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アタシ達は運命を
嘲う
2 side.rei
第2話 ささやかな奇跡を by saiki 20031221-20060608
自分の冷たい声に、碇司令の顔が引きつり、その手が隠しから銃を取り出し銃口を私へと向ける。
「だめだレイ、それは認められない」
「・・・碇指令、多くを望むと全てを無くします・・・良いのですか?・・・」
私は、ゆっくりと唇の両端を持ち上げ、碇司令へ向け冷たい笑みを浮べた。
髭に囲まれた厳つい唇が、ギリリと噛締められ、その手の無粋な鋼の塊を握る指に力がこもる。
「よせ!碇!」
冬月副司令の叫び声も空しく、碇司令の手の中の銃が火を噴き、
私の額を狙った銃弾が、鋭い音を立てて死をもたらす為に飛翔した。
だが、それは、空中に浮かび上がる干渉光と共に、あっけなく見当違いの方向と兆弾する。
「え、ATフィールド!」
「ぬう、れ、レイ!」
「・・・無駄です、碇司令・・・では、強制退去を執行します・・・」
赤木博士が、干渉光の意味に気がつき声を震わせ、碇司令がその額に冷や汗を浮べた。
私は、クスリと笑いを洩らすと、ちらりと零号機に目配せする。
もちろん、量子空間を通じて繋がっている私達に、
そんな仕草はまったく必要ないのだが、そのほうがなんとなく趣が有る。
零号機は、私の肩越しに手を伸ばして、実験制御室の壁の配線ボックスに、
まるで粘土の壁に指を刺し込むように、ずぶずぶとその太い指を沈み込ませる。
ボックスを串刺しにした指の周りで、まぱたく様にプリントパターンにも似た、
幻想的な光が浮かび上がり踊る、途端にネルフ本部全体に
マギ
の電子音声が響き渡った。
『人工知能により自律自爆が決議されました、本部所員は速やかに退避して下さい・・・』
赤く点滅するライトと、感情のこもらない声に、人々の間に動揺が走る。
一瞬の内に、マギが乗っ取られた事を悟った赤木博士は、唖然として立ち尽くし、
碇司令と冬月副司令は、その顔から血の気が引き、青さを通り越しむしろ白くさえ見える。
「な、何をする気なの?!」
「・・・言ったとおりです、赤木博士・・・
サードインパクトの防止の為に、
第二使徒
の破棄を行います・・・」
わなわなと震えるほどに拳を握り締め、赤木博士がいま一度問い掛ける。
私は、出来るだけ冷たく邪悪そうな笑みを浮べると、先ほどと同じ答えを繰り返した。
実験制御室を一瞬静寂が支配する、しかし、それを再びマギの電子音声が破る。
『複数N2弾頭使用による自律自爆まで後574秒です、
本部所員は速やかに退避して下さい、繰り返します・・・』
冷たい声が、ジオフロントの暗い闇を切り裂き響きわたる。
最初に我を取り戻したのは碇司令だった、焦り声で冬月副司令に怒鳴る。
「冬月!手伝え!」
「分った!」
さすがは元師弟コンビ、阿吽の呼吸で意思の無い碇ユイを担ぎ、さっさと脱兎のごとく実験制御室から逃げ出す。
やっとほかの人達も、自分が置かれた現状に遅まきながらも気づき、二人に習ってばらばらと駆け出して行く、
見る見る間に、実験制御室から人影が消え、ついに零号機と私、そして赤木博士と伊吹二尉だけが残された。
「・・・なぜ・・・逃げないのですか赤木博士?・・・」
「貴方が、嘘を言ってるからよ・・・ここを、自律自爆させる気はないんでしょう?」
青くなり震えながらも、赤木博士は私を睨み付けた、そして私は、彼女の言った事に首をかしげる。
「・・・赤木博士・・・私は、自律自爆させると言った記憶はありません・・・」
「せ、先輩・・・」
「そう、確かに私の勘違いね・・・なら、なおさら逃げ出す必要はないわ」
その腰に、恐怖で震える伊吹二尉を纏わり付かせたままで、赤木博士が人の悪そうな笑いを洩らす。
でも、本部の破棄はいずれ行う予定なのに、誤解されたまま居座られては問題が有るかもしれない。
「・・・ここの自律自爆は、特別宣言D17発令後24時間、時間をおくつもりです・・・」
「だめよ!ここにはマギが有るのよ!」
顔を恐怖に歪めながらも、赤木博士が私へ食い下がる・・・おかしい、この人は此処まで物に拘る人だっただろうか?
