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EVA・きっと沢山の冴えたやり方

・第十五話 決戦、第3新東京市・頭上の脅威   by saiki 20021212




山岸家の朝食は私が用意した朝食を掻きこむ、お父さんと、
濡羽色の黒髪を背中まで伸ばし、無粋な黒淵眼鏡に、左口元の黒子が、
チャーミングポイントの、ほんのちょっとだけ内気な私との会話から始まる・・・

「マユミ、今日からメインオペレーター勤務だな
碇君と先輩がたに迷惑を掛けないよう、がんばれよ」
「もうお父さんたら・・・がんばれって、お父さん達の方が
碇さん達と親身に長く付き合ってるんでしょ、私達なんか
戦闘の時の手助けだけだもの、顔さえ覚えてもらえないかもしれないわ」

葛城一尉の一時的な配置換えによる、日向一尉の作戦部長代理への就任、
そんな事が無ければ、私みたいな21の若い下っ端が、あんな光に照らされた所へ
出て行けなかったろう、メルキオール付きの同僚のやっかみと羨望に見送られて、
今日から私はもう一段高い、ひな壇二段目と羨望を込めて呼ばれる所へ上る・・・

「はは、碇君達とは付き合ってるんじゃあ無いぞ
あれはドツキあってるんだ・・・二人とも強いからな」
「でも、お父さんはチルドレンの、綾波さんのガードなんでしょ」

私は、お父さんが凄く強い事を知っている、そのお父さんより
14才の碇さん達の方が強いなんて・・・何だか、謙遜しているみたいに聞こえる・・・

「俺より強い奴に護衛は要らん、俺は今はチルドレン付の運転手だよ」

お父さんは私へ、豪快に笑いながら自分の仕事を説明する・・・
でも私は知っている、もし碇さん達が危ない時は、お父さんは自分の命を
投げ打っても彼らを助けようとする、私のお父さんはそんな人だ・・・

私は碇さんの顔を思い出すと、少し胸の鼓動が早くなる・・・
第三使徒襲来時の、フォロスクリーンに映し出された、碇さんの素敵な笑顔を見た
私を含むオペレーターは、みな彼に憧れているのかも知れない・・・
すでに、碇さんと綾波さんの非公式なファンクラブは結構な人数に膨れ上がっているから・・・

   ・
   ・
   ・

きょうから私の、メインオペレーター勤務一日目が始まる・・・

日向さんから最初に私に任されたのは、近県から消防車を借り出すことと
ジオフロントの装甲板を切断できる特殊工作機械の手配だった。
作戦部と消防車、特殊工作機械がどう繋がるのか私にはさっぱり分からない・・・

日向さんは何やら特殊なクレーンを徴発するとかで、あの方なりに大変らしい。
なんだか腰の低い人らしいから、平謝りに頼み込むんだろうか・・・
私はそんな日向さんに、私の出来る事を精一杯して上げたい・・・

ともかく電話で頼んで見る事にして、私は電話を掛けまくった・・・
もう恥じも外見も無い、私は自前の、いかにも弱々しい声を振り絞って説得に当たる・・・

「申し訳有りません、わたしネルフの山岸二尉と申します・・・
このほどは、ご無理を承知でお願いのため電話させていただきました・・・
申し訳有りませんが、消防車を一台、お借り出来ませんでしょうか・・・
はい、もうそれは重要な、はい、ええ今日中に50台一週間借り出せと上司が・・・
ああ、ご無理なのは知ってますが・・・はい、そこを何とか・・・
もちろん、故障とかの場合は当方で責任を持って・・・はい、ええ上司が・・・
回していただける・・・とても助かります・・・ええ、どうもありがとうございます・・・」

ふう・・・ごめんなさい日向さん、ちょっと貴方を悪者にしてるかもしれません・・・
神様、日向さんのお願いを聞くためには、手段を選ばない私をお許しください・・・

思わず眼を閉じて、天使を倒す組織の一員として、神に祈る私の肩を乱暴に叩き笑い声が響く・・・

「あはは、上手くやってるみたいね、
がんばってマコトのフォローしてやって頂戴ね、山岸マユミさん」

前の作戦部長で、一時的な配置換えになった葛城一尉が、私を見てニヤニヤ笑っていた・・・
日向さんは、この人に好意を持ってるみたいだけど、彼女の目はドイツの元恋人に向いてると言う、
もっぱらのうわさだ・・・何だかこの人は、豪快な親分肌の人みたいだわ・・・

