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アタシ達は運命を 嘲う(あざわらう) side.rei

第3話 それぞれの再会  by saiki 20041016-20060608



「うぐっ・・・うげっ・・・ち、血の匂いがたまらないわね」

小言を呟きながら頭髪を金に染めた豊満な裸身が、 薄赤い液(LCL) を滴らせ、
零号機後頭部から突き出た 円筒形の特殊合金のカプセル(エントリープラグ) から這いずりでる。

「大丈夫ですか先輩?」
「え、ええ・・・だいじょぶよ、マヤ」

伊吹二尉がバスタオルと白衣を抱え、心配そうに赤木博士に駆け寄る、
私はそれを見て薄く笑いを唇に浮かべながら、
マギが収納されているフロアの、手すり越しに零号機へと呼び掛けた。

「・・・どう?
いまの赤木博士のデータを使って、何とかなりそう?・・・」

零号機が、私の問いに力強い唸り声で答える。

「・・・そう、何とかなるのね・・・じゃあ、始めましょう・・・」

零号機は軽く唸り、私の頭越しにマギ・カスパーにその力強い腕を伸ばすと、
その指先を、まるで水面に指を沈めるように、カスパーを覆う筐体へとめり込ませた。

「何が始まるの?」
「・・・第一段階として赤木博士のデータを下敷きに、
ナオコ博士のデータをマギから引き出し、
その体をLCLを原料にナノマシンで再構成・・・」

赤木博士の質問に答える私の目前で、カスパーの筐体へめり込んだ零号機の指先が、
電子回路にも似た輝きを放ち、擬似的な高速回線を形成しマギへとアクセスを開始した。
その輝きを、赤木博士は魅入られるようにその瞳で凝視する。
そう、少しだけ畏怖の影を瞳へと浮かべながら。

「・・・そして、第二段階・・・
マギに過負荷を掛け、寄生しているナオコ博士を追い出す・・・」

私の言葉が終わらぬうちに、マギが盛大に火花を飛ばし、筐体の隙間から黒煙を吐き出した。

「ま、マギが、先輩!」
「ああ!なんてこと!!」

ブレーカーが飛び、一面の暗闇と化した第一指令所に、伊吹二尉と赤木博士の悲鳴が響き渡った。

「・・・大丈夫、何も問題ないわ・・・」

狼狽する二人に、私はマギの放電の光に薄っすらと照らし出されながら、
往年の碇司令のようにニヤリと笑いかけ、きっぱりと何も問題ないと言い切る。
きっと碇君や弐号機パイロットが見たら、おなかを抱えて笑い転げるに違いない。

「これが、問題ないですって!?」
「・・・そう、問題ないわ・・・
ナオコ博士の抽出に成功した以上、もうマギは要らないもの・・・」

血の気を失い睨みつける赤木博士に、
私は零号機が張り巡らせたATフィールドに干渉して、
ほのかに赤く輝き宙を舞う蛍のごとき光を指し示す。

「まさか・・・これが?」
「・・・そう、赤木ナオコ博士の魂・・・」

初めて目にするその現象に、赤木博士の目が知識欲に貪欲さを浮かべて輝く。

「マヤ!記録は、取ってるわね」
「は、はい、先輩!」

私は宙を舞うそれを見て、サードインパクトの時、無数に舞った人々の魂を思い出した。
ナオコ博士の魂は、あの時の魂ほど生きのよい光を放ってはいないけど、
それでも、はっきりと自己を主張している、この分なら、まだ自我を残しているかもしれない。

光に誘われる蝶のように、ナオコ博士の魂は、
零号機のハーフイジェクトされたエントリープラグの中へ、壁をものともせずに溶け入るように消える。
強制的に絆を断ち切られた魂は、一番自分に近い存在に引き寄せられていく、
そう、死んだ人がその子や孫の枕元へ立つように・・・

「・・・先輩?」
「しっ!静かに・・・」

赤木博士の叱咤に重なるように、水の滴る微かな音が響き、
停電の薄暗がりの中、固唾を呑んで見守る私達の目の前で、
エントリープラグの出口の淵を、ほっそりとした白い指が掴む。

「ひ・・・ひぁぁっ・・・」

だだっ広い上に薄暗く、自分たち以外誰もいない発令所に、
伊吹二尉の、かぼそい喉の奥から搾り出すような悲鳴が響き。
ぬらりとLCLを滴らせプラグから突き出された頭を覆う、
濡れ羽色の髪が非常灯の光を反射して紫色に輝き、
その短めの髪の下からは苦しそうな息が漏れる。

