Novel Top Page
穏やかな微笑と共に
第9話 case.Sinji by saiki 20030709
2016年の最初の日、僕は、父さんからの手紙の通りに、第三新東京駅に降り立った・・・
白い半袖のワイシャツと、濃い紺の学生ズボンと言ういでたちで、額に吹き出る汗を手の甲でぬいながら、
年中続く真夏の陽射しの下、車寄せの木陰に入った僕は、ポケットから一枚の写真を取り出す・・・
「・・・渚・・・カヲルさんか・・・
綺麗な人だけど・・・父さんと、どんな関係なんだろう?」
写真の中から、少し青味がかった肩まで伸びた黒髪に、
細い眉の下から、穏やかな微笑と共に少女の濃い茶色の瞳が自分を見つめ返す・・・
フライパンのように熱せられたアスファルトの上で、蝉時雨が眩暈を起こしそうな旋律を奏でた・・・
第2ボタンまで白いシャツの胸元を空けた僕は、もう少し待って、
待ち人が現れなかったら、冷えたジュースを買いに行こうかと、腕時計を眺める・・・
待ち合わせ時間までには、まだ少し間がある・・・列車が、少し早く着きすぎたようだ・・・
ハンカチで顔の辺りを仰ぎながら、立ち上がった僕の横へ黒塗りのタクシーが止まり、ドアが慌しく開く・・・
「シンジ君!・・・」
突然自分を呼ぶ声を聞いて、僕は振り向く・・・
タクシーのドアを開けて、黒のワンピースをまとった渚カヲルさんが僕に駆け寄ってきた・・・
青味がかった長い黒髪が風に揺れ、白く整った顔に浮かぶ、穏やかな頬笑みが、僕に向けられる・・・
それを見た時、僕は一瞬息をするのを忘れた・・・まるで、そのまま時が止まって欲しいと感じる、一瞬だった・・・
「ごめんなさい・・・先に来て、待ってるつもりだったのですが・・・」
彼女は、少し悲しそうに眉をしかめると、頭を下げる・・・
そして、薄くリップが塗られた桜色の唇から、僕に対する謝罪の言葉が紡がれた・・・
その艶やかな姿に自分は、少し顔を赤く染め、内心うろたえながら、
つい、陳腐な待ち合わせの決まり文句を口にする・・・
「あ・・・その・・・僕も、いま来たところですから・・・」
渚さんは、僕の言葉にちょっと、驚いたように瞳を見開き・・・
やがて顔じゅうにとっておきの笑みを浮かべると、優しい口調で小さく囁く・・・
「くすっ・・・やはり、あなたは・・・好意にあたいしますね・・・」
その言葉に・・・僕は・・・真赤になって、思わず俯いた・・・
・
・
・
タクシーのトランクに、僕の持ってきた軽いバッグを詰めると、
僕と渚さんは、タクシーの後部座席に乗り込んだ・・・
渚さんの後から乗り込む僕の体を、彼女の石鹸と微かなラベンダーの香りが包みこむ・・・
「乙女峠のコンフォート7まで、お願いします」
「あの・・・渚さん、父さんは・・・」
僕の言葉に、彼女はその整った唇をぎゅっと噛締めると、すまなそうに謝った・・・
「ごめんなさい、お忙しい方だから・・・」
「そう・・・そう、なんだ・・・」
彼女が悲しそうな顔をすると、冷房が利いて涼しい車内が、更に肌寒く感じられる・・・
僕は、何か他の話題を持ち出す必要に駆られ、慌てて言葉を言いつくろった・・・
「あの、コンフォート7って?・・・」
「シンジ君のために、こちらで用意したマンションです、
良いところですよ、5LDKで、部屋は広くて数もあるし、
眺めも、交通の便も、セキュリティも万全ですから・・・」
さっきから軽く落ち込んでいた渚さんが、少し笑顔を取り戻して楽しそうに説明してくれる・・・
「防音のオーディオルームも完備してますから、夜中でもチェロの練習が出来ますわ・・・」
「渚さんは、僕がチェロをするのを・・・」
彼女はやっと、僕へニコリと笑い掛けてくれた・・・
「はい、失礼かと思いましたが・・・
当たり障りの無いレベルで、シンジ君の事はこちらでも、調べさせていただきました・・・」
「それって・・・」
彼女の取り付く隙も無い笑顔に、僕は苦笑いを浮かべる・・・
