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もしアタシが幸せになれるとしたら
中篇 焦燥

by saiki 20021204



アイツが失踪して(あれから) 、一月が過ぎた・・・あい変わらず、シンジは帰ってこない・・・
マヤも最初の頃は経過をいろいろ教えてくれたが・・・最近は音沙汰が無い・・・
アタシは、きょうも家を隅から隅まで掃除する・・・何時アイツが帰って来ても良い様に・・・

そういえば、いまアタシはウェブショッピングにハマっている・・・
ウェブなら何でも手に入る、おかげで一歩も外へ出なくても良い・・・

アタシが出かけてる間に、シンジが帰ってくるかもしれないから、
外へ出かけずに済むのは、自分にとってとても良いことだ・・・

ウェブでアタシは、食べ物の他に電気製品やコンロまで買った・・・
カセットコンロのおかげで、自分の部屋で食事が出来るので大変嬉しい・・・
そのぶんキッチンが綺麗に保てるから・・・それに小型テレビも、
アタシは大変気に入っている、シンジの所から拝借した毛布に包まって
夜、自分の部屋でテレビを見てると凄く暖かくて落ち着く・・・

なんでアタシは、今までリビングでテレビなんか見てたんだろう・・・
なんでアタシは、今までキッチンで食事してたんだろう・・・
あんなに寒いのに・・・ああ、そうかあの時はシンジが居たから・・・

アタシはだんだん、風呂を沸かすのが面倒になってきて、シャワーで
済ますようになった・・・そんな時アタシは、バスタオルで体を拭うと、
全裸のまま自分の部屋に行く・・・アタシの裸を誰も見てくれないから・・・

アタシは夜、ショーツ一枚でシンジの毛布に包まって寝るようになった・・・
ほんとは、アイツの部屋のベッドで寝たいけど、アイツが帰ってきた時
ベッドをちゃんとしておかないといけないから・・・

最近アタシは、自分の部屋からほとんど出て無いのに気がついた・・・
出る時は出来るだけ早く戻るようにしてるみたいだ・・・リビングも、
キッチンも、バスも、トイレも、シンジの部屋も・・・何故なんだろう・・・
ああ、寒いんだ・・・怖いし寂しいし・・・何だか自分の部屋以外が
色彩を欠いて味気なく感じる・・・そう、アイツが居ないから・・・

アタシは今晩も、枕を涙で濡らしながら、搾り出すようにアイツを呼んで見る・・・
呼び続ければ・・・何時かアイツが、帰ってくるような気がして・・・

「シンジ・・・寂しいよ・・・シンジ・・・帰ってきてよ・・・」

   ・
   ・
   ・

外を見ると今日も雨が振っている・・・
ゴミ捨てぐらいしか出ないから関係無いけど・・・
何だか、部屋の中もじめじめしてうっとおしい・・・
最近は、ネルフ関係者とは全然会わないし、向こうからの連絡も無い・・・

きょうの掃除はもう終わってしまった・・・
慣れると、掃除もだんだん時間がかからなくなってしまう・・・
アタシは、窓の外を雨の雫が伝うのを何時までも眺める・・・

この雨の下、シンジはどうしてるんだろう・・・風邪を引いて無いと、良いんだけど・・・

何だか最近、アタシは食欲が無い・・・
ウェブで買ったカセットコンロもだんだん使わなくなった・・・

何も、食べたく無い・・・窓を見ると、朱金のぼさぼさ頭で、頬のこけた少女が、
ガラスに写り、自分を無気力な目で眺める・・・あんた、だれ・・・
何でそこに居るの・・・アタシはその少女に呟く・・・

このままで、何時までもここへ座っていれれば良いのに・・・・
でも、アタシのわずかに残った理性が囁く、何か食べないといけないと・・・

アタシは、ベッドの下に押し込んだ箱の中から、栄養食品のカロリーバーを取り出し
付属のジャムのような物を無視して、面倒そうに包装をはがしてそのままかじる・・・

アタシは何も考えずに噛み続ける・・・味なんてどうでも良い・・・
シンジが帰るまで、自分はこの家を維持出来さえすればいいんだ・・・

気がつくとまた朝になっていた・・・アタシは何時の間に寝たんだろう・・・
枕が涙で湿っていた・・・そういえば、アタシは久しぶりに夢を見たような気がする・・・

ああ、そうだ・・・シンジが出てくる夢だった、アイツが帰って来てアタシの言い訳を、
じっくり聞いてくれるんだ・・・そして、シンジはドアを指差して、出て行けっていってくれたっけ・・・

