Novel Top Page


EVA・きっと沢山の冴えたやり方

・第一話 使徒襲来・終末からの帰還者   by saiki 20021019-20060618




体が振るえ心臓の鼓動がいやに耳に響く、額に脂汗がにじみ背筋を悪寒が走った。
ほくは思わずアスファルトの道路へひざをつき、割れるように痛む頭に手を当てる。

「くううっ・・・うっ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

頭をえぐるような頭痛に絶えながら、ぼくは無理やり片目をあけた。
苦痛にゆれる視線の先、無人の街の太陽に炙られ焼けたアスファルトの上、
抱き合った全裸の、蒼と朱金の髪の二人の少女の姿が蜃気楼のように揺れる。

「レイ・・・アスカ・・・」

思わずぼくは二人の名前をつぶやく、
陽炎のように希薄な姿の少女達は嬉しそうに微笑み、そのまま背景に溶けていくように消える。

「そういえば・・・前にも、こんなことがあったっけ・・・」

やっと治まってきた頭痛に耐えながら、ぼくはつぶやく、
前回も誰かがサードインパクトから戻ってきていたのだろうか?
そして、その誰かは再びサードインパクトが起こるのを、止めるのに失敗してしまったのだろうか?

「分からないことを、悩んでも仕方ないか?」

ここはあの第三新東京市、そして、いまは使徒と呼ばれる巨大生物に蹂躙されている最中のはずだ。
ぼくは突然響きわらる炸裂音、そして共振して風を切る電線の音に顔をあげる、
目線の先には黒い人型の巨大な生物と、それから逃げるように後ろ向きに飛行する、
生物と並べられると、おもちゃのようにしか見えない国連軍のVTOLが目に入った。
大きな足音と、この世のものとも思えない巨大な生物のうなり声が無人の街へ響く。

「第三使徒、サキエルを肉眼で確認・・・」

ほくの頭上を甲高い音とともにミサイルが駆け抜け、砂埃が舞う、
これは・・・ちょっと鬱陶しいかもしれない。

「一応、確認しておいた方が良いかな?」

右手を胸の辺りまで上げると、手の平を上に向けて軽く指を曲げる、ぼくはその手の中へイメージを
送り込む、オレンジ色の親指の爪ぐらいの大きさの、極小の8角形の光がしばし瞬き消える。

「ATフィールドの展開に成功・・・まあ極端に短い時間なら、マギの探知に引っかからないだろうけど」

あまり長時間張るとネルフのメインコンピューター、マギの探知に引っかかって問題になるだろうな、
早めにマヤさんかリツコさんを説得して、
探知対象を選択できるようプログラムを書いてもらった方が良いかもしれない。

ぼくは、突然今までになく高く響く飛翔音に視線を上げる、
戦場の真っ只中で考え事をしているぼくの目前へ、使徒の手の平から伸びた光の槍に貫かれ、
半壊した国連軍のVTOLが落下する、それを低く飛翔した使徒の足が踏み潰す。

チタンとジュラルミンを主成分とした複合装甲が、まるでブリキのように踏み潰され、
漏れた航空燃料に引火して瞬時に炎の火球とかす。
ぼくは落ち着いてATフィールドを目の前に展開しようとしたが、
視界の隅に稲妻のように駆ける蒼い車を見つけたのであわてて取止めた。

「そういえば、ぼくはこの人と待ち合わせしてたんだよな」

ぼくの目の前へ、急制動でタイヤを焦がしながら、
爆風を遮る様に青いアルビーヌ・ルノーA310が止まる。

「ごめ〜〜ん、おまたせ」

黝い髪を肩まで伸ばした妙齢の美女、
胸元には銀の十字架、サングラスと妙に重厚なイヤリングがグラマラスな装いにどことなく似合わない。
まあ、ミサトさんだからね・・・
きっと、ぼくは、懐かしさと苦笑いを織り交ぜた複雑な顔をしていたに違いない。
ミサトさんが怪訝そうな顔でぼくを見る、
だが一瞬つづいた二人の見つめあいは使徒に炸裂するミサイルの轟音で突然に終わった。

「あなたが碇シンジ君ね、早く乗って!」

ぼくは頷くと、素早く車体の左側に回って、ミサトさんの横の助手席に滑り込んだ、
青い車体の左側はVTOLの爆発で飛んできた破片の洗礼を受け、浅い傷が無数にある、
たぶん窓ガラスを含めて防弾になっているのだろう、貫通痕はないようだ。

「シンジ君どこでもいいからつかまって、出すわよ!