「趣味と、食事の好き嫌い、後は学校の成績が優秀だったことと、
いま、お付き合いしてらっしゃる女性の方がいない事、ぐらいでしょうか?」
「あはは、まあ確かにそうなんだけど・・・」
彼女が口元に指を当て、面白そうに微笑みながら、僕の瞳を見つめる・・・
僕は少しホッとして、彼女に分からない様に小さな溜息を吐いた・・・
「あの・・・そのコンフォート7には僕一人で?」
「いえ・・・ちゃんと、フォローに入らせていただきます・・・」
また渚さんが悲しそうな顔をしている、ぼくはそんなに嫌な顔をしたんだろうか・・・
「あの、家の事は
助け
の人がいなくても、
僕一人でも、何とかなると思うんだけど・・・
どうしても、家に他の人を入れなきゃ駄目なのかな?・・・渚さん・・・」
「シンジ君は、私が嫌いなんですか?・・・」
彼女が瞳を大きく見開いて、泣き出しそうな勢いで僕の目と鼻の先まで迫る・・・
少し潤んだその瞳と、更に濃厚に自分を包みこむ甘い香りに、情けなくも僕は大いにうろたえた・・・
「あ・・・あの、話が見えないんだけど・・・」
「私が、シンジ君をお世話するため、
同居させていただく事に、なっているんですが・・・」
彼女の言葉に、僕の時間感覚が一時的に麻痺し・・・時が止まる・・・
背筋を何か震えにも似た物が通り過ぎる・・・なんだか、自分がどんどん、
深みへ嵌って行くような気がするのは、案外錯覚では無いのかもしれない・・・
「もう、荷物も運び終わっていますから・・・
シンジ君に出て行けって言われたら、私・・・どこへ行けばいいのか・・・」
「あ、いや、その・・・別に、そう言うわけじゃあ・・・」
僕は、こんな時、何を言って良いか分からず、言い淀む・・・
「ぼ、僕が、初対面の渚さんを、き、嫌いなはずないじゃないですか・・・」
「シンジ君・・・ありがとう・・・」
とりあえず、現状をうやむやにしてしまおうと、僕は当たり障りの無い対応に勤めた・・・
その答えを聞いた彼女が、嬉しそうに声を上げると突然、僕へと抱き付く・・・
「シンジ君に、後悔はさせませんから・・・」
天使の誘惑か、悪魔の囁きか・・・渚さんの呟きが僕を夢見心地にさせる・・・
ふわりと甘い香りに包まれた僕は、頭の芯までふらふらと理性を揺さぶられた・・・
もう・・・どうなっても良いや・・・
・
・
・
広い部屋の中、僕は糊の利いた白いシーツの掛けられたベッドに座ったまま、
第二から持ってきた、僅かな身の回り品の整理もせずに、途方にくれていた・・・
部屋自体は凄く立派だし、驚くほど物が用意されていた、だからそちらは問題ないんだけど・・・
「シンジ君・・・お昼の用意できました・・・早く来てくださいね・・・」
「は、はい!渚さん・・・」
ドアを軽くノックしてから顔を出した、渚カヲルさんがお昼の用意が出来た事を伝える・・・
僕の返事に、彼女は穏やかな微笑を浮かべると、先にダイニングへと姿を消す・・・
その黒のGパンにTシャツ、豊かに膨らむ胸を覆う、淡い黄色のエプロンといういで立ちは、
彼女の長い黒髪と、抜けるように白い肌と相乗効果を果たし、15歳の僕にとってあまりに刺激が強すぎる・・・
「平常心・・・うん、平常心だ・・・逃げちゃ駄目なんだ・・・」
僕はのろのろと、ベッドからその重い腰を上げる・・・
良く考えたら、まだ自分は来た時の服のままだ・・・
少し汗の匂いがする自分のシャツに、僕は顔をしかめる・・・
「せめて、シャワーだけでも浴びるんだったな・・・」
こんな事で、僕はこの先、渚さんとやっていけるんだろうかと、
染み一つ無い天井を仰ぎ深々と溜息を吐くと、ドアのノブへ手を伸ばした・・・
・
・
・
広く清潔なダイニングに、僕達の冷やし素麺を啜る音が微かに響く・・・
「あの・・・お味はどうでしょうか?・・・」
「はい、とっても美味しいです・・・」
僕は俯いて、出来るだけテーブルの向こう端を見ないように、一心に素麺を啜った・・・