とりあえず、零号機に退避が終わったブロックから、硬化ベークライトの注入を開始させる。
私の思考を捕らえ、軽く喉を鳴らして同意した零号機が指示を発し、マギは盲目的にそれに従ってベークライトの注入を開始した。
『人工知能により特別宣言D17が発令されました、
退避終わり次第、全通路に特殊ベークライトが注入されます、なお自律自爆は、特別宣言D17発令後24時間に延期されます』
「止めなさい!レイ!」
再び赤木博士が怒鳴る、そういえば彼女は、マギに母親の面影を抱いていたはず、
でも、それだけだろうか?・・・魂は、執着した物、己が近しい物に宿る傾向が有る。
そう、死んだ私が、あのセントラルドグマの水槽の中の私達へと、輪廻するように・・・
零号機が、私の頭に浮かんだ考えを読取って、早速マギへメガチュ−リングテストを行いその仮説を裏付ける。
マギは、零号機のテストに、合成蛋白に焼きつけられたプログラム以上の物を持って、その問いに答えたのだ。
「・・・そう、赤木ナオコ博士の魂は、その死に場所であり、もっとも自身に近しい物に、いまも宿っているのね・・・」
私は、赤木博士の目を覗き込み、また一つ、
前回無かったイレギラーを、引起こせるかもしれない事に、
わくわくと心を躍らせ、漏れそうになるクスクス笑いを、
完璧に抑え込み無表情のまま、博士へわざと意味深に問い掛ける。
「・・・赤木博士、貴方が拘っているのは、マギですか?それとも、その中のお母さんですか?・・・」
「な・・・何を言っているの?」
私の思いもかけない言葉に、赤木博士は呆然と立ち尽くす・・・私は、クスリと笑うと説明を補足した。
「・・・貴方も、無意識の内に薄々気が付いているはず・・・
マギには、まだ赤木ナオコ博士、その残滓が宿って・・・
特に、カスパーにその影響が色濃く出ている・・・
だからマギは、貴方の予想以上の動きをするはず・・・違いますか赤木博士?・・・」
「まさか・・・そんな・・・しかし、でも・・・」
ショックを受けた赤木博士は、手でこめかみを抑え、ぶつぶつと断片的な言葉を呟く・・・
そう、彼女は無意識の内にマギに母を見ていた事に、私から気が付かされ、
非科学的とも言える現実と、自分が信じる科学との間の矛盾に整合性を見出そうとする。
疑心暗鬼のループに入りかかった彼女を助け出す為、私は更に具体的な提案を行ってみる事にした。
「・・・赤木博士・・・
私と零号機なら、生前とまったく同じとは行きませんが、マギの中からナオコ博士を抽出できます・・・」
私の言葉に、信じられないものを見るた様に、瞳を大きく見開いた赤木博士が頭を上げる。
「母さんを・・・生き返らせれるとでも言うの・・・」
「・・・貴方が・・・それを望めば・・・」
私は、その腰に、恐怖でがたがたと震える伊吹二尉を、
纏わり付かせたままの赤木博士へ、物静かに言葉を投げかけた。
彼女は、その言葉に目に見えるほどの動揺を見せる。
そして、非難するような目で私を睨み付けて、その真っ赤な口紅に彩られた唇から、震える声が漏れ響く。
「死者さえも蘇らせると言う・・・あなたは、貴方は何者なの?」
「綾波レイ・・・一人目でも、二人目でも三人目でもない、相対的未来の私をも含んだ、私自身・・・
それに・・・貴方は勘違いしてる・・・赤木博士、ナオコ博士は完全には死んでいないもの・・・」
私は、勤めて無表情に徹し、静かに博士の言葉に答えた。
しかし、それでもまだ彼女には迷いが残っている・・・そう、貴方は碇司令が忘れられないのね・・・
