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穏やかな微笑と共に
第2話 case.Rituko by saiki 20030630
ダミープラグ開発のためドグマへと下りた私は、
誰も居ないはずの”人工進化研究所第三分室”の廃墟から、人の気配を感じて驚いた・・・
このセントラルドグマのセキュリティは並では無い、
ネルフの影のトップ3とあの子しかパスは無いはずだった・・・
私は
護身用の銃
を取り出すと、静かに気配のするドアを開ける・・・
「おや・・・珍しい、こんなとこへお客さんとは・・・」
私は、入ったとたんに、何処かで聞いた様な声色の声を掛けられ、
一瞬、その人物に銃を向けたままで、思考が固まる・・・
「だれ?・・・レ、レイ・・・何時ここへ・・・」
だぶだぶの白衣をまとい、液体を入れたビーカー片手に、乾パンらしき物をかじる少女に、
私は見覚えが合った・・・ファーストチルドレン、綾波レイ・・・私のモルモットだ・・・
「ああ、なるほど・・・この体なら間違われてもおかしくはない・・・わね・・・
ありがとう、おばさん、おかげさまで僕の・・・いえ、私の計画がスムーズに進むわ・・・」
おかしい、彼女は定期健診を受けて、とうにジオフロントを出た頃のはず・・・
私の心が危険信号を奏でる、それにレイは私をオバサンなんて失礼な呼称で呼ばない・・・
「うん、ちゃんと容器を探しておいて正解だった・・・わね・・・」
私の前で、見知った姿の、見知らぬ少女が・・・その赤い瞳を自分へと向ける・・・
その面白がるような気味の悪い笑みが私へ鳥肌を生じさせた・・・
ビーカーと食べかけの乾パンを、期限切れの薬品のビンが転がるサイドテーブルに置いた少女が、
幽鬼の様にゆらりと、朽ち果てかかったベットから立ち上がる・・・
「う・・・動かないで!・・・」
私は震える指で、銃口を少女の胸元に合わせると叫んだ・・・
「う・・・動くと、撃つわよ・・・
あなたは・・・一体何者なの?・・・答えなさい!・・・」
少女は私に、唇の端を持ち上げ、ニヤリと嫌な笑いを見せる・・・
私は蛇に睨まれたカエルの様に、背筋を冷たい汗が伝うのを感じた・・・
レイそっくりの少女は、私の警告を無視して、
その視線を、廃材を積み重ねた部屋の隅へと向ける・・・
「ああ・・・貴方ならこれで十分かな・・・」
そして何かを見つけたのか、私の銃に臆せず自然に移動すると、
標本用の容器なのか、強化アクリル製の大型のバケツほどの容器を持ち上げた・・・
「あなた・・・何を考えているの?・・・本当に撃つわよ!・・・」
「このサイズじゃご不満ですか?・・・
駄目ですよ・・・さばを読んじゃあ・・・おば・・・失礼、赤木博士でしたね・・・
私の見立てでは、貴方の体積ならこれくらいは無いと・・・」
私の・・・体積?・・・
私は自分の耳を疑った・・・何故、この少女は私の体積にこだわるの?
