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アタシ達は運命を 嘲う(あざわらう) side.rei

第1話 レイ 新生(しんせい)   by saiki 20031221-20060608



まるで、星が降る様だった・・・
既に体と言う、重い羽衣を脱ぎ去った私達は情報体となって、
余りの重さに縮退し赤外線を盛んに放出する、ブラックホール一歩手前のティプラーの円筒に向けて接近する。

視界を横切って、どこまでも続いて見える円筒の向こう、
歪んだ時空越しに光って見えるのは、私達が設置した作業ベースだろうか?
それとも、遥かに遠い太陽の光なのだろうか・・・
そんな思いが、情報となって、なにも見えず、考えられるはずのない私の中で、一瞬はぜる。

あっという間に、仮想的なXポイントに到達した私達は、微かなX線バーストと共に、
いまや逆らう事さえ困難な圧倒的な力によって、相対的な過去へと跳ね飛ばされて行った。

    ・
    ・
    ・

『パルス逆流!第三ステージに異常発生!』

私の体を包みこむLCLが揺れ、エヴァの装甲と拘束具が擦れ嫌な音を立てる。

『コンタクト停止!六番までの回線開いて!』
『駄目です!信号届きません!』

破砕音と共に自由になった私の分身が、頭を抱え苦悩するように唸り声を上げた。
まるで動悸のように、体中を激しい脈動が駆け抜ける・・・
しかしそれもやがて納まり、私と重なるように存在する巨人の体中に力が満ち満ちて行くのを感じる。

『パ・・・パルス安定しました!』

ゴボリと口元から肺に残っていた最期の気泡が漏れ、LCLの中をエントリープラグの天井へと昇って行く。

『な・・・何が起こってると言うの?』

この声は・・・赤木博士?

「・・・私は・・・戻ってきた?・・・」

私は、記憶の不整合から来る頭痛に顔をしかめながら、
ゆっくりと瞳を開く・・・自分の赤いルビー色の目が、妖しく赤い光を帯びて輝いた。

「・・・碇君は何所?・・・」

白く塗られた対爆隔壁に刳り抜かれた、特殊アクリルの防爆窓に黒い服を着たあの人の姿が見える。

「ここは・・・そう、第一回目の零号機の起動試験なのね・・・」

私の零号機の暴走が納まり、
静けさを取り戻したネルフ本部の第二試験場に、再び轟音が響き、特殊装甲の床が震える。

『どうした!』
『第2ケィジで爆発発生!連絡不能です!』

私は、休止常態にあった自分のS器官を再始動しながら、
ノイズ交じりで聞こえにくい制御室の中の声に耳を傾ける。
いまの振動が第2ケィジからの物だとしたら・・・もうすでに、彼は目覚めたのかも知れない。

『そんな!初号機が無人で動いています!』
『馬鹿な!』
『彼女が、目覚めたというの!?
それとも・・・まさか!使徒化したの!?』

唸るような碇司令の声に、泡を食った赤木博士の声が重なる。

『先輩!初号機が水路内をこちらに向かっています』
『そんな!アンビリカルケーブル無しで動いてるの!?』
『碇!これは俺のシナリオにはないぞ!』

特殊アクリルの防爆窓越しに、制御室の中が慌しくなるのが見えた。
私は、その人々が戸惑う姿に、薄っすらと口元に笑みを浮べる。

『起動したばかりだがしかたない!
レイ!零号機を使って初号機を取り押さえろ』
「・・・初号機は問題ありません・・・
要らない物を、貴方へ返しに来ようとしてるだけです・・・」

まだ黒縁のあの眼鏡をかけている碇司令に、私は口元に笑みを浮かべながら答えた。
彼の顔にいぶがしげな表情が浮び、その時初めて私の頬笑みを目にした赤木博士が、その顔を引きつらせる。

『レイ!何を言っている!?』
『レイ?』
「・・・貴方も寝起きが悪いのね・・・でも、そろそろ目を覚まして欲しいの・・・」

私の声に、零号機が覚醒しその単眼が明るく光を纏う・・・
その瞬間、S器官がドクンと脈打ち、轟音と共に零号機の辺りを熱と炎が埋め尽くす。
本来なら、十字を描くはずの爆炎が実験場に押し込められ、
炎と煙が渦巻き、立っていられないほどの揺れが制御室を襲った。

