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アタシ達は運命を 嘲う(あざわらう)

第5話 そして、アタシ達は幕を引く  by saiki 20081102





それは薄暗い空調用のダクトの中をゆっくり、
そして時折紫電を光らせながら奥へまたより深くへと進む。
幾重もの感知機を黙らせ、立ちふさがりまるでその不定形な体をせん断せんと
鋭い羽根を回す送風機の間を潜り抜け、薄く血の臭いを留まらせる 薄暗い巨大な空間(ケージ) へとたどり着いた。

そして、彼が目的地へと辿り着いたと思った時は既に罠の中だった。

「待ちくたびれたよバルディエル!
このボクをここまで待たすとは、なんて君は無粋な奴なんだろうね、
おかげでシンジ君とのデートが2回も流れてしまったよ、好意に値しないよ君は!」

質素な白いブラウスに蒼いリボン、黒のフレアスカートを纏う 少女(カヲル)
自身のたわわな胸の上で両の腕を組み、多分に苛立ちを含むそのボーイッシュな声を響かせる。
人形を思わせる整った卵型の白い顔の中で、
逆恨みに紅く憤怒に燃える目がマイクロS機関の光を湛えて、紫電を纏う 黒いガス状の物(バルディエル) を睨み付けた。

「これは我が同志、参号機と四号機ももちろん同意見だね!」
Wooo──────n!!!(おお、我らが怨敵許すまじ)
Guuau──────o!!(同感だ、我が同胞よ)

二体の 黒き魔人(参号機) 白銀の巨人(四号機) が、
自身に比べてアリのように小さい少女の天を焦がすような怒りに、
その頭部へ幻影の汗の水滴と無数のオドロ線をまとい、慌てて同意の唸り声を上げた。
3体の 同種(しと) の巌のような威圧感に、本来何物おも恐れぬはずの使徒バルディエルが、
その不定形のガス体に紫電を散らしながら、ちじこまる用にじりじりと後ろに下がる。

「やぁっておしまい!」
FGoooo──────n!!!(まかされよ!)
WaaaaagGooo──────a!!!(我らを前に汝、逝く事も退く事も叶わぬと心得よ)

紅いATフイールドが特殊鋼で覆われた床を引き裂き、鎌イタチを伴いガス体を包みこむ、
そして新たなATフィールドがギロチンの様にダクトの前に食い込み使徒の退路を断った。
その喧騒の中、銀髪を風に弄られながら 少女(カヲル) はその口を下限の月の様に開き嘲りの笑いを漏らす。

「あははは─────っ!バルディエル!
悪いが、ボクのシンジ君への愛の為にここで死んでもらうよ!」

芝居がかった動作で、
その手を優美に振り下ろし己が豊かな胸をタプンと揺らす碇カヲル(予定)、
その愛ゆえの天を貫くほどの怒りに、使徒バルディエルは、いまここに絶大なる危機を向えた…







暗闇の中、己がこそ世界の守護者と何の根拠も無く信じる道化達が寄り添い会合を開いていた。

「まずいよ、あの力はあまりにも大きすぎる」

闇の中タバコの火が、髭を焦がしながら台詞に添ってまるでタクトの様に揺れる。

「いかな我らでも、あれらを制御出来まい」
「我らを脅かすもの、すなわち平和への脅威と断定できる」

薄暗がりでの己が台詞を強調する大男の大げさな身振りが、
タバコの火のタクトに踊らされている様で、彼の真剣さを知らぬ者達の苦笑いをさそう。

「ならば、過去の英雄と同じく…」
狡兎(こうと) 死して 良狗(りょうく) 煮らるですかな?」

闇間に光る学者風の男の円眼鏡が、
ふくよかな男の物知顔の言葉が、その秘密のはずの会合の胡散臭さをますます臭わせる。

愚かにも彼らは、かの 赤の少女(さいきょうせいぶつ) の手がどこまで届くかを知らない。
イロウルで強化再生されたMAGIシステムの電子の網の目が、
彼ら 世界の守護者を自称する道化達(こくれんじょうそうぶ) の不穏な動向を、 少女達の元へ(はんらんせいりょく) 全てさらけ出していた。







