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EVA・きっと沢山の冴えたやり方
・第二十八話 静止した闇の中で・幕間
by saiki 20060610
闇の中、小さなパイロットランプが、ロッカーの中、扉の鏡へ私の青ざめた顔を映し出す。
「こちらポーン707、ビショップ応答してください!」
『ジジッ────ザァ────────ッ 』
私の必死の呼びかけに、インカムが無常にもノイズを返事として返す。
乱戦で所属する分隊とはぐれた私は不安の中、女子ロッカールームらしき場所へ身を隠した。
首の辺りで切られた赤毛の前髪の下で、少し垂れめの青さを帯びた瞳が潤んでいるのが自分でも分かる。
「あ、ああ・・・なんでこんな事にぃっ!」
私はこんな時に、戦自で受けた訓練なんて何の役にも立たないことを実感した。
闇の中から響く、鈴の様な小さなクスクス笑い声と共に、何処へとも無く段々数を減らして行った戦友達。
「み、みんなぁ〜〜〜〜どこいっちゃったのよぉ!」
ついに一人になってしまった私は、
この部屋の片隅で、ロッカーに鬼ごっこのように篭り、
まるで、風をわずらい高熱でもあるかのように、がたがた震える事しか出来ない。
その時、微かな足音が部屋の外から響いてきた、思わず手にしたミネベア9mm自動拳銃を握り締める。
「何で私が、赤い悪魔なのよ!
こんな良い女になんて二つ名を付けるのよ!
もう少し、気の聞いた名前を付けろってんのよ!」
「・・・まだいい、私は青い死神」
ガスが抜けるようなドアの開く音と共に、人の気配が中へと入ってくる。
怒りに燃える声と、冷たい氷のような声がロッカールームに響き、私の背筋をゾクリと寒さが駈け上った。
「ひっ!」
思わず、震えながら握っていた
鉄の塊
がロッカーの薄い鉄板にぶつかり鈍い音を立てる。
そのよく響く音に、自分の心臓が情けなくも脈を一つ飛ばしたのを凄くリアルに体験した。
「何の音?」
「・・・」
あ、いやだ、何だか足音がこちらへと近づいてくる。
ああ・・・神様、どうかこの迷える自衛官をお救い下さい。
「ひいいっ!!!」
ダンとロッカーのドアが、乱暴に引き開けられ、
私は思わず目を瞑ったままで銃の引き金を引いてしまった、とたんに大きな音と共に腕にショックが伝わる。
その瞬間悟った、自分は、いまこの瞬間、人を撃ってしまったのだと、
そして、恐らく人を撃ち殺してしまったであろう、自分を救ってくれる神様は、もう居ないのだと実感した。
「あ、危ないじゃない!
アンタなにしてんのこんなとこで?」
「・・・戦自のトライデント計画は、お父様が潰したのに何故?」
熱に溶ける溶岩のように熱い声と、南極のブリザードのような冷たい声がロッカーの中に木霊する。
私は恐る恐る目を見開いて、覗き込む朱金の少女と、その後ろから冷静な目を向ける蒼銀の少女に気が付く。
そして、どちらも怪我をしていないようなので、ほっとして、思わずロッカーの中に座りこんでしまった。
私は彼女達の武装解除の求め応じ、ゆっくりとした動作で、グリップを差し出すように
銃
を手渡す。
その銃を手に取った朱金の少女が溜息をつき、そして、少女達がそろって、その青と赤の瞳を私へと向けた。
「あんたも可哀そうね・・・」
「・・・・・・」
ああ、お願いです、そんなに哀れむような目で私を見ないで・・・
私を見る二人の少女の目が、
聖母
のように優しく、その
慈悲の心
が私の胸に突き刺さる。
私って、そ、そんなに不幸なんでしょうか、何だかとっても眼差しが痛いんですけど・・・
私の声に成らない呟きは、この聖母様達には届かなかったようだ、ニッコリと朱金の聖母様がおっしゃる。
「安心しなさい、アタシ達に任せれば悪いようにはしないから」
いえ、その、あの、ですから・・・
いえもう良いです、どうとでもしてください、私の目尻に小さな涙が露を結ぶ。
少女達が私服に着替える間、なぜか壁の花になり待たされ、
まあ、まあ、そんなに気を落とさないで、といなされながら、
やんわりと、二人の少女に背中向きにロッカールームから押し出された。
そんな私が、どんと、ドアからの出会い頭に何か軟らかい物にぶつかる。
「やあ、久しぶり・・・えっと、元気みたいだね」
あぅ、思わず口から心地よい息が漏れる、とっても軟らかい優しい声が、
その一瞬、天使の羽のように私を包みこんだ、呆けた様に私は声の出所へ瞳を向けた。
「は、はい、おかげさまで?!」
いやもう馬鹿みたいな対応をしながら、思わず意識が声の主へ吸い寄せられる。
ぶつかった、ちょっと可愛い同じ年頃の男の子がにこやかに私へ微笑む、
その濡れ羽色の短い髪と、黒曜石のような黒い瞳がとてもチャーミングだ。
私には、こんなとこに知り合いはいないはずなんだけど・・・
「ひぃいっ?!」
心地よさを吹き散らすように、
轟
と風の音が聞こえたような気がした。
私の背後で、いきなり人ならざる者の気配が蜜のように濃密に湧き上がる。
あ、ああ・・・何だか三途の川の渡し守が、おいでおいでと、
私へ、嫌に親密そうに手を振っているのが見えるような気がするは何故なんでしょうか?
「まあゆっくりして行きなさいな、霧島マナ、
それとも、いまは別の名前でも名乗っているのかしら?」
「・・・そう・・・そんなに、怖がる必要は無いわ」
いきなり両の肩をつかまれ、左右から声を掛けられた。
軋むように肩越しに振返ると、とっても美しい怖い笑顔が二つ目に映る、
あ、はははは・・・わたし死ぬのかな・・・
そんな弱気な私を、いつか映画でご尊顔を拝んだ、あの渋くてごつい、
敬愛するハートマン軍曹の幻影が罵倒する、ああ、何故か心が和むのは何故なんだろう?
To Be Continued...
-後書-
ハートマン軍曹 = ”フルメタルジャケット”スタンリー・キューブリック監督の鬼軍曹
今回は凄く短いですごめんなさい(冷汗
ご注意!:新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。
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