「はい、がんばります、葛城一尉」
「うん、うん、若い子は若い子同士仲良くね・・・」

なんだか、昔はもっと影が有ったような気がするが・・・いまの葛城さんにはそれが無い・・・
どうしてなんだろう・・・それにあっさり配置換えを受け入れたと言う事は、
もう、ここに葛城さん、未練は無いと言うことなんだろうか・・・私は、思い切って口を開いた・・・

「葛城一尉は、もうここに帰られる気は無いんですか?」
「ふふ、無いわよ、この部署は私よりマコトの方が向いてるから・・・
マユミさん私はね、父の復讐の為にここへいたの・・・でも、もう吹っ切れたわ・・・」

私は葛城さんの表情が、ほんとに晴れやかな物に見えた・・・
ああ、この人は何か重い物から、ほんとに自由になったんだ・・・

「それに一体のエヴァの戦力がどんなに高くとも師団でも旅団でもないの、最小単位の
歩兵みたいな物だから、この部署で細かい指示を出しても無駄なのよ・・・かえってロスが多くなり、
シンジ君達の足を引っ張るわ、だからここは事前の根回しとか準備とか指示にとどめて、
戦闘が始まったら、彼らに任せるほか無いの、もちろん聞かれれば助言は必要よ・・・」

葛城さんが、私に諭すように話を繋ぐ・・・
この人は、碇さんや綾波さんの事を、ほんとに思いやってるのが言葉の端々に浮ぶ・・・
私はこの配置換えに、深い意味が有ったのにやっと気がついた・・・
じゃあ、私の昇進にも、何か深い意味が在るのかもしれない・・・

「でも無駄に口を出すと、かえって注意を削ぐ事になって危険が増すわ・・・だから
私はここを下りたの・・・根回しは、私より腰の低いマコトの方が上手くやるでしょう・・・」

ひょっとすると私は、根回しと後処理の才能が在ると見込まれたのかもしれない・・・
・・・確かに、根の暗い私にはお似合いなのかも・・・でも、ちょっとそれは、悲しい・・・

   ・
   ・
   ・

信じられない、私は今晩、昇進祝いに碇さんのお家にお邪魔する事になった・・・
下っ端のオペレーター内では、アイドル扱いの碇さんのお家、何だか凄く嬉しい・・・

碇さんのお家のリビングには、私と、葛城一尉、伊吹二尉、日向一尉、青葉二尉、赤木博士と
碇さんと綾波さん、綾波さんの妹のアイカちゃんが、テーブルを囲んでご馳走を前にしている・・・
このご馳走は、碇さんと綾波さんが、私達の為に調理してくれた物だ・・・なんだか凄い・・・
見た目だけでなく、まるで香までお腹の虫を呼び出す、料理の魔術が掛かっているようだ・・・

碇さんが、まだ声変わりして無い素敵な声で、乾杯の音頭を取る・・・

「ではミサトさんの栄転と、マコトさんと、マユミさんの昇進を祝して乾杯!」
「「「「「「乾杯!」」」」」」

私達は綺麗にハモッてそれに答えた・・・
ビールとジュースのコップが打ち合わされ、澄んだ音がリビングに響く・・・
私達は料理に箸を付け、一口かじった所で止まる・・・そして再始動・・・

「うまい!シンジ君の料理は何時食べても美味しいわね」

赤木博士が、碇さんのお料理をほめる・・・

「はうっ・・・私、負けてますぅ・・・」

マヤ先輩も、悔しそうに天井を仰ぐ・・・

「シンジ君、これなら何時でもお婿さんに成れるよ」

私の直接の上司の、日向部長代理が眼鏡をずり上げながら満足げに呟く・・・

「うまいっす!さいこうす!」

青葉先輩も、おかしな方言で料理を賛美する・・・

「お父さんには聞いてたけど・・・これほどとは・・・」

ああ、碇さんて料理も天才かも・・・この料理には、何時もおさんどんしてる私が全然勝てない・・・

「シンジ君、これ、味音痴のミサトには勿体無いわ・・・レストランのシェフに成れるわよ」
「それはどー言う意味よ!リツコ!」
「言ったとおりよ、ミサト!あんたにはこれは勿体無い、私が代わりに食べて上げるわ」

