Novel Top Page
もしアタシが幸せになれるとしたら
前編 失踪
by saiki 20021203
馬鹿シンジへ、華麗な天才少女のアタシが叫ぶ・・・
「馬鹿シンジ・・・ちょっとヒカリの家へ行ってくるわ」
「うん、アスカ・・・さよなら・・・」
思えばそれが、アタシがシンジを見た最後だった・・・
シンジの、帰って来なかったお父さんの起こした、サードインパクトから一年、
傾いた地軸も回復し、やっと日本にも四季と言う物が帰ってきた・・・
赤い海
から帰って来たミサトと加持さんが結婚して、
コンフォート17から出て行っても、アタシとあいつは惰性で同居し続けた・・・
そして、中学を卒業してアタシはあいつと同じ高校を受験した、
もちろんあいつが受かる高校なんて、ドイツで大学を卒業した、
天才美少女の自分に取っちゃあ、お茶の子だ・・・
そして、入学式を控えた心地よい春のある日・・・鈴原を追って、
別の高校を受験した、親友のヒカリの家へ、私は一人で遊びに出かけた・・・
シンジが、まさかあんな事を考えてるなんて夢にも思わずに・・・
久々に会ったヒカリと、少し話し疲れた私はそのまま彼女の家へ
泊まろうと、シンジに携帯を掛けた・・・でも、何度掛けてもつながらない・・・
頭を捻る私に、ヒカリは笑いながらこういった・・・
「碇君、綾波さんの所じゃないの?
アスカがあんまり虐めるから、きっと泣き付きに行ったのよ」
「レイのところ?、まあ一応兄弟だから大目に見ないとね・・・
でも、アタシがシンジを虐めてるなんて、ヒカリ本気で考えてんじゃないでしょうね」
アタシは、不服そうにヒカリを睨む・・・
ヒカリはクスリと笑ってお煎餅をかじった・・・
「だって、私はアスカから直接、碇君が好きだって聞いてるから
アスカが碇君へ何を言っても、ああまた、じゃれてんだなあって思うけど・・・
傍から見るとあれは虐めその物よ、私だって、知らなかったら、
シンジ君は、なんで笑って我慢できるのって思うもの・・・」
「はん、あんたはシンジの良い所を、知らないからそんな事を言うのよ、
シンジはね、マグマの中から火傷覚悟で、アタシを助けてくれたのよ・・・
それに二人で寝てても、アタシに手を出さないぐらい紳士だし・・・」
アタシはヒカリに、シンジの良い所を必死で説明しようとした・・・
だって、自分がほれた男の悪口を親友から聞きたくなかったから・・・
「そこまで言うんなら、もう告白したんでしょ・・・ア・ス・カ・・・
教えなさいよ・・・どんなセリフで告白したの・・・教えてよ・・・」
「そんな、恥ずかしい事出来るわけ無いでしょ!
日本じゃ、必ずプロポーズは男の方からするモノだって聞いたわよ!」
ヒカリの、冷たい目がアタシを見つめる・・・
どうしたのよ、アタシが何か変な事言った、ヒカリ?