ドアが締まる前に、青い車体が甲高い悲鳴をタイヤに上げさせてフルアクセルで発進する、
一瞬前まで車が合った場所を使徒の巨大な足が大きくえぐる、
ミサトさんはぼくの肩を左手でかばいながら、
あちこちの障害物をジグザグによけ、町を郊外へと爆走する、
しばらく走ると路肩へ止まっている車が減ってきた。

「遅れてごめんなさい、手前の駅で立ち往生しているとは思わなかったから・・・」
「いえ・・・でも、危なかったですね」

ぼくは苦笑しながら、進行方向をサングラス越しに見つめる彼女の顔を横目でちらりと見る。
あのままATフィールドを張れば彼女の車は良くて大破、悪くすると厚さがナノメートルもない
フィールドの縁で、彼女ごとまっ二つになっていたかもしれない。
彼女は知らなかったろうが、ほんとに危ないところだったのだ。

「ごめん・・・怖かった?」
「ああ・・・大丈夫です、ミサトさん」

勘違いしたミサトさんに、ぼくは心から特上の笑みを向ける、作戦発案者としての実力はともかく、
実戦指揮官としては性格的に大いに問題がある彼女だが、しばらくかりそめの家族として一緒に暮らし、
最後には、その命さえぼくを助けるために投げ出してくれた彼女、
何よりも、この時へ帰って来てから最初に会えた懐かしい知人、その彼女の動きが止まった。
車はメーターを振り切る勢いでハイウェーを飛ばしているというのに、危なくないのかな?
いったいどうしたんだろう?

「ミサトさん、ミサトさん!どうしたんですか?」
「くっ、はあっ、シンジ君・・・なんでもないわ」

静止していたミサトさんが色っぽいため息と共に再び動き出す、
彼女は顔を耳まで桜色に染めぼくから視線をそらす。
なんだか良く見る反応のような気がする、ああ、そういえばアストラル体のアスカとレイも、
しばしば同じような状態になっていたけど、原因は何なんだろう?
疑問の海に揺られる僕の視界の隅で、
使徒の周りを舞う様に攻撃していた国連のVTOLが、蜘蛛の子を散らすように離れて行く。

「ミサトさん、国連のVTOLがあれから離れていくみたいですよ」
「まさか!N地雷をつかうわけ!!」

”あれ”と言う表現だけで、それが使徒を指す事が分かったらしく、ミサトさんの顔が引きつる、
派手な制動音と共に黒々としたブレーキ痕を残しながら、青い車がつんのめる様に急停車する。

「シンジ君ふせて!!」

ちょっとした丘の影へ車を止めたミサトさんが、
叫び声と共にぼくを引き倒して、自分の上半身で包み込む様にかばう。
ぼくの背中へ、彼女のふくやかな二つの膨らみが強く押し付けられる、ぼくは一寸ほほを赤く染めた。
あたりを眩い閃光が包み込む、放射能をほとんど出さないとはいえ核兵器に匹敵する兵器が
尾根越しに炸裂したのだ、しばらくして地鳴りと共に激しい衝撃波が吹き荒れ、
やがて地鳴りが納まり、ぼくの背にエアバックのように押し付けられつぶれていた、
二つの膨らみが離れてゆく・・・