アタシは、束の間の夢でだけど、シンジと遭えて嬉しかった・・・それに、叱って貰えたし・・・
そういえば、うん、夢の中で自分の荷物がやたら多くて、家から出てくのが大変だった様な気がする・・・
これって正夢っていうのかしら・・・確かに、アタシの荷物は多すぎる・・・

何時ものように、アタシは家の掃除を済ませた後、自分の部屋を片付け始めた・・・
ああ、なんだ・・・要らない物ばかりじゃない、ショ−ツ一枚で寝るからパジャマも要らない、
家から出ないから外出着もこんなにいらないわ、下着も白があれば良いし、学生服もいらないわ、
帽子も、水着も、アクセサリーも、教科書も、本や、ファッション雑誌はパソコンが在れば要らないし・・・

「アタシ・・・なんでこんなに物を持ってるんだろう・・・必要ないのに・・・」

なんだ、アタシがほんとに要る物は、スポーツバッグ一つで納まるじゃない・・・
アタシは自分の、物欲の深さを思い知った・・・そういえば、シンジも持っていたのは
お金だけだったわね・・・アイツは、物だけじゃなく人との絆さえ切って行った・・・

思考の海に沈むアタシを、玄関の呼び鈴の音が呼び覚ます・・・
瞬時に覚醒したアタシは、俊足で玄関に走った!・・・帰ってきたのシンジ!?
アタシはドアを、相手を確かめさえせずに開ける・・・

「なんだ・・・ヒカリか・・・」
「ひどいわアスカ、せっかく鈴原をふって遊びに来たのに・・・」

玄関先にいたのは、ケーキを下げたヒカリだった・・・
アタシはがっくりと肩を落とす・・・シンジじゃなかった・・・
そのままアタシは、ヒカリを置いたままで中に引っ込む・・・

「お邪魔するわよアスカ・・・」

ヒカリは怪訝そうな表情で、勝手にアタシの後に続いて玄関から上がった・・・
アタシが部屋へ入ると、彼女も一緒に入り座卓の前に座る・・・

「ヒカリ・・・紅茶で良い・・・」
「うん・・・」

ヒカリの前から席を立ったアタシは、
皿を二枚と角砂糖、そして紅茶を入れたカップをお盆に載せてキッチンから帰ってくる・・・

「アスカ・・・顔色が悪いわ・・・大丈夫なの・・・」
「アタシは大丈夫よ・・・」

静寂が辺りを支配する・・・それを破るのは、角砂糖を入れ紅茶を掻きませるスプーンの音だけだ・・・
彼女はアタシの親友だし・・・多分知る権利がある・・・

「ごめんねヒカリ・・・アタシ、貴方の忠告を生かせなかったの・・・」
「・・・アスカ・・・」

ヒカリが絶句する・・・ごめんヒカリ、全部アタシが悪いんだ・・・

「アタシがヒカリの家へ泊まった日に、シンジ家出したんだ・・・そして、いまも見つかって無いのよ」
「でも・・・碇君が居ないのに、誰がこんなに綺麗に部屋を掃除してるの」