彼女はもう既に食べ終わったのか、両の手を頬に当てて僕の方を微笑みながら見ている・・・
出された冷やし素麺は、一流料亭にも負けない味だと思った・・・
まあ、そんな事を考える、僕自身は料亭なんて行った事は無いんだけど・・・
でも、あの・・・渚さん・・・じっと見られると、凄く食べにくいんですが・・・
「ご・・・ご馳走様・・・」
「シンジ君・・・時間よろしかったら、少しご相談が・・・」
こそこそと部屋へ戻ろうと席を立ちかけた僕へ、渚さんが声を掛ける・・・
顔を上げると、彼女の真剣な眼差しの眼がそこに有った・・・
「はい、なんですか、渚さん?」
「シンジ君は、これからどうなさりたいですか?」
彼女の艶やかな桜色の唇から、僕にとって意外な言葉がどびだす・・・
「あの・・・意味が良くわからないんですが・・・」
「シンジ君の成績なら、海外に留学も可能です、私が少しサポートすれば飛び級も出来ると思います、
また、日本に留まられても、少し努力されれば来年には、あっさりと大検に合格できると思いますけど・・・」
僕は、彼女の話した意味に、少し頭がくらくらした・・・
「その・・・なんで、そんなに急いで学校を出ないといけないんですか?」
「ああ・・・そう言えば、全然学校を出る必要もありませんね・・・
極論を言いますとシンジ君は、明日から一生遊んで暮らされても、ほどほど裕福な生活が出来ます・・・」
僕は意味が読み取れずに、無意味にうろたえる・・・
「一生って・・・」
「はい、私がお父様からシンジ君の為にと、取り合えず5億ほどお預かりしていますから・・・」
僕の頭は完全に、エンストに陥った・・・
「5億・・・」
「はい、シンジ君の完全に自由になるお金です・・・
たとえこれを使って、シンジ君がお妾さんを囲おうと、ハーレムを作ろうと、
全部カジノですっても、お父様は何も仰らないと思いますわ・・・」
渚さんは、何でも無いように言うと、僕に穏やかに微笑んだ・・・
でも、僕の方は混乱したままだった・・・あの父さんが僕に?・・・
僕の額に汗が浮かぶ・・・5億だって?
「・・・あの、渚さん・・・僕を、からかってるんじゃ無いですよね・・・」
「何故、私がシンジ君を、からかわないといけないんですか?・・・」
僕は顔に、あいまいな笑みを浮かべて・・・引きつった声を上げる・・・
「だって、5億なんて・・・」
「まあ、ショックなのも分かりますけど・・・」
彼女は、困ったような笑みを浮かべて、テーブルに一冊の通帳を広げる・・・
僕は、その印字されたページを見つめて、ついゼロの数を数えた・・・
「あ、あの・・・セロが8つ並んでる様に、見えるんだけど・・・」
「ええ、私にもそう見えます・・・」
渚さんが、それが何でもないかのように、僕に笑いかける・・・
と、父さん・・・いったい、このお金をどうしたんだよ・・・
僕は、父さんの四年前に最後にあった時の、
とても善人とは思えない、髭に縁取られた顔を思い出した・・・
「な、渚さん・・・父さんと連絡取れませんか・・・」
「ごめんなさい、それは無理です・・・
国連の仕事で、危険な極秘任務に付いておられて、何時帰ってこられるかさえ、私には・・・」
彼女が、とても悲しそうな顔をしたので・・・
僕の胸が、鷲掴みにされたように痛んだ・・・僕の声が・・・思わずかすれる・・・
「そう・・・なんですか・・・悪い事して、儲けたお金じゃ無いですよね・・・」
「え・・・ええ、もちろんですとも・・・
出所は、お母様の保険と、遺産、それに国連職員としてのお手当てです・・・
もっとも、碇家としての資産は、推定でこの10倍ぐらいございますが・・・」
僕はもう、どうして良いのか分からず途方にくれた・・・
父さん何考えてるんだよ・・・これ、一介の中学生に持たす金額じゃないよ・・・
「分かりました・・・でも渚さん、それ、小分けにしないと危なく無いですか?
