【菊地真の「地」は土へんです!!】 サンプル1

「おっはよーございまーす!」

 外を吹く風が肌を撫でる度に寒さを感じるようになった11月の中頃。事務所の扉を開け、大きな声であいさつ! やっぱり、芸能人の基本はあいさつだもんね。小鳥さんや律子から返事が返ってきて……あれ? 今日はこれだけしかいないのか。それに、プロデューサーもいないみたいだし。

「ねえ、律子。プロデューサーはまだ来てないの?」
「ああ、プロデューサーなら、今社長室よ」

 社長室? ふーん、社長と話し中か。あんまり悪い話題じゃないといいんだけどなあ。

「シャボン玉爆弾〜!」
「うわあああ!」

 いきなり聞こえてきた元気な大声と太陽の光が反射してキラキラと虹色に光っているシャボン玉の先には、亜美と真美がなにやら遊んでいるのが見えました。
 なんだ、二人とも居たんならあいさつくらい返してくれてもいいのに、もうしょうがないなあ。

「うぎゃ! ……目痛いー! もう、亜美ったら、シャボン玉が目に入っちゃったじゃん!」
「うわわわ! ごめん、真美ー」
「あーあー、二人ともなにやってるのよ。ほら、目を洗いに来ましょ、真美」
「うん、ありがと、律っちゃん」

 真美は律子に連れられて洗面所に向かいました。そして、ここには一人ぽつんと取り残された亜美。自分の失敗が堪えたのか、さっきまでの太陽のような元気はすっかり暮れてしまっていました。
 まあ、いつも仲良しの二人だし心配はいらないとは思うけど、一応ね。ボクは亜美の頭に軽く手を置いて、優しく諭しました。

「なあ、亜美。真美が帰ってきたら、もう一度ちゃんと謝るんだぞ」
「……うん」
「ところでさ、さっきのは何の遊びだったの?」

 実はさっきからずっと気になってたんだよね、シャボン玉爆弾のこと。なんとか爆弾、なんてネーミングは子供の頃なら誰でもよくやるとは思うんだ。ほら、泥んこ爆弾とかさ。でも、さっきの亜美の言い方は妙に芝居がかっていて、何かの真似をしているように聞こえたんだよね。そうそう、亜美と真美は物真似もよくやってるんだ。

「あのね、戦隊ごっこ」
「戦隊って、あの戦隊?」
「? まこちんの言ってる戦隊がどれだか分かんないけど、とにかく戦隊だよ」

 亜美に詳しい話を聞いてみると、どうも亜美の友達のみーちゃんのお兄さんが戦隊好きらしくって、ビデオやらDVDやらをたくさん持ってるらしい。その中の一つに例のシャボン玉爆弾を使う敵がいたみたい。
 ふーん、戦隊か……。ボクも昔はよく見てたけどね。遊び相手は専ら男の子だったし、見ないと付いていけなかったっていうのもあったし。ボク、本当は魔法少女ものとかそういうのが見たかったんだけどなあ……。父さんがすぐチャンネル変えちゃうんだよなあ……。いつか自分の手に収めてやるからな! チャンネル権!


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