ならば私が、その迷いから、あなたを開放して上げる・・・その結末を示すことによって。
「・・・それに・・・たとえ、碇ユイが戻ってこなかったとしても・・・
そして、貴方がどんなに尽くしても、碇司令は振り向いてはくれないわ・・・」
「そ、そんな先輩・・・碇司令となんて・・・」
「レイ!貴方なにを知っているの?」
いままで赤木博士に縋る様にしていた伊吹二尉が、まるで電気に感電したかのようにその体を震わせ、
博士を汚い物でも見る様な目で見つめながら、這うようにその身を引き剥がす。
赤木博士は、顔を引きつらせて、私を問い詰めるようにじりじりとその足を前ににじり寄せた。
「・・・教えてあげる・・・何が起こったかを・・・」
私は、冷たくクスリと笑うと、一瞬の内に無意識に抑えていた自らの存在感を開放した。
目の前の二人が、瞬時に私の神威のごとき存在感に圧倒されて、金縛りに合ったかのようにその動きを凍りつかせる。
そして私は、その右手の指先を二人に向け、超極細の赤い燐光で幻想的な光を纏わり付かせた
ATフィールドで形成される針を、彼女たちの眉間へ苦痛さえ感じさせずに突き刺す。
ナノ秒のきわめて短い間に、私の無意識は、二人の脳内のシナプシス構造の解析を終わらせた。
「・・・貴方達も科学者なら・・・全てを知り、そして・・・正しい分岐を選びなさい・・・」
私は自分の無意識領域をフィルターとして、
彼女達の未使用脳海馬領域内のシナプシスへと、あの出来事を、多少の負担さえ考慮せずに超高速で刻み込む。
そして、書き込みが終わった私は、解き放った存在感を元のレベルまで納めて、フィールドの針を引き抜いた。
「・・・これでもう・・・なぜ、私達がわざわざ干渉したか、貴方達にも理解できるはず・・・」
私は、冷たい目を、刻み込まれたイメージに、呆けたような表情を見せる二人へと向ける。
「あ、あぁぁぁぁぁ・・・先輩がそんな、そんなっ・・・」
「あはははは、なんて無様な・・・こんな結末を、私は認めないわ・・・」
私の冷淡な声に、揺り起こされるようにその目に理性の光が戻ると同時に、
伊吹二尉は悲鳴を上げ、赤木博士はまるで狂ったかのように虚ろな笑い声を洩らした。
私は、そんな彼女たちを冷ややかな眼で見つめる。
一通り笑って、そのストレスを発散した赤木博士が、私へと、その鋭い目を向けて口を開いた。
「なぜ、あんなにも貴方へ酷い事をした私へ、レイは親切に手を差し伸べてくれるのかしら?」
「・・・既に、あれは私にとっては、2世紀も前の遥かな過去の事だから・・・
赤木博士、貴方にも子供だった時は有る筈・・・
その時、貴方を苛めた人は?・・・そして、今でも博士は、その人を怨んでいるとでも?」
私の説明に、赤木博士は納得と同時に無意識に目上の者への距離を取る。
そう、まるで成績を評価される学生的なスタンス、それは伊吹二尉も同じだった。
「・・・それに、単純に酷い目にあわせられただけなら、赤木博士より、
ナオコ博士の方が酷かったわ・・・極度のストレスによる錯乱、その挙句一人目の私を絞殺したもの・・・」
「そう、だったわね」
私は、言いにくそうに同意の言葉を呟く赤木博士へ、
薄っすらと微笑む、貴方も、自分の母親が私へ何をしたのか知っているのね。
「・・・だから、これは私からの好意・・・
博士が望めば、私は僅かな手間を掛ける、ただそれだけ・・・」
「もちろん、お願いするわ・・・レイ。