億なんてお金、スーパーとかで特価品を買うときに使う額じゃ無いですよ・・・」
「そうですわね・・・シンジ君のおっしゃる通り、
これは、私も配慮に欠けていました・・・早速、小額の物もご用意します」
癖なのか、彼女は人差し指で桜色の唇をなぞる・・・
その姿が凄く自然で艶やかに感じられて、思わず僕は、ごくりと唾を飲み込んだ・・・
「それから・・・シンジ君は午後から何かご予定は?」
「えっと、片付けるほど荷物も無いから、
汗を流したら、少しゆっくりしようと思ってます・・・」
そういえば、彼女にタオルとかの場所も聞かなきゃ・・・
「では、お早めに汗を流していただけますか?」
「えっ、なんで?」
慌てて、彼女に聞き返す・・・
「シンジ君がよろしければ、午後からは、
多少、身の回りの物を買いに出られてはと思いまして・・・」
僕は、着替えも無いのを、すっかり失念していたことに気が付いて、
少し冷や汗をかいた・・・こんな綺麗な人の前で、何時までも
汗臭い服を着てるなんて、自分には、凄く恥ずかしい事のように思えた・・・
「そ・・・そうですね・・・」
僕の承諾の返事に、渚さんが、ほんとに嬉しそうに微笑んだ・・・
・
・
・
僕達が、タクシーで乗りつけた
デパート
は、年の初めから人でごった返していた・・・
「こうして碇君と歩いてると、まるでデートですね・・・」
「あ・・・あの、もう少し離れて歩いた方が・・・」
僕の言葉を聞いた、渚さんの瞳が悲しみの色に染まる・・・
「あの・・・ご迷惑ですか・・・」
「そ・・・そんな事は無いけど・・・
渚さんの方こそ、僕と一緒で退屈しない?」
彼女は、僕に穏やかに笑い掛けた。
「私は、護衛も兼ねてますから・・・
これでも、武芸百般を心得ています・・・
もしもの時は、恥ずかしがったりなさらず、遠慮なく、私の後ろへお下がりください」
そうなんだ・・・
彼女の、白く繊細な指や腕を見てると、とてもそうとは思えないけど・・・
でも、なんだか女の子の陰に隠れるのって・・・嫌だな・・・
「引くのも隠れるのも、立派な兵法の内ですので・・・
シンジ君・・・くれぐれも、私を困らせないで下さいね・・・」
「・・・う、うん・・・分かったよ・・・」
僕はしぶしぶ、首を縦に振った・・・
でも、躊躇無く、渚さんを盾に出来るかどうかは、
その時になって見ないと、自分でも判らないや・・・
僕は、ちょっと恥ずかしい思いをしながら、
ワゴンセールの下着を一ダース購入して、
同じように、バーゲン品のTシャツやGパンを幾つか買い込む・・・
「シンジ君・・・予算はたっぷりありますから、
もう少し良い物をお買いになってはどうでしょう?」
「いいよ、僕が着飾ったって、誰も見てくれないし・・・虚しいだけだから・・・」
彼女が少し頬を膨らませて、僕に抗議する・・
「そんな事ありません・・・誰が見なくても、シンジ君の事は私が見ていますから・・・」
「うん・・・ありがとう・・・」
僕は、彼女の言葉に少し嬉しくなった・・・きょう、会ったばかりだけど・・・
何故だか、渚さんの事を信頼している自分がいる・・・彼女なら、父さんや母さんがいなくても・・・
そして、それがたとえ彼女の仕事だとしても、渚さんだけは、僕を見続けてくれそうだ・・・
「来て・・・渚さん・・・」
「あ・・・はい・・・」
僕は珍しく他人の前に立ち、その行き先を決める・・・
確か、さっき通り過ぎたコーナーに・・・
「あの・・・これ、彼女に合う物が有りますか・・・」
「プレゼントですか?」
少しお洒落な黒のサマードレス、値段は中学生が買うには少し無理があるけど・・・
お金なんて物は、こう言う時こそ使わないと・・・僕は店員のお姉さんに、少し赤くなって頷いた・・・
「はい・・・」
「クスッ・・・包装とリボンは、当方でおまけさせて貰います・・・では採寸を・・・」
店員のお姉さんがメジャーを取り出すけど、渚さんは少し頬を赤く染めて、
自分の服のサイズを、僕に聞こえないように、そっとお姉さんに耳打ちする・・・
「・・・です、でも・・・」
「はい、大丈夫・・・たしか、在庫があります、少しお待ちください・・・」
お姉さんは、僕達を優しい眼で見つめると、
苦笑しながらペコリとお辞儀して、バックヤードへと消えた・・・
「シンジ君・・・あの・・・どうして?・・・」
「お待たせしました・・・レジはこちらです・・・」
戸惑ったように、しばらく迷っていた渚さんが、心を決めて僕へ口を開きかける・・・
でも、それは綺麗に包装された箱を持って、お姉さんが帰って来たのにさえぎられた・・・
僕はレジでお金を払って、受け取った服の箱を、渚さんに手渡す・・・
