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EVA・きっと沢山の冴えたやり方

・第十六話 アスカ、来日・牙をむく海   by saiki 20021213





アタシは自分が試験管ベビーである事は知っていた・・・でもそれが四分割されていたとか・・・
アタシへ、奴らが付けたコードネームが”ツヴァイ”だったとか・・・
訓練や無理な実験で損傷を受けた器官を直すためのドナーを、奴らがどこから得ているのか・・・
アタシは全然知らなかった・・・そしてアタシが全てを知るのは、全てが終わってから・・・

   ・
   ・
   ・

月の光の下、果てしなき海原を進む宅配屋、原子力空母、
オーバー・ザ・レインボー、アタシのエヴァ弐号機のために編成された艦隊・・・
クックッ・・・なんて良い気持ち、天下のUNもアタシの前ではただの足代わり・・・
アタシの眼下では船の波紋が、夜光虫を光らせて綺麗な青白い波が次々に広がっていく・・・

「加持さん、本部のファーストとサードの噂位は知ってるんでしょう・・・」
「ああ・・・ただ本部のガードが固くってね・・・ほんとに噂位だけどね・・・」

うぅ、流石・・・加持さん、ドイツ支部の連中とは大違いね、連中なーんにもつかんでないんだもの・・・

「噂話で良いから・・・教えてよ加持さん」
「二人ともシンクロ率99.89%を叩きだすそうだ、まあ全然確認が取れないんだけどね」

アタシはそれを聞いて青くなった、シンクロ率99.89%・・・
それ理論限界じゃない・・・アタシだって50%越えたばかりなのに・・・

「う、嘘でしょ・・・加持さん・・・」
「まあ・・・噂だからな、明日は二人に会うんだろ、直接聞いて見たらどうかな・・・」

そ、そんな・・・あ、アタシの華麗なデビューが・・・
・・・くうっ、まだ噂話よ、加持さんだって確認してないって言ってるし・・・

「加持さんごめん、アタシ今日は早く寝るわ・・・」
「ああ、アスカ・・・寝る子は綺麗になるからね・・・ゆっくりお休み・・・」

アタシはくるりと加持さんの前で体を翻す、自慢の朱金の髪が滝のように流れる・・・

「うん、アタシ綺麗になって加持さんにもらってもらうんだ・・・」
「アスカ、こんなおじさんより、もっと若い子を探した方が良いぞ・・・」

うぅ、加持さんの意地悪・・・アタシを一人の女の子として見てくれるのは、加持さんだけなのに・・・
アタシを外見で判断するような奴は嫌い、アタシを学歴で見る奴も嫌い・・・大嫌い!

でも、アタシは加持さんに、チルドレンとして見てほしいの?
それとも女の子として見てほしいの・・・分からない・・・でもアタシには、加持さんだけなの・・・
アタシはハッチを締め、それにすがりながら・・・俯く・・・泣くもんですか・・・アタシは強いんだ・・・

   ・
   ・
   ・

良い天気・・・オーバー・ザ・レインボーの露天ブリッジからは、遥か彼方まで見とおせる・・・
アタシの上を二機の大型ヘリ、Mil−55dが通り過ぎる、一機はアタシの弐号機を乗せた、
改造タンカー「オスロー」へ向かい、もう一機がアタシの乗る旗艦へ着艦体制を取る・・・
あれに、あの二人が乗ってるのね・・・うぅ、アタシちょっとだけ怯えてる・・・そんな馬鹿な!

「華麗なアタシを見せてやるのよ、アスカ・・・しっかりなさい!」

アタシは自分を励ますと、お気に入りのイエローのワンピースを翻して甲板へと駆け出した・・・
ああ、肝心な時に加持さんが居ない・・・心細いじゃないの加持さん・・・

アタシは思わず、駐機中のSu−27の影から、ヘリから下りる人影を観察する・・・
25ぐらいの男の人と・・・ああ、ミサトが居るじゃない、あっ、いまミサトが手を貸して
降ろしたのがファーストね、その後飛び降りたのがサードか・・・

