめろとの緊急連絡が!』
『なにっ!』
「あーあ、あっちが先に始めちゃったか、ファーストに後れを取っちゃったわね」

ちっ!レイの奴の方も、ヤル気十分てことか、
アタシは、清んだ湖のような紺碧の瞳を閉じて、内心、舌打ちした、
あっちにはシンジが居るけど、ここの辺には、アタシ達の天敵の、ナルシスホモしか居ない。

『ラングレー!お前は何が起こってるのか知っているのか?!』
「くふふ、もちろん!
でも教えて上げない・・・むしろ、その身で直接知る事になるから、教える必要は無いのよ」

アタシは瞳を閉じたまま、額に青筋を浮かべるケッペウス司令に、ニヤリと意地の悪い笑いを浮かべる。
そして、おもむろに瞳を開いた、自分の中に生じたマイクロS器官が、その熱い滾りを、
体の隅々へと行き渡らせる、アタシの瞳は、その奥から滲む赤い光を帯びて、蒼から明るい紫色に輝いた。

『何を言ってる!ラングレー!!!』
「こう言うことよ!!さあ!目覚めの時よ!アタシの弐号機!!!」

アタシの声と共に、弐号機のフェースガードの下の四つの目が輝く。
その瞬間、弐号機に自分が与えたベクターが生み出したS器官が、ドクンと脈打ったような気がした。
ドイツ第三支部に、あの忌まわしい十字の爆炎が上がる。

実験場に炎と煙が渦巻き、立っていられないほどの揺れがコントロールルームを襲い、
アタシは、特殊アクリルの防爆窓が一斉に真っ白に濁って、緊急シャツターが締まるのを冷静に見つめた。

『ら!ラングレー!!!』
『エヴァ弐号機!シンクロ率上昇して行きます、
50、80、120・・・シンクロ計測不能ーっ!』

司令のケッペウスのだみ声が、アタシの耳に耳障りに響く。
我ながら前は良くこんな声に、我慢してたわね。
円筒形の実験場は、天蓋が吹っ飛んで、壁面がどろどろに溶解して酷い有様だ。
そして、頭上の裂け目からは、どこまでも蒼い、雲ひとつ無い空が少しだけ覗いている。

「やっぱり、空はこの色が良いわね・・・」

アタシが空に感慨を懐いてる最中に、無粋なだみ声がプラグの中へ響いた。

『止めろ!弐号機をなんとしても止めるんだ!!』
『駄目です!停止信号応答しません!!』

こちらへの通信を切るのを失念したらしく、コントロールルームの喧騒がアタシの耳を打っ。
アタシは、クスクス笑いが止められない、ほんと、こいつら馬鹿ばっかだわ。

『LCLの最大圧縮失敗!プラグの強制排除も阻止されました!』
『ケーブルだ!アンビリカルケーブルを切断しろ!』

アンビリカルケーブルが切断され、爆炎と共にコネクターが床へ転がり構造材をへこませた。
だが、残電源表示はあっけなく、8セグメントを無理やり組み合わせた、歪なS2dという表示へと切り替わる。

『に、弐号機から、S機関の反応が!!!』
『ば、馬鹿な・・・そんな物、弐号機は積んではおらんぞ!!』

司令のケッペウスが、怒りで赤黒く変色した顔から、一気に青を通り越して白くなる。
それを見たアタシは、ついにこらえ切れずに、腹を抱えて笑いころげる、
スーツの背中の留め金が、座席から自分が転げ落ちるのを辛うじて引きとめた。
そんなアタシに賛同するように、弐号機が気持ち良さそうに、
心の底まで凍らせる、雷と聞き間違う様な、重低音のごろごろという吼え声を上げる。

「うふふ・・・弐号機、アンタも気持ち良さそうね」

アタシは思いきり背伸びして、まだ自分がLCLの中に浸かってるのを思い出し、
ポリポリと頭を掻く、コイツは乾くといやな匂いがしたわよね。

「LCL排出・・・弐号機、何時までも吼えてるんじゃ無いわよ、
ほら、マギを物理占領するわよ・・・場所が分からない?
仕方ないわね、ほら、ここ・・・わかった?そう、じゃあ頼むわよ」

