【美衝撃】 サンプル2

 ……んん。あれ? ミキ、寝ちゃってたのかな……。
 枕元に置いてあるピンクの目覚まし時計で時間を確認すると、時計の針は12時の5分前。パパとママが出かけたのが7時くらいだったから、5時間くらい寝てたことになるのかな。お姉ちゃん、帰ってきてるかな……。それになんだかお腹がぺっこぺこなのー。
 くしくしと眠い目をこすりながらリビングの方に行ってみると、明かりの向こうからテレビの声が聞こえるの。お姉ちゃんかな、と思いながらリビングに足を踏み入れるとやっぱりお姉ちゃんで、ソファーに座ってテレビを見ていました。

「お姉ちゃんおかえりー。ミキ、お腹ぺっこぺこなの」
「あら、やっと起きたのね、美希。やっぱりご飯食べてなかったか。今お弁当を温めてあげるから、そこ座ってなさい」
「うん」

 お姉ちゃんに促されて食卓のイスに座りながら、まだぼーっとする頭でぼーっと斜め上の空中を定まらない焦点で漂わせてみたりして。
 そうこうしているうちに電子レンジからピッピッという音が鳴って――たまに電子レンジで温めることをチンする≠チて言う人がいるんだけど、電子レンジってチンなんて鳴らないよね?――ほかほかのお弁当がミキの目の前に現れたの。

「おにぎりじゃないね」
「寝てた子が文句言わないの」

 こつん、と軽く小突かれた。そして、お姉ちゃんが買ってきてくれてた唐揚げ弁当をほおばりながら、お姉ちゃんのお話を聞いていました。
 お姉ちゃんにはママからケータイにメールしてあったみたいで、パパとママが旅行に行っちゃったことは知ってたみたいなの。それで、家に帰ってきた後、晩御飯を近くのお弁当屋さんで買ってこようとしたとき、一応ミキのことも起こそうとしてくれたみたい。でも、ミキ疲れてぐっすり眠っちゃってたから全然気がつかなかったな。

「それにしても、いつものことながらお母さん達が出かけるのは急よね」
「ほんとなの。……あ、そういえばミキも明日から温泉行くんだった」
「温泉? 誰と?」
「プロデューサーさんと、律子と、あずさ。あと、テレビのスタッフさん達」
「あ、仕事か」

 お姉ちゃんはミキがアイドルやるって決めたときに、「本気で頑張りなさい」って応援してくれて、今でもミキのこと色々励ましてくれるの。だけど、話が長いし暑苦しいしでミキは適当に流して聞いてることが多いんだけどね。

「それで、準備はもうできてるの?」
「まだ」
「やっぱり。はあ……そういうのはもっと余裕を持って準備しなきゃダメだっていっつも言ってるでしょ? 今日だって、どうせ帰ってきてからすぐベッドに倒れ込んじゃったんでしょ。その前に……」
「分かってるよ。でも、眠かったんだもん」

 はあ、また始まっちゃったの、お姉ちゃんのお説教。これが始まるとなかなか逃がしてくれないの。ほとんど聞き流してるとはいえ、さすがに辛いの。今日は律子からの長いお小言がほとんどなくって、逆に褒められちゃったくらいだから、なんだかとっても気分がよかったのに全部台無し。

「明日は何時に家を出るの? 早いんでしょ? プロデューサーさんに迷惑かけないようにとっとと準備しないと」
「うるさいなあ」

 普段のミキならこんなことは言わなかった。お姉ちゃんの話が終わるまでぼーっとしてるだけだった。なんでかな? せっかく律子に褒められたいい気分を壊されたから? それとも、単に寝起きだから? ミキの中でもこれだという答えは探し出せなくて、ただ、お姉ちゃんがプロデューサーさんのことを呼んだとき、「プロデューサーさんのことは全然関係ないのに。お姉ちゃんにプロデューサーさんの何が分かるの?」ってほんのちょっとだけ強く思った、ような気がするの。
 そして、言っちゃいけないことが、口から飛び出した。

「お姉ちゃんには関係ないでしょ」
「関係なくないでしょ」
「むう……そうやってガミガミ言ってたら、生徒に嫌われる先生になっちゃうんだから!」


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