【Sincerely Yours】 サンプル2

【真】

 えー、おほん。あーあー。
 どもっ、真です。
 って、何緊張してるんだボク……。
 カメラに撮られるなんて日常茶飯事だし、プロデューサーにメールするのだって日常茶飯事じゃないか。よし、ここは一発気合いを入れて、っと……。
 はあっ!!
 ……ふーっ、よし!
 それじゃ、改めてテイク2。
 えっと、お待たせしましたプロデューサー、真です。
 そっちはなんだか大変なことになってるみたいですね。
 こっちは、プロデューサーがいない間もずーっとピーカンでしたよ。
 あんなに天気がいいと、気分もいけいけゴーゴーで、ついつい外を走りたくなっちゃいますよね。というわけで、ボクもここのところ毎日ランニングしてました。
 基本は一人なんですけど、千早と一緒に走ったり、美希と一緒に走ったりもしましたよ。一人で走るのも思いがけないところでいろいろな発見があったりして、それはそれで楽しいんですけど、誰かと一緒に走ると必然的にお互いを意識しちゃうから、話しているうちに相手の新たな一面を見つけたり、負けられないなっていうライバル意識が芽を出してみたり、すっごく面白いです。
 今回発見したことといえば、美希って思ってたより足がずっと速いんですよ。
 正直、ボクなんかよりも速いかもしれないなって思ったくらいです。
 でも、美希って体力がないじゃないですか。それに怠け癖もあるんで、ことあるごとにすぐ「休もう」って言ってくるんですよね。
 もし、美希が本気を出したらどれだけ速いんだろうなあ。くーっ! 考えただけで燃えてきたー!
 よーし、ボクもどんどん鍛えてもっと速くなるぞー! って、ボク、陸上選手じゃなくてアイドルなのに、足ばっかり鍛えてても仕方ありませんよね。
 筋肉隆々な足じゃ、グラビア見てるファンもつまんないんじゃないのかなあ。……はあ。
 あ、あと、最近千早の家に遊びに行くことがよくあるんです。よくって言っても、多くて月に一度か二度くらいなんですけど。
 理由は……まあ、色々あるんですけど、恥ずかしくってちょっと言えないです。ごめんなさい。
 言えることとすれば、千早と一緒にお風呂に入るのが楽しい、ってことくらいかな。
 ボクって一人っ子だし、通ってるのがいくら女子校とはいえ、同年代の女の子と一緒にお風呂に入る機会なんてそうそうあるもんじゃないですか。
 だから、そういう機会が訪れて、なんか嬉しいというか。
 そうだ、今度みんなの家のお風呂巡りツアーでもしようかな。あずささんとかものすごく歓迎してくれそうだと思いません?
 でも、逆に伊織とか雪歩の家は、なんか気後れしちゃいそうですけどね。へへ。
 一緒にお風呂に入るだけならスーパー銭湯とかでもいいんですけど、やっぱりよその家に上がるっていうのが楽しいんですよ。
 その家の空気に触れるっていうのが、たまらなく好きなんです。
 話は変わりますけど、さっき一人で走ってると思いがけないものを見つける、って言いましたよね。
 それで、ボク、見つけたんですよ。
 アスファルトを突き破って太陽の光を手に入れた、名もない一輪の小さな花。
 本当は、きっと名前だってあるんでしょうけど、ボクには分かりませんでした。
 アスファルトを突き破って咲いてる花なんて、あんまり珍しいものじゃないとは思うんです。
 でもそのとき咲いていた花は、薄紫色の花びらをこれでもかっていうくらいに広げていて。その後、走っていても、ずっとその花の薄紫が頭から離れなかったんです。
 ボク、ずっと不思議だったんですよね。どうしてに細くて弱々しい植物が、アスファルトなんていうものすごく硬い壁を突き破れるんだろう、って。
 きっとこれが、「乙女の一念、岩をも通す」ってやつなんだろうなって思いました。あれ? 「苔の一念、岩をも通す」でしたっけ?
 とにかく、ボクもバリバリの乙女としては負けてられないなって。
 この先、どんな壁が立ちふさがっても一念をもってすれば、突破できない壁はない。
 その思いを心に秘めながら、これからの仕事に臨んでいこうと誓いました。
 えっと、なんだか結局自分のことばっかりになっちゃいましたね。まあ、いいか。
 無事に帰ってきてくださいね、プロデューサー!

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