「ケホッ!
ううっ・・・気持ち、悪い・・・」

まるで幽霊のように、顔に濡れた髪をまとわりつかせたまま、
その唇を苦しそうに蠢かせ、苦言が吐き出された。

「母さん!マヤ!タオルを」
「ぐほっ!・・・リッちゃん?リッちゃんなの?」

まるで、蛇に睨まれた蛙のようにその動きを凍りつかせていた赤木博士が、
あわてて零号機のハーフイジェクトされたプラグから、
這い出る様に現れた人影の元へと駆けつける。
そして、同じように走り寄った伊吹二尉の手で、
LCLをタオルで拭われる色白の体を目にして、赤木博士の動きが再び氷つく。

「あ・・・貴方、だれ?」

誰何する赤木博士の目線の先には、彼女と同じ年頃の全裸の女性が、
その体を震わせながら、足元に広がるLCLの水溜りの上に呆然と立ち尽くしていた。
その容貌は、赤木ナオコ博士を思わせる物だったが、
赤木博士には、ナオコ博士と死に別れた時よりも若いその容貌を認めにくかったのだろう。

「・・・赤木博士、ご自分のお母さんに見覚えがないの?・・・」
「そんな・・・私と、同じ年のお母さんなんて・・・」

私は、微笑みながら彼女へと口を開く。
赤木博士が、戸惑いを浮かべながら悪夢を振り払うように頭を横に振るった。

「・・・このナオコ博士の体を構築するのに、
赤木博士のデータを使った、だからこうなって当たり前・・・」
「そう・・・そうかもしれないわね
貴方は、私の母さん、つまり赤木ナオコ博士ですよね?」

さすがに赤木博士も科学者、もう現実を受け止め分析を始めている。
やっと咳き込みが収まった全裸の女性に、彼女は詰問する調子で鋭く声を投げかけた。

「え、ええそうよ・・・
あ、あなたは・・・リッちゃん、リッちゃんなの?」

「え・・・ええ、母さん・・・」

赤木博士は、自分と見かけ上同じ年頃のナオコ博士に抱き付かれて、
その表情を、嬉しさと嫉妬の間を複雑に往復させる。
彼女ならその辺りは、いとも冷静に割り切るだろうと、
読んでいたけれど、その思惑が外れて私は、少し嬉しく感じた。

そう、あの赤い海の広がる世界では、
希薄だった意外性と多様性が、この相対的な過去には満ち充ちている。

「こ、この人が、先輩のお母さま・・・ですか?」

零号機のエントリープラグの中からLCLを滴らせて現れ、
その男の趣味が思いのほか最悪だったことに、深いショックを覚えながらも、
いまだ敬愛の対象の先輩に垂れかかる同年代にしか見えない女性に、
伊吹二尉は無意識に嫉妬に駆られるのか、少しきつい口調で疑問を口にした。

「ええ、マヤ、どうやらそうらしいわね」
「この子、誰なの?リッちゃん?」

そんな彼女へ、赤木親子は対照的な、困ったような表情と、怪訝そうな表情を向ける。
放置しておくと、いつまでも変則的な三竦みから抜け出そうもない3人・・・
だから私は、クスリと笑って穏やかに声を掛けた。

「・・・復活おめでとう赤木ナオコ博士・・・
それとも、お久しぶりと言った方がいい?・・・」
「だれ?」

いぶがしげに、うす暗がりに立つ私を見つめてナオコ博士が低く誰何の声を発する。
ちょうどその時、マギの制御を離れた予備システムが立ち上がり、
発令所に明かりが戻る、そして私の姿をまじかで見たナオコ博士が驚愕にその体を震わせた。

「あ、ぁぁ、でも、そんなはずは・・・」
「・・・ナオコ博士、会うのは貴方に絞め殺された時以来になるわ・・・」

赤木博士に縋り付く様にして、ナオコ博士が震える体を支える。
その無様な姿に私は、慰めるように笑みを深めると口を開いた。

「・・・大丈夫、気にする必要はないわ・・・
私には、あれは遠い昔の事・・・
その知識もちゃんと刷り込んであるはず、まだ思い出せないの?・・・」
「あ、え、えぇ、思い出したわ、
あの後、こんな事になっていたなんて・・・
でも、貴方は私を生き返らせて何をさせようとしているの?」

