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EVA・きっと沢山の冴えたやり方

・第零話 プロローグ 2015年への帰還   by saiki 20021017-20060408


重くのしかかるような静寂の元・・・暗闇に蒼い月が 血を思わせる赤ワインのような海(LCL) に浮かぶ・・・
音も無く浜辺に寄せるその赤い波の下には・・・おそらく微生物さえも潜んではいない。
そんな死の海岸線をあてども無く辿って行くと・・・砂に半ば埋もれひび割れた赤い球体に出くわす・・・
その上には天使と見間違うような中性的な美貌の少年が、静かに方膝を立て佇んでいた。

その姿はギリシャ彫刻を細身にした様でもあり、もしその姿を見るものがあれば
思わず指を伸ばして、そのおたやかなそのたたずまいを見せる人物が、幻かどうか思わず
触って確かめずには、いられなかったに違いない。

少年の傍らでそっと空間が揺らぐ・・・
淡く蒼い光を伴って、そっと寄り添うように全裸の少女の影が現れる。

「・・・碇君?気持ちの整理はついたの・・・・」

蒼い髪、ルビー色の目、雪のように白くきめ細やかな肌にやや小ぶりの乳房、細く締まったウエスト、
まるで何かの精霊と言ってもたやすく信じてしまいたくなるような、清楚で神秘的な雰囲気を持った
少女が目の前の少年に呼びかけた。
その声に呼び覚まされ、少年の閉じられていた目がゆっくりと開き上質の黒曜石を磨きだしたような瞳が
少女のまとった淡く蒼い光を映す。
この淡く蒼い光をまとった少女の体は、赤い海から少年がサルベージした
かって共に運命にもてあそばれた少女の魂を、彼自身の手で力場形成体へと宿らせたものだ。

「うん、綾波・・・ありがとう、やっと気持ちの整理がついたよ・・・
 ところで、あれに使う方法とその検証・・・調べて見てくれた?」

少年は少女へあたりの静寂を思わず忘れてしまうほどの暖かい微笑を向けた。
それを見た蒼い髪の少女の頬が薄く桜色に染まり、その頬を隠すようにわずかに顔を俯ける。


「・・・碇君の希望通り調べてみたわ、ホーガン博士とホーキング博士、
それと赤木博士が検証できる前例が無いけど多分、大丈夫って・・・」
「まあ荒っぽいやり方だけど、やり直しにはそれしか無いだろうね」

この二人の静かな語らいを、新たな明るい声がさえぎる。

「なによシンジ!二人で話し込んじゃったりして!私をのけ者にしないでよ!」

少年の傍らで新たに空間が揺らぎ、
淡く紅い光を伴って燃えるような朱金の髪の全裸の少女の影が現れる。
どこまでも深みのある蒼色の目、コーカサス系が入った白い肌、出るところが出て引っ込むところが
引っ込んだモデル並みのプロポーション・・・蒼い髪の少女が青く輝く月だとすると、この少女は紅く輝く
真夏の太陽の様だ。

「のけ者になんかしないよ、アスカ・・・」

少年がさらりとした短めの黒髪をゆすって、燃えるような朱金の髪の少女へ冬の陽だまりのような心温まる笑顔を送る、
不機嫌に頬を膨らませていた少女は頬を薄く桜色に染め、おもわず顔を俯ける・・・が、
すぐ頭をあげると、両の手を腰に当てて胸を突き出すとニヤリと性格の良さそうな笑いを口元に浮かべる。

「ふん!なんだか落ち着いて良い雰囲気になったわねシンジ!
なんかこう悟りを開いたって感じね、この私ともあろう者がもうちょっとで思わず惚れ直すところだったわよ!」
「あははは・・・やめてよアスカ・・・」
「・・・やめてアスカ!碇君が困ってるわ」

蒼い髪の少女が赤い目を細めて朱金の髪の少女を威嚇するように、にらみつける。
しばし二人の間で無言の睨み合いが続く・・・
最初に目をそらしたのは朱金の髪の少女だった、ぷっと吹き出すと
さもおかしくてたまらないというように、おなかを抱えて苦しそうに笑いを漏らす。

「くっ・・・くくくくっ・・・レイったら・・・私はシンジを誉めたのよ・・・それを
 くくくくっ・・・あんた変わんないわね・・・まあ、機嫌直しなさい、
 シンジの奥さんの座はあんたに譲ってあげるからさァ」