「どうやら無事、納まった様ね・・・もう大丈夫よシンジ君」

ほっとしたようにサングラスを外したミサトさんのダークブラウンの瞳が、
ぼくの目と合う、彼女は、ぽっと目元を赤く染めて、またぼくから瞳をそらした。
何か気に入らないことでもあるんだろうか?
ミサトさんがイグニッションキーを回すと、青いアルビーヌ・ルノーA310は何事もなかったように、
地雷で荒れたハイウェーの上を再び走り出した。

「思ったより被害は軽かったわね、丘の影に入れたからかな?
ありがとうシンジ君、あなた目がいいのね」
「いえ・・・それほどでもないです、でも良かったですね、
てっきり、ひっくり返るんじゃないかと思いましたよ」

まあ前回は、ひっくり返っただけじゃなく4回以上転げまわったっけ、
今回は丘の影と、ぼくが張った最低出力のATフィールドでたいした事もなくすんだようだけど、
でも、前回ほどではないけど、結構ミサトさんの青いアルビーヌ・ルノーA310はぼろぼろに
なっているようだった、たしか、あの時はレストアした後でまだローン33回残ってるって言ってたな・・・
ちらりと彼女の方を見てみると、どんよりとした暗い雰囲気を身にまとっている。

「あの、ミサトさん・・・」
「なに?シンジ君」
「あの、でしゃばりかもしれませんけど、
車の修理の事、お父さんと掛け合って見ましょうか?
ぼくを迎えに来たために、こんなになっちゃったんですから」

ぼくが話しかけるとミサトさんは無理に笑って振り向いてくれた、
修理の事をお父さんに相談して見ると申し出ると、一瞬、驚いたようだが引きつった笑顔でぼくに答える。

「いいのよ!子供はそんなこと考えなくて、これでもお姉さんは高給取りなのよ」
「そう・・・ですか・・・ごめんなさい」

ぼくは知っている、お金の余裕がある人がローンを組むはずがない事を、
ミサトさん無理しちゃって、まあエンゲル係数が高すぎるんだよね、
前は、お酒代と車のローンでお給料のほとんどが消えてたような気が、
まあ、お父さんに会ったらちょっと頼んでみよう、ひそかに心に止めるぼくの横では
ミサトさんが自動車電話で、ネルフ本部への直通のカートレインを要請していた。

   ・
   ・
   ・

地下道に入った車はゲートをくぐり、
自動的にカートレインに乗せられた後、リニアレールの上を運ばれていく。

「シンジ君、車の修理の事、
お父さんと掛け合ってくれるなんて言ってたけど、
あなた、お父さんの仕事は知ってるの?」
「国連直属の非公開組織、特務機関ネルフの最高責任者ですよね」

ミサトさんが聞きにくそうにぼくに尋ねたので、ぼくはあっさり事実を言った。
この程度は調べる気になればいくらでも調べられることだ、
もっとも前回のぼくにはそんな興味はなかったけど。

「良く知ってるのね」
「ネットにも流れてる公開情報ですから」
「そうね、あはは・・・」

にこりと笑って答えたぼくに、ミサトさんは引きつった笑いを浮かべる。
まさかミサトさん、あの変な”ようこそネルフ江”なんていう、
パンフレットを出すタイミングを計ってたんじゃないでしょうね、
たしか、あれは極秘とか有ったけど、内容はネットの公開情報と同じだったはず。

ああ、ぼくから目をそらしたミサトさんの額に、冷や汗がにじんでるよ、
しまった、困らしちゃったかな・・・でもミサトさんより、ぼくの方がいろいろな事を知ってるから、
仕方ないか・・・ゼーレ、補完計画、エヴァの真実、セカンドインパクトの事だけでも教えて上げられれば
泣いて喜んでくれると思うんだけど・・・でも、もう少し落ち着いてから方がきっと良いね・・・