そうねヒカリ・・・アタシはシンジに掃除を全部押し付けてたから・・・

「アタシが掃除してるわ・・・
だって、シンジが帰ってきた時、汚れてたらアタシは、あわす顔が無いから・・・」
「アスカが・・・してるって・・・」

ヒカリが、信じられないって顔で、アタシをまじまじと覗き込む・・・

「じゃあ、何でアスカの部屋はこんなに雑然としてるの・・・」
「ああ、いま要らない物を片付けてるから・・・」

アタシは楽しそうに笑った・・・これを捨てれば、アタシは身軽になれるから・・・

「ヒカリが要る物があったら、遠慮せず持って行ってね」
「ちょっとアスカ、これ貴方が大事にしてたブローチ、ネックレスも在るじゃない」

ヒカリが慌ててアタシに詰め寄る・・・あげるわヒカリ、全部持って行って・・・

「うん、要らない・・・ヒカリ、見ないから、このテレビも持って行って良いわよ」

ヒカリが、アタシの肩を捕まえて揺さぶる・・・ヒカリ、アンタなんで泣いてるのよ・・・

「どうしちゃったのよアスカ・・・しっかりしてよ」
「何言ってるのヒカリ、アタシはどうもしないわよ・・・」

ヒカリが涙を溜めた目で、アタシの目を覗き込む・・・何を心配してるのヒカリ・・・

「だって、アスカがあんなに大切にしてた物まで捨てちゃうなんで変よ」
「ああ、わけが在るのよ・・・昨日とても良い夢を見たの・・・」

アタシはヒカリに、笑いながら昨日の夢を教える・・・

「久しぶりにシンジが出てくる夢を見たの、アイツが帰って来てアタシの言い訳をちゃんと聞いてくれるの、
そして、アイツはドアを指差して、出て行けってアタシに男らしく叫ぶのよ・・・アタシ感動しちゃって・・・
でさ、そのままあっさり手をふって、笑いながら出て行ければ、良い夢で終われるんだけど・・・
夢の中のアタシの荷物がやたら多くって・・・アタシ押しつぶされちゃうの・・・ククッ笑えるでしょヒカリ・・・」

あれ・・・ヒカリ、何睨んでるの・・・アタシなんか変な事言った?

「それで、全部捨てる事にしたの・・・アスカ」
「あ、分かってくれたのねヒカリ・・・だって、まさかと思うけど正夢だったら困るじゃない・・・
でも、良くこんなに要らない物に囲まれて、生活出来てたものね・・・我ながら呆れるわ・・・」

ヒカリがアタシを抱きしめる・・・ちょっとどうしたのヒカリ・・・

「アスカ・・・もういい、何も言わないで・・・碇君がいなくなって、アスカ寂しかったんだね・・・
でも、ちゃんと謝れば碇君許してくれるから、そのためにも、ちゃんと髪の手入れをして・・・
もう少し栄養のある物食べなきゃ・・・美しさは女の武器よ、アスカが綺麗なら碇君も笑って許してくれるわ」

ごめんヒカリ・・・アイツは、あんなに綺麗なレイもふったんだよ・・・
自分ごときで立ち打ちできるはずが無いじゃない・・・でもありがとう・・・

少し落ち着いてから、ヒカリの持って来たケーキを食べる、
何だか涙の味がする様な気がして、ちょっとしょっぱく感じた・・・

その夜、ヒカリが部屋へ泊まってくれる・・・
今晩だけは、アタシも泣かずに寝るかもしれない・・・

   ・
   ・
   ・

アタシの吐く息が白い・・・窓の外は一面の雪景色だ・・・
あれから三回目の冬を向かえる・・・シンジはまだ帰ってこない・・・
そして、自分は・・・まだここに居る・・・

アタシの背がだんだん伸びて、古い服が入らなくなって来ている・・・
シンジも、あれから背が伸びたのだろうか・・・
きっとアイツも、男らしくなっているに違いない・・・

そういえばアタシは、偶然シンジの料理レシビを見つけた・・・
いま、アイツのレシビを汚してはいけないので、手書きで書き写している・・・
レシビを研究して、いつかアイツが帰ってきたら、自分の手でぜひ食べさせたくて
料理の練習を始めた・・・でも先は長そうだ、アタシは良く包丁で指を傷つける・・・

