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穏やかな微笑と共に

第1話 vs.Rei  by saiki 20030626



耳に、微かなポンプの作動音が響く・・・
まどろみから解放される様な、けだるい倦怠感が体を襲った・・・
だが、それを振り払って、僕はゆっくりと瞳を開く・・・
赤い液体(LCL) が満たされた 水槽(ダミープラント) の中を、僕の目の前に全裸の 少女達の肉体(スペア) が彷徨う・・・

僕はニヤリと唇をゆがめると、微かな泡が水面へと浮んで行った・・・
ゆっくりと僕も赤い液体を呼吸しながら、泡を追うように水面へと浮び上がる・・・
思い思いに浮かぶ周りの蒼銀の髪の少女達は、
そんな僕を虚ろな笑いを浮かべて、その真紅の瞳で見送った・・・

その時、フッと、僕の脳裏にある疑問が浮んだ・・・この中に、彼女はいるのだろうか・・・
三人目・・・あるいは、再構成された四人目の 最後の彼女(リリス) が・・・

ゆるりとした流れを押しのけ、僕は頭を空気の中へと突き出す・・・
少女達と同じ色合いの、自分の蒼銀の髪から赤い液体が滴り落ちた・・・

「ううぅっ・・・げほっ・・・何度やってもこれだけは慣れない物だね」

僕は、赤い液体を肺から吐き出しながら、立ち泳ぎで梯子までたどり着くと、
周囲に油断の無い視線を向けながら、手すりを握ってそれをゆっくりと上がる、
そしてハッチを開いて水槽の上の平たい所へ、女としてはまだ発育途上の自分の体を横たえた。

「彼女は、既に僕の先回りしようと行ってしまったのか?・・・
いや、それは理論的じゃない・・・
彼女の性格を考慮すると、まだその辺に居ると考えるべきだろうな・・・」

僕は仰向けに横たり、少し小ぶりな胸の鼓動が納まるのを待つ間、一人呟く・・・
横たわった雪のように白い裸体から滴った赤い雫が、まるで血の様に辺りに広がった・・・

「そして、僕がこの水槽から離れるのを待っている・・・
ならば・・・僕のする事は、一つしか思い浮かばないね・・・」

僕の赤い瞳が怪しく光る、それと同時にリレーの入る音が微かに響き、
モーターの静かな振動と共に、自分がいままで浸っていた水槽へと、
バイオハザード用の特殊な、腐食性の液体が注ぎ込まれて行く・・・

僕と同じ姿の 少女(スペア) 達が、ゆっくりと泡と共に分解されて、
水槽の中の赤い液体を、更に赤く染め上げていった・・・

「・・・何をするの・・・」

暗闇の中から、抑揚の無い声で 誰何(すいか) の声が響く・・・
やっぱりここに居たんだね・・・ 綾波レイ(リリス) ・・・
自分の予想が当たったのに満足して、僕は穏やかな微笑を口元に浮かべた・・・
そして、声のしてきた方へ眼差しを向けると、笑いを含んだ声を掛ける・・・

「分からないのかい?・・・
君の逃げ道を塞いでいるのさ・・・」

ダミープラグの中央プラントの根元の影から、自分と同じ容貌の、
だぶだぶの白衣を羽織った少女が立ち上がり・・・きつい眼差しを僕に向ける・・・

「水槽の中に居るうちに、君が僕を無き者にしておけば・・・
君にも勝機は十分に合ったんだけどね・・・自分のスペアボデイに、愛着でも合ったのかい?」

僕は油断無く、ゆっくりと水槽の上に立ち上がり、自分のまだ熟しきっていない少女の裸体をさらす・・・
その僕へ、彼女の真紅の視線が更にきつく突き刺さる・・・

「・・・碇君は私の物・・・貴方には渡さないわ・・・」
「相変わらず君は独善的だね・・・綾波レイ君・・・」

彼女の、抑揚の無い氷のように冷たい罵倒を、僕は穏やかな微笑で受け止めた・・・

「弐号機パイロットとシンジ君を、
ケアなしで 赤い海の海岸(あんなところ) へ放り出して置いた、君が言う事かい?」

僕の言葉を聞いて、彼女は血が滲むほど唇を噛締める・・・
そんなに君は悔しいのかい・・・
なら早く、僕の助言を受け入れて、彼らに手を差し伸べれば良かったのさ・・・
彼らが壊れてしまった時から、僕と君は相容れない存在になってしまった・・・

「・・・貴方はもう用済み・・・消えて・・・」

いきなり彼女は、予備動作無く水槽の上に飛び上がる、
羽織っただけの白衣が羽根のようにたなびき、人形のように整った少女の裸体をさらす・・・

彼女は、振りかぶった腕に這わせたATフィールドの刃で、僕に切りかかった・・・
だがそれを、空中に浮かび上がった八角形の赤い図形が、薄い鋼を打ち合わせるような、
耳に心地よい音と共に、弾き返す・・・それを見た、彼女の目に驚愕の色が浮ぶ・・・

「消えるのは、果たしてどちらかな?・・・レイ君?」

言葉と同時に、彼女を囲むように、僕の発するATフィールドが出現する、
そして、身動き取れなくなってしまった、
彼女のそれを凌駕し、ぎしぎしとフィールドを圧迫して行った・・・

「・・・なに・・・なんなの、これは?・・・
あなたと私に大きな違い・・・いえ、むしろ力は、私の方があるはず・・・」

呆然としながらも、彼女は引き出せる全ての力をつぎ込んでフィールドを維持しようとする・・・
僕は、穏やかな微笑を口元に浮かべながら、更に追詰めるように種明かしをしてみせた。