その微かに紫の光を放つ瞳に、
疑惑の色を浮かべ、ナオコ博士が絞り出すように声を上げる。
そんな彼女に、私の微かな笑みはなおいっそう深みを増した。

「・・・なにも・・・
貴方が私たちと協力しても、敵対してもかまわない・・・
貴方の好きにすると良いわ、私は気にしないもの・・・」
「なっ・・・」
「レイ!」
「レイちゃん・・・」

その存在を付き放すような返答に、
ナオコ博士は絶句し、残りの二人は私を咎める様にその声を上げる。

「・・・でも、出来るならナオコ博士、
赤木博士を支えてあげてほしい・・・
彼女は今日失恋したばかりだから・・・」
「えっ?リッちゃん貴方・・・」
「え!あっ」
「せ、先輩、っ?」

頬を赤く染めて珍しくうろたえる赤木博士、
目を丸くして己が娘を凝視するナオコ博士、
そして、いやいやとその頭を振り続ける伊吹二尉、
混乱する3人へと、私はその顔へ優しくそして意地悪な微笑を浮かべる。

でも、のんびりといつまでもそうしては居られないようだ。
零号機や私ではない巨大な存在感が、かなりの速度でこちらへと近づいて来ていた。

「・・・これは・・・碇君達じゃない・・・」

無意識に私の口から漏れた言葉に、零号機が低い唸り声でそれを肯定する。
そう・・・あの人達が、もうここへ来たのね・・・

「・・・本来なら、第六使徒戦まで時間があったはずなのに・・・
それに、この気配は・・・最後の使徒、あのナルシスホモも一緒なのね・・・」

私は、永遠のライバル達の到来にその奥歯をきりりと噛み締める。
自分の思いとおりに行かない・・・だから人生は面白いの・・・
想人の碇君の最近の口癖を思い出して、思わず浮き上がりかけた暗い想いを、
綺麗に昇華させた私は、口元に余裕の微笑を取り戻した。

「・・・大丈夫・・・碇君が私達を見捨てる事は絶対ないもの・・・」

私は妥協して、複数形を使う。
そう、碇君は優しいから、あんな人達も見捨てない。
私の浮かべる笑みが、ますます深さを増す・・・でも、ちょっとだけ悔しい。
零号機が、私へ低い唸り声で注意を促す。
やはり無分別な人達ね、減速する気配がまったくない、
第三進東京市の地表部を何の苦もなく突き抜け、
いまやその気配は、私たちのすぐそばまで来ていた。

「・・・床に伏せて・・・大きな揺れが来るわ・・・」
「えっ?」
「レイ、なにが?」
「いったい、なんなの?」

私の警告に、三人の口からから三者三様の疑問が零れる。
でも、科学者と言う人種の共通する欠点なのか、
誰一人として率直に私の警告に従おうとしない。

「・・・怪我をしたくなかったら、床に伏せたほうがいいわ・・・」

私の言葉に、最初にリアクションを起こしたのは赤木博士だった、
流石と言うべきか、ナオコ博士を抱えるように床に伏せ、
いまだ、おろおろとしている伊吹二尉を叱咤する。

「マヤ!何をしてるの伏せなさい!」

やっと動き出し、遅い動作で伏せようとした伊吹二尉を、
轟音と共に激しい縦揺れが襲う、そして硬質の音と共に、
ひな壇にも似た司令塔の正面のスクリーンが砕け散った。

「ひ、ひィ――――――ッ!」
「・・・問題ないわ・・・」

自分へと迫る巨大な破片を目にして伊吹二尉が悲鳴を上げる、
だがそんな物は、私や零号機のATフィールドにとっては何の問題でもない、
鉄鍋を叩く様な音と共に無数の破片をあっさりと弾き返した私達は、
粉塵の中から姿を現した真紅に彩られた巨人に迷惑そうな視線を向けた。

「・・・なんて・・・傍迷惑・・・」

ジオフロントの天井に開けられた穴から降り注ぐ日光が、
発令所の壁の亀裂を通し真紅の巨人を照らす中、
エヴァ弐号機は無骨な 装甲兵員輸送車(Tpz1フクス) をそっと発令所の床へ置く・・・
するとそのドアを蹴破るように、
見知った姿が飛び出し、私はそれを無言で軽く睨みつける。

「レイ!!!シンジわぁっ!!!」

能天気な大声が、私の耳に突き刺さるように響く。
・・・そう、貴方はこんなにも姦しいのね・・・私は心の中で、愚痴をこぼす。

「・・・あなた・・・何を考えているの?・・・」
「何をって、もちろんシンジの事♪」

朱金の髪を掻き上げ、私を前にのうのうと想い人の名を口にする彼女に、
自分のお腹の辺りから、何かどす黒く熱い物が膨れ上がって行くような、
未知の感触が広がるのを覚え、そして額の血管が力強く脈打つのを感じた。