さっそく、ご親友の葛城一尉と、赤木博士が友人同士の軽いじゃれ合いを始める・・・
ああ、あんなに仲が良いなんて・・・私にも、あんな友人が居れば良いんだけど・・・
そして、だんだん皆の話は、料理以外の事についても及ぶ・・・

「マコト、これで俺達、溜め口言えなくなっちまったな・・・」
「すまん、俺だけ昇進しちまって・・・」

日向さんと、青葉さんがしみじみと、ビールをお互いのコップに継ぎ足しながら隅で話してる・・・

「マユミさん、保安部の山岸さんの娘さんなんです・・・綺麗な人ですね先輩」
「そうねマヤ・・・でも、貴方も良い線いってるから、焦らなくてもだいじょぶよ」

赤木博士とマヤ先輩が、私を魚にして怪しげな雰囲気で盛り上がってるし・・・

「葛城さん、私ちゃんとやってけるでしょうか・・・なんか不安で」
「ククク、だいじょーぶ、マコトが手取り足取り教えてくれるから、ねーマコト」

私はちょっと酔った勢いで、葛城さんに心の内を打ち明ける・・・
葛城さんは豪快に笑うと私の背中を強く叩いた・・・はぅ、ひどいです葛城さん・・・
私の手のビールがこぼれて、深緑のスカートに染みを作った・・・

「葛城さん、酔ってませんか?」
「あたしがこんぐらいで酔うわけ無いでショーが」
「でも20本越えてますよ」

日向さんが私にハンカチを貸してくれる、うう・・・有難うございます、日向さん・・・
私は泣き上戸かもしれない・・・日向さんのハンカチでスカートを拭いた後・・・
私は、日向さんに庇って貰ったのが嬉しくて、シクシク泣き続けてしまう・・・

「マコトーっ!ビールが足りないわよー」
「あはは、どうぞ僕のを上げますよ」

さりげなく、葛城さんと私の間に入り込んだ日向さんが、葛城さんにビールを注ぐ・・・
ああ、私の上司が葛城さんじゃなく、日向さんで良かった・・・

二人は盛んにビールを飲み交わしてたけど、だんだんピッチが落ちて行って・・・
どちらからとも無く、酔い潰れた・・・日向さんの頬が、ほんのり赤くて可愛い・・・
私は思わず、日向さんの頭を膝枕に乗せて、ハンカチで風を送る・・・
有難うございます日向さん・・・庇って下さって・・・

私の周りで吹き荒れた、リビングの狂乱はだんだん静かになって行き・・・
昇進祝いの席の幕引きが、年若い主の碇さんから宣言される・・・
アイカちゃんも、お眠のようだ・・・私は、後ろ髪を引かれる思いで、碇邸を後にする・・・
碇邸から少し遅れて出てきた、赤木博士が嘆く・・・

「おかしいわね・・・ミサトはあのぐらいで、
酔い潰れるたまじゃ無いと思ってたのに・・・ついにミサトも、年かしらね・・・」
「先輩、きっと体調が悪かったんですよ・・・」

お酒が入って、少し足元がおぼつかない、赤木博士とマヤ先輩が
寄り添うように私の前を歩く・・・でも、私は、後ろが気になってたまらない・・・
ああ、日向さんは葛城さんと一緒に酔い潰れてしまった・・・
二人を残して行って、大丈夫なんだろうか・・・

「アタシと先輩は一緒のタクシーで帰るけど、マユミさんは一人で大丈夫?」
「はいマヤ先輩、私もタクシーを拾って帰りますから」

マヤ先輩達の乗ったタクシーを見送ると、日向さんが気になって、私はそっと引き返した・・・
そんな私を、黒塗りの車が追い越して・・・あれ、碇さんのアパートに入って行く・・・
あそこは今、葛城さんと、碇さん達しか住んでないはずじゃあ・・・

