【ア・ガール・イン・トラブル】 サンプル3

「えー、遅くなってしまったが、これから朝礼を始めたいと思う。それでは、我那覇君、四条君、前へ」

 一騒動の後、すぐに朝礼が始まったので、なんでプロデューサーが響と一緒にいたのかはよく分からなかったけど、その理由はすぐに社長が語ってくれた。

「四条君にはもうしばらくアイドル候補生として過ごしてもらうが、我那覇君にはすぐにデビューしてもらいたいと考えている。いずれ正式にプロデューサーを付けたいとは思うが、しばらくの間は菊地君のプロデューサーに兼任してもらうことになるので、菊地君も我那覇君とは仲良くしてやってくれ」

 え? ……プロデューサーが響のプロデューサーも兼任って? さっき貴音が言ってた、響のプロデューサーってこういうことだったの?
 そのままつつがなく朝礼が終わって、響と一緒にプロデューサーに呼ばれ、打ち合わせのために会議室に入った。
 本当にいったいどういうことなんだろう?

「えっと、それじゃあとりあえず顔合わせだな。さっき説明があったように、響にはこれから俺がプロデューサーとして付くことになる。真、先輩として響と仲良くしてくれよ」
「はいさい! これからよろしくな、真!」
「ああ、うん。よろしく、響。……どうしたの響、ボクの方をじーっと見ちゃってさ」

 プロデューサーに詳しい話を聞きたかったけど、取り敢えずはそれどころじゃないみたいだ。
 響は何故かボクの方をじーっとなめ回すように見ていた。な、なんなんだ?

「うん、やっぱり似てる」
「似てるって誰に?」
「次郎にさ!」
「次郎?」
「うん。次郎っていうのは自分のいとこなんだけど、もう本当に真そっくりだぞ!」

 基本的にテンションが高いのか、響は大きな声でボクに迫ってくる。そ、そんなにそっくりなんだ。響のいとこに。

「くふふぅ。なんだか真とは上手くやっていけそうだな! 改めてよろしくな! 真」

 なかなか苦労しそうだけど、基本的に悪い子じゃないみたいだから、響とはなんとか上手くやっていけそうだな。

「ところで響、さっきたくさん動物が事務所の中にいたけど、あれ全部響が飼ってるんだって?」
「そうだぞ! みんな自分の大切な友達だ。モモ次郎、ハム蔵、ネコ吉、ヘビ香、オウ助。それから……」
「ちょ、ちょっとたんま! もしかして、さっき事務所にいたので全部じゃないの?」
「ん? もちろん、あれで全員じゃないぞ。家にはまだいぬ美とかワニ江とか、たっくさんいるぞ!」

 いぬ美はともかく……ワニ江って、やっぱりワニ、なのかな?
 それにしても、響の名前の付け方って安直というかそのまんまだよなあ。ダンスが得意だって言ってたけど、ネーミングに関してはあんまりセンスがなさそうだ。ははは、面白いやつだな、響って。

「本当にどこかのサファリパークみたいなんだね、響の家って」
「そうか? 照れるなあ。今度、真を自分の家に招待するぞ。是非、みんなに会ってくれると嬉しいな。それから、今度はエビを飼おうかって思ってるんだ。名前はもう決めてあるぞ。エビ蔵だ!」
「それ、歌舞伎関係者に怒られない?」
「……?」

 まあそんなことは置いといて、問題はプロデューサーの方だ。

「はい! プロデューサー、質問があります」
「どうぞ、菊地真くん」
「ボクと響はデュオを組むんですか?」

 響のプロデュースをボクのプロデューサーがするっていうんなら、きっとそういうことなんじゃないのかなってボクは考えた。
 ミューレンジャーが終わって、プロデューサーと二人三脚でのアイドルらしいアイドル活動の再開! と思ってたから、デュオを組むことになるのはちょっと残念、かな。

「答えはノーだ」

 けれど、ボクの考えははずれだった。

「違うんですか? ボクはてっきりデュオなんだと思ってました」
「響と真は個別にプロデュースしていくぞ。二人を見ていくのは大変だが、それだけ社長が俺の力を認めてくれたってことでもあるからな。だから、どっちかに偏るってこともなく見ていくから、真も響も安心してくれ」

 あ、デュオじゃないんだ。
 それにはちょっと安心したけれど、自分の中にちょっと薄暗い感情が芽生えているのが分かる。嫉妬だ。
 本当は、ボクはプロデューサーを独り占めしたいんだ。でも、もうそんなことはできない。できないって分かってるけど、この感情をどうしていいのか分からない。今はただ、響に追い抜かされないように、プロデューサーに見放されないように、今まで通りやっていくだけだ。

「さて、初日はこんなもんだな」

 プロデューサーの話も一通り終わり、ひとまず解散になるかと思っていたら、プロデューサーの話はまだ終わってはいなかった。

「真は別の打ち合わせがあるから残ってくれ。響は今日は終わりだ。また、明日からよろしくな」
「うん! 明日からもよろしくな、プロデューサー! 真! それじゃ!」

 太陽のような笑顔を残して、響は会議室から出て行った。本当に沖縄の太陽のように明るくて、熱いやつだなあ、響って。
 そして、会議室にはプロデューサーとボクだけが残った。


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