「青い空・・・青い海・・・いいね、この感じ・・・そう思わない綾波?」
「・・・うん、碇君・・・やっぱり海の色は青が良いわ・・・」

・・・アタシの耳へ、二人の会話が風に乗って聞こえる・・・なんだか二人とも、変な事言ってるわね・・・
ふふ、でも、私の敵じゃ無いわ・・・見てなさいよ、二人とも、エースの座は私がもらうからね・・・

「ヘロ〜ォ、ミサト元気してた!?」
「あは、貴方も背が伸びたかしら、可愛くなったわよアスカ」

なんだかミサトの印象が・・・明るくなった、なんで・・・
ミサトが突然アタシを抱き締める、彼女の体からラベンダーのよい香りが広がる・・・

気持ち良い・・・暖かさが体中に広がる、お母さんの温もりってこんな感じなのかな・・・
アタシの顔へ、生暖かい水滴が滴る・・・見上げると、ミサトが泣いていた・・・なんで泣くのミサト?・・・

「み、ミサト・・・なんで泣いてるの?」
「ごめん・・・アスカ、私へんね・・・貴方に久しぶりに会ったからかな・・・」

アタシはミサトの目を見つめた・・・違う、懐かしいじゃない、この目はアタシに同情してる目だ・・・
その目にアタシは、釘付けになる・・・ミサト、アタシに同情は不要よ!

「ミサト、紹介してくれない」
「ああ、ごめんなさい、こっちがファーストの綾波レイさん、で、
こっちがサードの碇シンジ君、そして、このお兄さんが新作戦部長の日向マコト君・・・」

ミサトがアタシに、蒼銀の髪の少女と、黒髪の男の子、そして眼鏡の男を紹介する・・・
えっ、ミサト・・・新作戦部長って、アンタどうしたの・・・

「ミサト!作戦部長を降ろされたの?」
「あはは、最近部署を変わったの、だから貴方の上司は彼だからね・・・」

ミサトが笑って、アタシに答える・・・アンタ、ほんとにミサトなんでしょうね、
作戦部長の辞令をもらって、あんなに喜んでたのに・・・信じられない・・・

「ところで、アスカ・・・加持の馬鹿知らない?」
「ああ、加持さんは今朝から見て無いけど・・・ひぃっ・・・」

アタシはその時、ミサトの顔を見上げた事を後悔した・・・
ミサトは笑っていた・・・肉食獣が獲物を見つけたときの笑いだ・・・
アタシは額に冷や汗を掻きながら、一歩引いた・・・こ、怖い・・・

「・・・始めましてアスカ・・・仲良くしましょう・・・」
「あ、綾波さんね・・・アタシこそよろしく・・・」

アタシは特大の猫をかぶって、目の前の少女へ愛想笑いを浮かべた・・・
白いロングブーツに少し大きめの白いネルフジャケット、蒼銀の髪と赤い眼の少女・・・
でも、こいつ、傷つけられた様な目でアタシを見つめる・・・アンタ何が言いたいの!

「・・・お願いアスカ・・・綾波とか、ファーストとかは辞めて、ただ、レイって呼んでほしいの・・・」
「なんで、そうしなければいけないの?
それに、なんで誰も私を惣流とかラングレーとか呼んでくれないのよ!」

アタシは、いらいらして叫んだ・・・この女、何を考えてるの!

「・・・そう・・・呼んでほしいのアスカ?・・・」
「そんなはずないでしょ!」

アタシは、初対面のこいつに何言ってるんだろう・・・言ってる事が支離滅裂だ・・・
相手は、アタシの事を長年の友人のように、扱ってくれるというのに・・・
アタシは、心の奥底でそんな人を探していなかった?・・・本当に?・・・

「わかったわよ・・・レイ・・・これで良いんでしょ」
「・・・うん、アスカ・・・」

ついにアタシが折れた・・・まあ、これからこれに背中預けるわけだし・・・
こいつ、無愛想かと思ってたら、凄く良い微笑をうかべるんだ・・・

「じゃあ、アスカ、僕もシンジと呼んでもらえると嬉しいんだけど」
「!・・・・」

こいつ、アタシの後ろを取った・・・近づくのに気配を感じなかった?
一見のほほんとしてるけど・・・こいつ、出来る・・・

「ふっ!あんたも出来るようね、シンジ・・・お望みどおり、ちゃんと名前を呼んで上げるわ」
「あの、アスカ・・・これは忠告なんだけど・・・ワンピースは辞めた方が良いよ・・・」

