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アタシ達は運命を 嘲う(あざわらう) side.Asuka

第2話  地獄の凍れる最下層(コキュートス)   by saiki 20030912-20060607



何時までも、弐号機と一緒にニヤケてるわけには行かない・・・
アタシは、頬を笑いの余韻でピクピク痙攣させながらも、マギのコンソールの一つへと歩みよる。
そして、あまり意味が無いけど、弐号機へ向かって手を振って大声で呼びかけた。

「おーい!、四番のコンソールに制御を戻してくんない?」

弐号機の奴は一つ唸ると、アタシへ向けて指でOKマークを出す。
コイツ、そのうちコサックダンスでも踊りだすんじゃ無いかな?
冗談でそんな場面を空想していると、
次の瞬間、弐号機からフラメンコを踊る、アイツのイメージが送られてきた。
真赤な弐号機に、その踊りが何故か似合うような気がするのは、きっとアタシの錯覚だと思いたい。

「アンタね・・・良いけど、地盤の丈夫なとこを選びなさいよ、
アンタが思い切り暴れられる場所なんて、第三新東京市の装甲板の上ぐらいのもんだからね
炭鉱の上なんかでタップ踏むと地面が抜けて、アンタの首まで埋まるよ・・・分かってんでしょうね?」

弐号機が、アタシの言葉に一瞬静止する・・・コイツ、なにも考えて無かったな・・・
アタシには、そんなアイツの頭部に、でっかい冷や汗の水滴が見えたような気がして絶句した。
きっと、アイツの四つの目にも、アタシの額に、それなりのサイズの冷や汗の水滴の幻覚が見えるに違いない。

「まあ良いわ、ほれ、さっさと片付ける、全部済むまで、アタシ達はここへ足止めなんだからね」

アタシは、目の前のコンソールが起動したのを確認して、そのキーボードで華麗に指を踊らせる。
そのキー捌きは、”先輩と同じですぅ”とか言って、マヤが目を見張るぐらいのスピードだ。

「IDは・・・あの狸のが良いかしらね・・・」

アタシは、まず弐号機経由でアクセスすると、スーパーバイザーの上を行く、
あの狸腹のケッペウス司令のIDを取得して、その権限で、アダムの所在と状態を調べ、
そして、N弾頭の在庫もついでに調べて、両方の場所を自分の記憶の中へとしまう。

「さてと、仕上げにっと・・・と、と、いけない、忘れる所だった」

アタシは頭を掻きながら、自分の預金を、支部内の現金引き落とし機に残ってる残高だけを残して、
スイスへと思ったけど、あそこはゼーレの影響が強そうだったので、仕方なく、日本の銀行へ作った偽名の口座へ、
自分の手持ちの預金を送金した・・・ついでにマギに計算させて、退職金と違約金と労災と見舞金と、
あれやらこれやら、自分が思い付く限りを、ニヒヒと悪魔の様な笑みを漏らしながら、結構な額になった数字を見つめる。

「アタシを、散々コケにした以上、
それに、世界をサードインパクトから救って上げるんだから、ネルフとしたらこれぐらいは、正当な請求だわね」

アタシは、ニヤッと意地悪い笑みを口元に張りつけて、タンと送金の実行キーを叩いた。

偽名の架空口座へ全てのお金が送金し終わるのを待って、
マギへケッペウス司令のIDで痕跡の消去の命令を出す、これでOKのはずだ。
後のゼーレを表に曝け出すための細工は、弐号機に任せて置けば () い・・・

「後は任せたわよ、弐号機!」

アタシは弐号機に呼びかけると発令所から抜け出す、彼は軽く一つ唸ると、略式の敬礼でアタシを見送った。
自分のマトリックの一部をベクターに使って、 第13使徒(バルディエル) 風に知性化した弐号機だ、
アタシとは緩くだが量子空間経由でリンクされてるし、S機関さえ自己生成した彼には、絶対の信頼が置ける。

「さてと、航空支援部隊の武器庫は・・・こっちか・・・」

アタシは薄暗い通路を駆ける、初めて行く為に少々迷ったけど、迷った時の”迷路を抜ける右手の法則”は偉大だ、
ミサトと違って、僅かな時間で目的地へと辿り着く事が出来た。
行く手を塞ぐ、やたらとごつくて丈夫な対爆ドアを、アタシは回し蹴りの一撃の下に吹っ飛ばす、
大きな音と共に、銀行の金庫室のようなドアが床に転がり、腹に響く音を立てる。

「う〜っ・・・早く終わらせてシャワーを浴びないと、LCLの匂いが取れなくなるかも」

アタシの悩みは深刻だった、
自慢の朱金の髪の一房を、試しに鼻の前に持ってくると、なんとも言えぬ、惨殺現場のような匂いが漂ってくる。

「うげっ・・・こんなんじゃ、シンジに嫌われちゃう」

アタシはちょっと涙目になって、何か無いか辺りを見回した、その目に洗浄用のゴムホースが目に入る。
それを嫌そうに見たアタシは、もう一度自分の髪に付いた嫌な匂いを嗅いで見て、大きく一つ溜息を吐く、
そして、諦めの表情でそれを掴み、蛇口をひねって流れ出る水の冷たさに、更に鼻の頭の上に僅かに皺を刻んだ。