「これ、渚さんに・・・
良かったら、着てくれると嬉しいな・・・
それとも・・・僕からじゃあ、迷惑だった?」
「いえ・・・凄く嬉しくて・・・シンジ君が選んでくれた物ですし・・・」
渚さんが、僕から渡された箱へ、とてもいとおしそうに頬擦りする・・・
「あ、あの・・・し、下心は無いから・・・」
「そうなんですか・・・それはとても残念です・・・」
渚さんが、可笑しそうにクスクスと笑う・・・
その笑みが、ちょっと怖く感じるのは何故だろう?・・・
これは・・・デート・・・デートなんだろうか?・・・
僕は、渚さんのほんとに嬉しそうな笑顔を見つめながら・・・それも悪く無いと思った・・・
・
・
・
午後の買い物から帰った僕は、すっかり疲れ果てて、
渚さんの作った夕食を頂いた後、テレビも見ずに自室のベッドに潜り込む・・・
何時の間にか、夢さえも見ない、深い眠りへと沈み込んで行った僕は、微かな物音に、
目を覚ました・・・そして、暗い部屋の中に白い動く物を見つけて、はっと目を見張る・・・
月明かりに照らし出された部屋には、白い体に大人びた黒い下着を纏った、妖艶な彼女がいた・・・
「・・・起こしちゃいました?・・・」
彼女が悪戯っぽく、まだ眼の醒め切っていない僕に微笑む・・・
何時から、其処にいたのだろう・・・
まさか、僕が目を覚ますのを、何時間もずっと待ってたのかも・・・
ベッドの縁に腰かけ、タオルケットの端を持ち上げた彼女が、僕へ静かな声で訊ねる・・・
「シンジ君・・・入っても良いですか・・・」
「あ・・・困るよ・・・」
彼女は、最後まで僕に言わせず、小さく笑うと猫のように素早く、布団の中へともぐりこむ・・・
「ごめんなさい、入っちゃいました・・・・」
「な・・・渚さん・・・」
彼女は、僕と同じ布団の中で、クスリと笑う・・・
僕は、そんな彼女から少しでもはなれようとし、壁際へと追詰められた・・・
「シンジ君・・・私に触れられるのが・・・怖いんですか?・・・
繊細なんですね・・・でも、体を寄せ合わせないと、心も暖かくなりませんよ・・・」
「・・・・・・」
彼女の意味不明な理論に、僕は何も言えずに無言で答えた・・・
「ごめんなさい、お父さんとお会いになりたかったですよね・・・」
「そんな事無い・・・むしろ、ホッとしてるんだ・・・」
僕は目を瞑ったまま、小さく溜息を吐いた・・・
「シンジ君は・・・お父様がお嫌いなんですか?・・・」
あまりにも近くで、彼女の声が聞こえたので目を開くと、
すぐ傍に彼女の顔が合った・・・僕は、思わず頬を赤く染めて、顔をそらす・・・
「うん、嫌いだよ・・・父さんはあの通りの人だし・・・
でも、どうにもならないんだ・・・母さんは死んだって聞いてるし、
叔父さん達も、僕を要らない奴だって思ってるのは、自分でも薄々わかってるんだ・・・」
「そうなんですか・・・でも、いいですね・・・両親の思い出があるという事は・・・」
渚さんが、僕の突き放すような言葉に、悲しそうに目を伏せる・・・
「渚さん?・・・」
「私はそれすらも無い・・・生まれたときから一人ぼっちで・・・」
彼女の声が、消え入りそうに細く震える・・・
僕は思わず、渚さんの方向へ体の向きを変え、その潤んだ瞳を見つめる・・・
「渚さん!・・・」
「でも、こんな私でもシンジ君は受け入れてくれる・・・
私は・・・シンジ君に逢う為に生まれて来たのかもしれませんね・・・」
彼女がその体を、摺り寄るように僕に寄せる・・・
石鹸と、女性特有の甘い香りが僕を押し包つみ・・・
二つの豊かな胸の膨らみが、自分の腕に押し付けられた・・・
「シンジ君は・・・私へ優しくしてくれますか?・・・」
「な・・・渚さん・・・」
彼女の柔らかい唇が、僕のそれを塞いだ・・・・
To Be Continued...
-後書-
TOKYO-3 = TVの第18話”命の選択”で、ケンスケが屋上の手すりに下げていた、
ビニールの買い物袋からデパート名として使用しました、実際はどういう店なのかは一切不明。
一応、ここでシンジ×カヲル(女)の話は終わりです
一々、書いてるとたぶん切が無いので・・・(滝汗
この後、数十年二人にはラブラブな日々が続くのですが・・・
その幸せに満ちた日々にも、ついに終わりがやってきます、その悲しい話は次話で・・・(涙
この話は”戦国時代+エヴァ小説リンク集”の投稿掲示板に、6回に渡って連載された物を、編集、加筆修正して掲載した物です。
ご注意!:新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。
Novel Top Page
Back
Next