あっ、碇さん達が大きな包みを持って・・・車の中から出てきたのは、司令と副司令じゃ・・・
突然、私の後ろから腕が伸びて口を塞ぐ・・・きゃーっ、誰か!碇さん!日向さんたすけてーっ・・・
口を塞がれた私は、じたばた暴れるけど、後ろで私を羽交い絞めしてる人の手は全く緩まない・・・

あぅっ・・・可憐な私は、このまま外国へ売られてしまうのかしら・・・ああ、なんて可愛そうな私・・・

「マユミ、こういう時は、相手の股を蹴り上げろと、私は教えなかったかな・・・」
「・・・えっ・・・お父さんなの・・・」

私の口を塞いでいた手の力がゆるむ、私が振り向くと、そこには、にやけた顔のお父さんがいた・・・
ああ、お父さんの意地悪・・・私は怖くて流れた涙を拭いながら、お父さんの胸を拳で叩いた・・・

私は、あの黒い車の中で、サンドイッチとスープをいただきながら、お父さんの説明を聞いた。
お父さんによると、いまネルフは、微妙な改変期を迎えてるのだそうだ・・・
その為の極秘の打ち合わせが、今晩ここで行われてるらしい・・・

「と、いうことで、この事を漏らす口の軽い奴は、たとえ娘でも容赦できんのだが・・・どうするマユミ?」
「わ、私がそんな事するわけないじゃないですか、お父さん・・・碇さんや日向さんを裏切るなんて」

お父さんは笑いながら、そうだよねって・・・
もう失礼しちゃう・・・でも、帰り際の日向さんに棯を押されてしまった・・・

「マユミさん、同僚にも漏らしちゃあいけないよ、特にマヤちゃんは要注意だからね」
「はい、でも日向さん、私そんなに口の軽い子に見えますか・・・」
「ははは・・・そうは見えないけどね・・・ねんのためさ・・・」

私はちょっと頬を膨らます・・・酷いです日向さん・・・

   ・
   ・
   ・

「マユミさん、これシンジ君とレイちゃんからのプレゼント・・・」

オペレータ席から立とうとした私を、マヤ先輩が呼び止める・・・
うそっ?、なぜマヤ先輩が、碇さん達からのプレゼントを私に・・・
マヤ先輩・・・まさか、碇さんと何かお付き合いがるのでわ?

「あ、あの、何故マヤ先輩が、お二人からのプレゼントを私に・・・」
「あはは・・・変な想像をしちゃ駄目よ、シンジ君にはちゃんと、
レイちゃんと言う、お姫様が居るんだから・・・」
「そうですよね、マヤ先輩・・・いいな綾波さんは・・・」

私は思わず両頬に手を当て、赤くなった頬を冷やす・・・
だって、あの二人は、お似合いだもの、私に言わせると、白馬の王子様と、それを待ちうける美姫・・・

「私が貴方に、それを渡すわけになったのは・・・
プレゼントの中身のせいなの・・・ともかく開けて見てくれるかな」
「はい、マヤ先輩・・・」

私は猫シールで止められた銀色の包みを開ける・・・
中から出てきたのは、ちょっと値の張るPDAと呼ばれる、手乗り端末だった・・・

「あっ、PDAですね・・・これ結構高いんじゃ・・・」
「まあ、値段の方はシンジ君達高給取りだから良いとして・・・
彼からウイルスチェッカーの、インストールとか頼まれちゃってね」

マヤ先輩がにやりと笑い・・・私の頬がこわばる・・・
あうっ、マヤ先輩、そんな所は赤木博士そっくりですぅ・・・

「だからそのPDAは、赤木博士ご用達の最強のファイヤーウオールと、
チェッカーが入ってるから、安心して使ってね、マユミさん」
「はぁーっ、碇さん達、若いのに凄く気配りされるんですね・・・」

私のため息に、マヤ先輩がちょっと首をかしげて呟く・・・

「そうよね、それに物知りだし、とくにシンジ君て私達の説明を
聞いてるというより、知ってる事を確認してるって感じね・・・
たぶん自分では気がついてないと思うけど、
私達が説明してないことをたまに聞いてくるもの・・・」
「はぁ、ほとんど碇さんは、神様か聖徳太子様のレベルに達してるんですね」