弐号機がアタシに答えて、低い唸り声を漏らす。
そして、その非常識に無骨な指で、半ば溶け掛かった隔壁を押し広げ、
四つん這いになって、狭い物資搬入路へともぐりこんだ。

「うーっ・・・かっこ悪い、こんなかっこするのは 第9使徒(マトリエル) 以来だわよね」

アタシは柳眉を顰めて、低い唸り声を漏らす。
こんなかっこシンジに見せられないわよね、あのナルシスホモに見られるのもいやだし、
たまたま物資搬入路で出会ったD級職員は、弐号機がニヤリと目を細めほくそ笑むと、
可哀そうに腰を抜かして漏らしていた・・・ああ頭痛い、嫌なもん見ちゃった。

「あの時は、酷かったわよね・・・でも今回は、アンタが居るから安心してられるわ」

アタシの呟きに、弐号機が嬉しそうに猫のように喉を鳴らす。
狭い通路に頭をぶつけ、壁を抉りながら、アタシと弐号機は発令所へと進む。
絶対に本部の方が、通路が広い事は誰がなんと言って否定しようが、このアタシが保障するわ。

「あーっ・・・この先に?・・・人が沢山居る?
アンタに任すから、好きに排除しちゃいなさい・・・うん、任せる」

急に弐号機がその少ないボキャブラリーで、私に何かを訴えようとした。
どうやら、この先に弐号機阻止部隊が展開しているようだ、アタシは思わずクスクス笑いを漏らす。
通常兵器が利かない使徒に、対抗する為のエヴァなのに、
何を持って、この弐号機を足止めしようと思ってるんだろうか?

「・・・呆れた物ね」

それは、弐号機が何枚目かの隔壁を破壊したとたん始まった。
無数に降り注ぐ、劣化ウラン弾とミサイルの雨、いや、土砂降りとでも言うのだろうか?
弐号機の目前に並ぶ、まるで 玩具(おもちゃ) のようなUNの 最新兵器(リーサルウエポン) 達・・・
だが、惜しむらくは、それがエヴァの前では、 蟷螂(とうろう) の斧でしか無い事だろう。

「弐号機・・・アンタもそう思うでしょ?」

アタシが苦笑しながら呟くと、弐号機も同意するかのように軽く唸り、とても人間くさく頬を指で掻いた。
そして、まるで気が進まない様子で、とても気だるそうに、その手を伸ばすと戦車をそっと掴んで、
一台一台丹念に、砲塔をまるで柔らかい針金を曲げるように、グニャリと捻じ曲げ、そっと元の所へと戻す。
乗組員が、無力化された戦闘車両から転げるように逃げ去るのが、とても滑稽で、ちょっと哀れだった。

「アンタ・・・優しいのね、アタシよりよほど人間てのかな?出来てるわ」

笑いすぎて、涙まで浮かべたアタシは、それをプラグスーツの指先で払いながら、
弐号機へと優しい声を掛ける、彼はそれに答えるように、二度ほど軽く短い唸り声を上げた。

真赤で無骨な手が、邪魔な戦車をまるで積み木でも扱うように、ガリガリと脇へ除け、
そして、慎重にそれを避けながら弐号機は最後の隔壁をこじ開ける。
そのとたん、高らかなサイレンと共に、無表情な合成ボイスがドイツ第三支部へと響き渡った。

『人工知能により自律自爆が決議されました、所員は速やかに退避して下さい・・・』

隔壁の上部を削りながら、弐号機が無理やり発令所にもぐりこむ。
そのとたん、本部から見るとかなり小ぶりのそこから、ぱらぱらと人影が転げるように走り去った。

「アタシ達の侵攻は、とっくに分かってたでしょうに、
あれだけのんびり逃げる時間を上げても、まだ人が居るの?」

アタシは呆れて、思わず額を押さえた。
義務感なんだか、怖い物知らずなんだか、たぶんアホなだけかもね。

『N弾頭使用による自律自爆まで後247秒です、所員は速やかに退避して下さい、繰り返します・・・』
「あー 五月蝿い(うるさい) ・・・弐号機、早くあれ止めちゃいなさいよ。
鬱陶し(うっとうし) くて堪んないから・・・おう、まかせとけ?アンタも言うようになったわね」