「アスカ・・・まさか、碇君になにも言ってないんじゃあ・・・」
「シンジに言うわけ無いじゃない、そんな恥ずかしい事!」
ヒカリの目が大きく見開かれる・・・なに驚いてるのよ・・・
「アスカ、悪い事言わないわ、すぐ碇君に謝るか、プロポーズなさい・・・
急がないと、取り返しがつかない事になるわ、手遅れにならないうちに・・・」
「ちょっとヒカリ・・・突然どうしたのよ・・・」
ヒカリの声に、ただならぬ物を感じたアタシは、振るえる声で聞き返す・・・
アタシは、その時ひたいに冷や汗が流れるのを感じた・・・
「先週書店で、碇君が全国版ローカル路線時刻表ポケット版を、
買ってるのを偶然見たのよ・・・その表情が、何だか思いつめてたみたいで・・・」
「何言ってんのよヒカリ、私達チルドレンはネルフの保護が入ってるのよ、
危なくて、この第三新東京市から外へ出してもらえるはず無いじゃない・・・
一歩でも出ようとすると、諜報部あたりから、すぐ保護が入るわよ」
自分の説明で、ヒカリがホッとしたのが分かった・・・
そうよ、ミサトがほっとくはず無いじゃない・・・アタシは無理やり笑った・・・
その時アタシは、ヒカリの助言を軽く見ていた・・・馬鹿なアタシは気がつかなかった・・・
いや、気がつきたくなかったのだ・・・すでに何かをするのには、手遅れだった事を・・・
アタシはシンジが”行ってらっしゃい”でなく”さよなら”と言った意味を、分かっていなかったのだ・・・
・
・
・
アタシとヒカリは、そのまま早朝まで話し込んで昼ごろ目を覚ました・・・
お昼をヒカリにご馳走して貰ったアタシが、家へ帰ったのは夕方で・・・
アタシは呼び鈴を鳴らしたけど、シンジは出なかった・・・寝てるのか、買物で居ないのか・・・
「シンジのやつ、やっぱり馬鹿シンジだわ」
勝手な事をアタシは呟きながら、カードキーでドアを開ける・・・
中はシーンと静まり返っていた・・・
夕闇が迫り、薄暗い部屋を見て、アタシは不安に襲われる・・・
「シンジ、居ないの!・・・返事しなさいよ!」
アタシは恐る恐る、シンジの部屋のドアに手を掛ける・・・
とたんに怖くなった・・・取っ手をつかむ手に、ジワリと冷や汗が滲む・・・
もし、ヒカリが言った事が、ほんとになってたらどうしよう・・・
「シンジ・・・アタシよ!ここ開けるわよ!」
開けて、もし部屋の中に何も無かったらどうしよう・・・
アタシは思い切ってドアを開けた・・・そして、胸を撫で下ろした・・・
良かった、ある、シンジの鞄も服もS−DATも・・・
「良かった・・・でも、どこ行ったんだろうシンジの奴・・・」
アタシは分かっていなかった・・・お馬鹿でお子様なアタシには、
自分がどこまでシンジを追詰めていたか、全然理解していなかった・・・
その時のシンジには、鞄も服もS−DATも、コンフォート17の
暖かい自分のベッドも、自由と比べると一円の価値も無かったのだ・・・
「シンジの奴、レイの所へでも行ってんのかしらね・・・
早く帰ってくれないと、お腹が空いちゃうわ・・・早く帰ってきてよ・・・」
アタシはお菓子をかじりながら、時計を見つめる・・・遅い・・・
遅いよシンジ、ヒカリが言うから、せっかくこのアタシが恥をしのんで
あんたにプロポーズしてやろうって気になったのに・・・何時まで待たせる気なの・・・
「こんなに麗しいアタシが、待ってるのに、何してんのよ、シンジ!