私はマヤさんに相槌を打つ・・・
私の呟きを聞いたマヤ先輩が、私の方を驚いたように見つめる・・・

「そうか・・・神様か・・・そうかも知れないわね・・・
あれだけ暗かったうちの首脳陣も、シンジ君が来てから変わったわ
碇司令も、冬月副司令も、葛城一尉も、あれだけ無表情だったレイちゃんも・・・」

私の前でマヤ先輩が、神に祈るように両手を合わせて、
何か空中の尊い物を見つめるように、目を輝かせて呟く・・・・

「私の先輩も、最初こそ鬼気迫る物が有って、近寄りがたかったけど
最近はだんだん吹っ切れてきたと言うか・・・
昔の硬さが取れて良い意味での人間味が出てきたと言うか・・・
シンジ君て本当に、私達にとっての救いの神様、なのかも知れないわね・・・」

ああ、マヤ先輩は恍惚とした表情のまま、私を残して行ってしまった・・・
お父さん、ここはなんだか私が思った以上に、大変なところのようです・・・
私は、碇さん達から頂いたPDAを、胸に抱え込んだまま立ちすくんでしまった・・・

   ・
   ・
   ・

それは青い空をバックに現れた・・・私と日向さんがランチに席を立とうとした時、
警報が響き渡り私はドキッとしてモニターを睨みつけた・・・
パターン青、私がこの席に座ってから始めての使徒の襲来・・・

私の顔は青くなる・・・でも、私は椅子の背に、日向さんの手を感じると少しだけ落ち着きを取り戻した・・・

「山岸さん、落ち着いて、シンジ君達が倒してくれるから、
僕達はそれを確実にフォローすれば良いんだ」

私はちょっと恥ずかしくなった、年若い碇さん達ががんばってるのに、私が慌ててて良いはずが無い。

「はい、避難警報、碇さん達への呼び出し掛けます、総員第一級非常体制へ!」

ああ、何でなんだろう、今度の使徒の形状はなんて綺麗としか言い様が無い・・・
青い宝石のような、澄んだ8面体・・・その一辺を見えない糸でつるされたように、重力に逆らって
宙に浮ぶ姿は、幻想的としか言い様が無い・・・どうやって浮んでるんだろう・・・

「山岸さん、使徒の反応を見るから、14番のバルーンダミー出して」
「はい、14番、バルーンダミー出します」

避難が終わったのを受けて、私へ日向さんの指示が飛ぶ・・・
揃った首脳部と各部長それに上級オペレーターに、緊張がます・・・
サブディスプレイには、碇さん達がケージで待機しているのが写る・・・

「14番、バルーンダミー展開終了、無人牽引艇マギの操縦で芦ノ湖畔に出ます」
「山岸さん、ダミーの後ろにシェルターが来ない様に気を付けて・・・」
「はい、無人牽引艇移動パターンマギへの入力終わりました」

無人の牽引艇に引かれた初号機のバルーンダミーが、芦ノ湖をマギの操船で進む・・・
日向さんが、私を勇気付けるように微笑む・・・私も、固い笑顔で微笑み返した・・・

「使徒内部に高エネルギー反応!」

青葉さんの声に皆の視線が集中する。

「使徒、周円部を加速、エネルギー収束して行きますっ!」
「か、加粒子砲!」

青葉さんが続ける経過報告に、赤木博士の表情が険しくなる・・・
電荷を帯びた粒子が、使徒の内部で円を描く通り道の中を加速されながら通り抜ける・・・
超特大の高出力粒子加速器を、体内に抱え込んだ使徒はその力を解き放った・・・

「バルーンダミー消滅、外輪山が一部煮えたぎっています・・・」

私を含めた司令部スタッフは使徒の力の一片に、顔を青くそめ冷や汗をかく・・・
これではエヴァを迂闊に出す事は出来ない・・・
それに中途な方法を使うと、使徒が進化学習して、私達の首を締める羽目になるかもしれない・・・

私は日向さんの顔を見上げた・・・こんな事態でも、彼は諦めた目をしていなかった・・・
日向さんは青くなった私を励ますように、引きつりながらも笑いを浮かべる・・・

「山岸さん頼りない上司でごめん、でも、僕が信じられなくても、
シンジ君やレイちゃんを、信じて上げてくれるかい・・・」
「安心してください私は、日向さんも信じてますから・・・」
「ありがとう」