シンジと名乗る奴が、アタシに言うと同時に、甲板の上を風が舞った・・・
アタシのワンピースが、押さえる間も無く舞い上がる・・・あぁぁぁぁぁぁっ・・・

「やめてよアスカ・・・事故だったんだから・・・」
「・・・何で逃げるのよアンタ、大人しく見物料を払いなさいよ」

チイィッ!こいつアタシの音速の張り手を避けやがった・・・
アタシは続けざまに回し蹴りを放つ、アタシの攻撃が全て紙一重で避けられる・・・

「この!この!この!この!何で避けるのよっ!当たりなさいよ!」
「あははははは・・・事故だったら・・・」

フェイクで蹴りを放ってから、アタシは渾身の力をこめて右のストレートを放った・・・
しかし、アタシの拳はシンジの奴に片手で押さえ込まれる・・・悔しい・・・

「・・・アスカ、そこまでにして・・・時間が無いの・・・」
「れ、レイ・・・離してよ、こいつに一発食らわせないと我慢ならない!」

アタシの被っていた特大の猫は、何処かへ逃げてしまった・・・
何時の間にか後ろを取ったレイが、アタシを羽交い締めにする・・・
アンタ何時の間にアタシの後ろへ・・・う、うぅっ振りほどけない・・・

「・・・碇君・・・」
「うん、綾波・・・アスカを頼むよ・・・」
「・・・わかったわ・・・」

アタシを羽交い締めにしたレイと、アイツの間で軽く目で合意が交わされる・・・

「ちょっと待ちなさいよ、アタシを無視するなーっ」
「ごめんねアスカ、時間が押してるんだ」

アタシの抗議を無視して、アイツがアタシ達に微笑む・・・
それはまさに、天使の微笑だった・・・
怒りに振るえていたアタシも、後ろで羽交い締めにしているレイも・・・
その笑顔に・・・我を忘れて、頭の中に春の陽射しの温かさが溢れる・・・

気が付くと・・・何時の間にか、アイツも大人二人も居なくなっていた・・・

「・・・さあアスカ・・・貴方の弐号機の所へ行きましょう・・・」
「レイ、離して、アタシはアイツに、思い知らせてやらないといけないのよ!」

もがくアタシに、背後のレイが、アタシの耳に口を近づけて小さな声で呟く・・・

「・・・大丈夫よ、アスカ、恥ずかしがる事は無いわ・・・
碇君は私と、裸で寝た事もあるから・・・気にしないと思うの・・・」

レイが、薄らと赤く頬を染める・・・
アタシは、頭の中を白く染めて固まった・・・レイとアイツの関係って、いったい・・・

   ・
   ・
   ・

アタシとレイを載せたヘリがオスローへ向かう・・・
相変わらずコイツは、アタシを羽交い締めにしたままだ・・・

「レイ、もう逃げないから放してくれない?」
「・・・だめ、アスカならここから飛び降りて逃げるかもしれない・・・」

ちょっとレイ、・・・アンタ、人を戦隊物のヒロインか何かと勘違いしてるんじゃないの?

「レイ、アタシはか弱い女の子なのよ・・・」
「・・・アスカ、貴方はドイツ支部で・・・
戦闘用に、 条件付け(マインドコントロール) されてるかもしれないから・・・大丈夫・・・オスローに付いたら放すわ・・・」

ちょっとレイ、戦闘用の条件付けって・・・いったいそれなによ・・・

「ア、アタシがなんだってそんな事されてるって・・・」
「・・・葛城一尉は、あるキーワードで私と碇君を銃で撃ったわ・・・
いまは、その暗示は解けてるみたいだけど・・・」

アタシは青くなった・・・ミサトがコイツと、アイツを撃った・・・

「うそっ・・・」
「・・・本当の事よ、疑うなら本人に聞いて見ても良いわ・・・」

でも、ほんとに暗示は解けてるの、最後に見たミサトの笑いは間違いなく、
肉食獣が獲物を見つけたときの笑いだったわよ、アンタ・・・

でも、そう言えばEVAに乗るようになった5歳の時から、
時々、アタシの記憶の時系列が、おかしくなる事がある・・・

「・・・アスカ、思い当たる事があるのなら、カウンセリングを薦めるわ・・・」
「うるさい!うるさい!うるさい!・・・黙りなさい!レイ!
素敵に無敵なアタシに、そんな不名誉で不細工な物は不要よ!」