「君の本体の力は、いま、二人目と君と僕の三人で分け合ってる状態なのさ・・・
だから、ドイツの 第十七使徒(タブリス) からも力を引き出してる、僕に劣るのは当たり前だね・・・」

無駄に足掻く彼女に、僕は、更に絶望と言う贈り物を与えた・・・

「それに、君以上に力に慣れている僕はこんな芸当だって出来る・・・」

僕は量子空間経由で、彼女がリリスから引き出す、
器官のエネルギーラインを、無理やり干渉して力技で捻じ曲げる、
そのとたん、彼女が維持していたフィールドが、力の供給が不安定になり明滅を始めた。

「さよならだね・・・綾波レイ君・・・」

僕の力の前で、まったくの無防備になってしまった彼女は、
徐々に小さくなって行く、空間に押し込められたまま、僕を睨み続けた・・・

「大丈夫、君の肉体が消滅しても、
君の魂は、僕が責任を持って救って上げるよ・・・
あの、壊れてしまったシンジ君が、悲しまないようにね・・・」
「・・・タブリス・・・貴方は・・・信用できない・・・」

何時も無表情だった彼女が、今日は珍しく人並み以下とは言え感情豊かだ・・・

「うん・・・不本意だけど仕方ないね・・・消えたまえレイ君・・・」

僕の言葉と共に、彼女は 赤い液体(LCL) となって弾ける・・・
そして、自由になりガフの部屋へと消えようとする、
小さな赤く輝く彼女の魂を、僕は無理やり現世に引きとめ、
その周りに微細な力場回路をまとわせ、その維持のための力を、
彼女の魂と、周りのLCLから引き出すように設定する・・・

「我ながら良い仕事だね・・・君は幸せ者かも知れ無いよ、レイ君・・・
悠久の時が続く限り、幻影とは言え、そこでシンジ君の甘い夢を見続けられるんだからね」

僕は穏やかな微笑と共に、赤いLCLの中でゆたう、微細な光の筋に囲まれたレイ君の魂に呼びかける。

「後はこれを入れて置く、何か入れ物を探すだけだね・・・」

容器を物色する僕の目が、部屋の中央の物に止まった・・・

「うん・・・良い物があるじゃ無いか」

僕はダミープラグの中央プラントのLCLを排出し、強化アクリルの筒を開くと、
彼女のなれの果てをフィールドを傾けて注ぎ込む、淡い輝きに包まれた彼女の魂は、
幻影のシンジ君との逢瀬にまどろみながら、静かにLCLの中を漂い続ける・・・

「これでアフターケアは万全だね」

僕は小ぶりながらも形の良い乳房の上で、両腕を組んで満足そうに頷いた・・・
その途端に、小さなくしゃみが飛び出す・・・少し体を冷やしてしまったようだ・・・

「レイ君に、白衣の置き場所を聞いて置くべきだったかな・・・」

僕は嘆きながら、ダミープラントの部屋を出て、薄暗い広間を彷徨う・・・
試作エヴァ達の亡骸の間を、僕の白い裸体が歩く様は、正に 地獄の最下層(コキュートス) の名にふさわしい・・・

「後はとりあえず、髪は染めて伸ばせば良いし、目はカラーのコンタクトかな・・・
名前はこのまま渚カヲルでも良いけど、カオリに変えるのも魅力的だね・・・」

エヴァの墓場を彷徨いながらも、
僕は能天気にシンジ君との始めての出会いを、どう演出するかに、悩み続けた・・・

「おっと・・・何より問題なのは、すでにこの身が女性体である以上、
いまの、言いかたを矯正しなきゃいけない事かな・・・うーん、これは練習あるのみかな?」

彷徨い続けていた僕は、偶然、彼女が塵の上を歩いた後を見つけ、その後をたどる・・・
そして”人工進化研究所第三分室”とかかれた施設を見つけ、中へと踏み込んだ。

シートカバーの掛かった機器の間を縫って、僕は目指す物の入ったロッカーを見つける。
鍵は壊れているようだったので、躊躇せずに中からビニールのかけられた白衣を取り出した。

僕は糊の利いてぱさぱさした白衣を羽織り、寒さで鳥肌のたった小粒な乳房と、
淡い飾毛をまといつつある下腹部のデルタを隠して、打ち捨てられたベッドに座りこんで一息つく・・・

「シンジ君、僕と君との間にいた最大の障害は葬ったからね・・・
待ってておくれ、君がここに来るまでには万事受け入れの準備を済ませてしまうよ、
もちろん、僕、いや私とのスイートな部屋も期待しておくれよ・・・うふふふ・・・」

僕は、天井をルビー色の瞳で見上げ、蒼銀の髪に縁取られた顔に穏やかな微笑を浮かべた・・・




To Be Continued...



-後書-


電波に支えられた怪しい、渚カヲルさん(推定15歳、女性)の逆行サクセスストーリーです。
この話の中ではシンジ君と彼女以外は、ろくな事になりません、作者が保障します。(苦笑

また、この話は”戦国時代+エヴァ小説リンク集”の投稿掲示板に、三回に渡って連載された物を、
編集、加筆修正して掲載した物です、既にここへは二話と三話を掲載済みですので、
編集、加筆修正前の物でよろしければ、投稿掲示板で続きをお読みいただけます。(20030626現在)
なお、二話と三話も最終的には編集、加筆修正して当HPに掲載の予定です。

ご注意!:新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。


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