察して早く帰ってきなさいよ!もう!一発、蹴りいれるわよ!」
帰ってこないシンジに苛立ってアタシは叫ぶ、そんな自分が、
どんなにシンジに恐れられ、嫌われてるか考えもせずに・・・
「あたしから掛けてやるんだから、今度こそ出なさいよ、シンジ」
苛立ったアタシは、シンジの携帯に掛ける・・・程なく
シンジの部屋から、携帯の呼び出し音が響く・・・遅まきながら
アタシは、昨日から携帯が掛からなかった真相を知る・・・
「相変わらず、ドジねシンジ・・・携帯を忘れてったなんて
これじゃあ役に立たないじゃない、ミサトに文句言われるわよ・・・」
この時、馬鹿なアタシは気がつかなかった・・・
携帯は忘れて行かれたのではなく、置いて行かれたのだと・・・
仕方なくアタシは、あいつの行きそうな所へ携帯を掛けた、
シンジは、鈴原のとこにも、相田のとこにも居なかった・・・
そしてアタシは行き詰った・・・あいつの知り合いは凄く少ない・・・
「何で居ないのよ、シンジ・・・あたしを飢死にさせる気なの?」
その時アタシはまだ軽く考えていた、頼る所は友達の家ぐらいだと・・・
そこで仕方なく、最後に居そうなところへ掛ける事にした・・・
シンジの妹になった、あのアルビノの蒼銀の髪の女、レイの所だ・・・
「レイ・・・シンジそっちに居ない・・・」
「・・・居ないわ・・・」
レイがストレートに答える・・・アタシは絶句した・・・
あんたの所以外に、シンジがどこに居るって言うのよ・・・
「ほんとに居ないんでしょうね、レイ、隠しても分かるんだから」
「・・・アスカ・・・何を言ってるの・・・」
アタシの顔から血の気がうせる・・・まさか、ヒカリの言うとおりに・・・
そんな・・・まさか・・・そんな・・・アタシの思考が、永久ループを描いて走り始める・・・
「・・・アスカ、お兄ちゃんに何があったの・・・」
「シンジが帰ってこないのよ・・・レイ、ほんとに知らないの」
アタシはわらにでもすがる様に・・・レイに問いかける・・・
携帯を握る手が、汗でぬれて気持ち悪い・・・アタシは、何時の間にか振るえていた・・・
「・・・知らないわ・・・プッ」
レイが予告も無く電話を切る・・・あの冷血女!アタシは再ダイヤルボタンを押した・・・
なんて事、話中でつながらない・・・何をしてるの、早く出なさいよ・・・レイ!・・・
「もう!この役立たず!」
アタシは感情のまま、レイへつながらない携帯を壁へ力任せに叩きつけた・・・
割れる音と共に蒼い火花が散り、携帯が沈黙する・・・あっ!しまった・・・
連絡手段を、感情に任せて自らの手で破壊したアタシは、途方にくれる・・・
「あ、あたし・・・何やってんだろう・・・」
いま思うと、完全にパニックにはまっていた・・・シンジの携帯や普通の
電話もあったのだが、なぜか頭に浮かばなかった・・・
そんな所へ、電話が鳴り私を現実に引き戻す・・・
「シンジ!シンジなの!」
『わたしよアスカ、シンジ君が行方不明だって?!』
アタシは、シンジからかと思って、喜び勇んで電話に飛びついた・・・
でも、かけて来たのはミサトだった・・・アタシは、失望にため息をつく・・・
「そうなのよ、シンジの奴まだ帰ってこないのよ・・・でも、なんで分かったのミサト」
『・・・そう・・・レイが教えてくれたの、いまチルドレン護衛班の車でレイが
そっちへ行くから、一緒にジオフロントまで来てくれる、誘拐かもしれないから・・・』
アタシは眉をひそめる・・・でも、あいつの携帯は部屋にあったわ・・・
「ミサト、シンジの携帯は部屋にあったわ・・・あいつ、忘れて出たのかしら?」
『・・・確かにへんね、アスカ、シンちゃんの部屋のゴミ箱の中を見てくれない?』
アタシは電話の子機を持ったまま、シンジの部屋に入る・・・
「何でアタシが、シンジのゴミ箱をあさらなきゃならないのよ・・・
あいつ、帰って来たら絶対に鉄拳制裁ね」
『アスカ・・・冗談言ってる場合じゃないのよ、シンちゃん
家出かも知れないし、誘拐の線も消えて無いのよ』