アタシの剣幕に驚いてか、レイが腕を解く・・・アタシは振り向いた・・・

「アタシが何だって・・・レイ!」
「・・・オスローへ着いたわ、アスカ・・・」
「へっ!?・・・」

アタシ達の不毛な会話の進むうちに、ヘリはオスローへ着艦準備に入っていた・・・

   ・
   ・
   ・

アタシの目の前で、カバーを剥がれた弐号機に作業員が集ってる・・・

「ああっ、アタシの弐号機があーっ・・・」

アタシの、真紅のスマートでキュートなエヴァ弐号機の、肩のウェポンラックへ、
不細工な円筒がマウントされて行く・・・くうぅっ、なんなのよこれは・・・

「・・・大掛かりな設備なしで取り付けられる、急造型 (水中) 装備・・・」

レイの奴が、アタシにポツリと呟く・・・

「だからって、こんなとこで取り付けなくても・・・」
「・・・アスカ、早く着替えて・・・ 6番目の使徒(ガギエル) が来るわ・・・」

アタシの目が、狂人を見るように見開かれる・・・レイ、アンタいまなんて言ったの・・・

「・・・使徒が来るのよ・・・アスカ・・・」

アイツがジャケットを脱ぐ・・・下から現れたのは、白を基調としたプラグスーツだった・・・
アタシがロングブーツだと思ってたのは、プラグスーツの足の部分だったんだ・・・

「・・・アスカ、そのワンピースで乗るの?・・・」
「冗談じゃ無いわよ、ちょっと待ってなさいよ、アンタ」

アタシは赤いバッグをつかむと、階段を駆け下りる・・・
もの影を選んで、アタシは思い切って服を全て脱ぎ去った・・・

アタシの自慢の、
透き通った白い肌、豊かな胸、締まった胴のくびれ、キュートなお尻が剥き出しになる・・・
いやだ・・・鳥肌が立ってる・・・アタシ怖がってるの、そんなはずは無いわ、この時の為に、
小さな時から、血の出るような訓練を積んで来たんだもの・・・

「・・・アスカ、しっかりなさい!・・・」

アタシは、自分の頬を両の手の平で叩く・・・
両頬の痺れる様な痛みが、アタシの戦士の血を呼び覚ます・・・
自分専用の、パーソナルカラーの赤いプラグスーツに足を通して、アタシは一気に肩まで引き上げる・・・

「でも、使徒が来るなんて・・・空振りだったら許さないからね、レイ!」

アタシはスーツを左腕のボタンで肌に密着させ、赤いバッグを手に階段を駆け上がった・・・
外での作業はほとんど終わっていて、作業をしてた人たちは引き上げの準備をしている・・・

《・・・乗組員の皆さんも自動操船に切り替えて、ヘリで退避してください・・・》
《しかし・・・我々にも責任と言う物が・・・》

レイと、船員らしい男達が英語でもめている・・・アタシは思わず、首を突っ込む・・・

《つべこべ言わず・・・こいつの言う事を聞きなさいよ・・・レイ、あんた責任は取れるんでしょ?》
《・・・ええ、私は綾波レイ特務二尉です・・・勧告に従ってください責任は私が・・・》
《わ、わかった・・・従おう・・・》

たく、ぐずが・・・でもレイもやるわね・・・自分を上回る身長の男に、気負いせず立ち向かうなんて・・・

「・・・皆さんお気をつけて・・・」
『レイちゃん、無理をするなよ〜〜〜〜っ』
『俺達、レイちゃんの無事を祈ってるからね〜〜〜〜っ』

レイが飛び立って行くヘリに手を振る・・・見送る彼女の、小さな声にスピーカーが答える・・・

「くうぅぅっ・・・なんて、恥ずかしい、男達、なのっ・・・恥じらいって物が、無いわねっ!」
「・・・さっきは助けてくれて有難う、アスカ・・・」
「たいした事じゃ無いわ・・・でも、アンタ英語も出来るのね・・・」