『れ!レイ!!!』
『エヴァ零号機!シンクロ率上昇して行きます、
50、80、120・・・シンクロ計測不能!』

私は、熱で特殊アクリルの防爆窓が白く濁り、緊急シャッターが落ちるのを薄く微笑みながら見つめる。
零号機がほんとに気持ち良さそうに、熱と光の中、爆炎をまとって心の底から響くような声で吼えた。

「・・・おはよう・・・もう一人の私・・・」

私も、彼女の心地よさを共に感じて、その唇に頬笑みを浮かべる。
その時、実験場の焼け爛れくすんだ隔壁に、
大きな音を立てて膨らみが生まれ、再び響き渡る音と共に、紫の巨大な指が突き込まれた。

「・・・来たのね・・・」

私は朗らかな笑みをその口の端へ浮かべると、隔壁がこじ開けられるのを優しく見守った。
折れ曲がる音に続き、金属同士が擦れ軋む音と共に隔壁がこじ開けられ、紫の巨人がその姿を表す。

『先輩!初号機・・・初号機が実験場に入ります!』
『落ち着きなさいマヤ!停止信号を送り続けて!』
「・・・おはよう・・・初号機・・・」

実験場にこもっていた熱が一気に噴出し、水路にゆたう液体を一瞬で煮えたぎらせた。
零号機と初号機が軽くお互い唸り有って、その存在を認め合う、その光景をほほえましく感じ、私は微笑む。

「・・・もう良いの?・・・」

初号機が私の声に答えて僅かに頷き、自らの胸へとその手をかける。

『不味いぞ碇!』
『分かっている冬月・・・
総員退避!以降の対処は発令所から行う!』

私は、初号機の行為を無にしないため、司令に勤めて穏やかに声を掛ける。

「・・・碇司令、彼から貴方に返したい物があるそうです・・・」
『な、何を言っている、レイ』

私は、戸惑いを浮べる碇司令の声を無視して、実験場と実験制御室との間の防爆壁を、
零号機の指に纏わせたATフィールドで、バターのように切り開いて、缶詰の缶を開けるように、壁を押し開いた。
その隙間から、音を立てて、まだ50度を越える蒸気を伴った空気が制御室内へと流れ込む。

「い、碇!」
「むう!」
「い・・・いやぁぁぁぁぁっ・・・先輩っ!」
「マヤ!しっかりなさい!レイ!何をする気!?」

副司令が腰を引き気味で顔を青くし、
碇司令が隔壁の隙間から覗き込む零号機を睨む様に見上げ、腰を抜かした伊吹二尉を赤木博士が鋭く叱咤する。
そんな混沌とした、サウナ状態の実験制御室を覗き込んでいた私は、後ろから近づく初号機の気配に気が付き、
彼の邪魔にならないように、零号機を動かして場所を譲る、突然中を覗き込む紫の巨体に制御室の中を一瞬、静寂が支配した。

「ひいっ!」
「せ、先輩ぃぃぃ!」
「「「うっ・・・くっ・・・」」」

間近かに、初号機の眼光を浴びた女性陣から引きつった悲鳴がもれ、男達は声を殺すことで辛うじてその矜持を保った。
しかし、それらを無視して、初号機の手が私が空けた隙間から中へと伸び、
流石にその迫力に床へと腰をついた碇司令の前に、その無骨な巨大な指の間から、優しく床へと白い物体を解放つ。

ズチャッと言う、濡れたずた袋のような音を放った物体は、
その周囲に纏わり付くLCLを滴らせながら、静かに床を濡らした。

「・・・これを、初号機は貴方へと・・・
仕方ない事とは言え、長い間お借りしてて申し訳無い・・・だそうです・・・」

初号機は、どこか優しさを感じさせる唸り声を上げ、それを私は感じるままに直訳する。
珍しく戸惑いに揺れる碇司令の顔が、その足元へ横たわる全裸の人影に目を落とし、驚愕と喜びにその顔をゆがませる。

「ゆ・・ユイ・・・」

碇司令の口から、久しく口にされなかった名前が無意識に漏れ響いた。

そして、その名が碇司令の口から漏れるのを聞き、赤木博士の顔が嫉妬にゆがむのを私は困ったように眺める。
そう、貴方はこの、何時になっても妻を忘れられない愚かな男に、いまだ無様にこだわっているのね・・・

