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EVA・きっと沢山の冴えたやり方

・第二十七話 静止した闇の中で・混乱の中で   by saiki 20050118-20051004



「ミサト!・・・ミサト!・・・」

混濁した意識をやや幼さを残す声が、脳幹の永久の暗闇から引き剥がそうと耳障りなその音量を上げる。
だれよ、私は疲れてるのよ・・・もう少し、そう5分でいいから・・・

「起きなさいよ!ミサト!・・・もう、だらしないんだから!」

いい、だらしなくてもいい、
もう少しこの至高のまどろみの時間を、私に味わせてくれればなにも言わない。

「起きろ───っ!!起きろ──────っ、ミサト───っ!!」

溶けて流れるチョコレートのように弛緩しきった私の体が、激震に見舞われたように乱暴にゆすられる。
だめっ・・・私は寝るの・・・お願い、私の安息を邪魔しないで・・・

「駄目だわ、どうしよぅ・・・レイ」
「・・・手ぬるいわ・・・ともかく起きれば問題ないわ・・・」

冷たい声と共に、それに勝るとも劣らない
冷たいものが首筋から流し込まれ、私は悲鳴を上げながら毛布を跳ね上げた。

「ひァ──────────────っ!!」

安らかな眠りから強引に覚醒させられた目に、
冷たい眼差しで私を見つめるレイと、彼女の行動に頭を抱えるアスカの二人が飛び込んで来た。

「な・・・何をするのよ、レイ!」
「・・・葛城一尉、仕事です・・・
詳しくはアスカに聞いてください・・・アスカ、後はお願い・・・碇君が呼んでるから・・・」

蒼銀の少女は、空になってガラスコップを片手に、
一点の曇りもない赤い瞳で私を見すえたまま淀みない口調で用件を告げると、
突っ込む暇もない程の自然な動きで、意味不明の呟きを残したまま私の仮眠室を退室した。

「・・・な、何なのよいったい?」

首筋を冷水でぬらしたまま、私が擦れた声でつぶやく。
その傍らで、茫然自失状態から再起動を果たした少女が、
朱金の髪を振り乱して、すでに後姿さえ見えぬ無人の通路へ向けて絶叫した。

「ま、待ってよレイ!
寝起きのミサトなんか押し付けられても、どーしろって言うのよ!」
「・・・はぁぁっ・・・いったいどうしたって言うのよ〜っ、アスカ!」

私は強制的に途切れさせられた、
夢の残滓に半場埋もれたまま、諦めがこもった擦れ声でアスカに呼びかけた。

「あ〜っ、ミサト。
外は良い天気だから、良いところに連れて行ってあげるわ!」
「・・・もう・・・勘弁してよ、昨日は徹夜で 集団自殺願望の爺様(ゼーレ) たちの報告書を書いてたのよ・・・」

私は、ジト目でアスカを睨んで、うんざりした声でアスカの声をさえぎる。
はっきり言って勘弁してほしい、三十路に近づいた女にアンタのような十代のパワーは無いわよ。

「断ると後悔するわよ、ミサト」
「・・・どこへつれて行ってくれるって言うのよアスカ?
私の穏やかな眠りを中断させてまで誘うんだから、なまじっかの場所じゃ納得出来ないわよ」

ナチョラルハイで目のすわった私に、アスカがニヤリと人の悪いチシャ猫的笑いを投げかける。

「アンタを使徒ハントに連れてって上げようと思って・・・あー、ミサト、この意味分かるわね?」
「使徒・・・使徒ですってっ!」

私は、大声を上げて飛び上がろうとしたまま、万有引力に負け簡易ベッドから転げ落ちた。
そして、木から落ちたりんごのごとく、冷たい床を転がり受身を取る。

「お───っ、寝起きとは思えない身のこなしね」

アスカがそれを見て、お気楽にその両の手を打ち鳴らし笑えない冗談を飛ばす。
私は、そのあまりにものんびりした態度に不機嫌そうに眉をしかめ、声を荒げた。

「使徒が来てるのに、何で警報が鳴らないのよ!」
「ああ、気が付いてないのミサト?
ほら、今は停電中だから動いてないのよ」

とんでもない事を、さほど慌てた様子もなく口にするアスカから、
私は目線を天井へと向け、常夜灯から非常用のLEDに切り替わっているのを確認して顔を青くした。

「使徒が来てるのに!何で停電なんか!
三系統の電源はどうしたのよ?!電気が来なければエヴァは出撃出来ないじゃないの!」
「まあ、落ち着いてミサト、
アタシやシンジがいるから何の問題もないわ。
それに、こーいう時の為に秘密兵器も有ることだしね。」