アタシは、レイへの恥ずかしい声援に、頬を薄赤く染める・・・
レイは、さっきのアタシの加勢に感謝の言葉を呟いた・・あんな事に一々感謝しなくても良いわよ、レイ・・・
・・・レイ、アンタはどうするのよ・・・アタシは、レイが残ってるのを失念していた・・・

「・・・アスカ、乗って・・・弐号機を調整するから・・・」
「アンタ、そんな事まで出来るの?・・・と、それよりレイは、何時逃げるのよ?」

アタシはエントリープラグへ潜り込みながら、レイにたずねる・・・

「・・・貴方と一緒に乗るわ、アスカ・・・」
「ちょっ、ノイズとかでシンクロが落ちないの?・・・」

レイはアタシの疑問を無視して、エントリープラグへ共にもぐりこむ・・・
アタシは仕方なく、インテリアに座る・・レイは、インテリアの背部パネルから、
防水タイプのフラットキーボードを取り出した・・・そんな物、これに付いてたの?

「・・・アスカ、LCLを入れて・・・フイックスは日本語を指定・・・
戦闘をオペレートする日向さんは、日本語と英語しか出来ないから・・・」

アタシは、自分以上に弐号機を知っている、レイに嫉妬にも似た感情を抱く・・・
何でコイツはアタシより弐号機に詳しいの・・・アタシの弐号機なのに・・・

「アンタはドイツ語できるの・・・」
「・・・ええ、アスカ・・・」

ちっ!コイツに弱点は無いの・・・アタシは舌打ちしながら、LCLをプラグに満たす・・・
アタシはレイに言われる前に、エヴァの作動モードをスロウモードに設定した・・・

「・・・エヴァ弐号機起動確認・・・アスカ、少しリラックスして・・・」
「うぅっ・・・こ、こうかしら・・・」

アタシは体の力を抜いて・・・心をフラットに保とうとする・・・

「・・・まだ大丈夫・・・使徒が来たら私が教えるから・・・
アスカ・・・お母さんに甘えるみたいに、エヴァに甘えて見て・・・」
「そ・・・そう?・・・エヴァに甘えるようにって・・・アタシママがいないから・・・」

うぅ、レイの奴、難しい注文を・・・とりあえず、加持さんに甘えてる感じで良いのかしら・・・
レイは器用に、LCLの中で膝に乗せたキーを叩く・・・
エントリープラグの壁面のモニターが、アタシの見慣れない、裏モードで立ち上がっている・・・

「・・・ありがとう、終わったわ・・・アスカ・・・」
「で、どうだったの・・・」

アタシは青い目で、レイの赤い眼を睨んで口を開く・・・

「・・・なんのこと・・・」
「いまのシンクロ率よ・・・アンタが居るからノイズでひどい物じゃ無いの?」

アタシの難癖に、レイはキーボードを叩いて答えた・・・

「・・・普通は、気が散るから表示しないの・・・これが、いまのシンクロ率・・・」
「ちょっと、これあってるの?何時もより断然シンクロ率が高いじゃない・・・」

アタシは、何時もより数割増しのシンクロ率を見て眉を寄せる・・・
レイは、アタシの声に表情を曇らせて、その首を横へ振る・・・

「・・・シンクロ率は高ければ良いわけではないわ・・・
エヴァが傷つくと、パイロットも余計に傷付くようになる・・・
貴方は、エヴァの首が飛んでも無事で居られると言い切れるの・・・」
「あぁ・・・そ、そんなこと、アタシに分かるわけ無いじゃない・・・」

アタシは、背筋に悪寒が走るのが分かった・・・レイ、アンタそれを体験した事があるの・・・

「・・・これは機密事項よアスカ・・・他言無用・・・もちろん、加持リョウジにも・・・」
「いいわ、アタシは口が軽いほうじゃないから・・・信じてくれる?」

レイの奴が、妙に冷たい目でアタシの瞳を見つめる・・・くぅ、居心地が悪いわね・・・
どんな機密か知らないけど、受けて立とうじゃない・・・レイ、話なしなさいよ・・・

「・・・エヴァは使徒のコピーなの・・・貴方の弐号機は、第一使徒アダムをコピーした物・・・
だからシンクロ率が400%を越えると・・・あなたや、碇君のお母様のように、エヴァに食われてしまう・・・」
「・・・ママが弐号機に食われた・・・って、
ママは、アタシが四歳の時、アタシの前で首を括って死んだのよ!でたらめは辞めて!」