アタシは、家出と聞いて不機嫌になる・・・なんでシンジが家出しなきゃいけないのよ・・・
「家出ってミサト、シンジの持ち物は全部ここに在るわよ・・・S−DATまで残ってるわ・・・」
『もしそれで家出だったら、彼、
そこへ帰って来る気は無いわね・・・それより、アスカ、何か見つかった?』
ああ、ミサトがうるさい、いいや、シンジの部屋だからぶちまけちゃえ・・・え、これなんだろう・・・
「ミサト、あんた最近通信販売で
鬘
買った?」
『そんな覚えは無いわよ』
アタシは、丸められていた宅配伝票の皺を取りながら広げる・・・
日付けは最近の物だ、品名欄にヘアピースとある・・・
「まさか・・・シンジの奴・・・」
『なんて事、シンちゃん女装までして・・・』
アタシの脳裏に、あの空母の上での戦いが蘇る・・・
あの真紅のプラグスーツを着るのを、あんなに嫌がってたアイツが・・・
アタシの頬を涙が伝う・・・シンジ、そんなにここが嫌だったの・・・
『マヤ、アタシ宛の通信販売をマギでチェックして、そう、ヘアピースの
種類を限定するの、それが終わったらシンちゃんのデータにそれを付加して、
それで、昨日からのマギの全監視データから検索を掛けるのよ』
耳に押し付けた電話からは、ミサトがマヤへ指示を与えるのが聞こえる・・・
アタシは自分の部屋へ急ぐ・・・アイツが女物の服を入手するとすれば、
ここからしか考えられない・・・
「ミサト、アタシの所から白のワンピースと、紺のフレアースカートが無くなってる」
『分かったわアスカ・・・とりあえず電話を切るわ、レイとこっちへ来るのよ』
アタシは自分のベッドへ体を投げ出し、俯けのまま嗚咽を漏らす・・・
シンジ、アタシを置いてどこ行っちゃったのよ・・・置いてかないでよぉ・・・
「シンジ・・・アタシと居るのがそんなに嫌だったの・・・」
昨日、ヒカリが言った通りになっちゃった・・・シンジが居なくなったのはアタシのせい?・・・
アタシがアイツに告白しなかったから・・・アタシが悪い・・・アタシが・・・
ヒカリの言葉が蘇る”傍から見るとあれは虐めその物よ”・・・そうだ・・・
アタシが悪いんだ、素直じゃない、このアタシが・・・シンジを追詰めた・・・
「シンジ・・・ごめんよっ・・・シンジ・・・アタシを許してょ・・・」
呼び鈴が鳴る・・・泣き伏せるアタシは、微かな希望を抱いて振るえる足で玄関へ向かう・・・
アタシはドアの向こうに、シンジが居てくれることを神に祈った・・・
しかし現実は・・・黒服をお供にした、アイツの自称妹のレイがアタシを冷たい目で睨んでいた・・・
「・・・アスカ、ミサトさんが呼んでるわ・・・」
「レイ、言われなくってもわかってるわよ!」
アタシは、まるで屠殺場に運ばれる家畜のようだ・・・震えが止まらない・・・
護衛班の車に乗り込んだアタシに、レイの容赦の無い零下の視線が突き刺さる・・・
「レイ・・・シンジから貴方へ相談はあった?」
「・・・私には、お兄ちゃんは何も言ってくれなかったわ・・・」
終始無言のまま、私達を乗せた車はネルフへと向かう・・・
季節は春へ向かっているのに、
黒塗りの車
の中は氷点下の真冬のようだった・・・
ネルフへ着いた私達は、作戦室でマヤから分かった事を教えてもらった・・・
シンジはデパートで諜報部を女装して撒き、丈夫なトランクを買うと、
その足で、銀行から全ての預金を下ろして、リニアとローカル線を乗り継いで
完全に姿をくらませた・・・加持さんが唸ったぐらい見事に・・・
すぐに発覚しなかったのは、諜報部がシンジをロストしたのを隠していたから・・・
彼らは、中学生が自分達を煙に巻いたことが、とても信じられなかったらしいわ・・・
そして・・・アタシのシンジはどこにも居ない・・・アタシは、俯いたまま何も言えなかった・・・
アタシの横に距離をおいて座るレイは・・・無言で冷たい視線をテーブルの一点に向けている・・・
マヤは、宿泊用にツインルームを用意したと告げ、カードキーをテーブルに置くと、