アスカが自信にあふれた態度で、
私が今のさっきまで寝ていた簡易ベッドへと歩み寄ると、
軽々とそれを横倒しにして無骨な木箱を顕わにした。

「ジャーン!本邦初公開、こんなことも有ろうかと製作された、
新東洋の三賢者謹製、対第9使徒専用超重ライフル───ッ!!」
「げっ!」

アスカが、木箱の中から某青い猫型ロボットのごとく、
軽々と片手で物干し竿のように長大な銃身を持つ、ライフルらしきものを掲げ上げた。
特殊鋼らしきその凶悪な銃身の黒光りに、私は思わず顔を引きつらせる。

「葛城一尉!し・ご・と・よ!」
「げげっ!」

朗らかに笑うアスカに、私は思わず蛙のごとき唸り声で答えた。

     ・
     ・
     ・

ぎし───路面の継ぎ目の凹凸をタイヤが乗り越える振動が、鋼の長大な塊を肩の筋肉へと食い込ませる。

「あう・・・これ・・・とても重いんだけど・・・」
「感謝しなさいよミサト、シンジがママ達に特別に頼み込んで作ってもらったんだから」

アスカの絶妙のハンドリングで、停電で真っ暗なネルフの資材搬入路を飛ばすエレカーの
荷台で、対第9使徒専用超重ライフルに押しつぶされそうになった私は唸り声を上げた。

「それに───使徒撃滅は、ミサトの存在意義じゃなかったの?!」

うふふと、朱金の髪を纏わせて妖艶に笑うアスカに、私はゲッと嫌な顔をして付き放す様に答える。

「いつの話をしてるのよ・・・アスカ。
今はゼーレの人道無視爺さん達に、一矢報いるのがライフワークよ!」
「そ───なの?」

アスカが、意外そうに目を丸く見開いて私の方を振り向く。

「アタシは───てっきり、
加持ハズバンド、プラス嬢ちゃん坊ちゃんの横で、
酒をかっくらってごろごろするのがミサトの理想のライフワークって思ってたんだけど?」
「あ、アンタね───っ・・・そりゃあ、そういうのが理想だけどね・・・
私は、LCLの海の底でそういう幻想に囲まれてっていうのは───趣味じゃないのよ!」

朱金の髪の少女が風に髪をそよがせながら、クスリと笑いをもらす。
その時、鋭い風きり音と共に鋼同士が打ち合わされでもするような破音が響いた。
私は反射的にヒップフォルダーに手を這わせ、愛用の黒光りする銃を取り出すと油断なく辺りをうかがう。

「狙撃よアスカ!車を止めて!」
「ミサト!なにをあせってるのよ、
アンタは地上最強生物の隣に座ってんのよ、安心してどーんとアタシに任せなさい」

面白がっているようなアスカの声に、私は隣の運転席を振り向いた。
下限の月の様に、笑みをその顔に貼り付けた色白の少女が、
幻影の先がスペード型に尖った黒い尾を嬉しいそうに振りながら、クフフフとはしたない笑いを漏す。
私も引きつった笑いを顔に張りつけ、少女の瞳が透き通るような紺から、
赤みを帯びた紫へと、その内からの光で色を変えるかのように変化するのを見守った。

「フッ・・・アタシを狙撃したかったら、
ドーラ(独製超弩級長距離砲)か、 旧日本海軍の大和の主砲(46センチ砲) でも持ってくる事ね!」

立て続けに硬質な破音が響く、良く見るとそれらは何もない空中に展開された、
淡いオレンジの極小の六角形と、超高速鉄鋼弾の打ち合わされる打音だった。
そして、それを放つやや大振りの狙撃銃を抱えた全身黒ずくめの男達が、私の視界に入る。

「戦略自衛隊!」
「やめなさい、ミサト!人の獲物を横取りすると後が怖いわよ!」

私は、叫び声と共に銃を男たちへとポイントするが、
アスカの言葉にその動き凍らせた・・・誰の獲物ですって?

