【あの日の風景】 『社長との風景』より
なんて、初めは浮かれていたのだけど、その半年後、私はお別れコンサートの準備をしていました。
お別れコンサート、なんて言えば聞こえはいいけれど、実際には少し大きめのライブハウスを借りて行う小さなコンサート。
「すまないな、小鳥君……。私の力が至らないばかりに……」
「何を言ってるんですか、プロデューサーさん。私、この半年間すごく楽しかったですよ? 歌をたくさんの人の前で歌えて、その歌を聞いてくれるファンがいて、私を支えてくれるたくさんの人がいて、そして何よりプロデューサーさんがいて……私、すっごく幸せでした」
「そう言ってもらえると、私も助かるよ」
思えばこの半年間、色々なことがあったなあ……。
レッスンは結構厳しくって、でもそのおかげで声量も音域も広がって、無理なく歌える歌が増えたのは嬉しかったし、自分には運動神経なんて無いと思っていたのに結構激しいダンスでも踊れるようになったり、何よりこうやって自分が成長していってるっていう感覚がはっきりと感じ取れるのが嬉しかった。
でも、それは周りのアイドル達も同じことだったのよね。
結局、合格できたオーディションは片手で数えられるほどで……あーあ、もっとたくさんの人に、私の歌声、届けたかった、なあ……。
「……泣いているのかね、小鳥君」
「そ、そんなこと……ない……ですよ」
……私、こんな気持ちのままラストコンサートで歌えるのかしら。
気づけば、私の心は深く暗い靄に包まれて心を閉ざしそうになっていました。だって、アイドル楽しかったんだもん! もっと……もっと歌っていたかったよ! ワンダーモモみたいになりたかったんだもん!
ともすれば逃げ出しそうになっている私の肩を、プロデューサーさんはそっと支えてくれました。
「私は、小鳥君の歌声が好きだ。君と初めてであったあの日も、舞台袖から君のことをずっと見ていたのだよ、小鳥君は気付かなかったかもしれないがね」
「そ……そうだったんですか?」
初めて聞いた……。
「この歌声をもっと多くの人に届けたい、そう思ったんだ。……小鳥君、君はコンサートが終わった後、そのまま歌を忘れたカナリアになるつもりなのかい? もちろん、歌を忘れたカナリアに意味がないとは私は思わない。……そうそう、今朝、スズメが鳴いているのを聞いたよ。それから、あれは……ヒバリだったかな? それともシジュウカラだっただろうか。……鳥はいつでもどこでも鳴いているよ」
「……私は、歌うことをやめるつもりはありません」
「ならば、歌いたまえ、小鳥君。ファンは君を待っているぞ」
「……はい!」
そう、だった。私は歌うことが好きだった。このまま歌を忘れたカナリアになってしまったら、私は一生後悔するだろう。……だから、私、歌います!
やっぱり、プロデューサーさんはプロデューサーさんでした。
いつだって、私に力をくれるかけがえのない存在……私の大切な人。
「それじゃ、私、いってきます」
「ああ、行っておいで」