朱金の髪の少女へ氷の視線を送りつけていた、
蒼い髪の少女の顔がポッと音を立てるように耳まで紅く染まる。

「・・・アスカが碇君の妻の座を、私に譲ってくれた・・・う・れ・し・い・・・」
「ということで、シンジ!私は2号さんね・・・よ・ろ・し・く・旦那様!」
「ア・アスカ・・・ぼくをからかってるの?」

朱金の髪の少女が蒼い髪の少女の背後から抱きつき、その肩へ整ったあごを乗せて少年に
微笑み掛けると少年は頬を薔薇色に染める、そして困ったような顔を朱金の髪の少女に向けた。

「ん!本気よシンジ、私よりレイの方がほんの数ヶ月だけど付き合い長いんでしょ
 それに私は2号だろうと3号だろうと平気よ、シンジのそばにさえ居れれば・・・」
「アスカ・・・」

朱金の髪の少女がぷいっと照れ隠しに少年から視線をそらすと、ほほを桜色に染めた。

「・・・だから、おいて行かないでね・・・シンジ」
「アスカ・・・判って言ってるのかい?」
「判ってるわよシンジ・・・これから行っちゃうんでしょ・・・過去へ」

朱金の髪の少女の蒼い瞳が、黒髪の少年を見つめて悲しさを含んでゆれる。

「いいかいアスカ、一言で過去にもどるといっても過去へ物質は送れないから
 いまの体を霊子レベルまで分解して、その情報を昔の自分へ上書きするんだ、
 過去へ送るのは情報だけだけど、オリジナルは消滅するから大変危険なんだよ」
「・・・そう、私達は碇君と一緒に送りこまれる時、異物として一瞬だけどすごく
 存在自体が不安定になるの、無事に戻れるかどうか保障できないわ、アスカ」
「でも、レイはそれでもシンジと行くんでしょう?」

朱金の髪の少女に肩越しにジト目で見つめられ、蒼い髪の少女が後ろめたそうに目を伏せる。

「いいのよ、こんな蜃気楼のようなアストラルボデイに未練は無いわ・・・
 それに・・・私だけにシンジの居ないところで暮らせって言うの、レイ!」
「・・・碇君が居ない世界・・・それは、たいへん、たいへん、さびしい・・・心凍る場所
 ごめんなさいアスカ・・・確かにそんなところへ居たら、私、耐えられない・・・」

蒼い髪の少女の思いが表れたのか、その姿がさらに希薄になり背景が透けて揺らいで見える、
その陶磁器のように白く透き通った頬を一筋の涙が滴り、薄くひかる筋を引く・・・

「泣いてるの・・・レイ・・・」
「・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・アスカ・・・判ってたはずなのに、
私もう少しで貴方をおいたまま行ってしまう所だった・・・ごめんなさい」

消え入りそうなほど存在を薄くした蒼い髪の少女を、
朱金の髪の少女がやさしく包み込むように、相手の体を抱いた手に力を込める。

「謝らないでレイ!それより少しでも危険を減らす努力をするのよ!
 もし私達に何かあったら、シンジが同じように悲しむのよ・・・」
「・・・碇君が悲しむ・・・私達と同じように・・・だめ・・・だめ・・・
 私達、なにか方法を考えなくちゃいけないわ・・・アスカ・・・」

蒼い髪の少女はぶるぶると震えると、大きく目を見開いて自分を暖かく抱いてくれている
朱金の髪の少女へ、思いつめたように喉の底から振り絞るような声で呼びかける。

「出来るだけ運ぶ情報量を、減らすしかないかも・・・」

朱金の髪の少女が自分に言い聞かせるように、ポツリとつぶやく。

「・・・何か思いついたの?アスカ?」
「ええ、レイ、でもできるかどうか・・・」
「・・・いいから話してみてアスカ・・・出来るかどうかはその後決めればいい」

朱金の髪の少女は珍しく自信なさそうに、ぽつぽつと自分の思いつきをその口からこぼす。

「情報が不安定になる・・・つまり情報が失われる・・・ならそれを補填できるように
 複数用意して・・・出来れば不要な情報を切り詰めて、サイズを抑えた同じ情報を 3つ・・・
持っていければ、どうにかなるんじゃないかしら・・・あの相互補完する使徒、イスラフェルみたいに」
「アスカ・・・それが正解だと思う、どうやって思いついたの?」
「大学で情報処理を少しかじったからかもね、シンジ」