第三新東京市の地下深く、
アスカのエヴァ弐号機乱入により瓦礫が目立つ、少し薄暗い第一発令所に慌しい声が響く。

「先輩、第16使徒アルミサエルの撃滅を確認!
エヴァ弐号機、四号機帰還しだい、本部の警戒体制をレベル1に変更します」
「了解マヤ、エヴァ各機ケージへの到着確認後、エヴァ射出路、
ならびに地上からの全通路と換気口を含む全パイプへもベークライト注入を開始して」

キーボードを叩く表情をやや固くした伊吹マヤの顔に、
目前へ無数に展開された投影パネルの表示光が写りこむ。
そしてマヤへと指示を飛ばしていた白衣の女性が、
後ろを振り返り、其処へ手持ちぶさに立ちつくしていた二人へと声を掛けた。

「で、二人とも付いてくるの?
主観的には短い時間だけど、帰ってこれるのはずいぶん先になるわよ」
「まあ、こいつさえ居ればアタシはどこへいても同じだし」
「う、まあ葛城もこう言ってくれてるし、
悪い癖だとは思うんだが俺は結局、好奇心には勝てないてことかな?」

白衣の赤木リツコの問い掛けに、
黒髪の女は頬を薄く染めぶっきらぼうに、その横に立つ背広をだらしなく
着こなした男は、くたびれたタバコをくねらせながらニヒルに笑って答える。

「まあ、その辺は個人の自由と言う事でいいけどね、
私達の説明が理解出来なかったのを投げて置いて、
後でこんなはずじゃなかったって攻めても手遅れよ、ミサト?」

二人のあまりにも能天気な物言いに、
己が知り合いながら付いて行けないわとリツコはその肩をすくめた。

「リツちゃん、始まったわ!
外部との全ネット、情報回線が一方的に遮断されてきてる。
それに、外部端末からMAGIへのハッキングも、松代のMAGI二号、
ドイツと中国、アメリカからも最低5台のMAGIが敵に回っているわ」
「ええ母さん、でも想定どおりイロウルと共存した強化MAGIに軽くあしらわれてるたいね」

電子網上での乱戦模様を眺めつつ、
白衣を着たいまや双子のように歳の近い姿の親子二人が目を見合わせて、ニヤリと笑い合う。

「あらいやだ、第二東京からA−801が発令されたわ」
「第二東京からA−801?
特務機関NERVの特例による法的保護の破棄、
及び指揮権の日本国政府への委譲の、最後通告ですか?
この地へNERV無き今、いまだそれが無効に成ってないのが不思議ですよね」
「政治家の言う、いわゆる拡大解釈と言う奴だわね、大国が良く使う手よ」

秘匿情報回線から得られたA−801発令に
赤木リツコが苦笑いを浮かべ、マヤはこめかみを押さえ、ナオコは肩をすくめて溜息を吐いた。

「先輩、第八から十七までのレーダサイト沈黙、
特科大隊、強羅防衛戦より進行してきます。
御殿場方面からも戦自二個大隊が接近中です。」
「戦自約一個師団を投入しても、ここへどこから入るつもりかしらね、リツちゃん?」
「さあ、厚さ200mも有る硬化後のベークライトを掘ろうなんて酔狂なのは流石に居ないでしょ」

ご苦労な事に、人っ子一人居ない
装甲ビルを格納したままの第三新東京市を戦略自衛隊の兵士達が重装備で進軍する。
可愛そうな事に、いまや完全密閉されたジオフロントへ入る道などどこにも無い。
この事態に唯一対応できそうな、ゼーレの五号機から壱拾参号機までのエヴァ量産機は、
とっくの昔に、予算不足とカヲルの離反、およびシンジ達の執拗なまでの妨害で頓挫していた。

無人の都市のあちこちで派手な爆発を幾つか繰り返した後、
何の戦果も得ぬまま戦略自衛隊の兵士達は、こそこそと撤退して行った。
そして、彼らと交代するかのように、
第二司令所から移設されたメインスクリーンが、太平洋上から多数飛来する物体を映し出す。