「アスカ・・・行くわよ・・・」

アタシは、小さく小さく呟くと、思い切って蛇口から流れ出る水を、自分の頭の上から注ぎ掛ける。
ホースの先端から流れ出る水は、まるで氷のようだった。
アタシは、自分の思いきりの良さに、いまさらながらにちょっとだけ後悔する。
それでもアタシは、ガチガチと凍えながらも、意地になって匂いが消えるまで水を被り続けた。

「くううっ・・・史上最強生物の一人だって言うのに、何でアタシがこんな目に・・・」

アタシの、ホンとに情け無い恨めしげな嘆き声が、誰も居ない武器庫で、
弾頭を初め各種武器弾薬の冷たい鋼の輝きの狭間を、皿を数えるお岩さんのように響き続けた。

    ・
    ・
    ・

アタシは、4発の航空用N弾道弾から、弾頭を外した物を乗せた、
小型の電動トレーラーを運転して、一路、ネルフ第三支部の最深部へ続く、搬入リフトへと急ぐ。
運転席のアタシは、相変わらずしかめっ面で、まだ朱金の髪からは水を滴らせたままだ。

「うーん・・・何だか、貧乏くじを引いちゃった気がするのは・・・アタシの、気のせいなのかな?」

この先は、本部においては、 第2使徒(リリス) の鎮座する、
セントラルドグマ深層のコキュートスの様な所だ、
もっともこっちの第三支部の物は、人の手で掘った物だからあれほどの規模は無い・・・だから・・・

「これが、本部なら弐号機ごと入れたのよね」

アタシは、搬入リフトのカードリーダーを、
チョンチョンと指先で突き、ATフィールドで介入してデータを誤認させ、ドアを解放させる。

「まあ、確実性を期す為には致し方ないかもしれないけど」

トレーラーを搬入リフトへ乗り入れたアタシは、最深部へのボタンを運転席から身を乗り出して押す。
低い唸り声を上げて、リフトが下降を始めたのを確認したアタシは、助手席に放り投げておいた、
弾道の同時起爆に関するマニュアルを、ぱらぱらと捲り工具箱の中の工具の物色を始めた。

チン!場所に似合わぬ、ごく平凡な電子音と共に、
思いのほか長く下降していたリフトが止まり、地獄の一丁目のドアが開く。

「うぅぅぅっ・・・寒っーっ・・・」

ドアが開くと共に、冷気が霧を伴ってリフトの中へと押し寄せ、アタシは、思わず情け無い悲鳴を上げる。
部屋の中には、格子状の床の上の中央に、四角い金庫のような構造物が鎮座し、周囲には床を貫くように、
N2BOMB−60Mと朱色の刻印がある、黒くて太い円筒が4基、取り囲むように配置されていた。

「殆ど胎児状態とは言え、アダムをたった4基の60メガトンのN弾頭で屠ろうなんて・・・
本とにせこいわね、アタシの計算だと、最低でも6基、万全を考えると8基必要だってのに」

ドラム缶のような航空用N弾頭を、軽々と両の肩に1基づつ担いで運びながら、アタシはブチブチと愚痴る。

「ちゃんと必要なメガトン数を用意して有れば、アタシがこんなことする必要なかったってのに・・・」

やっと配置が終わると、今度は同時起爆の為の配線が待っていた。
慎重に電動ドライバーで備え付けのN2弾頭のパネルを開き、同時起爆用の配線を追加する。
アタシは手を休めると、無意識に手を擦り合わせ息を吹き掛ける・・・吐いた息が真っ白く煙った。

「寒く無い・・・寒く無い・・・きっと、これは気の所為よ・・・
使徒モドキのアタシが、熱がったり寒がったりするなんて、非理論的なんだから」

呪文のように、”寒く無い”と唱え続けるアタシは、さっきまで濡れていた自分の髪が、
何時の間にか、凍ってパリパリと音を立てるのは、出来るだけ考えないようにする事にした。

「あ・・・ははは・・・き、気の所為よ・・・」

笑ってごまかしても、だんだんかじかんで、指先の動きが鈍くなるのは誤魔化し様が無い、
ううむ・・・何だかアタシは、いま自分の居る場所の室温を知るのが怖くなってきた。
でも、吐く息が氷柱になる前に何とか作業を終わらせると、
アタシは、ギロリとアダムが収納されている、金庫のような容器を睨み付ける。

「アンタのお蔭で・・・アタシがこんなにも苦労してんだから、ちょいと顔を拝ませてもらうわよ」

元々あまり我慢強い方で無い自分の唇が、ぎりぎりと危険な角度へと弧を描いてゆく。
パリパリと床の格子へ張り付いた、プラグスーツの踵を剥がしながら、アタシは意地悪そうな笑みを浮かべて、
部屋の中央に鎮座する、四角い金庫のような構造物に歩み寄ると、ゆっくりとした手つきで暗証コードを打ち込む。

