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絶望の淵の日常

第一話  逃亡(とうぼう)    by saiki 20030428



僕の 我慢(がまん) と言う名の支柱を、使徒が、父さんが、アスカが、ミサトさんが・・・
他にもいろいろな人達が、寄ってたかって、ガリガリと音を立てて、削り取り傷つけて行った・・・
やがて、すでにやせ細っていたそれは、日常的にふるわれるストレスと言う斧でぼろぼろになり・・・

そして・・・ついに、回復もままならなくなった末に、ぽきりと大きな音を立てて折れた・・・
何時も僕が唱える、”逃げちゃ駄目だという”言葉さえその時の自分の頭には浮ばなかった・・・
ただ、真っ暗な絶望へと僕の心は暴走し、まるで初号機のように声にならない 雄叫び(おたけび) を上げる・・・

「・・・・・」

僕に最後まで優しかった綾波は、 16番目の使徒(アルミサエル) と一緒に第3新東京市を道連れに消えてしまった・・・
加持さんもいない、アスカも帰ってこなくなった、ミサトさんも人が変わってしまった・・・
親友だったトウジは僕のせいで大怪我をした、そしてケンスケも僕を嫌っている・・・
それに父さんは、僕を見てもくれない・・・だからもう、ここへ僕を引き止めるものは何も無い・・・

「くくくく・・・だからもう、こんなとこへ居なくて良いんだ・・・」

身の回りの物を簡単に、ここへ来た時のバッグへつめると、大学ノートのページを一枚破いて
”お世話になりました、探さないで下さい シンジ”と乱暴に書き殴り、
食卓の上にミサトさんの缶ビールを文鎮代わりに置くと、大股にドスドスと音を立てて玄関へ歩く・・・

「さよならペンペン・・・元気でね」

足音に驚いて顔を出したペンペンに、小さく手を振り、ドアを締めて自由へと歩き出した・・・
そして、その足で手近かな銀行に寄ると、ネルフのIDカードであるだけの現金を引き出す・・・
アスカとミサトさんのおかげで、家計が苦しくなった時に気がついたけど、現金を引き出すだけなら、
ローンやリボ払いと違って、IDカードにキャッシュの引き出しの使用制限は無かった・・・

だから、たまたま人がいなかったから良かったけど、
札束をバッグへ押し込んでる中学生の自分は、傍目にもきっと凄く怪しかったに違いない・・・
キャッシュコーナーのガラスに写った僕の顔は、暗い笑みを僅かに浮かべて微笑んでいた・・・

「さよなら・・・もう君は用なしさ・・・」

僕はお金を降ろし終わったIDカードを、怒りを込めて二つに折り曲げた・・・
カードの中の樹脂に挟まれた、ICチップが小さな火花と共に電子的な死を向かえる・・・
これにも、きっと盗聴器とか発信機とか、ろくでもない物が入ってるんだろうな・・・

僕は、それをちょうど信号待ちをしていた瓦礫を満載したトラックの、荷台を覆う幌の下へと押し込む・・・
もうどうなっても良い、みんなくそっくらえだ!・・・どこか、誰も自分の事を知らないとこへ行くんだ・・・
その時、たまたまショーウインドウに写った顔は、凄く晴れ晴れとした頬笑みを浮かべていた・・・

綾波の自爆で引き起こされた混乱の中・・・
私鉄を細かく乗り継いで、ゆっくりとそして確実に、第3新東京市から離れていく・・・

夜はモーテルや公園のベンチで眠った、この時ばかりは日本が常夏になってるのがとても有難い・・・
明日も・・・晴れれば良いな・・・どこへ向かう当ても無く、僕は絶望と言う迷路の中を 彷徨い(さまよい) 続けた・・・

    ・
    ・
    ・

そして、僕は適当な物件を、適当に書類を作って、いいかげんそうな事務所から借りる・・・
セカンドインパクトで両親が居ない人とかが多いので、幸い簡単にアパートを借りる事が出来た・・・

第3新東京市は、マギが隅から隅まで管理してたけど、ここ北海道はまだネットワークさえ
セカンドインパクトから、回復していないところが多い・・・
だからなのかな、ここは雰囲気さえのんびりしている・・・
あの第3新東京市の、ギスギスした空気がまるで嘘のようだ・・・

ちょっと単調だけど、他人の居ない・・・恐れも嫉妬も無い、満ち足りた生活・・・
住んでるのは、狭くて、汚くて、もうどうしようもないくらいぼろぼろなアパートだけど・・・
自分で始めて勝ち取ったかもしれない自由・・・僕はそれを満喫していた・・・
そう・・・たまたまあの時、買い物で電気屋のショーウインドウを見るまでは・・・

「・・・アスカ?・・・」

思わず口から、呟きが漏れた・・・
僕は繁華街の人ゴミの中で、アスカに似た人を見つけて思わず目をそらす・・・

そして、怖い物見たさで、恐る恐るアスカに似た人が居た方へ、再び目を向けると・・・
すでにそこには誰も居なかった・・・
ただ、ショーウインドウの向こうで、ずらりと並んだテレビが、ニュース報道を流していた・・・

「あはは・・・そうだよね、アスカがこんな所へ居るわけ無いよね・・・
でも、何で震えてるんだろう・・・やっぱり怖いのかな・・・」

微かに震えながら、握り締めた手の汗をズボンで拭い自嘲する・・・
そんな僕の耳へ、ショーウインドウの液晶テレビから流れる、ニュースレポーターの声が響いた・・・

『政府からはいまもって、何の発表もありません・・・
ご覧下さい、ここ第3新東京市は廃墟と化しています・・・
市内のいたるところから、凄まじい炎と真っ黒な煙が噴出し・・・
空を焦がす勢いで、全市を焼き尽くそうとしています・・・』

僕は驚いてショーウインドウを 覗き(のぞき) 込む・・・
そこには、第3新東京市をヘリコプターから空撮したリアルタイムの映像が流れていた・・・
崩れ落ちた兵装ビルの跡に開いた穴から盛んに吹き出る炎、そして一面に広がる煙を吐く地割れ・・・
そして、綾波の自爆した後の湖から、湖水が風呂の栓を抜いたように渦を巻いて水位を下げていく・・・

『まさに私の眼下には地獄、そう地獄その物です・・・
果たしてこの下で、どれだけの方が救援を待ち望んでいるのでしょうか・・・』
「・・・僕の・・・僕のせい・・・僕が・・・これは・・・僕が逃げたせい・・・」

僕は、自分の肩を抱いてガタガタと振るえ、額に汗が浮ぶ・・・
テレビの報道は、ジオフロントに何かが合った事を教えていた・・・
ミサトさん、アスカ、リツコさん、父さん・・・みんな・・・みんな、死んでしまったんだろうか?

僕は、何故か目の前がだんだん暗くなって行くのを感じながら・・・
それに、疑問を感じないのを不思議に思った・・・




To Be Continued...



-後書-


また書いてしまいました・・・
短いです・・・もう凄く・・・その上暗いです・・・もう真っ暗・・・
スランプの中でまたもや、”もしアタシが幸せになれるとしたら”以来の、
シンジ君、家出物2作目です、もう癖になりそうですね・・・(滝汗

こういうのも発作的に書きたくなるのですが・・・ある意味電波かもしれません・・・
一応、To Be Continued...ですが・・・果たしてスランプの中続くのか?

自分にとっても全く興味深いところです・・・(ナイアガラ汗


ご注意!:新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。


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