「この反応は、ミサイルね?」
「はい先輩、N弾道弾です、数112機、第三新東京市到達まで約10分!」

急を継げるアラートが5人しか人の居ない発令所へと響き渡り、
それに反応したリツコに答えるマヤの声で、傍らでスクリーンを見つめていた
ナオコはケージで待機していたシンジ達へと回線を繋ぎ、メインスクリーンへ呼び出した。

「シンジ君、アスカちゃんそろそろ出番よ!」
『了解!ここはシンジ達に任せてアタシは間に合うようにそっちに上がるから、
本部のショックアブゾーバーを全開にして、シートベルトの用意をしておいた方が良いわよ?』

アスカ達の丸々半世紀余り宇宙生活をおくった経験は伊達ではない、
その天才的なセンスで無重力への対処の仕方、感覚的な宇宙航法術などを我流で組み立てていた。
元気に司令所へ駆け込んで来た少女は、朱金の髪をたなびかせながらズササとプラグスーツの
特殊ラバーの踵を床に滑らせ、短くループを描いて慣性をいなしバランスよくストンと立ち止まる。

「ミサト!もうビールは止めなさいまず無いけど、もし気圧が下がると地獄を見るわよ、
加持さんもタバコの火を消さないと無重力じゃ対流が起きないから息が詰まって命取りだわよ。
リツコもコーヒーポットを片付けないと火傷するからね、ああ、ここは広いから、
無重力になったら何が飛んで来るかも分からないし、軽くフィールドを張らないと何が起こるか…」

まあ、それでも雑多な対処に追われる事態になって多少パニックが入っていたようだが、
其処は実戦で鍛えられた少女、
弾頭の着弾のズンと言う突き上げる様な揺れで、人が変ったように的確な指示を飛ばす。
揺れが段々深まる発令所に、伊吹マヤの緊張を帯びたオペレートの声が酷く耳障りに響いた。

「第三新東京市へN弾道弾、着弾し始めました!
現在地表部堆積層消失率10パーセント、20パーセント、30、40…」
「レイ、離陸準備は?」
『…ATシールド展開済み、エヴァ全機、全要員配置完了…』

アスカの問い掛けに、大スクリーンの端に写るサブ画面に現れたレイが
その紅玉のような目をマイクロS機関の内なる光で輝かせながら短く答えを返す。
そんな彼女へアスカは頷き振り返り様に、
オペレートシートへ座りベルトを装着しようとしている赤木リツコへと口を開いた。

「リツコ、離陸するわ!大深度地下へ埋没済みのNの起爆を始めて」
「わかったわアスカ、埋没N弾頭、30秒間隔で逐次起爆開始」

アスカ以外の椅子へと座った皆は、ズンと地の底から強い突き上げにその身を竦める。
そして、それが二度三度と繰り返され、身に感じる重圧が僅かづつ強くなって行った。

「あいつらが補給物資に紛れ込ませた、
本部破壊用の時限式N爆弾も平和利用されるのなら本望よね」
「うふふ、Nを使った。
オライオン方式での実用的な打ち上げは、多分世界でもこれが始めてでしょうね」

アスカの皮肉を含んだ呟きに、ナオコのさも可笑しそうに悦楽を多分に含む声が響く。
そんな雑音さえ気にならずに他の皆は、第三新東京市郊外の定点カメラからの映像に見入っていた。
弾頭が地表を吹き飛ばし掘り返して行く煌きの中、
ATフィールドの紅い光に包まれた、ジオフロント=黒き月がゆっくりと天空へと上って行く。

「現在、我々は高度22万キロ、F層を上昇通過中です」
「アテンションプリーズ、当艦”黒き月”は離陸しました、これより引力圏脱出後1Gで加速し
プロキシマ・ケンタウリ、ロス 248、グルームブリッヂ34を経由してバーナード星で折り返しの予定です。
途中下車は不可能ですので、お降りの方は本艦の地球軌道上通過までにお早めにお申し出下さい。」
「あ、はは…まあ、大胆な旅行ツアーね」