「・・・ル・チ・フ・ェ・ル・・・っと・・・」

もちろん暗証コードはとっくに検索済みだし、何時ものアタシなら、もっと素早く入力できたのだが、
最強生物のはずのアタシの指は、何故か凍えて、ゆっくりとしか動かなかった。
このアタシの、怖いぐらいにすてきな天使の笑みが、ピクピクとちょっとだけ引きつる。

「まあ・・・まだ、加持さんが掠め取ってるなんて、事は無いでしょうけど・・・」

作業を開始する前に、確認しなかったのは、ちょっとだけ間抜けだったかも知れない。
いやに太いロックボルトが、間の抜けた空気音と共に押し出され、20センチもの厚みの蓋が左右に割り開く。
そして、その下から、液体窒素らしき物を湛えた透明容器が台ごと持ち上がるように、恭しくその姿を表した。
極低温の液体から漏れ出る霧状の物が、容器から滝のように流れ落ち、辺りの床で渦を巻く・・・

「・・・なんだ、・・・リリスと違って、アダムって、こんなちっぽけな物なの?・・・」

液体窒素に漬けられた特殊ベークライトの中に、目玉の大きな小さな胎児のような物が封じ込められていた。
確かに、使徒のけはいを感じるけど、それほど大きな物では無い、アタシは、ちょっと苦笑する。

「アンタが、全ての元凶か・・・
まあ、アタシ達の邪魔に成らなければ、放置しても良かっ・・・?!!」

アダムは、彼に愚痴をたれるアタシを、ギョロリとその目で睨みつけた。

「・・・あ、アンタ・・・アタシにガン飛ばすとは・・・良い度胸ね・・・」

アタシは、ちょっとだけびびって・・・でも、しっかり相手を睨み返した。
その辺が、まあ、アタシならでは・・・だと、言うことだろうか・・・
しばしの間、おそらく氷点下であろう肌寒く薄暗い部屋の中で、
片側だけ見えるアダムの目と、アタシの蒼い目の計三つのアイボールの間で睨めっこが続いた。

「・・・・・・・・」

しかし、それも唐突に相手の試合放棄で幕を閉じる。

「・・・ふっ・・・勝った・・・」

アタシは、フフンと鼻息荒く、思わずガッツポーズを取る。
まあ、多分偶然だったんだろうけどね。
なんとなくアダムに、郷愁の影みたいなのを感じたのは、アタシの錯覚だったと思いたい・・・

「じゃあね、アダム・・・アタシ達の手をあんまり煩わせずに、さっさと天国へでも行って頂戴!」

アタシは足音も高く、アダムが安置された部屋を立ち去る・
勝っているうちに身を引く、勝ち逃げは博打の常套手段ね・・・アタシは一人頷く。
来た時と同じように、搬入リフトで上まで戻ったアタシは、念のために、
たった一つの出入り口だったリフトを、軽くATフィールドの刃で破壊した。

「うん、こんな物で良いかしらね・・・?」

アタシは、自分の破壊の後をしばし検分して一人頷く、
まあ、余り派手に暴れると地下施設が陥没して、
アタシは弐号機が掘り返してくれるまで、きっと身動き出来ないに違いない・

「うん・・・きっとこんなもんで良いのよ」

思わず・・・鉢巻をした真赤な弐号機が、巨大な隔壁をスコップ代わりに、地面を掘る姿を空想してしまい。
アタシは、額にちょっと冷や汗を滴らせて、それが現実にならないことを切実に、敵かも知れない神に祈った。
そんな、自称、天下無敵の天才美少女のアタシの耳に、
ぎぎぎぎ〜っと辺りの柱が不吉に軋む音が、いやに大きく響いて聞こえた。




To Be Continued...



-後書-


迷路を抜ける右手の法則 = たんに、抜けれる迷路の壁は一筆書きに成っていて、
 壁に沿って(手を壁から離さずに)行けば抜けれると言う意味です(ジョークですからね、汗
コキュートス = ダンテの「神曲・地獄編」に出てくる地獄の最下層の氷地獄。
 最下層の氷地獄はカイーナ、アンティノラ、トロメア、ジュデッカの4つがある
ル・チ・フ・ェ・ル = アダムの容器の解除コード、正確にはルチフェル。
 ダンテの「神曲・地獄編」で地獄の最下層の氷地獄第4圏ジュデッカに生息する堕天使の名前、

好調に電波受信中です・・・何時までこの調子が、続くか分かりませんけどね(汗
とりあえず第二話をまとめて見ました・・・
うーん、でもこの話は一応四話ぐらいで終わる予定ですので、
もう少しの間、私の迷文にお付き合いいただければ幸いです(苦笑

ご注意!:新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。


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