携帯が鳴っている・・・アタシは毛布に包まって、朝のまどろみに揺らいでいたけど・・・
瞬時に飛び起きた・・・携帯をつかんで、振るえる指で通話ボタンを押す・・・

『アスカ〜お久しぶり、ア・タ・シ・・そうミサトよ〜』
「何の用なのミサト、用が無いのなら切るわよ」

アタシはいらいらした、シンジならともかく何年もほって置いて、ミサトは何を考えてるのだろう・・・

『政府がね、政権が変わって、だいぶ緩くなったのよ、
だからあんた達チルドレンも、第3新東京市外に出れるようになったの・・・』
「そう、良かったわねミサト」

アタシの声は、窓の外に積もる雪のように冷たい・・・
こうしている間にも、シンジが携帯を掛けてくるかも、しれないのに・・・

『今度、ネルフの有志で、北海道へスキーに行くのよ、アスカも来ない・・・』
「ミサト、アタシはここでシンジを待つから・・・誘わなくても良いわ」

アタシはだんだん、ミサトののんびりした会話に腹がたってきた・・・

『あんたも付き合い悪いわね、レイもーーープッ』

アタシは携帯を切った・・・これ以上、ミサトの声を聞いてると、
あの晩みたいに、壁へ叩き付けてしまいかねない・・・

また携帯が鳴る・・・シンジ・・・じゃ無いわね・・・
でも、否定できない私は通話ボタンを押した・・・

『アスカなんで切るのよ!レイのーーープッ』

ミサトの声はもう、うんざりだ・・・アタシは携帯に指を添えて待った・・・
また携帯が鳴る・・・いいかげんにしてミサト・・・私は通話ボタンを押した・・・

『アスーーープッ』

もう嫌だミサトなんか大嫌いだ・・・
今度は玄関の呼び鈴が鳴らされる・・・シンジ?・・・いやまさか・・・

『アスカ、ちょっと大事な用事が在るのよ、レ』
「間に合ってますーープッ」

アタシがあっさりインターホンを切ると、ミサトはドアを蹴り始めた・・・
ミサト、貴方がそこまでするなら、自分にも考えがあるわ・・・

アタシは指紋ロックを開けてそれを取り出すと、安全装置を外し、
スライドを引いて薬室に一発目を送り込む・・・そしてドアを開けた・・・

「アスカ、聞いてレイの・・・ちょっとアスカ・・・安全装置が外れてるわよ・・・」
「グーテン・モルゲン、ミサト・・・ええ、ちゃんと薬室に、一発目も送り込んであるわよ」

アタシはテロ対策用にと渡された、自動拳銃をミサトにポイントした・・・
ミサトはアタシの蒼い目を見つめて後ずさる・・・

「ここまでして、冗談は許さないわよミサト・・・アタシを、納得させてくれるわよね・・・」

ミサトがつばを飲み込んで、両手を上げた・・・今度のミサトは、まじめな目だ・・・

「レイが大変なのよアスカ、彼女の家、明日取壊しらしいのだけど、全然連絡がつかないの・・・」
「最初からそう言えばいいのよ・・・で、どうしたいのミサト・・・」

アタシは銃を下げ安全装置を掛ける・・・レイの事ならちゃんと聞かないと・・・
過程はどうあれ、アイツはれっきとしたシンジの妹なんだから・・・

「とりあえずレイの荷物を、前アタシが住んでた部屋へ入れて、保管してほしいの・・・
それと、もし良かったら、レイも貴方と一緒に住まわせてくれないかしら・・・」
「良いも何もここはシンジの家よ、アイツの妹が住むのを、居候のアタシが断るれるはず無いじゃない」

ミサトは明らかにほっとした顔をすると・・・上げてた手を下ろした・・・

「それと貴方に、レイの引越しを手伝ってほしいのよ」
「ネルフには人が居ないの、何でアタシなのよミサト」

アタシはここを動きたく無い・・・だって、何時シンジが帰って来るかも判らないから・・・

「今のネルフは、昔の頃と違うわ、エヴァも無いし私も閑職なの、
いまの私は、人を動かす立場にないのよ・・・判ってくれるアスカ」
「じゃあ、いまのミサトは、個人の善意で動いてると取って良いのね・・・」

シンジ・・・レイのために、少しの間ここを空けるわ・・・許してねシンジ・・・

「ええ、そう取ってくれると嬉しいわ・・・」
「判ったわ、少し時間をくれる・・・」

アタシは急いで、紙へシンジ宛に、自分の携帯の番号と、謝罪させてほしいとメッセージを書き
Tシャツの上に服を羽織って、セーターを着込む・・・ちょっと寒いけど、これで何とかなるだろう・・・

外へ出ると、ミサトが興味深げに見守る中、アタシはさっきの紙を荷造りテープでドアへ貼り付ける・・・
シンジが、帰ってきてこれを読んでくれれば良いんだけど・・・

「シンジ君見つかれば良いね・・・」
「さあ行きましょうミサト」

アタシはミサトの呟きを無視して駐車場へ急ぐ、自分はここへ一刻も早く戻ってこないといけないから・・・
もしここが、火事で無くなったとしても、アタシはダンボールの中で暮らしても、ここに居続けるだろう・・・
だって、シンジと自分の接点はもうここしか残って無いから・・・ここがアタシの最後の希望・・・