私達を囲む、どんよりと暗い空気に、恐れをなして早々と立ち去る・・・
薄暗い部屋に、私達二人が取り残された・・・
アタシは、ついに沈黙に耐えれなくなってレイへ口を開く・・・
「なんで、アタシを責めないのよ・・・レイ」
レイの目が、テーブルの表面からアタシへとゆっくり移動する・・・
アタシは、その絶対零度の視線を浴びて、ますます震えが激しくなる・・・
さあ、アタシを責めてよレイ、アタシにはそれだけの値打ちも無いの・・・
「・・・アスカ・・・貴方には失望したわ・・・」
レイの赤い眼がアタシの眼を覗き込む・・・アタシの歯ががちがちとなる・・・
「・・・人で無かった私より、人としての経験のある貴方なら・・・
お兄ちゃんを、幸せにしてくれると信じてたのに・・・
そう、信じて貴方にお兄ちゃんを譲ったのに・・・
貴方は人では無いの・・・それとも、私以下の人なの・・・」
「ひいいっ・・・」
アタシは、レイの眼光に悲鳴を上げて後ずさる・・・
レイの顔からは一切の表情が消え、赤い眼からは一筋の涙が床へと滴る・・・
「・・・ア・ス・カ・・・私に・・・答えて・・・」
「ご・・・ご・・ごめんなさい・・・・」
うなだれて・・・がたがた振るえるアタシは、堰を切ったように、
小さな声で繰り返し謝り続ける・・・そんなアタシの首に、
レイの冷たく細い指が絡む・・・ゆっくりと締まって行く首・・・
「・・・こんなことなら・・・こんなことなら・・・」
アタシは透き通った笑みを浮べ・・・自分の首を締めるレイに
もっと締めてと目で促す・・・アタシはきっとあの時、ママに
縊られて死んでしまえば良かったんだ・・・アタシはレイが仕上げを
してくれるのを大人しくじっと待ち続ける・・・死を待ちあびて・・・
でも、アタシがレイに与えられたのは熱い抱擁・・・
「・・・貴方は生きて地獄を味わうの・・・簡単に死なせてなるものですか・・・
私と兄さんを、貴方がそのプライドと傲慢さで傷つけた、一生悔いるがいいわ・・・」
レイの口から漏れたのは、アタシへの残酷なメッセージ・・・
レイとアタシは、お互いに抱き合いながら泣き続けた・・・涙が枯れるまで・・・
そして朝になると、どうやってたどり着いたのか、
私達はツインルームの一つベッドの中で、抱き合ったまま目覚めた・・・
そして、アタシとレイは冬月総司令代理から、シンジに関しての緘口令が出たのを知った・・・
マヤはこれからも、マギでシンジを探し続けると言ってはくれたけど・・・
もう、ネルフの誰も大っぴらに、彼を探す事は出来ない・・・
アタシは何も言わずに・・・ゲートの前でレイと分かれた・・・
もう、誰とも口を利きたく無い・・・
アタシは、そんな雰囲気が、レイから立ち昇っているような気がした・・・
一人寂しく、コンフォート17に帰ったアタシは、シンジの部屋に行き
アイツのベッドに一人倒れ込んで泣いた・・・
「シンジ・・・帰ってきてよ・・・寂しいよ・・・」
ただ、アタシはアイツがここに居ないのが悲しかった・・・
そして、アイツの匂いに包まれたまま寝てしまった・・・
目が覚めると、もう辺りは闇に包まれていた、そしてアタシは知った・・・
誰も居ないここがどんなに寂しいかを・・・アタシは怖くなって、
家中の電気を付けた、トイレも、お風呂も、玄関も・・・それでも
寂しさが消えなくて、テレビを付けて音を大きくした・・・
シンジのベッドの上で、アタシは体育座りで振るえ続ける・・・
アイツが居ない・・・こんな所で、自分は何をしてるんだろう・・・
一瞬アタシは、ドイツへ帰る事を考えているのに気がついた・・・
でも、すぐその考えを捨てた・・・アイツに会って、一言でも謝まらないと
自分は一生、今のまま後悔して暮らす事になるだろう・・・
アタシの彷徨う視線が、昨日床にぶちまけたゴミ箱の中身に引き寄せられる・・・
ここはアイツの家だ・・・ちゃんと片付けて置かないと、アイツが帰って
こなくなるかもしれない・・・ふと、そんな考えが自分の中に芽生える・・・