マヤの経過報告に、アスカは芝居がかった仕草で、
左手を胸に右手を大きく振りかざして横へと伸ばし、シートへストラップをして座る皆へと
深々と腰を折りスチュワーデスを気取る、そんな彼女にミサトは呆れた目で、擦れた笑いを漏らす。

発令所のメインスクリーンが、衛星軌道上を巡る偵察衛星からのライブ映像に切り替えられ、
青い地球を紅い光を纏った黒き月が、地表へ大きな影を落としながら宇宙へと旅立つ姿を映し出した。

「わーぉ、凄いじゃない」
「綺麗です…」
「そうね、マヤ…」

スクリーンを見つめる発令所に戻った静寂に、ミサトとマヤの映像に魅入られた声が響く。
浮遊型の多くの使徒と同じ様に、そのATフィールドにより重力を相殺しつつ、回転する地球の遠心力で、
上昇する黒き月は国連軍の攻撃を物ともせず、地球の全てのしがらみから解き放たれようとしていた。

やがて、軌道上まで上昇した黒き月は、
そのまま進行方向にジオフロントの上部を向け、
発生させた擬似重力場に向って落ち込む形で1Gの重力を保ちながら
加速を始め、太陽系外周で亜光速に達した後、人類が所有する全ての観測網から消息を絶った。

そして、後に残されたのは、
第三新東京市跡に残されたマントル層まで届きそうな深さの巨大な穴と、
狐につままれた様に呆気に取られた、攻撃の主力を勤めた国連軍太平洋艦隊と、国連上層部だった。



後世の歴史家が、この使徒戦役の英雄達への国連の対処を酷評し。
その後世界中の非難と共に国連が解体され、当時の上層部が石持て追われた事を、
犬にも劣る陰謀家達の末路、自業自得と切って捨てるのは仕方が無い事かもしれない。








その頃、亜光速でプロキシマ・ケンタウリへの進む黒き月では…

「いい、この亜光速での飛行には十分意味が有るのよ、
時間が早く進むって事は、ネット中継衛星に仕掛けた超光速EPR通信で
ネット掲載の週刊誌が日に何度も新刊が読めるって事よ、もう読書家の夢の新天地なのよ?!」

アスカの笑いが怖かった。
そうか、やっぱりアスカ…ビブリオマニアだったんだ、シンジは思わず納得した。






At that point the story comes to an abruptEND...



-後書-


ケージ = エヴァの格納庫
ベークライト = 特殊な液体、硬化後はエヴァの動きをも止める
イロウル = 第11使徒、微生物状の使徒
オライオン方式 = 宇宙船に取り付けた強靭な遮蔽版の向こうで
 爆発を起こすことによってその反動で離陸、推進するシステム、
 原案では爆発には原子爆弾を使うという、かなり大胆無敵な推進法
   ※捕捉
  計画主任はフリーマン・ダイソン、恒星を覆うダイソン球で有名な方です。
  オライオン計画は1963年の部分的核実験禁止条約が結ばれるまで
  米国航空宇宙局で真剣に計画されていた核パルス推進法です。
  それを地上打ち上げにも使うと言う点が凶悪なのですが<苦笑
  ウィキペディアではオリオン計画またはオライオン計画で探せます
ジオフロント=黒き月 = 映画版ラストで巨大化レイの手の平の間に浮かんでいた黒い球体
F層 = 電離層の幾つか有る層の内の一つ
プロキシマ・ケンタウリ… = 地球にわりと近い恒星群
 プロキシマ・ケンタウリ:4.22光年、ロス 248:10.33光年、
 グルームブリッヂ34:11.64光年、バーナード星:5.94光年
超光速EPR通信 = 二つの量子の相関関係が時を置かず即座に他方に伝わる、
 アインシュタイン=ポドルスキー=ローゼンのパラドックスを応用した超光速通信。
ビブリオマニア = 無類の本好き(愛書狂)、R.O.D -READ OR DIEの読子・リードマンのような人の事


さあ最終回です、纏めすぎた感じも有りますが
このシリーズはさらりと幕を引くと言う宣言どおりと言う事で<自爆


ご注意!:新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。


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