ミサトの車はネルフから借り出したバンだった、ミサトがカーナビをセットする・・・

「アスカそのままじゃ寒いでしょう、後ろのジャケットを貸して上げるから羽織ったら?」
「じゃあ、貸してもらうわねミサト」

私はネルフカラーのジャケットに袖を通した、サイズはちょっと大きいけど支障ない。

「アスカ、あの赤いジャケットはどうしたの?」
「家から出ないから、不要になったんで捨てたわ」

アタシは肩をすくめて見せる・・・ミサトは、何かアタシに聞きたそうだったけど、やめたみたい・・・
何を聞きたかったのミサト?・・・アタシ達の車はだんだん寂れた場所へ向かう・・・

「ミサト、道はこっちで良いの」
「カーナビはこっちへ進めって言ってるわ、
私が方向音痴だからって・・・カーナビ見ながらどうやって迷えるのよ」

アタシは平然と言いきってやった・・・

「だって、ミサトだから・・・」
「アスカ、なにいうのよ・・・とっ、ちょっと、レイはこんなとこへ住んでるの・・・」

どこまでも続く、雪の積もった平地に、一棟だけ古びたマンションが残っていた・・・
ここまで印象的だと、何だか浮世離れしている・・・でも、私達の驚きは、それで終わりではなかった・・・

「これじゃあ、レイは取り壊しの通知、見て無いわね・・・」

レイの家の扉のポストからは、ダイレクトメールやチラシが溢れていた・・・
そして、ねんの入った事に、それを無頓着に踏んで行った後もある・・・レイ、貴方ミサトと良い勝負よ・・・

「ちょっと待ってね、いま鍵を出すから・・・」
「必要ないわミサト・・・開いてるもの・・・」

あのミサトが呆れた・・・レイの家のドアには鍵が掛かっていなかった・・・
アタシ達はおっかなびっくり、中へと入って行く・・・

中は思ったよりまともだった、薄いブルーのカーペットが引かれた室内には、
幾つか人形が並び、クッションが転がっている、でも服とかは異様に少なかった・・・

「楽で良いんだけど・・・女の子の部屋とは、とても思え無いわね・・・」
「アタシはシンジに聞いてたから・・・昔はもっと酷かったって・・・
凄く寂しくて、何も無かったって言ってたわよ、人の住む所じゃ無いとも言ってたわ・・・
アンタ上司なのに、一度もレイの所へ行かなかったの・・・何してたんだか・・・」

アタシはミサトを睨み付けた・・・前から思ってたけど、こいつの下で働くと、とてつもなく不幸だ・・・

「上司失格ねミサト、さあ、さっさと働く」
「そんな〜〜〜アスカ」

アタシ達は、少ない荷物を瞬く間に運び終わった・・・ミサトが車を出す・・・

「自分の家をほっておいて、レイなにやってるのかしら・・・」
「どうやらチルドレンの禁足の取れた日に、リツコの所へ行って、相談してたのが原因だと思うけど・・・」

アタシはミサトの顔を覗き込んだ・・・

「何でリツコに聞かないのよ・・・あんた達、親友でしょ?」
「それがね、サードインパクトからこっちあんまり付き合いが無いの」

アタシは、ため息と共にシートに背中を預けた・・・

「アタシとヒカリと同じね・・・最近は逢わないもの」
「人は年月と共に出会い、分かれ、そして散って行く・・・ああ我が人生の永久に美酒を・・・」

ミサトが気取った風体で、歌うように口上を述べる・・・アンタ、お酒飲んで無いでしょうね・・・

「それ何よ・・・どっかで、聞いたような口上だけど・・・」
「アタシのオリジナル・・へへーっ、ちょっとビックリしたでしょ」

ああ、ちょっとでもビックリしたのが馬鹿みたい・・・やっぱりミサトは、こういうキャラクターなのね・・・

レイの荷物を、ミサトが住んでいた部屋へ運ぶのは、簡単に済んだ・・・
張り紙は、残念だけど読まれて無い見たい・・・シンジ、どこへ行ったんだろう・・・

「ミサト、アタシの部屋で待ってて、いま紅茶を入れるから・・・」
「アスカの部屋へ入るなんて久しぶりね、中で紅茶待ってるわ」

ミサトは、アタシが紅茶をお盆に載せて部屋に入ると、きつい目つきで睨んだ・・・

「どうしたのミサト?・・・なんで、アタシを睨むのよ?」
「ア、アスカ・・・この部屋は何なのよ・・・」

アタシは自分の部屋を見わたす・・・別に何時もの部屋じゃない・・・

「なんなのって・・・意味が分からないわ、それより紅茶が冷めるわよ」
「アスカの部屋は、前はこんなに殺風景じゃなかったじゃない・・・
これじゃあ、レイの部屋の方が幾分かましだわ!・・・」