私は、日向さんにニッコリと笑い掛ける・・・
彼は、ほのかに頬を染め、照れくさそうに顔をそらした・・・

その後、手を出し兼ねていた私達をしり目に、使徒は本部直上へ侵攻、
呆れた事に、本体下部から直径18メートルもある巨大なドリルブレードを
出して22枚の装甲板に穴を開け始めた・・・
なぜ使徒は、あの威力満点の加粒子砲を使わないのだろう・・・

「山岸さん、使徒のレーザードリルの効率を落とすため消防車で放水を始めて、
それと工作車を出して、穿孔中の下の階で、装甲間のスペースに補修用の
装甲板をドリルの下に積み上げる様指示を・・・
あと、シンジ君達には待機の解除をしらせて、休んでもらうように・・・
赤木博士は今指示した条件で使徒のドリルが、全ての装甲を穿孔するまでの時間を計算願います」

日向さんが次々と指示を出す・・・私はそれに答えようと、忙しく動き回る・・・
でも、これってつい最近、日向さんに頼まれて私が緊急に配備した物ばかり・・・

「山岸さん、作戦企画案AD601のファイルを、製作日付を今日に更新して技術部へ送って」
「はい、送ります・・・中を見てもよろしいですか?日向さん」

声を潜めて日向さんは私へ指示し、悪戯っぽくウインクした・・・
もう、そんな目で見られると赤くなっちゃうじゃないですか・・・

「良いよ、でも製作日付は他の人には内緒だからね・・・山岸さん」
「はい、むろんです、日向さん」

私は、ファイルを開いた・・・副題は”ジオフロント直上で長期に渡り、
動かないことが予想される使徒撃滅について”・・・何だか今の事態そのもの・・・

私は一心不乱にファイルを読み進める・・・
そんな後ろで、赤木博士と日向さんが言い争う声が聞こえた・・・

「でもね日向君、確かに 試作型(テストタイプ) を入れると三機のボジトロンライフルがあるわ
でもエヴァを使わずに運用しようとすると、大型のガントリークレーンが要るんじゃないの?」
「安心してください赤木博士、すでに手配済みです」

私が後ろを振り返ると、赤木博士が険悪な目つきで日向さんを睨み付けていた・・・

「日向君、あなたもグルなの・・・・」

日向さんは、赤木博士の目を怯まず見つめるとニコリと微笑む・・・

「はて・・・何の事ですか赤木博士、僕は使徒の撃滅の為に、精一杯努力してるだけですが」
「・・・いいわよ、皆で私をのけ者にするんなら・・・意地でも真相を暴いてやるんだから」

赤木博士が忌々しそうに呟きながら立ち去る・・・私は呆然とした・・・

「大丈夫だよ山岸さん、ああ見えても赤木博士は仕事はちゃんとする人だから」
「のけ者って・・・どういう意味なんでしょう」

日向さんは、私に悲しそうな目線を向ける・・・

「はは、ちょっとした誤解なんだよ・・・葛城一尉がちゃんと話を聞いてくるよう
助言してくれたんだけど・・・赤木博士は、彼女の助言を勘違いしたらしいね・・・」
「赤木博士は、素直な方じゃ無いんですね・・・」

日向さんは、私に苦しそうな苦笑いを見せる・・・
ごめんなさい日向さん、私、力になれそうもありません・・・

   ・
   ・
   ・

本部直上で、第5使徒がドリルで穿孔を始めて48時間・・・
第5使徒が、自分の足元へ加粒子砲を放てないのを見越した作戦、
作戦企画案AD601が施行される・・・

「放水作業を中断、作業員は直ちに退避に入って下さい」

私のアナウンスが本部に響き渡る・・・
消防車の放水によって、その能力を半分までに削られた、
第5使徒のドリルの先のレーザーカッターは、22層の装甲板の
間に押し込められた、予備の装甲板を全て穿孔して本部直上の、
21枚目の装甲板を貫いた・・・マヤさんがデータを確認する。