「・・・そう、これが殺意と言う感情なのね・・・」
「ふぁ、ファースト、あんた、ちょっと怖いわよ」

くすくすと静かに笑いを漏らす私に、
弐号機パイロットが盛大に引きつった顔で後退りする。
だが、そんな緊迫した空気に能天気な声が水を差した。

「やあ、なにやらおとりこみ中のようだね、
ところで、僕のシンジ君はまだ来ていないのかい?」

私は、突然気安く自分の肩を叩き声を掛けた人物に呆然とする。

「・・・貴方誰?・・・」

私は、気配も感じさせずに自分の背後を取られたことにあぜんとし、
その人物をまじまじと見つめる、それは、どことなく自分に似て、
それでいて、その胸が私より少しだけ豊かな、どこかで見たような少女だった。

「誰?とは、ご挨拶だね綾波レイ君、
君とは初対面じゃ・・・ああ、この体になってからは初対面だったね」
「・・・私に、貴方のような知り合いは居ないわ・・・」

始めてみる少女の、粘着質で少しボーイッシュな物言いに、私は冷たい声で答える。
そして、いつの間にか、馴れ馴れしく横に
並んだ弐号機パイロットが、私の声に合わせるように幾度も頷いた。

「やっぱりアンタもそう思うわよね?
ほら、良く見なさいよファースト、髪が長いから
分かりにくいけど、これ、元ナルシスホモよ。」

弐号機パイロットの言葉に、私は柳眉を顰めて、改めて見慣れぬ少女を見つめる。
私に見つめられた銀色の髪の少女は、ニヤリとその口元に特徴的な笑みを浮かべた。

「これで僕にも、同性愛者とか失礼な事を言われずに、
シンジ君と正常な関係をもてると言うものだよ、そうは思わないかい綾波レイ君?」
「・・・それについての意見は、保留するわ・・・」
「アタシは思わないわよ!」

妙になれなれしい言葉に、私は冷たく答え、
弐号機パイロットは、聞かれもしないのに即断で彼の言葉を否定した。

「アスカくん、君には聞いていないよ」
「ふん!まかり間違って、
アンタが希望なんか持ったらかわいそうだから、
最初から否定してあげるのが親切ってものだわ!」

弐号機パイロットの言葉に、フィフスがその細い眉を顰め嫌そうに顔をゆがめる。

「・・・二人とも黙って・・・」

だが私は、そんな二人に構わず、再び感じた大きな気配に心を集中した。

「ああ、この気配は・・・」
「うん、待ち人来るだね・・・」

私達は一斉にその目線を、二号機パイロットの開けた、
ジオフロント天井の巨大な破口へと向ける。

「レイ、何が来るの?」
「せ、先輩?」
「なに?この感じ・・・何なの?」

私達の目線に釣られるように、残る3人もその目線を同じ方向へ向け。
そして見た、紫の巨人が優雅に12枚6対の羽を広げたまま、
ジオフロントへと羽が舞い降りるように降下するのを、
その紫の巨人が纏う後光が、私達に暖かな優しさを染み渡らせてゆく・・・

「・・・碇君・・・」
「シンジっ・・・」
「ああ、これがうれしいって言うことなんだね・・・シンジ君・・・」

私達は我先にと、まるで子供のように駆け出し、
長い様で短い別離の果てに、再び再会出来た想い人へと駆け寄って行った。




 At that point the story comes to an abruptEND...

-後書-




無数に舞った人々の魂 = 劇場版エヴァンゲリオンのサードインパクト時の映像参照
貴方に絞め殺された時以来 = TV版21話”ネルフ誕生”で
 マギの完成直後の話、一人めのレイをナオコ博士が絞殺している。
司令塔の正面のスクリーンが砕け散った = イメージ的にはTV版19話”男の戦い”の
 ゼルエルに蹂躙される第一発令所のシーンのイメージが近い。
装甲兵員輸送車 = ミサト&カジはこの時点でまだ中で気絶したままである。
 この二人を出すと話が無駄に長くなりそうだったのであえて無視した。
元ナルシスホモよ = 偏見だと思いたい(苦笑



もう駄目ダメです、執筆が止まってしまってます(涙
最近取り貯めしていたTVのVTRをDVD化する事に時間ばかりとられて(墓穴
一応予定ではこの後3が来て・・・となるはずの半端な幕切れなのですが果たしてどうなるか(滝汗

ご注意!:新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。


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