朱金の髪の少女が黒髪の少年に、ふふんと自慢げにその形の良い胸を突き出す。

「・・・碇君に会うまでのすべての記憶と、体の維持関係の情報すべて・・・これだけ削れれば、
補完用にデータを重複をさせても、情報はオリジナルの1.3倍で収まると思うわ、
これらは遡った時点で存在する私達がすべて持ってるはずだから、この方向でどうかしらアスカ?」

蒼い髪の少女が朱金の髪の少女に、ほんのわずかに眉を上げ問いかける。

「それいい線行ってるわ、レイ、たとえ一つでもシンジとの思い出は削りたくないから」
「・・・私も同じよアスカ、碇君との思い出は私にとって・・・
 とても・・・とても・・・大切で暖かいものだから・・・」

二人の少女の頬がかすかに赤みを増す、そんな少女達を静かに見守っていた少年が
ゆっくりと、砂に半ば埋もれひび割れた赤い球体の上に危なげなく立ち上がる。

「さあ、そろそろ始めようか・・・レイ・・・アスカ・・・」

少年が天使の微笑を輝かせながら、ほっそりとした手を二人に向けて差し出す。

「・・・碇君・・・」

蒼い髪の少女がうれしそうに少年の腕に飛び込んでゆく、
朱金の髪の少女も続いて少年の腕に飛び込もうとするが、
何かを思いついて躊躇し、寂しげな笑みを少年に向け口を開く。

「シンジ・・・ごめん、一つわがまま言っていい?」
「アスカ?・・・」

少年はやさしく朱金の髪の少女へ笑い掛ける・・・
そして少女は蒼い目に悲しみをたたえて少年の目を見つめ返した。

「過去の私に、今の私を受け入れるかどうか選択させてあげて・・・」
「いいよ、でも過去の君に拒絶されたらアスカは行き場がなくなってしまうよ?」

朱金の髪の少女の蒼い瞳が、少年の胸に身を寄せる蒼い髪の少女の紅い瞳と絡まる。

「その時は・・・レイ、悪いんだけど 貴方の体(スペア) を私に分けて頂戴・・・」
「・・・いいわ、アスカ・・・きっと、私達も喜ぶと思う・・・」

蒼い髪の少女はあっさりと頭を縦にふり、朱金の髪の少女はほっとした表情を浮かべ
少年の胸に体をよせる、少年はそれをやさしく受け止めると、胸に抱いたもう一人の
蒼い髪の少女の肩に手を回して、やさしく問いかけた。

「レイは、どうするの?」
「・・・たぶんだめだと思うわ、碇君に会うまでの私には選ぶと言う観念自体がないから・・・」

少年の胸の中で蒼い髪の少女の声が寂しそうに響く、少年は二人を安心させるように
背に回した手でやさしく抱きしめた、そして極上の微笑を浮かべ先に進むよう促す。

「うん、わかった、二人の希望通りにするよ・・・ところで、そろそろ準備を始めようか?」

二人の少女は少年の胸の中でそっとお互い目線を交わらせると、
極上の微笑を浮かべて、ゆっくりと、それぞれの赤と蒼の瞳を閉じる。
すでにガゲロウのようにゆれる二人の少女の体が、燐光を放ちながら、
その力場形成体を一点に収束して行き、少年の両手の平の上に、
それぞれ直径3センチほどの赤と蒼に輝く球体として浮かびあがった。

少年の優しい目線の下で二つの球体が、ぐき、ごきっと音もなく叩き込まれるようにその身を
削っていく、そして元の半分までその身を削り終わると、こんどはぽこぽこっと3つに分裂しながら
手の平の中へとゆっくり何の抵抗も無く沈んで行く、少年はそれが見えなくなると、両手を下ろし顔を上げた。

「さて行こうか・・・アスカ、レイ」

天使の微笑を浮かべる少年の背へ、2メートル弱の6対12枚のATフィールドと呼ばれる
紅い力場の羽が広がり砂塵を巻き上げながら、そろりと細身の体を浮かび上がらせた。