「マギ、特殊ガントリークレーンを操作中、ターゲットロックまで
約120秒、ボジトロンライフル周りの作業員は退避急いでください」

ジオフロントの上に浮び、満月に照らされる使徒は、
まるで青い宝石のように美しい・・・そう冷たい、死の美しさ・・・

ジオフロントの大地に、特殊ガントリークレーンに支えられ、
二倍の負荷を掛けて発射される予定の、ボジトロンライフルは
何時爆発しても良いように、周りを無人にされた・・・
すでに射線上の装甲板は、地表の一枚を除いて作業車により撤去済みだ・・・

急造インターフェースにより、マギにつながれた三台の
特殊ガントリークレーンが、生きているようにライフルの銃口を
無駄の無い動きでゆらりと動かす・・・
きっと地磁気とか、重力に合わせて、微妙に発射角度を代えているんだろう・・・

「碇さん、綾波さんエヴァ起動に備えてください・・・」
「了解、山岸さん」
「・・・了解・・・」

碇さんと、綾波さんが、私に素敵な笑顔で答えてくれる・・・
う〜〜〜っ、幸せ・・・この瞬間の為なら、エヴァに踏まれても悔い無し・・・
碇さん達が居るのは、ジオフロントの上に浮ぶ使徒、そのすぐ下の装甲板の中だ・・・
あんなとこに居れば、私だったら怯えて振るえが止まらないかもしれない・・・

「充電率95パーセント、96パーセント・・・」

私の左のフォロスクリーンに、腹ばいになって特殊運搬車に乗ったエヴァが写る、
一台は紫のカラーリングの初号機、もう一台は半端に青と黄色に塗り分けられた零号機だ・・・
そして、右のフォロには三台のボジトロンライフルの、充電状況が表示される・・・

「ボジトロンライフル20型A号機、加速部に発熱発生!」
「陽子が漏れてます・・・電子機器に異常!」
「A号機付近の人員はたたちに退避してください!」

マヤ先輩の声が上がる、青葉さんの顔色も悪い・・・
私には、退避勧告を繰り返すしか出来る事は無い・・・
ああ、どうなっちゃうんだろう・・・

「この段階で、問題が出るなんて・・・設計限界以下じゃない・・・
マヤ、部品の納入メーカーを変えるわよ・・・」
「は、はい先輩・・・20型A号機、加速部電源をカットします・・・
粒子加速トロイド加熱・・・納まりません、安全限界突破します!」

冷徹に状況を分析する赤木博士・・・納品メーカーに苦言を呈しても、
失敗すれば明日は無いかも知れ無いのに・・・ああ、博士も現実逃避してるのかも・・・

「緊急冷却、効果有りません!・・・トロイド融解・・・超伝導状態が失われます!」

マヤ先輩が泣きそうな顔で悲鳴を上げる、メインフォロスクリーンの分割された画面に
冷却液を噴出しながらA号機の加速部が白熱を帯びて・・・爆裂・・・画面を白く焦がす・・・
お腹に響くような重低音の後、本部内も揺れ、一瞬室内が暗くなる・・・

「「「「きゃ−っ」」」」

オペレーター達の黄色い悲鳴が響く・・・私も、知らない間に悲鳴を上げていた・・・
パニックに陥り掛けていた、私の端末から穏やかな声が流れる・・・

「山岸さん、プレゼントしたPDAは気に入ってくれましたか?」
「あっ・・・碇さん・・・は、はい有難うございます、大事に使わせてもらいます」

フォロスクリーンに碇さんの素敵な笑顔が写り、私は魅了される・・・
今までの混乱が嘘のように頭から消え・・・胸の鼓動だけが聞こえる・・・

「山岸さん、落ち着いた?」
「は、はい・・・」
「じゃあ、がんばって・・・」

碇さんの顔が、スクリーンから消える・・・私は、名残惜しげに見つめた・・・
あの微笑みは、私一人だけに向けられたもの・・・ああ、何だか凄く嬉しい・・・

「良かったね、山岸さん」
「あっ、日向さん・・・ごめんなさい我を忘れて・・・」

日向さんが、私に励ますような微笑を向ける・・・ごめんなさい、日向さん・・・心配させて・・・

「良いんだ、だが気を引き締めてくれよ」
「はいっ!20型B号機、20型試作機、共に充電率195パーセント」

私は、日向さんや碇さんの期待に答えようと、自らを叱咤して目の前の現実に取り組む・・・

「20型B号機、試作機、マギが照準を再設定中!
使徒のドリルが22層目の装甲板を穿孔し始めました!」
「照準設定終了しだいエヴァ両機は起動、使徒のATフィールドの中和を開始!」