蒼銀の髪を僅かに揺らしながら、少女が穏やかな微笑を浮かべて、
アクリルの容器を抱えたまま、私へ近づいてくる・・・
「い・・・いやーっ!」
何時もは、冷静を持ってして、その代名詞とされる私だが、
この時ばかりは、ドグマの不気味な雰囲気も手伝って、完全に冷静さを失っていた・・・
眼を瞑ったまま、金色に染めた髪を振り乱し、銃の引き金を続けざまに引く・・・
フルオートの銃が吼えるたびに、涼しげな高級な陶器を指で弾く様な音が、
人の気配の無い、墓場の底の様なセントラルドグマに力無く響く・・・
私はたちまち、銃の全弾を撃ち尽くし、虚しく撃鉄が音を立てる・・・
「赤木博士、気が済みましたか?・・・」
「いやーっ!よらないでっ!」
私は、ただの鋼の塊となり下がった、グロックG26を少女へと力任せに投げつける。
宙を舞った鋼の塊は少女の顔面を目前に、空中に描かれた八角形の赤い図形に、
その飛翔を阻まれ、妙に涼しく軽やかな音と共に床に落下した・・・
「ATフィールド・・・
何故、こんな所で・・・それに、マギはどうして警告しないの!・・・」
顔面を蒼白にして・・・私は、震える唇から呻き声を漏らす・・・
既に私の恐怖の対象と化した少女は、ゆっくりと何が嬉しいのか、微笑みながら、近づいてくる・・・
「いゃっ!来ないで・・・」
後ずさりを続けた私は、背中を冷たい打ちっぱなしのコンクリートの壁に阻まれ、
そのまま、ズルズルと埃の積もった床へとしゃがみ込んだ・・・
「くすくす・・・大丈夫ですよ赤木博士・・・痛くしないから・・・」
「ひ・ひいぃっ!・・・・」
少女が、その赤い瞳を私に向けて綺麗な笑みを浮かべる・・・
私には、それがとても恐ろしい物に見えて・・・こらえきれず、思わず悲鳴を上げた・・・
「すぐに・・・済みますからね・・・」
少女が私へ、最終通告を突き付ける・・・一体、彼女は私へ何をするつもりなの・・・
ああ、お母さん・・・助けて・・・私が柄にも無く、
とうに鬼籍入りを果たした母、ナオコに縋ったのは数十年ぶりだった・・・
そして、突然、私の目の前が真紅に染まる・・・
意思が暗闇に包まれる瞬間、水の詰まった袋が弾ける様な音が耳に入ったのは、気の所為だろうか・・・
・
・
・
ここは・・・どこ?
私は・・・私は、赤木リツコ・・・
気が付くと私の周りは、果てしも無く続く赤い液体だった・・・
私は、地平線まで続くそれを見わたして、
自分は、これが何だか知っていたような気がして頭をかしげる・・・
そして、視界を塞いだ髪を見て・・・
何故か金髪に染めたはずなのに、母さんと同じ色に戻ってる・・・と思う私がいる・・・
何時、私は髪を染めたんだろう・・・思い出せない・・・
「待たせたな・・・赤木博士・・・」
記憶の底を探っている私へ、突然男の声が掛けられる・・・
はっと振り向くと、水面の上に、何の不思議も無く、
まるで、浅い水溜りの上に立っているかのように、あの人がいた・・・
「さあ・・・来たまえ・・・」
「はい、碇司令・・・」
厳つい顔に黒淵の眼鏡、怖い髭に何時にも無く、優しいはにかむ様な笑みを浮かべている・・・
私は、彼から伸ばされた手を、何の疑いも無く掴むと・・・
何時の間にか、赤い絨毯の上をウェデングドレスをまとって歩いていた・・・
そして、十字架の前で、紙吹雪を肩に積もらせながら、
だぶだぶの牧師の衣装を着た、人形のような美しい蒼銀の少女が、
聖書から顔を上げて、穏やかに微笑みかけながら、その赤い瞳で私を見つめ、問い掛ける・・・
「赤木博士・・・いま、貴方は幸せかい?・・・いや、ですか?・・・」
「ええ・・・幸せだわ・・・」
私は、取っておきの笑顔で、少女の問いに答えた・・・
To Be Continued...
-後書-
グロックG26 = 1985年発売の米国グロック社の最小モデルの、おもちゃのようなその姿に、
標準弾薬九ミリ・パラベラムを11発を収納し、625gの軽さと小ささを生かした使用が可能で、
多くの公私共にフアンがいるらしいです(汗
大型のバケツほどの容器 = 一応、皆様の思い描きやすそうな物と言う事で、バケツをたとえで出していますが
標本を入れる為の(使徒とかの標本用に用意して有ったと言う事で)直径30センチ高さ50センチぐらいの強化アクリルの容器です。
足りない分はカヲルさんが勝手に、赤木博士亡き後彼女の名前で追加発注してると言う(苦笑
この話は”戦国時代+エヴァ小説リンク集”の投稿掲示板に、2回に渡って連載された物を、編集、加筆修正して掲載した物です。
ご注意!:新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。
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