【二人のマイベストフレンズ】 サンプル2
「もう、遅いわよー、あずさ! また迷子になっちゃてるのかと思ったじゃない」
「ごめ〜ん、友美、プロデューサーさん」
「あずささん、『プロデューサーさん』って呼ぶのはそろそろやめませんか? もう、あずささんのプロデューサーでもなんでもないわけですし」
「でもー……」
私の結婚式が終わってから一月ほど経ったある日、私と友美とプロデューサーさんとで、久しぶりに会うことになりました。場所は、友美お勧めのエスニック系の創作料理のお店。私は辛いものが苦手なんだけど、友美が言うには私でも大丈夫らしいので、ちょっと期待しています〜。
私が765プロを離れて、もう一年半以上が経ちますけど、未だにプロデューサーさんのことを「プロデューサーさん」という癖が抜けないんです。もちろん、新しいプロダクションにもプロデューサーはいましたけど、私のスケジュールなんかを管理していたのはマネージャーさんだったし、もう愛称のようなものになってしまっているんですよね。
友美なんか、プロデューサーさんのことを「たろ君」って呼んでいるんですよ。初めて聞いたときは、何それ? って思ったりしたけれど、友美の結婚式の時に私が「太郎さん」って紹介したことが由来だと聞いて、妙に納得はしてしまったけど、思い出す度に顔から火が出そうです。やっぱり友美ったらひどい! もう、あの時のことは忘れてくれればいいのに……。
私がトップアイドルとして最高の自分になれたと思ったその時、私の隣にいたのは先輩でした。私は、とても悩みました……。プロデューサーさんこそが運命の人だと信じてきたのに、いつも隣にいた先輩に心を惹かれていることに気がついてしまったからです。
決して遠くはなかった私とプロデューサーさんとの距離。それでも、離れてしまったことはお互いの間をつなぐ力を弱めてしまうことになりました。そして、より近い位置に入ってきた先輩との引力の方が強くなっていったんです。
もちろんこのことは友美にも相談したんですけど、「あずさが幸せになれる方を、私は応援する」と言われてしまって、しばらくは夜も眠れませんでした。
結局、私が選んだのは先輩でしたけれど、それはきっとタイミングの問題だけだったのかもしれないと思っています。ただ、この時プロデューサーさんを選んでいたとしても、にべもない返事が返ってくるだけのような気がしていました。
きっと、愛し愛され、という形だけが一番良い形だとは言えないということなんだと思います。
「それにしても、意外だったわねえ。私は絶対に、あんた達二人が結婚するって思ってたのに」
「私だって、そうだと思ってたのよ。けど……」
「僕だけは、そうは思っていなかった。……なんだか、僕が悪者みたいだなあ」
プロデューサーさんは、やっぱり私には恋愛感情は抱いていないみたいでした。でももし、私がプロデューサーさんの下でトップアイドルになれていたとしたら、私はガラス板を破ってプロデューサーさんに駆け寄っていたと思うんです。たとえ砕けてしまったとしても、何度でも。
「今だから言いますけど、僕だって本当は、あずささんのことを一人の女性として気になっていたことはありましたよ。プロデュースを始めてしばらくしてからは。……うん、多分好きだったんです」
プロデューサーさんは自分の気持ちを確かめるように、何度も頷いていました。プロデューサーさんが私のことを好きだった……その言葉はもっと早くに聞きたかった言葉かもしれません……。
「でも、あずささんと一緒に仕事を進めていくうちに、こんな気持ちのままじゃダメだって、そんな浮ついた気持ちじゃトップアイドルを育てる事なんてできないんだって気付いたんです。特に、運命の人のことを聞いたときからは……」
運命の人。それは、世の中にたった一人だけいる、私を愛してくれる白馬の王子様。
「運命の人が見つかって、本当によかったですよ」
だとすると、さしずめプロデューサーさんは、王子様を乗せて私の所へ導いてくれる白馬だったのかもしれませんね。
結果的に、プロデューサーさんは運命の人ではなかったですけれど、私の運命の人を見つけてくれたのは、やはりプロデューサーさんです。そのことは、これから先、ずっと忘れることはないと思います。
「そうなると、次はたろ君の番になるわよねえ。で、どうなのよ? あてはあるの?」
「い、いや、どうって言われても……」
「あら、ダメですよ、プロデューサーさん。今までプロデューサーさんにお世話になってきた分、今度は私がプロデューサーさんの運命の人を見つけてあげる番なんですから」
「い、いや、だから別に……」
もう、プロデューサーさんったら、こういうところは相変わらずなのかしら? このままじゃ、本当に独身のまま終わってしまいますよ? ……でも、そうね、結婚はそう急いでするものじゃないものね。
私がこんなにも早く運命の人に出会えたのは、やっぱりプロデューサーさんのお蔭だもの。もし、アイドルになっていなかったら、もしプロデューサーさんに出会えていなかったら、きっと私は学生の頃と変わらずに地味なままで、未だに運命の人とは出会えていなかったんじゃないか、そう思います。
だから、私に手伝えることがあれば、何でも頼ってくれてかまいませんからね、プロデューサーさん。だって、私たちは親友じゃないですか。