アタシは、レイに掴み掛かろうとした・・・
アタシのママを愚弄する、アンタなんか引き裂いてやる、死ねっ!死んじゃえっ・・・

「・・・落ち着いて、アスカ・・・貴方なら感じ取れる・・・貴方のお母様を・・・」
「・・・あ・・・あっ・・・あぁぁぁぁっ・・・」

掴みかかろうとするアタシを、レイがアタシの両肩にその手を優しく当てて引き止める・・・
アタシの青い瞳を覗き込むアイツの赤い瞳が、薄らと光を帯びているように感じた・・・

アタシの意識が、弐号機の隅々まで広がる・・・アタシはいま、自分を包み込む暖かい物に触れていた・・・
これは、なに・・・このアタシを、慈しみ守ってくれようとする、この懐かしい温かみは・・・
ママ・・・ママなの・・・これがアタシのママ・・・ママ・・・ママっ!

高揚するアタシの耳に、弐号機が低い唸りを上げるのが分かる・・・
弐号機が真に、アタシに対して反応している・・・弐号機が、アタシを受け入れている・・・

「・・・れ、礼を言うわ・・・ありがとう、レイ・・・でも、貴方達は何者なの・・・
とても、普通の14歳なんて思えない・・・あのシンジと言う奴も、只者じゃ無いでしょ・・・」
「・・・安心して私達は貴方の敵じゃない・・・でも、もう時間切れ・・・」

レイは何を感じ取ったのか、何も写っていないプラグ内で後ろを振り向く・・・
アタシは、とっさに弐号機をノーマルモードに変更した・・・スクリーンに火が入る・・・

「・・・使徒が来たわ・・・」
「使徒が・・・来たの?」

アタシの間の抜けた対応に、反応するかのように、巨大な水柱が上がり、
引きちぎられた巡洋艦が爆炎と共に海に沈む・・・
アタシはエヴァ弐号機を立ち上がらせる・・・エヴァの両の腕に付けられた円筒と、背の円筒が重い・・・

「レイ、この重いのは何なのよ・・・」
「・・・背中のは固形燃料のロケット推進機、両腕のはN爆雷を転用したN魚雷・・・」

はあっ、なんだか目一杯間に合わせって感じするわね・・・アタシは、重い溜息をつく・・・
アタシは、重さのバランス感をつかむため、軽くエヴァに体を動かさせる・・・うぅ、重いっ・・・

「・・・大丈夫、水をテリトリーとする使徒はこれ一体だけだから・・・」
「くっ!そんなこと誰が保障してくれるのよ!」

アタシは内臓電源を確認する・・・ちっ!三分切ってるじゃないの・・・

「・・・私の保証じゃ納得できないの・・・アスカ・・・」
「わあったわよレイ、信じて上げるわよ・・・この戦いに生き残れたらね!・・・」
『こちらオーバー・ザ・レインボー、弐号機に乗ってるのはアスカ君かい?』

レイがキーボードを仕舞い込む・・・アタシは旗艦へ通信回線を開いた・・・

「こちら弐号機、アスカ!詳しい状況をおねがい!・・・」
「・・・日向さん・・・電源ソケットの用意願います・・・アスカ、旗艦へ向かって・・・」
『了解、使徒はそちらへ向かってる、電源ソケットも用意済みだ・・・
アスカ君、一応対策済みだけど、出来ればソフトなランディングを期待するよ・・・』