マヤ先輩の頬が少し赤い・・・私と同じように、綾波さんに激励して貰ったのだろうか・・・
はぁぁぁ・・・碇さんもだけど、綾波さんの微笑みも侮りがたい・・・
日向さんがききりとした声で、指示を出す・・・うぅ、素敵です・・・日向さん・・・

「20型B号機、試作機、照準終了!何時でも撃てます!」

日向さんが私に頷く・・・私は弾かれた様に、エヴァ両機に指示を飛ばす・・・

「エヴァ両機起動してください・・・起動し次第、使徒のATフィールドの中和を開始ねがいます!」
「了解」
「・・・了解・・・」

碇さんと、綾波さんがエヴァを起動する・・・
使徒の展開した、ATフィールドが見る間に中和されていく・・・
ああ、上手く行きますように・・・仏様・・・八百万の神様・・・

「ATフィールド中和!確認!」
「ボジトロンライフル発射!」

生き残った二機のボジトロンライフルから、緑の光芒がジオフロントの天井へと伸びる・・・
装甲板を溶解させながら頭上に伸びる、希望の光・・・私達は、スクリーン上のそれを見つめ続ける・・・

私達の緑の輝く剣が、使徒に突き刺さり・・・それを貫き、爆炎と共に使徒は傾き崩れ落ちて行く・・・
私達は青い宝石が・・・地表へ落下するのを呆然と見届け続けた・・・
崩れ行くそれは、炎に纏わりつかれていても美しかった・・・

私達はそれが地面に激突したショックを身に感じて、やっと我に帰った・・・

「パターン青消滅!!」

私の声が、静まり返った発令所内に響き渡る・・・
司令所に、ゲージに、その他の場所に・・・ネルフの全ての場所で、歓声がまき起こる・・・
私達は使徒に、エヴァの力を借りたとはいえ、自分達の力で勝ったんだ・・・

「諸君、よくやった、君達は使徒に勝った!」
「これは私達からのささやかなお祝いだ、
諸君、緊急至急な者を除き無礼講を宣言する!
事務処理は全て後回しだ、今日は楽しんでくれたまえ」

碇司令と冬月副司令の声が発令所に響く・・・
皆が一瞬静まる中、ドアが開き料理と各種お酒が乗ったワゴンが皆の前に運ばれる・・・
再び前にもましてにぎやかな、歓声がまき起こり・・・ネルフは一瞬の後、宴会場と化した・・・

皆が、料理をついばみながら、お酒を浴びるように飲む・・・

マヤ先輩が頬を赤く染めながら、赤木博士とワインで乾杯している・・・

青葉さんが、どこからとも無く取り出したギターを奏でている・・・

シャワーを浴びて姿を表した碇さんと、綾波さんが、
学生服に着替えて隅の方で静かにシンジャーエールで乾杯している・・・

緊急処理をしている人たちも、入れ替わりに宴会に顔を出す・・・

碇司令と冬月副司令は、あい変わらす一番上の自分の席で
穏やかに笑って、日本酒を飲み交わしている・・・

葛城さんはすでに、ビールの中缶30本目に突入した・・・

「お疲れ様、山岸さん・・・どうだい、ここでやって行けそうかい?」

私はジンジャーエ−ルを舐めながら、日向さんに笑顔で何度も頷いた・・・

「はい、日向さん、ここはとても良いとこですね・・・」

いやだ・・・うれし涙が止まらない・・・私は、今日、返そうと持ってきた、
日向さんのハンカチで涙を拭いてるのに気がついて・・・思わず頬を染めた・・・




To Be Continued...



-後書-


フォロスクリーン = フォログラフ(3D)スクリーン

本編の山岸マユミの設定は完全にオリジナルです
だんだんコメデイ入って来てます・・・なんか頭いたい
二次製作のはずが、ほとんど原形をとどめなくなって来たような気も(汗)
さて次回はいよいよアスカ参戦です、アスカモノの皆さんお待たせしました(苦笑)
でも自分はアヤナミストのつもりですので、シンジの本妻はレイです(滝汗)


ご注意!:新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。


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