「ユイ!」

もう一度声を上げると、碇司令が妻の全裸の体に飛びついて、忙しなくその脈を取り安否を確認する。

「ユイ君!」

碇司令に続いて、冬月副司令も腰を抜かしたまま、床に倒れる元教え子の裸体に這い寄った。
そして、その体内に巣食っていた、碇ユイと言う寄生虫を排除した初号機は、
ほんとに気持ちよさそうに、喉を鳴らした後、ゆっくりと場所を私の零号機へと譲り渡し、
挨拶するように軽く私達に手を上げると、再び水路にゆたう液体に漬かりゆっくりと歩み去っていく。

「・・・アスカが支配、私が融合・・・
碇君は友愛で、エヴァを動かしている・・・初号機?貴方は碇君を迎えに行くの?・・・」

歩み去る初号機の背に、私は小さく呟く・・・
その呟きに、彼は少しだけ振り返り、軽い唸り声で私の問いを肯定した。
ちょっとだけ嫉妬を感じる・・・でも碇君と一つになるのは私・・・私がそう決めたの・・・

「・・・そう・・・碇君によろしく・・・また、合いましょう・・・」

彼は、私の声に短く唸り声で答え、水路に大きな航跡を描いて優雅に歩み去った。
不思議ね、初号機に自分は碇君にも似た暖かさを感じる。

私は、思わず碇君の優しさを反芻して、少しだけ頬を桜色に上気させた。
だが、何時までも惚気てはいられない、零号機が低い唸りで私を正気に戻す、
いけない・・・呆けて少しの間だけどあっちの世界に逝っていたのね。

「・・・貴方は、私と同じものなのに・・・
貴方の方が、しっかりしている様に感じる・・・なぜ?・・・」

私の小さな小さな呟きに、零号機が面白そうに喉を鳴らす。
まあいいわ、これについては後でじっくりと考えることにしましょう。

私は、エントリープラグをハーフイジェクトすると、まだ熱気がこもる、
実験制御室の壁に開いた亀裂へと、橋のように渡された零号機の腕を危なげなく渡り、
その床へと降り立つ、そんな私を、守るようにその胸に碇ユイを抱いた碇司令が睨みつけた。
その、誰もが思わず一歩後ずさるような眼光を軽くいなして、私は口を開く。

「・・・碇司令、本部職員のジオフロントからの退去を勧告します・・・」

私の、一方的な宣言に、まだ実験制御室に残っていた人達の瞳が、驚きに大きく見開かれた。

「・・・ここはもう必要有りません、いえ・・・むしろ、地下の 第2使徒(リリス) を含めて邪魔なだけ・・・」
「・・・何をするつもりだ」

10年ぶりに抱きしめる、己が妻を胸に、
精一杯の虚栄をもって碇司令が、私へ恫喝にも似た重い声を放つ。

「・・・サードインパクトの防止の為、 第2使徒(リリス) の破棄・・・」

でも、すでに今の私は、あのころの私ではない・・・だから、笑うの・・・
そう、哀れみさえもこめて、私は碇司令に薄ら寒くなるような冷たい笑いを送る。

「・・・さようなら碇司令、後は私達と碇君が引き受けます・・・
すでに、貴方の望みはかなったはず、だから表舞台から降りて、
貴方は、ユイさんといつまでもお幸せに・・・それが私達の願い・・・」

そう、もう貴方は必要ないの、私にも、碇君にも・・・・




To Be Continued...



-後書-


ティプラーの円筒 = これに付いては、”アタシ達は運命を嘲う”第1話の後書きを参照してください。
歪んだ時空越しに = 質量の周りでは時空が歪んでいて、光さえ直進しません
十字を描くはずの爆炎 = エヴァ参号機の起動シーンや、映画の弐号、初号機の起動シーンを参考
まさか!使徒化したの!? = もちろんリツコは、エヴァが第一使徒のクローンである事は知っています。
 ですから、使徒化も有りうるということで、この台詞は混乱して思わず口走ったと言う設定です。
黒淵のあの眼鏡 = 皆さんご存知のゲンドウが愛用するオレンジのサングラスは、この零号機の暴走の後に
 使い始めた物で、ここで掛けているのはTV本編でレイがお守りの様に持っていた眼鏡の方です。
アスカが支配、私が融合・・・碇君は友愛で、エヴァを動かしている = そういう設定です(作者談、苦笑

”アタシ達は運命を嘲う”の続きのレイ・バージョンです
しかし、彼女ほど嘲笑うのが似合わない・・・いえ、そうすると、
完全な悪者キャラになってしまいそうな為か、なかなか話が進みません、いやはや困ったことです(苦笑

ご注意!:新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。


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