それに、科学者としてはそのプロセス自体にも、とても興味が有るわ」
そう・・・赤木博士、それが科学者として最も正しい態度だわ。
私は、最後まで科学者であろうとする彼女へ、ちょっとした満足を覚える。
それは、彼女が気の迷いから拘っていた”碇ゲンドウ”から、早くも脱却しつつある前触れのように思えたから。
「・・・零号機、ここはもう良いわ・・・リリスと、私達の処理をお願い・・・」
私の声に、零号機は軽く頷くと、実験制御室の壁の配線ボックスからその指を引き抜き、
スムーズな動きで巨体を翻して、暗い水路へとその姿を消す。
彼女は、今から一人でシャフトを降下して、ヘブンズドアを潜り
第二使徒
へ向う。
元は同じだったものが、再び一つへ戻るのだ、そして、LCLの水槽に漂う私達も、
同じように零号機に統合される・・・最初は、私と分担する予定だった、でも仕方ないわ。
「・・・赤木博士、発令所へ行く前に、
いくつか準備が必要です・・・手伝ってもらえますね?・・・」
私は内心、わくわくしながら、
零号機を見送ったまま後ろを向いた姿で、抑揚の無い声を二人へ掛ける。
「も、もちろんよ、手伝うわ・・・あ、貴方もよね、マヤ?」
「は、はい先輩」
私の背後の二人から、少し引きつリぎみの声で、同意の返事が返された。
赤木親子、そして伊吹二尉・・・自らの手で新、東洋の三賢者を結成する。
それを、凄く魅力的に感じる私がそこへいた。
「・・・そう・・・期待しているわ・・・」
思い付きで始めた事だけど、きっと碇君も喜んでくれるはず。
そう思うと、私は自然と笑みがこぼれるのを止める事が出来なかった。
To Be Continued...
-後書-
特別宣言D17 = 第三新東京市を中心とした半径50km以内の全住民の避難命令、ネルフ本部の放棄を意味する特別宣言。
特殊ベークライト = 短時間で硬化する特殊な液体、零号機の緊急停止時、EOEでの戦略自衛隊の本部施設侵攻時に使用された。
赤木ナオコ博士 = 赤木リツコの母で、ゲヒルン時の研究員。スーパー・コンピューター・マギシステム開発責任者。
2010年、マギシステムの完成直後、一人目の綾波レイを絞殺後第一発令所のオペレーター席からマギ本体へと投身自殺する。
もっとも自身に近しい物 = ネルフ本部のメインコンピュータ・マギの3つのユニット、”カスパー”、”メルキオール”、
”バルタザール”には赤木ナオコの ”科学者”、”母”、”女”、としての思考パターンが人格移植OSとしてに刻み込まれている。
水槽の中の私達 = ダミープラグの材料であり、綾波レイのスペアでも有る、23話”涙”で水槽の中で漂う綾波レイ達のこと。
チュ−リングテスト = 機械の知性を判定する為に行うテスト、コミュニケーション能力を判定しようとする試みの一つでも有る。
東洋の三賢者 = キリストの誕生時にそれを祝う為、厩のマリアの元へ訪れた三人の賢者を模して名づけれらたマギシステム、
それに触発してエヴァSSで発生した”碇ユイ”、”惣流キョウコ・ツェッペリン”、”赤木ナオコ”の3人の総称。
あいや、どんどん執筆スピードが落ちてます(滝汗
ここのところ、ちょっと忙しいからかもしれませんね(苦笑
ご注意!:新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。
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