【菊地真の「地」は土へんです!!】 サンプル3
夏の日差しが肌を焼き、気付けば汗が体中から噴き出ている、そんな夏真っ直中。
ボクは、まるでサウナの中にいるような状態に置かれていた。
ミューレンジャー中盤の山場、潤穂、頼子とのライバル関係にあった敵の幹部デクレサンの最期となる話の撮影が、今日行われている。
この話の中で、ミューレンジャーはぼろぼろにやられ、ヘルメットのバイザーが破壊されて中の素顔が見える状態になる。つまりそれは、ボク達変身前の役者が実際にスーツを着て変身後を演じるということに他ならなかった。
そして、ボクは今まさにミューピンクのスーツの中に入っていた。
いくら目の前のバイザーがないからといっても、視界は最悪。左右は全くと言っていいほど見えない。こんな状態で、今まであれだけの激しいアクションをこなしていたのかと思うと、朝霞さんや五十嵐さんの凄さが身にしみて分かる。
さすがに、ボク達にアクションを専門でやっているスーツアクターさんと同じことをやれと言われても土台無理な話で、いつも通りの演技とアクションだけに留まることは留まるんだけど……。
「真くん、今日は頑張ろうね」
「うん! ボク達の見せ場だもんね!」
隣でボクと同じようにイエローのスーツを着た真琴が、誰かに不安を払って欲しそうな雰囲気をまといながら、ボクに話しかけてきた。
そういえば、結局お互いのことは「真琴」「真くん」って、いつの間にか呼び合うようになっていました。ミューレンジャーの他のメンバーやスタッフさんからは、ややこしいややこしい言われながらも、「イエロー、ピンク」って色で呼ぶ人、「黄まこ、桃まこ」なんて色+「まこ」で呼ぶ人、それから「女のまこと、男のまこと」なんて呼ぶ人まで現れる始末!
最初の頃は、「ボクは男の子じゃありませんよー!」って、半分冗談交じりで答えていたけれど、今じゃすっかり慣れたもんで、「男の方のまこと」って呼ばれると「はーい」なんて条件反射で答えられるようにまでなっちゃった。……とほほ。
「それじゃ、リハーサルいきまーす!」
スタッフさんの声が聞こえて、刹那に菊地真から園麻潤穂へと自分の中でモードが変わる。初めの頃は、なかなか役に入れなかったけど、半年の間でこんなにも切り替えが上手くいくようになったなんて、我ながら成長したと思う。
目の前にいるデクレサンの中に入っているのは、五十嵐さんだ。相変わらず五十嵐さんの女性らしい動きを、ボクは越えられてはいないと思う。
でも、今日ここでミューピンクとしてデクレサンを倒すことでミューレンジャーが壁を一つ乗り越えるように、ボクも園麻潤穂として、そして菊地真として、ただ全力でぶつかるだけだ!
五十嵐さんは、自分なんかよりボクの方がよっぽど女性らしいと言った。ボクはその意味をずっと考えていたんだ。それこそ、夜寝ている間だって。
その答えはまだ分からない。だけど、こうじゃないか? っていう想いが一つボクの中に生まれた。
答えは己の中にある。
ボクが女であること自体が尊いものなんじゃないかって……、父さんの影響だからとかそんなの関係なくて、ボクが女としてこの世に生まれ落ちて女として生きている限り……、ボクがボクでいる限り、ボクは決して「男」になんてなりはしない、って。
女性っぽくなろう、なんていうのは、結局偽りでしかないんだ、って……。
これは、あくまでもボクの推論でしかないんだけどね。ボクの中に生まれた小さな想いのカケラ、このカケラが果たしてボクの求めていたものなのか? いつか、この話を五十嵐さんにも聞いてもらおう。そのために恥ずかしくない戦いをしよう。
その答えを見つけるために、ボクは今、五十嵐さんを乗り越える!
さあ、クライマックスの始まりだ!