くぅ、レイが仕切ってる・・・悔しいけど、コイツが一番周りが見えてるみたいだわ・・・

「わかったわ!でも、何時もより重いから、あまりソフトを期待をしても無駄だと思うけど!」
「・・・来るわ!アスカ・・・5時の方向・・・」

アタシは弐号機を屈ませると、オーバー・ザ・レインボーに向けてジャンプさせた・・・
目測で140メーター、エヴァにとってけして無理な飛翔距離じゃない・・・

アタシは綺麗に一回転して勢いを殺すと、空母の甲板に着地する・・・
空母が僅かに傾く・・・とっ、ととっ・・・アタシはカウンターを入れてゆれを押さえた・・・

「・・・日向さん・・・手荷物の処理は?・・・」
『大丈夫だレイちゃん、シンジ君と葛城さんが向かってる・・・
レイちゃんは、アスカ君と一緒に第6使徒の方に集中してくれ』

うぅっ!なんか腹が立っ!手荷物の処理って何の事よ!・・・聞いて無いわよそんなの!・・・
アタシは、甲板に用意された電源ソケットを装着した、電源表示が全て8になり外部に切り替わる・・・

「・・・了解、第6使徒を撃滅します・・・」
「だーっ!動かしてんのはアタシだ!無視して話してんじゃ無いわよ!」

アタシはレイに食って掛る、アタシはアイツの目を、覗き込むように睨み付けるけど、
アイツの赤い目はアタシを見ていない、アタシを無視するんじゃ無いわよ!

「・・・アスカ、くるわ!・・・」
「いったい何が来るって・・・あぁっ!」

アタシは馬鹿だ・・・アタシの弐号機は、使徒の体当たりを食らってあっさり海に落ちる・・・
レイが、背中の固形燃料のロケット推進機に点火する・・・だぁっ、動きが鈍い・・・
しかも、何だか、加熱した水流が当たって背中とお尻と足が熱い・・・

「レイ、これすごく動きが鈍いし、熱いんだけど・・・」
「・・・テストもして無いから仕方ないわ・・・動けないよりまし・・・
それより、使えるのは約20分だから・・・それに電源ケーブルの長さに注意して・・・」

なんだか、アタシはこのM装備、全然使えないやつと言う気がしてきたわ・・・
でも無いよりましか・・・しかし、このN魚雷も役にたつんだろうか?

「レイ、その使徒って奴にこのN魚雷は利くの?」
「・・・普通に使えば、足止めぐらいにしかならないわ・・・
でも、プログナイフででも、コアさえ潰せば勝てる相手よ・・・」

そうか使徒ってのはコアが弱点なんだ、でもそれはどんな物で、どこにあるっていうの?

「じゃあ、そのコアって奴を潰せば勝てるのね・・・で、それはどんな物で、どこに有るの?」
「・・・コアは、赤くて丸い珠みたいな物で、第6使徒のコアは口の中にあるの・・・」

レイ、口の中って・・・あんた、なんでそれを知ってるの?・・・
それに、どうやってそんなの、やっつけろと言うのよ?・・・

「・・・アスカ、後ろ・・・」
「あああぁっ・・・、こんちきしょう!これでどーだ!」

アタシは、エヴァの体をひねる・・・辛うじて、奴の大きく開いた口を避けれた・・・
この野郎、アタシを食う気ね・・・やってやろうじゃないの!・・・

「レイ、N魚雷の発射は?」
「・・・インダクションモードにして、トリガーを引けば、右手のランチャーがら発射されるわ・・・
その後は、左手のキャリアーから装填しないといけない・・・ 追尾(ホーミング) とかしないから、気を付けて使って・・・」

アタシは、インダクションモードを起動して右手を構えた・・・奴が、口を開けたときが勝負だわ・・・
気分はもう、サメに襲われたダイバーね・・・来るならこいってんのよ・・・

「・・・来た、9時の方向・・・」
「おおおっ!こなくそっ!死ねーっ魚やろうっ!」

アタシの叫び声が、段々地を顕わにしてきた・・・アタシは、大口開けた魚野郎へN魚雷を放つ・・・
真っすぐ、奴の口へ向かって進む素直なN魚雷・・・だが、もうちょっとと言うところで・・・

