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穏やかな微笑と共に

第10話 epilogue-Requiem  by saiki 20030708



シンジ君は一昨日、享年48歳で他界した・・・死因は交通事故だった・・・
道路に飛び出した子供を助けるためとは言え、その死はあまりにも早や過ぎる・・・
ゼーレの最後の残党を刈っていた私が駆けつけた時には、既に彼は冷たくなっていた・・・

彼の死顔は穏やかな微笑を湛えて、天使の微笑みも敵わないほどに美しい・・・
でも、もうここには彼の魂は無い・・・流石の使徒の私も、ガフの部屋の中へ舞戻り、
生命の根源と混ざってしまった、彼の魂を分離する事は不可能だ・・・

彼は、臨終の苦しい息の下、私にメッセージを残して置いてくれた・・・
一言、「私と過ごせて楽しかった」と・・・
私は、彼と過ごした部屋で、シンジ君が綺麗だと褒めてくれた赤い眼から、彼のために涙を流す・・・

やはりこの体には、使徒のDNAが混ざっていたせいか、
ついに、私達の間に子供は出来なかった・・・
それと、心残りな事は、彼には最後まで幾つかの事に付いては、嘘を突き通す他なかった事だ・・・

だが、それももう良い・・・
(ゼーレ) も、 同族(シト) も、 最愛の彼(シンジ) もいなくなり・・・そして私だけが残ったのだから・・・

    ・
    ・
    ・

彼を荼毘に付し、何も入ってないと教えられた彼の母親の墓に葬った私は・・・
少しばかりの彼の遺髪と共に、久しぶりに、ジオフロントを訪れた・・・

自分の手で、LCLに還元して夢の中へ封印した人々の安息を守るため、
いまここは、幾多の武器に囲まれた、現代のピラミットとも呼べる聖域と化している・・・

私が廊下を行くと、最新テクノロジーで組上げられた 番犬達(ガードロボット) は、女王に従う下僕のように、道を譲る・・・
そして、生ける死者達の葬られたLCLのゆたう水路を、その体を装った、外骨格のみが残るエヴァのゲージを・・・
私は、ATフィールドで重力を遮断して、空中に浮かんだままゆっくりと、その上を通り過ぎ、
かって、前世に無人の弐号機と共に、アダムを求めて辿った道を、一人、セントラルドグマへと向かう・・・

碇君が、遠い来世へと逝ってしまったいま・・・
私が、自分の終焉の地として選んだのは、あの 最後の綾波レイ(リリス) の眠るここだった・・・

既に、時間を巻き戻すほどの力を持たぬ、私が選んだ最後・・・
それはかっての敵と同じ所で、同じように生ける死者として、永久の時を夢の中で過ごすという選択だった・・・

彼女とは最も近しい敵で、その根源は同じ物だったような気がする・・・
あの時彼女が勝っていたら、ここへいるのはおそらく彼女だっただろう・・・

箱根の地熱を汲み上げて動き続ける機械達は、マギの総指揮の元、その役目を忠実にこなし続けている・・・
私は、残っていた数本の出入り可能だった坑道に、
特殊ベークライトを流し込み、ジオフロントを完全封鎖する命令を、端末に打ち込むと、
ダミープラグ中央プラントの強化アクリルの筒を開き、シンジの遺髪をLCLと化して数滴中へと垂らし込む・・・
その雫は、すぐに他のLCLと混ざり込み・・・その痕跡は、元のように跡形も無く消える・・・

「もう、私に出来る事はこれぐらいしかないよ・・・シンジ君・・・」

私は涙の流れた跡の残るその白い顔へ、薄く笑を浮かべると、
着ていた黒い喪服を脱いで、丁重に床へ畳んで重ね、その上に下着を乗せた・・・
そして、熟年の域を越えてもまだ、その美貌の衰えぬ、磨き上げた陶器のように白い裸体を、闇に晒す・・・

「こうして中へ入れば、シンジ君の一部とだけど永遠に一緒に居られる・・・」

裸の私は、強化アクリルの筒の淵を乗り越え、LCLの中へと足を入れた・・・
人肌の温度に保たれた、さらりとした感触の赤い液体が、私の臍の辺りまでを暖かく包み込む・・・
私は端末を一睨して、マギに筒を閉めLCLの注入を始めさせた・・・懐かしいあの赤い液体が、円筒の中を満たして行く・・・

私の目の前を、水流に乗って、 彼女(リリス) のなれの果てが紅い燐光を放ちながら、力場回路をまとわり付かせてゆるりと漂う・・・
レイ君、君はそこで、いまもシンジ君との幸せな幻想を見続けているんだね・・・

「でもリリス・・・この結末に私は後悔はしてない、そう言いきれるわ・・・」

さよなら、私を愛し、憎み、恐れた 人達(リリン) ・・・
貴方達が、たった一人だけだけど、私を認め、愛してくれた (シンジ) を、生み出した事は忘れない・・・

私は、少しだけ大人びたその顔へ、穏やかな微笑を浮かべる・・・
次の瞬間、私の白い裸体は弾けてLCLと化し、跡形も無く周りの赤い液体の中へと溶け込む・・・
ダミープラグ中央プラントの、透明なアクリルの円筒の中には、
二つ並んで仲良く漂う、光る絹糸のような力場回路を纏わり付かせ、紅い燐光を放つ光球だけが残った・・・




  At that point the story comes to an abruptEND...



-後書-


ガフの部屋 = EOEでは冬月さんが「世界の始まりと終局の扉」、TVの23話でリツコが
  「ガフの部屋はからっぽになってたのよ」と言うシーンがあります。
  このガフの部屋の原点は、ユダヤ・へブライの伝承にある、天国の神の館の中の魂の住む部屋で、
  生まれてくる子供の魂が集まっている部屋のことらしいです・・・ということで、
  死んだ魂が戻って行き、新たに再生するために生命の根源として、
  集積する元始の場所と解釈して、この様に使って見ました(作者談

1月にわたり、掲示版と書下ろしを使い分け、掲載して来た”穏やかな微笑と共に”は、
これで全て終了です、トータルで2000行あまり、私の迷文にお付合いいただき、ありがとうございます。

最初の予定では九話で、ハッピーエンドのまま終わる予定だったのですが。
突然の電波で、ジオフロントを現代のピラミットにと言う美味しいネタが出てきた物で
シンジ×カヲル(女)の、愛の結末を書く誘惑に勝てませんでした・・・痛いの嫌いな方、どうも申し訳ありません(滝汗


ご注意!:新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。


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