ああ、そうかも知れないわね・・・でも、ちゃんとこれには意味が在るんだし・・・

「ああ、要らないから捨てたの・・・綺麗に片付いてるでしょ」

なに、めくじら立ててんのよミサト・・・アタシは座ると紅茶に砂糖を入れた・・・

「それに・・・ちゃんと、意味が有っての事だから・・・」
「ど・・どんな意味が在るのよ・・・」

ミサトもアタシと同じように座って・・・紅茶を一口、口に含む・・・

「シンジが帰って来たら、何時でもここから出て行ける様にしてるだけだけど・・・」
「ア、アスカ、何でシンジ君が帰ったら、アンタが出て行かなきゃならないのよ」

だって仕方ないじゃない・・・アタシはシンジに嫌われてるんだから・・・

「ああ、話したのはヒカリだけだったかしら・・・何年か前、アタシは良い夢を見たの
久しぶりにシンジが出てくる夢よ、アイツが帰って来てアタシの弁解に耳を傾けてくれるの、
そして、アイツはアタシに、出て行けって男らしく叫ぶのよ・・・もう、アタシ感動しちゃって・・・
でもその後がいけなかったの、夢の中のアタシの荷物がやたら多くってね・・・
それにアタシは押しつぶされちゃうの・・・ククッ笑えるでしょミサト・・・」

ミサトの顔が青くなる・・・ミサト、体の調子が悪いの?

「アスカ!それのどこが良い夢なのよ・・・まさか、そのせいで物を捨てたの」
「だって良い夢じゃない・・・シンジが帰ってくるのよ、それだけでも涙が出るぐらい
嬉しいのに、ちゃんとアタシの弁解聞いてくれるし、おまけに男らしい声で、
アタシを断罪までしてくれるのよ、喜ばずにはいられないわよ・・・」

紅茶のカップを持つ、ミサトの手が振るえる・・・
なに、人を化け物でも見るような目で見るのよ、やめてよミサト・・・

「アスカ・・・あなた何処か変だわよ・・・」
「そうなの?・・・アタシは全然構わないけど・・・
むしろ人生に、ちゃんとした目標が在るし、いまアタシは幸せだわ」

真っすぐ見つめ返す、アタシの蒼い目からミサトは目をそらした・・・
そしてカップを置くと、ジャケットを羽織って慌しく帰り支度を始める・・・

「アスカ、そのジャケットはあげるわ、要らないなら捨てても良い、
でも、そのまま持って使ってくれたら私は嬉しいわ・・・じゃあ、私は仕事があるから」
「ミサト、ダンケ」

まるで逃げるように、ミサトは慌しく席を立つ・・・紅茶ぐらい飲んでけば良いのに・・・
そうだ、レイの件で、今日はまだ部屋を掃除して無いわね・・・

アタシは塵一つ無いように掃除機を掛けると、バケツに水を溜め雑巾を絞る、
氷のように冷たい水が心地よい・・・
時々赤切れに走る痛みも、罪の衣をかぶるアタシの心には、むしろ心地よくさえ感じられる・・・

アタシは固く絞った雑巾で埃を拭き取る・・・毎日拭くので、さほど埃は無いのだが・・・
それでも僅かな埃を拭き取ると、心が拭われるようでほんとに気持ちが良い・・・

「お休み、シンジ・・・レイ・・・」

今日は慣れない事をしたので、疲れが心地よい眠りにアタシをさそう・・・
きっと今晩は、泣かずに眠れるだろう・・・



To Be Continued...



-後書-


しかし、今回は長かった・・・
読切りの予定がついに上下・・そして上中下までのびたし(冷汗)
エディタ上で1500行も在る・・・とりあえず終わる目処が立ちましたが
当初予想では500行ぐらいだったから、すごい暴走・・・(涙)

しかし校正が大変なのでとりあえず、今回は中編です、ごめんなさい
後編は出来るだけ早く掲載しますのでお許しください(滝涙)


ご注意!:新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。


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