「だーっ、こいつ口を締めるんじゃ無い!」

奴の口蓋で弾かれたN魚雷が、接触起爆でアタシの至近距離で爆裂する・・・
の熱が第六使徒の尾を焼き、膨れ上がる圧力波が奴といっしょにアタシを翻弄する・・・

「ぎやぁぁぁぁぁ〜〜〜〜っ」

アタシは恥じも外見も無く叫んだ、めちゃめちゃに痛いじゃないこれ・・・

レイも、痛そうに顔をしかめてる、アンタもアタシの弐号機にシンクロしてるんだ・・・
ごめんレイ、こいつはアタシの失敗だ・・・アタシは、全身を襲う痛みに耐えながら、
魚雷の次弾をランチャーに込めようとする・・・そこに衝撃が襲った・・・

「くうぅっ・・・なに、何なの・・・」
「・・・使徒が、電源ケーブルを銜えて引いてるわ・・・」

ああっ、Nを落としちゃったじゃないの・・・だぁっ、アイツ弐号機を引き回してる・・・
何時もは揺るぎ無いエントリープラグの中で、インテリアが軋みLCLがゆれる・・・

「・・・左ロケット推進機、脱落・・・右ロケット推進機も燃料が尽きるわ・・・」
「使徒がケーブルを放した・・・違う!」

電源表示が内臓電源に切り替わり、残り時間が見る見るうちに減って行く・・・
奴が電源ケーブルを引きちぎったんだ・・・残り四分32秒・・・22秒・・・
レイ、ごめん・・・アタシ達、駄目かもしれない・・・

「・・・アスカ、四時方向から使徒・・・」
「だーっ!・・・避け切れない!イヤーっ!口は嫌っーっ」

アタシの弐号機に、使徒がその大きな口で噛み付く・・・
そのとたん、腹部から下腹部へ向けて鋭い痛みが走る・・・

「ひいぃぃぃぃぃぃぃっ・・・・・・・」

アタシは苦痛にのた打ち回る・・・使徒の奴が体を揺らすたびに、その歯がアタシの臓物を抉る・・・
ママ痛い・・・ママ痛いよぉっ・・・アタシは、体を二つに折るようにして吐いた・・・
アタシの意識がだんだんと薄れていく・・・レイ、アタシもう駄目だ・・・ごめん・・・

ああ、誰かの細い指がアタシをインテリアのシートから引き剥がす・・・
だれっ・・・そうか、ここにはアタシ以外には・・・レイ、しかいない筈・・・

アタシは無理やり、薄らと瞼を持ち上げる・・・ああ・・・レイがシートに座ってる・・・
あんなに顔をしかめて・・・レイのプラグスーツには、使徒の歯の痕を示す凹みさえ見える・・・
アンタなんでそこに居るの・・・血が出てるじゃない、大丈夫なの・・・レイ・・・

「・・・ごめんなさいキョウコさん・・・そこをどいて・・・このままでは貴方の娘が死んでしまうわ・・・」

アタシは、レイの呟きを上の空で聞いていた・・・
だめだ、何も考えられない・・・
アタシは気を失う寸前、腹の底から響くような、獣の唸り声を聞いたような気がした・・・

   ・
   ・
   ・

全てが終わった後・・・
アタシは、オーバー・ザ・レインボーの自室で目を覚ました・・・
目を覚ました時、傍らにはレイがアタシを心配して寄り添って居てくれた・・・
でもアタシは・・・

「・・・ごめん、レイ・・・一人にしてくれない・・・」
「・・・わかったわ、アスカ・・・」

部屋の扉が締まり・・・アタシは一人になる・・・
そして、アタシは悔し涙で枕を濡らす・・・

「うううっ・・・悔しい、悔しいょ・・・ママ、ママッ」

華麗なデビュー戦?、エースの座?、お笑いだ・・・
使徒を前にしてアタシは、アタシは何も出来なかった・・・
アタシの、血の滲むような訓練はなんだったんだろう・・・
結局、アタシはとんだ、道化者だったんだ・・・

薄暗い船室に、アタシの慟哭が何時までも響き続けた・・・




To Be Continued...



-後書-


アスカが試験管ベビー = 漫画の方の設定を使用しています
固形燃料のロケット推進機 = 酸素を含んでいるので水の中でも使えます、ただ20分動くかは疑問

だんだんオリジナルの比率が上がってきて、TVの台詞はもう見る影もありません。
まあTVと同じ事しても面白く無いのでこれで良しとしましょう(苦笑)


ご注意!:新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。


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