【ア・ガール・イン・トラブル】 サンプル1

「おっはよーございまーす! ……って、あれ? プロデューサー達、何してるんですか?」

 いつものように元気よく朝の挨拶をしながら事務所のドアを開けると、プロデューサーや小鳥さん、亜美に真美、それから律子までが額を付き合わせて、わいわいと楽しそうに何かを囲んでおしゃべりしてるのが目に入りました。
 何してるんだろ?

「最近のフィギュアは随分造型がしっかりしてるんだなあ」
「ですよねえ。私が小さい頃なんか……」
「はいはい、小鳥さん。妄想はほどほどにしてくださいね」
「律子さーん! もう、つれないなあ……」
「うひひ。ぱんつ穿いてるねー、真美」
「おほほ。白ですなあ、亜美」
「最近はそういう細かいところまでしっかり作り込まれてるので、その手のマニアにもしっかり売り込まれてるってわけね。まあ、普通に造型がしっかりしてる、っていうのはプロデューサーの言うとおりだし、このクオリティだったら私でもついつい買っちゃいそうになっちゃうもの」
「へえ。さすがにこの手のサブカルに詳しいな、律子は」
「ねえねえ、律っちゃん。細かいところまで作ってるってことは、潤穂のぱんつは白ってことですかい?」
「さあ? 本人に聞いてみれば。そこにいるし」
「あ、まこちんおはよー。ねえねえ、まこちんのぱんつって白?」
「……お・ま・え・らー!」
「うわあ! まこちんの怒りが有頂天に!」
「逃げろー!」
「あ、こら。亜美、真美、待てー!」

 ボクは逃げた亜美真美をここぞとばかりに追いかけた。けれど、事務所内をドタバタと走り回ったのをプロデューサーに怒られて、程なく三人共大人しくなってしまいました。

「まったく……。真の方が年上なんだから、あんまり亜美真美の挑発に付き合うもんじゃないぞ?」
「はい、すいません……」

 すっかり気落ちしてしまったけど、それよりもさっきプロデューサー達が盛り上がっていたことの方が気になって、落ち込んでる暇なんてないほどでした。

「それでプロデューサー。さっきみんなで見てたやつですけど……」
「ああ、これか。例のトレーディングフィギュアの完成サンプルだそうだ」
「やっぱり! 見せてくださいよ」

 トレーディングフィギュアっていうのは、数種類あるうち、箱の中にどのフィギュアが入っているのか分からないようになっているもので、もしダブったら友達と交換しようっていう意味でトレーディングって名前が付いているらしい。
 そういえば、トレーディングカードっていうのもあるし、それのフィギュア版って思えば分かりやすいかな?
 さっきまでプロデューサー達が見ていたのは、戦隊ヒロインのトレーディングフィギュア。戦隊シリーズってもう三十年以上も続いてるから、今回ので四弾だったか、五弾だったかっていうくらい続いてるんだ。
 つまり、今回のラインナップにボクが「楽唱戦隊ミューレンジャー」で演じている「園麻潤穂(そのまうるほ)」が含まれているってわけ。
 格好は潤穂が通っている高校の制服。ということは、つまりは変身前の素顔の状態ということで……要するにボクのフィギュアって言ってもいいわけで。もちろん、デザインしている人のアレンジとかも入ってるとは思うんだけど、デザイン画を見せてもらったときは、思いの外ボクに似てるなあ、なんて感心しちゃいました。
 それに、まさか自分のフィギュアが出るなんて、夢にも思わなくって。すっごく嬉しいんです。

「へえー、本当によくできてますね、これ」

 ボクは潤穂のフィギュアを色んな角度から眺めながら、デザイン画がそのまま立体になってることに驚いていた。これが科学の進歩ってやつなのかなあ、なんて思いつつ。……あ、ぱんつ。

「う、うわあ!」
「おわ! なんだ、真。急に大声出すなよ。びっくりするだろ?」
「な、なんでもないです……」

 さっき亜美と真美が言ってたのはこれか……。確かにこんな細かいところまでちゃんと作ってあるのは感心するけれど、これが自分だと思うとすっごく恥ずかしいよぅ。
 だって、まるで自分のぱ、ぱんつを見られてるみたいじゃないか。自分のフィギュアがこうして売られるのは嬉しいけど、これを色んな人が手に取るんだって考えると、すっごく恥ずかしくなってくる。
 っていうか、よく考えたらプロデューサーも見てるんだよね……。ぐわああ! 恥ずかしすぎるー! 穴があったら埋まりたいよ!
 そうだ! とりあえず、これだけでも持って帰ろう。そうしよう。

「あの、プロデューサー。これ、持って帰ってもいいですか?」

 その場しのぎにしかならないとは思うけど、ボクは潤穂のフィギュアを持ち帰りたいとプロデューサーに頼んでみた。

「ん、そんなに気に入ったか。でも悪いな。それ、一応まだ発売前のものだから社外持ち出し禁止なんだよ。あとで小鳥さんに保管しておいてもらわなきゃいけないんだ。だから、写真とかも撮らないでくれよ」
「そうなんですか……」
「んー、まあそんなにがっかりするなよ、真。製品版もちゃんと送ってくれるって言うしさ」

 ボクががっかりしたのはそういう意味じゃなかったんだけど、プロデューサーが勘違いしてくれてある意味助かったかもしれない。
 それに、このフィギュアは小鳥さんが厳重に保管するみたいだから、プロデューサーの手に渡るよりはちょっとは安心できる……かな?

「じゃあ、真のフィギュアも一通り堪能したところでちょっと打ち合わせするぞ、真」
「はい! って、真じゃなくて潤穂のフィギュアですよ! プロデューサー!」

 もう、せっかく忘れようと思ってたのに、また思い出して恥ずかしくなっちゃうじゃないですか。
 ボクは潤穂のフィギュアを小鳥さんに預けて、プロデューサーと打ち合わせをするために会議室へと向かった。


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