「ちゃんと片付けないと・・アイツ、帰ってこなくなるかも知れないわね・・・」
アタシは真夜中にもかかわらず、何かに取り付かれたように、丹念に舐めるような掃除を始める・・・
何時からだろう、シンジに掃除を押し付けたのは・・・
アタシの心が、針で挿されたように痛む・・・自分は、何もしようとはしなかった・・・
掃除機を掛け、雑巾で何度も何度も床を拭く・・・バケツの水も、何度となく取り替えた・・・
そして、はっと気がつくと、窓から朝日が射し込んでいた・・・
使い込まれていない、あちこちの筋肉が痛む・・・
アタシは、ごめんねと呟きながら、シンジのベッドへもぐりこむ、
ここが、いまの自分が一番落ち着く場所なのだ・・・
すっかり寝てしまった・・・アタシは眠気眼で・・・
なんでシンジが、起こしてくれなかったんだろうと辺りを見回す・・・
そして気がついた、自分はシンジのベッドで寝てることを・・・
そして、かっての同居人が、自分に愛想をつかせて、姿をくらました事を・・・
シンジはアタシもレイも友人も、そしてネルフの身勝手な大人達も、誰も信じていなかったんだ・・・
でも一番身勝手だったのは多分このアタシだ、そしてアイツを追詰めたのも、最後の止めをさしたのも・・・
朝日が昇ってる・・・自分にどんな事があっても、きっと朝日は昇るんだろうなと内心呆れた・・・
あれから一日が経っていた・・・アタシは、まだ一度も通った事の無い高校へ出かける事にする・・・
シンジが居ない高校は、用無しだ・・・事務員が目を白黒してたけど、アタシの退学届けは受理された・・・
その帰りに、インスタント食品や冷凍パックを大量に買い込む・・・あまり家から出たく無い・・・
だって、何時シンジが帰ってくるか分からないから・・アイツに、ちょっとでも良いから謝る機会が欲しい・・・
アタシは荷物を大量に抱えて帰宅した・・・
思わず呼び鈴を押し、家に誰も居ないのを思い出して、自嘲する・・・
「・・・ただいま・・・」
誰も居ない部屋に、自分の声がむなしく響いた・・・
心の底からアタシはシンジを求めてる・・・
カードキーでドアを開けた時も、無意識にシンジを求め辺りを見回してる・・・
2日ぶりの食事だけど、あまり食欲がわかない・・・
食器を片付けていると、流しに挿された包丁が自分の目に止まる・・・
アタシは、それを手に取った・・・きらきら光る刃先に、目が吸い寄せられる・・・
何だかとても綺麗だ、アタシは妖艶な目つきでそれを眺める・・・
そして、頭を振って、それを振るえる手で元の場所に返した・・・
駄目だ、レイの手に掛かって逝けるのなら、アイツがアタシの思いをシンジへ伝えてくれるだろう・・・
でも、たとえここで手首を切っても、アタシはシンジに一言でも謝らないと成仏できそうにも無い・・・
「アタシはシンジに、まだ何にも言って無いんだ・・・」
アタシは歯を食いしばって涙を流す・・・この思いをシンジに伝えたい・・・
アイツ、いまどこに居るんだろう・・・ふと、気がつくと、辺りは暗くなっていた・・・
To Be Continued...
-後書-
前回のイタ物三部作でアスカを虐め足りなかったわけでは在りません。
LAS帝国に掲載されたPariさんの「適応の罪 忘却の代償」を読んでああ、こういう切り口も在るかと暴走したのがこのお話です。
本来短編のはずでしたが少し暴走してます、後編は近日公開予定です、イタ物フアンの方々お楽しみに。
この話ではサードインパクトをあえて都合よく定義してます。
ゼーレのインパクトはしっぱいし、ゲンドウのインパクトが都合の良い効果を起こすべく起こっていることになっています。
だからコンフォート17も、ヒカリの家も、レイの家も無事ですし、ミサトも、なぜか加持も、マヤも、リツコも元気です。
ご注意!:新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。
Novel Top Page
Next