「アスカ・・・獲物って?!」
「すぐにあたしの相方が方を付けるわ、
それに、あいつらはゼーレに躍らされた連中の駒なんだから、ほら、手加減してあげないとね」

アスカが、私の方を流し見てクスリと笑った。
私たちの乗ったエレカーは、一瞬で連中の真横を通り過ぎ、
諦めが悪い自分は舌打ちをして、後ろの暗闇へと紛れ込んで行こうとする男たちを睨みつける。
だが、男たちは暗闇に紛れ込む前に、蒼銀の光の乱舞の下、瞬く間に床へと転がる事となった。

「あっ・・・レイ?!」
「言ったでしょ、ミサト、相方の獲物だって」

前を向いたまま、アスカがポツリと呟く。
蒼銀の少女は、その日本人形のように白い手を、
軽く私へ会釈するかのように上げると、停電の暗闇の中へと幻のように姿を消した・・・

     ・
     ・
     ・

私達はエレカーを降り、いまだ電源が復旧しない暗闇の中を前へと進む。
闇の中をすたすたと先に進む朱金の髪を頼りに、肩に担いだ鉄の塊が、
自分の撫肩へと容赦なく食い込むのを我慢して、私はよたよたとふらつきながら何とか後を追う。

「あ、アスカ・・・ちょっと待って」
「アハハ、大丈夫よミサト、すーぐ其処だから」

私の世にも情けない泣き声に、少女の軽快な笑いが闇の中に響き、
重い音と共に非常用の隔壁がその隙間を広げる、明るい日光が細く闇を切り裂き、
それが見る間に幅を広げ、日の光の下の第三新東京市の市街が私たちの前にその姿を現す。

「さぁーっ!着いたわょーっ!ミサト!!」

朗らかに笑って振返り、私を手招く少女の背後を、
私は、いきなり黒い巨大な塔のような物が轟音と共に過ぎ去るのを見、目を皿のように見開いた。

「アスカ、いま貴方の後ろを何か・か・か・・・」

闇で四角く切り取られた白昼の市街を指差して、
己が目を疑う私が少女へ声を掛けようとしたその時、
悪夢のように巨大な眼が、白昼夢の如く少女の背後から自分を覗きこんだ。

「#★◎▽※☆♂¥!!!!!!!!!」

私は、その理不尽な光景に腰を抜かし、声にならない悲鳴を上げる。
少女は、そんな私を不思議そうに見つめると、背後を振返り、”ああ”とその手を打ち合わせた。

「なんだ、ただの使徒じゃない、いまさら、なに驚いてんのよミサト?」

少女は事も無げにその両の手を腰にあて、咎める様に肩をひそめた。

「だ、だって・・・し、使徒なのよ!」
「だから、最初からアタシが使徒が攻めて来てるって言ってるじゃない、
さあ、パニくってないでアタシがATフィールドを部分的に中和するから、
ちゃんと狙って撃つのよ、特性の弾は5発しかないんだからね!」

アスカの全然優しくない声が、床に座りこんだ私に投げかけられる。
私は顔を引きつらせながらも、肩に担いだ対第9使徒専用超重ライフル・・・
と言ってもライフルと言うよりは小型の大砲に近い無骨な合金の塊を構え、
特性の弾丸・・・弾丸とは名ばかりの栄養ドリンクのビンのような奴を装填する。
硬質な音と共に薬室へと弾丸が送り込まれ、途方も無く危ない銃の射撃準備が整ってしまった。

「アスカ、あいつのコアの位置は?」

アスカは、横風でなびく朱金の髪を掻き上げ、
青に赤が混じり紫に光る瞳を細め私の問いに答える。

「そうね・・・
正面、下から2つ目の目玉の下から四分の三辺りかしら」

私は額に冷や汗を流しながら、肩へと跨いで反動を後ろへと逃すために背へと伸びるカウリング横へ、
まるでバズーカ砲の様にサイドへ取り付けられた、オリンパスのレーザースコープを覗きこんむ、
スコープの倍率を上げると、内蔵の半導体レーザーが使徒の蜘蛛のように
黒っぽい体表へ赤い点を写し込むのを、その照準線の真中へと捕らえる様に微妙に調節する。