弐号機の軽い唸り声と共に、アタシへ彼からイメージが送られてくる。
あはは、こりゃ傑作だわ、”まーかせて”って・・・コイツ何所でこんなの調べてくるんだろう?
ついさっき目覚めた割には、弐号機はどんどん人間くさい仕草を身に付けてくる、ほんとに可愛い奴・・・

「アタシも出るから・・・俺だけで大丈夫?
バーカ、ちょっと荷物をまとめんのよ・・・アンタと違って、身一つでなんてアタシ達はしないの」

アタシはプラグの中で、何も無い空間へ向かってチチチと舌打ちしながら、
人差し指を左右へ振る、これで何を言いたいのか分かるのだから、弐号機もたいした物だ。

「それに、ここにあるはずのアダムもほって置けないでしょ?
まず、アイツを処理してから、自分の部屋に荷造りに廻るから。
そう、そっちが終わったら三トンクラスのコンテナを、アタシの部屋のベランダの前までお願いするわ」

アタシは、弐号機に指示を飛ばしてから、エントリ−プラグをハーフイジェクトすると、
弐号機の肩の上へとよじ登る、そのまま床まで飛び降りようとしたアタシに、アイツは待ったを掛けた。

「えっ?・・・待てって?」

何をする気かと思ってちょっとだけ待つと、気を利かした弐号機が、元どうりにエントリープラグを収納しながら、
アタシへ向けて恭しく、その手を差し伸べた、アタシは、ニッコリ笑うとアイツの好意を素直に受けて、
その巨大な手の平へと乗る、何だかリメイク版のキングコングのジェシカ・ラングの気分だ。

アタシを床に降ろすと、弐号機は三つある生体コンピューター・マギの収納容器へと、
無造作に右手の指をズブズブト突きいれる、二抱えもある、その突き立てられた指の周りで、
きらきらとオレンジの蛍光を発して、脈動するようにプリントパターンにも似た回路図が浮かび上がった。
突然、サイレンと五月蝿かった合成ボイスのカウントダウンが止まり、辺りへ静寂が戻る。

「はぁ・・・やっと静かになったか」

アタシがニヤリと笑って、弐号機を見上げて呟くと、彼は左の指でサムアップをアタシへしてみせる。
あまりにも人間くさい弐号機の仕草を見て、ちょっと目を丸くした自分だったが・・・

「ふっ・・・やるわね、流石はアタシの弐号機」

うふふと苦笑すると、アタシも、弐号機に答えるようにサムアップを返した。




To Be Continued...



-後書-


あの赤い海 = エンド・オブ・エヴァンゲリオンに出てくるサードインパクト後の海。
ベクター = 遺伝子治療に使われる、遺伝子導入のために製作された特殊なウイルスの一種。
99.89% = エヴァファンなら誰でも知ってるはずの、使徒と人との遺伝子の差。
ティプラーの円筒 = 宇宙物理学者フランク・ティプラーが1974年にフィジカル・レビューに発表した論文
 『自転する円筒と汎世界的な因果律違反について』にある、タイムマシンの理論モデルの名前、
 超高密度な有限長の円筒を、高速回転させると、円筒の円に対して垂直方向の半ばで時間と空間が混合するという理論。
ジェシカ・ラング = キングコングのリメイク版で、コングに攫われるジェーン役としてデビューした。

とりあえず、チルドレン逆行物です(笑
アスカの他に、レイと、シンジと、カヲルが情報体として逆行してます。
とりあえず本作では、早くも無敵状態と化した、
ハイパー・アスカとその相棒の弐号機に的を絞って見たいと思います。

本作は、2003/09/08から2003/09/09までに散文的に書き上げた物をまとめた物です。
お気楽な電波作品なので、あまり深読みしないで下さいね。(苦笑

こんなに早く、まとめる予定ではなかったのですが(汗
つい調子に乗って、まとめてしまいました・・・ウーン仕事があるのに(滝汗

ご注意!:新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。


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