それはどこか宗教画を思わせる・・・ その体が200メータほど浮き上がったところで、
少年は上昇を止め両の手を体の前に何かを受け止めるように、向かい合わせ差し出し目を閉じた。

少年が細く整った眉をゆがめ額に汗を浮かべたとたん、
彼の下の地面が、突然どこからとも無く発生した紅い力場の刃で大きく裂ける。

その大きさは、かなり大き目の島ほどもあり、
それが上に持ち上がりながら、急速に力場で圧縮されその大きさを縮めて行く。
紅い力場にえぐられた地表の深さはマントルまでに及ぶのか、
盛んに溶岩が吹き出て穴へ流れ込む赤いLCLの海に
よって水蒸気爆発が頻繁に発生する、紅い力場に包まれた巨大な岩塊は
なおも回転を上げながら急速に小さく圧縮されて行った・・・

山ほどの物が高層ビルぐらいのサイズへ、そしてなおも小さく圧縮され、さらに速い回転を与えられる。
回転があがるにつれ周囲の大気がかき混ぜられ、かって見られなかった規模の暴風が周囲へ
吹き荒れる・・・やがて直径数ミリになったそれは光さえ抜け出られない、
ドーナッツ状のブラックホール 円弧(トロイド) へと変化をとげていた。

「これでナノサイズの時空の門が開かれた・・・あとは自分自身を量子:霊子レベルまで分解、
情報化後に時空の門を通して送り出すATフィールドを使った力場回路を組み上げないと、
このまま長く、マイクロブラックホールを支え続ける事は出来ないしね」

少年は挑むように唇に笑みを浮かべ、その口からソプラノの軽いハミングが流れ出す。
その心地よいハミングによって神速のスピードでブラックホールトロイドの周りに光る螺旋状の物が
紅い力場で組上げられていく、瞬く間に完成した力場建造物は早速それに与えられた命令に従って、
ブラックホールからエネルギーを汲出して、その輝きを増すと共に予備的な準備の為の活動を始めた。

「うまく行けばいいんだけど・・・まあ前例のないことだからね」

少年は薄く笑いを浮かべると一連の作業開始のキーワードをハミングする。

天使の輪のように輝く螺旋状の半ば命を持った機械は、少年の魂と記憶を無数の薄蒼い
光の走査線を極小レベルで卵をスライスするように放つ事で霊子レベルへ分解、その情報を
蒼い光芒のビームとして、厳密に定められた力と角度でブラックホールトロイド内に生成された、
極小の時空門を越えて過去へと送り出していく・・・それに費やせる時間は短い、
いかにそれとて、マイクロブラックホールを、今のままで支える力場を維持する時間は限られていたからだ。

やがてすべてが終わり、まだ少年の姿かたちを残す抜け殻は、その顔に満足げな天使の微笑を
浮かべたまま瞬時にLCLへと分解され、それと時を同じくブラックホールトロイドを支えていた
紅い力場が消え、マイクロブラックホールがその極小の体へと蓄えたすさまじいまでのエネルギーを
一気に放出して蒸発する・・・強大なエネルギーが吹き荒れすべてを無へと戻しながら、世界を白く染め上げて行った・・・




To Be Continued...



-後書-


ホーキング博士 = たぶん スティーヴン・ホーキング博士
ホーガン博士 =  たぶんSF作家の ジェイムズ・P・ホーガンさん
ブラックホールトロイド = ブラックホールが超高速で回転すると、
  中央に空隙が出来てドーナツ状になる、その際の形状を指す。

ちょっと理屈っぽく書いてますがEVAのリターン物です
本編の前に外伝を書くと言う掟破り(?)をしでかしてしまい汗顔の至りです(汗)
多くのリターン物はいっの間にかとか、目をあけて見ると、とかあっさり過去へ戻ってしまうパターンが多いので
方法論とか過程とか、それぞれのゆれる思いとか、絡めて見ましたが結構いいかげんですね(汗)
なお、マイクロブラックホールを形成するには、ちょっと重さが足りないかもしれません(苦笑)
良く考えたらパロディとかは、生まれて初めてなものでしてうまく書けてればいいのですが
あと暇を見て書き足して行こうかと思います。

ps
『Air/まごころを、君に』これを映画館へ見に行ったあと帰りにバイク盗まれてて大変困りました(涙)


20060408
流石に昔の物なので少々改訂しました。


ご注意!:新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。


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