「しゃ、射撃準備完了・・・う、撃ってもいい?」
「ドットサイトを目安に、直径1メートルぐらいは
フィールドは無効化してるはずよ、いつでも良いわよ、ミサト!」

不思議と使徒を目の前にしても、
以前のように心の底から滲み出るようにあの真っ黒な怨嗟が押し寄せて来ない。
私の少しだけ震える声に、アスカの力強い声が答える。

「・・・・っ!」

私は覚悟を決めて声になら無い唸り声を上げると、
すでに安全装置を外されたトリガーへと指を掛ける・・・
”な、南無八幡台菩薩っ〜!・・・ど、どうか暴発しませんように!”と、
心の中でけして手助けしてくれそうもない神様に思わず手を合わせた。
そして、そっとトリガーを絞る、とたんに耳を叩く様に腹に響く音が轟き、
なんだか知らない超合金の塊を刳り貫いた銃口から、ライフリングを削るように
横風や飛翔距離による落下さえ無いとリツコからレクチャーされた非常識な弾丸が飛び出す。

「くっ!」

発射時の燃焼ガスを背後へと吐きながら、
少しでも反動を逃すためにカウリングがスライドしながら後退する・・・
そこまでしても、肩に当てられた分厚いラバーのクッションを通して
重い反動が肩を叩き、私はその痛みに顔をしかめる。
それでも、私は反動を逃すための最小の間隔を置いてトリガーを引き続けた。

「ぐっ!あぅ!くうぅっ!」

私は、響き渡る重低音の射撃音の下、うめき声を上げながら、
念のため一発だけ残して、全ての弾を使徒の同じ場所を狙って送り出した。
しかし、なんて凶悪な弾丸だろう、曳光弾でも無いのに灼熱の尾を引いて一直線に飛翔し使徒へと突き刺さる。
あはは、リツコが、弾一発でフェラーリが買えるって言ってたけど・・・あながち嘘でも無いような気が・・・

弾の命中箇所から灼熱の炎が零れ落ち・・・
使徒の小山のような体が、まるでスローモーションを見ているかのようにゆっくりと倒壊して、
強化処理を施された第三新東京市のアスファルト上に崩れ落ち、
信じられないほどの鈍い音と共に、地面そのものがまるで地震が起こりでもしたように震える。

「や、殺ったの?」

私は、その信じられない光景に眼を見開き、擦れ声を漏らした。
肩がずきずきと痛む、こりゃあ打ち身か、最悪肩関節が逝ってるかもしれない。
でも私は、そんな事さえ忘れて、
己が手であっけなく目の前に倒れた使徒の巨体を見つめたまま思わず呟きを漏らした・・・

「いいの?・・・こんな、あっけなく決着が着いて?・・・」
「良いんじゃない?
ATフィールドは中和してるし、物理法則はちゃんと守ってるわよ、きっと・・・」

私の傍らで、その蒼い目に悪戯っぽい光を宿し、
少女は、その朱金の髪を掻き上げながらクスリと笑いを漏らした。


To Be Continued...



-後書-


強化処理を施された = 普通に考えればエヴァや使徒が歩くだけで地面は陥没しますよね(苦笑
 使徒が来てるのに!何で停電なんか! = この時第三新東京市は人為的な停電に曝されています。
新東洋の三賢者 = キリストの誕生時にそれを祝う為、厩のマリアの元へ訪れた三人の賢者を
 模して名づけれらたマギシステム、それに触発してエヴァSSで発生した総称だが、
 この場合は”碇ユイ”、”惣流キョウコ・ツェッペリン”、”赤木リツコ”の3人の総称。
私達はエレカーを = ゴルフカートのような電動車、この時代の車はすべてハイブリットカーと
 バッテリーカーのようだが、ここでは狭い点検通路なども走れるようにあえて小型の物を使用している。
使徒撃滅は、ミサトの存在意義じゃなかったの?! = 本編13話でゼーレにマインドコントロールをされていたためか?
LCLの海の底でそういう幻想に囲まれて = サードインパクト後の描写、当SSの設定
日の光の下の第三新東京市の市街が = 最初の辺りでミサトが寝ていますが、この時点で時間は昼です、TV11話参照
対第9使徒専用超重ライフル = エンゼルバスターとかバスターランチャーとか
 かっこいい名前でも良かったんですが・・・よそのに出てますのでここはこれで(笑


いや、なんだか全然暇が無くて、
と言うより心の余裕が無くて・・・大変お待たせしました(滝汗
取りあえず”第二十七話 静止した闇の中で・混乱の中で”はこれにて終了です。
ミリタリー趣味が無くて銃関係の描写おざなりです、ごめんなさい(冷汗

ご注意!:新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。


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