「ミサトさん、このカートレインからジオフロントは見えるんですか?」
「見えるわよ・・・シンジ君、ジオフロントへ来たことあるの?」

しばらく続いた沈黙がよほどいやだったのか、ミサトさんはすぐぼくの話に乗ってくれた。

「ええ、3歳ごろだったかな・・・母に連れられて・・・」
「そんな小さなころの事を、良く覚えてるわね」

闇で塗装されたような暗い壁面をブルーのライトが後方へと流れて行く、
その闇を突き抜けるように、ジオフロントの明るい空間が目前に広がった。
目の前を天井都市が飛ぶように流れ、眼下に広がる広大な地下平原に満々と水をたたえた湖が光る。

「あそこのピラミットのようなのが人類生存をかけた砦、特務機関ネルフの本部よ」

ミサトさんが車のフロントガラス越しにそれを指差す、
緩やかにジオフロントの壁面に沿って下りてゆくリニア軌道、
ネルフの本部・・・レイ、アスカ、そしてぼくの、呪われた14歳の忌まわしい半年をすごした場所・・・

第14使徒・ゼルエル戦、初号機に首を飛ばされる 第17使徒(タブリス) の渚カヲル君、
壊れるアスカ、リリスと同化する3人目のレイ、なだれ込み虐殺の限りを尽くす戦自の兵士達、
撃たれるミサトさん、量産型エヴァにむさぼられる弐号機、
何もしなければいまから起こるはずのことが、ぐるぐるとぼくの頭の中で走馬灯のように掛けめぐる。

「シ・・・シンジ君・・・どうしたの・・・」

いつの間にかミサトさんが、心配そうな顔でぼくの顔を覗き込んでいた。

「・・・どうしたんです、ミサトさん?」
「どうしたって・・・シンジ君、泣いてるわよ」
「ぼくが・・・泣いてる?」

思わず右手を顔へ当てる、指先が生暖かい涙にふれ、ぼくは両の頬を涙が伝っているのを知った。
泣く事はない、だって、あれはまだ起こっていないんだ・・・そして、これからも起こさせない、
その為に時間を掛けて用意もしたし、何よりぼくがここに居るのはその為なんだ。
そう、悲しむ必要はない、これからの未来は不確定なんだ、泣かなくてもいい・・・
泣かなくてもいいはずなんだ・・・

きっと、過去の自分への時空を越えた霊子レベルの情報の上書き、
そして、それに伴う体質のアダム化による使徒モードへの移行、
それが一時的にホルモンのバランスを狂わせて、こんなにも情緒を不安定にしているのに違いない。
そう、ぼくの理性は主張するけれども、
本能は違うと言ってる、ここで何をしようと、あれらはすでに起こってしまったんだと・・・

シュレディンガーの猫は箱のふたを開けるまで生死不明だ・・・
だが、ぼくはすでにその箱を開けてしまっている。
ぼくがどんなに手を尽くそうと、無かった事にはならない。
なぜなら、それが起こった事をぼくが知ってるから・・・

「ミサトさん・・・しばらくそっとして置いてくれますか」
「分かったわ、何を泣いてるのか分からないけど、話せるようになったら私に話してくれる?」

ミサトさんは、それ以上何も言わずにそっとぼくへハンカチを差し出してくれた。

「ええミサトさん・・・かならずお話します・・・」

ぼくの涙がやっと枯れたころ、ぼく達の乗ったカートレインはネルフ本部に到着した。




To Be Continued...



-後書-


VTOL = ヘリコプターのような動きができる航空機
シュレディンガーの猫 = 不確定性理論、箱に入った猫は蓋を開けるまで死んでも生きても居ないとする考え方

うーむ、予定外のところで中途半端に終わってしまってます(汗)
たしかTVでもここでアイキャッチが入るのでここで切ってもおかしくないかもしれない(苦笑)
しかしシンジ君もっと悟って動じないはずなのに、以外に感情に流されてますねどうなっちゃったんでしょう?(謎)
しかも台詞、オリジナルのTV版とほとんど違う、あれだけVTR繰り返し見たのに(汗)
でも、いつまで続くかわらないけど更新早いぞ>自分(爆笑)


ご注意!:新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。


Novel Top Page

Back  Next