【ひみつガールズ】 サンプル3

「じゃーん! これが真用のパジャマでーす!」
「わー」

 ぱちぱちぱち。
 と、ノリでつい拍手をしてしまう。
 いよいよパジャマパーティーの始まりということで、春香の予備のパジャマを貸してもらって着ることに。
 なんだか普通に袖を通すだけで緊張しちゃうなあ。勢いでビリッとか破れたりしないだろうなあ。
 恐る恐る着替えを進めていく。
 ……うわー、こんなフリフリのパジャマなんて初めて着たぞー。うおー、ボクの乙女心がメラメラ燃えてきたー!

「ど、どうかな……春香?」

 それっぽくポーズをとって、春香にお披露目してみる。

「うわあ、似合ってるよー、真♪ すっごく、可愛いよ。でも、そのポーズはちょっと合ってないかな……」
「うっ……そう」

 ……ポーズレッスン、がんばろ。

「ところでさ、パジャマパーティーって言うけど、具体的に何するの?」
「うーん……朝礼とか?」
「あんまり似てないよ、それ」
「うう、モノマネはダメかぁ……」

 モノマネだったら、亜美や真美には叶わないもんね。事務所内の人はもとより、よく芸能人のマネとか、あと校長先生のマネをやってるのはよく見かける。って言っても、亜美真美の学校の校長先生なんて、知ってるはずないから、似てるかどうかなんて分かりっこないんだけどさ。
 あと、さりげなく律子がモノマネ上手いような気がするんだけど、あんまり披露してくれないからなあ。

「で、結局何するのさ」
「えーっと、マンガ読む」
「またあ!?」
「うそうそ、ごめんってば」

 なんだか、今日は春香に謝られてばっかりのような気がするんだけど、気のせいかなあ。

「やっぱりさ、定番はアレでしょ、アレ。恋バナ」
「恋バナ、って、恋の話? 春香にそんなのあるの?」
「あ、ひっどーい! これでも幼稚園の頃は、引く手数多でもてもて春香ちゃんだったんだから」
「そんなのだったら、ボクだって、今は女子にもてもて……いや、何でもない」

 負けず嫌いだからって、何で対抗してもいいってわけじゃないよな。やっぱり、そこは乙女のプライドってものが、さ。

 で、結局はお互いのプロデューサーの話に落ち着くわけで。

「ねえ、春香。そういえばちゃんと聞いたことなかったけど、春香って、春香のプロデューサーのこと、好きなんでしょ?」
「うー……そう、だよ。やっぱり、分かっちゃうよね。でもさ、それなのにプロデューサーさんだけは、全然気が付いてくれないんだよね。鈍感一筋、って感じ」
「そうなのかあ。優しそうだし、女の子にも気が利きそうなタイプだし、そういうのには敏感そうに見えるんだけどなあ」

 春香のプロデューサーは、初対面だと事務所に所属してるタレントと間違われることがあるくらい端整な人なんだ。律子も似たようなこと言ってたし。
 でも、ウチの事務所って、男の人を採用することはあるのかなあ? 今度、社長に聞いてみようかな。

「はあ……ほんと、そうだといいんだけど」
「積極的にアプローチかけてみたりはしないの?」
「んー、なんかそういうのって違うんだよねえ。なんて言ったらいいのかな、やっぱりアイドルが一番じゃない? 私の中での順番があるというか、トップアイドルにもなれないで、ただ恋愛事にだけはまっちゃうのは、自分で自分が許せなくなっちゃうもん。だから、今はいいの。こっそり、ここにしまっておくだけ」

 そういって、春香は自分の胸にそっと手を当てた。
 春香……強いんだな。
 また、新しい春香の一面を見られて、ボクはどんどん春香のことが好きになる。

「そういう真こそ、そっちのプロデューサーさんはどうなの? 少しは進展してるの?」
「え、いや、全然……」

 こっちはこっちで、プロデューサーのことが好き、なんだよね。う、心の中で呟くだけなのに、妙に恥ずかしい……。
 仕方ないんだよ、だって……。ボクのことをきちんと女の子として見てくれる男の人なんて、そんなにいるわけじゃないんだしさ。これだけ、一緒に苦楽を共にしていれば、仕事仲間以外の感情が芽生えたって、いいじゃないか。
 って、誰に言い訳してるんだろうな、ボク。

「……ボクだって、春香と一緒だよ。まずはトップアイドルになって――最初は、もっと女の子っぽくなって男の人からキャーキャー言われるような存在になりたい、っていう気持ちが強かったのは間違いないけど、今はやっぱりファンの人たちをもっともっと楽しませたいし、自分がどこまで行けるのか試してみたい。それにほら、ボクって負けず嫌いだしね、えへへっ」
「つまりは、お互い頑張ろう! ってことだよね」

 結局はそうなっちゃうんだよね。
 それでいいんだと思う、今は。ボクがどうしてアイドルになろうと思ったのか、ボクのアイドルの原点、それがボクが765プロに居る理由だと思うから。

「でも……どうしても我慢できなくなっちゃうこと、あるかもしれないな、なんて。プロデューサーさんの唇とか見てると、時々吸い込まれそうというか、引きつけられそうになって、歯止めが利くうちに目を逸らすことも、何度かあったし……」
「ああ、分かる分かる。男の人の唇って、普段は何とも思わないんだけど、本当にふとしたときに物凄くセクシーに見えたりするもん」

 ……よかったー、こんなこと思ってるの自分だけだったらどうしようかと思ったよ。マンガの読み過ぎ! とか言われちゃうんじゃないかって。……まあ実際、「真はマンガの読み過ぎだ」ってプロデューサーに言われちゃうことが、何回かあったんだけどさ。へへ。


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