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アタシ達は運命を 嘲う(あざわらう)

第1話 シンジ 覚醒(かくせい)   by saiki 20060520



どこまでも蒼く高い空、学校の屋上のコンクリートの上、
(いかり) シンジはその黒曜石にも似た黒い瞳で、空を流れる雲を見ていた。
その、濡れ羽色のショートカットの髪を、穏やかな風が優しく鋤き上げる・・・

「ああ、空って蒼かったんだ・・・」

誰一人いない屋上、その右手ではお昼代わりのパンの袋が風になびく、
左手を濡らすのは、握り潰してしまった牛乳パックからもれ出たミルクだろうか?

碇シンジの中で、虚空に浮かぶ長大な円筒、ティプラーの円筒と、
赤外線バーストに滲む赤方偏移した星々の光の線がぐるりと輪を描く。

「そうか・・・帰ってきたんだ・・・」

ちょっとした頭痛の中で、ここが第2新東京市の昔いた学校だと分かった。

「たしか、綾波が・・・
着いたらまっ先に、体の遺伝子情報を書き換えろって言ってたな・・・」

記憶の上書きのショックで、コンクリートの上に横たわったまま、
かって、碇シンジだった者は、その身の細胞をATフィールドを利用して、
いままでと99.89%しか類似性の無い、人外の物へと変貌していく。

「ふぅ、これ、思ったより痛みより快感の方が強いかもしれない」

ミトコンドリアごと書き換わる細胞が、
微妙に快楽中枢を刺激して、彼の口から艶の在る喘ぎを漏らさせる。
シンジは大きく溜息を付き、よっこらしょと、
彼らしくない歳よりじみた掛け声と共に、その身を起こす。

そして顔をしかめて、パックからもれ出たミルク溜に浸かった、
左手を目線まで持ち上げると、再びため息と共に右手でポケットのハンカチを探す。

ガサリと嫌な手ごたえと共に、ポケットの中で、
ハンカチと一緒に、紅い無花果マークが印字された白い封筒が掌へと当たった。

「そうか、もう来てたんだっけ」

ハンカチで手を拭った後、取り出した封筒には、
IDカードと写真、”来い、ゲンドウ”と一言が書き殴られた便箋が一枚。
それを見て、シンジは思わず苦笑を漏らす。

「あはははっ・・・いや、僕らしくないんだけど、アスカの言うとおりだ。
これは、笑うしかないよ父さん・・・
うん、いまならミサトさんがこれを見て、顔を引きつらせた訳が分かるよ」

段々つぼにハマって来たのか、体を二つに折り、痙攣するかのようにその身を震わせる。

「いや、使徒化したこの身で、思わず死んじゃうかと思ったよ父さん」

まだ笑いに、その中性的な卵型の顔を引きつらせたままで、目の端に涙を滲ませる。

「うん、アスカや綾波の強引な薦めに乗ってよかったか知れないな」

彼はあのサードインパクトの起こった世界で、
アスカや綾波、それとカオル君と一緒でなに一つ不満はなかった。
いやむしろ、静かで平和なあの世界を満喫していたとも言えた。

でも、アスカがある日、読みかけの雑誌を片手にこう言ったんだ。
――――― いま読んでる話の続きが読みたいって。
碇シンジはしばし、紅い世界での想い出を反芻する。

まあ、最初は彼女のいつもの冗談だと思ったんだけど、
綾波も、あの僕以上に事態を達観していたカオル君さえ、その尻馬に乗って、
あれよあれよと言う間に、ネルフ本部のMAGIを復活させて、宇宙工学を学び始めて。

彼の今の体に上書きされた記憶が、その想いと共にほどける。

衛星軌道にベースを作るし、月に別荘を建てるし、
挙句の果てには、作業基地にちょうど良いからって、
黒い月ごとネルフ本部を木星のラグランジュポイントまで移動させるし。
いや、やっぱりアスカって、天才だなと皆しきりに感心したものさ。

あの、写真や映像でしか見た事が無かった、木星の姿は綺麗だったと溜息を付く。

木星宙域で、” ティプラーの円筒(タイムマシン) ”にするって惑星を解体し始める頃には、
サードインパクトから100年ぐらい過ぎてて、僕とアスカ、綾波はとっくに男女の深い関係になってたっけ。

ただ一人置いてけ堀にされたカオル君が、「僕にとって男と女は等価なんだ」と、
凄く憤慨してたけど、さすがに、古い固定観念が刷り込まれた僕には彼の想いは受け入れがたく、
丁重に遠慮してもらったけど、でもちゃんと納得してくれたみたいだから、もう大丈夫だと彼は思う。

「あの時の君の目は、いま思っても凄く怖かったよカオル君」

ちょっと、あの時のカオル君の紅い目を思い出して、シンジは額に冷汗を浮かべた。
まあ、皆が同じ時間に返ってくるはずは無いと、思いだして、
まだ、もう少しゆったりとした時を過して見ようと、再び青い空を見上げた。

持ち物を整理して、サードインパクト後に皆に秘密で、
こっそり調べておいた父さんの銀行口座と暗証番号でお金を下ろせば、シベリアのツンドラにでも逃亡可能だ。
今の体なら、父さんが密かにつけているだろうガードを巻くのさえ容易いと、シンジには妙な自信がある。

「まあ、アスカや綾波達と連絡を取るのは、落ち着いてからで構わないよね」

碇シンジとしては、アスカや綾波ほどの積極性は無い、
あの静かで満ち足りた生活が、彼の従来の万事事なかれ主義にますます磨きを掛けていた。

この時点で彼が、すでにドイツや 第3新東京市(ネルフ本部) の事態を知っていたら、
こうものんびり構えていられたかは、かなり怪しいものでは有るが、
取りあえず、午後からの授業はキャンセルして、どこかで服を着替えようと、
その重い腰を上げた時、まるで示し合わせたように、屋上のドアが派手な音を上げて開かれる。

「碇、シンジくんだね?」

重い靴音と共に物騒な雰囲気の黒服の男たちが、シンジの退路を塞ぎ、その名を呼んだ。




To Be Continued...



-後書-


いや、やはり放置はよくないと、取りあえず書きはじめて見ましたが。(汗
作風変ってるかも知れません。(苦笑

ご注意!:新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。


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