【ミッシング・パロット】 サンプル2
「ただいまー!」
「おかえりなさい、響ちゃん」
小鳥が挨拶を返してくれる。
自分が再び事務所に戻って来たときには、よし子さんが思ったよりも早く見つかったとはいえ、外はすっかり真っ赤に染まっていて、徐々に夜の帳が下りようとしていた。
「あら、おかえり、響。それから、千早と伊織もご苦労様。両肩に二羽乗せてるところを見ると、万事上手くいったってことね」
「バッチリだぞ! スカイック我那覇響だ!」
「スカイック?」
亜美真美なら分かってくれたと思うんだけど、律子には通じなかったか。まあいいや。
それよりも。
「ねえ、律子。社長は帰ってきてるんだよね?」
「ええ、今は社長室に居るわよ。社長室の片付けもばっちりしたし、よし子さんが逃げ出したなんて露とも思っていないはずよ」
「さすがね、律子」
「ねえねえ、千早ちゃん。私も一緒に手伝ったんだけど……」
「分かってます。音無さんもお疲れ様です」
事務所に帰ってきてからしばらくは、お互いにお互いの労をねぎらい合ったんだ。
「じゃあとりあえず、自分、よし子さんとオウ助を社長室のカゴに戻してくるね」
そう言って、自分は社長室のドアの前に立ち、一呼吸置いてからドアをノックした。
いくら律子達のお蔭で問題ないとはいっても、やっぱり自分の目で確かめないことにはちょっと落ち着かないからさ。
「社長、入りまーす」
「どうぞ」
ドアを通してくぐもった返事が聞こえてくる。
少し緊張しながらドアを開けて中に入ると、いつもと変わらない様子で正面にこちらを向いて座っている社長の姿が目に入った。
「社長、今散歩から帰りました」
「おお、おかえり、我那覇君。どれ、よし子さんはっと……ふむ、確かに出掛ける前よりもきれいになっているではないか。ははは、どれ今度私も連れて行ってあげようかね」
……でも、そんなお店本当はないんだよね。って、ないんだっけ? それとも毛繕いサービスをやってないだけだったかな? 単にお店の前を通らなかっただけ?
うーん、よく分かんないや。
真相を知ってるのは千早だけ、ってことかー。
社長はよし子さんを抱きかかえると、頭を撫でながらカゴの中に戻した。
それを見た自分もオウ助をカゴの中に戻した。
オウ助、帰るときにまた迎えに来るからね。
「えっと、社長。自分の用件はこれで終わりだから。失礼しました」
「ああ。我那覇君、よし子さんのことはこれからもよろしく頼むぞ。君のような動物好きが来てくれて、私もよし子さんも本当に感謝しているのだからね」
「はい! ありがとうございます!」
社長の言葉になんだかくすぐったいような感じを受けながら深々と礼をして、社長室を後にした。
ふう、社長も喜んでくれてるみたいだし、良かったな。本当は毛繕いのサービスなんてしてもらってないんだから、社長の勘違いだと思うんだけど……言わぬが花ってやつだよね。
でも、一応は社長にばれないようにそれとなく毛繕いっぽいことはしたんだよ? それもやっぱり伊織の発案で。
やっぱり伊織の抜け目なさは天下一品だな、なんて思っていた自分を待っていたのは、事務所に集まっていた全員の注目だった。
「どう? 問題なかった?」
「うん、社長は何の問題も起こらなかったみたいにしてたぞ」
自分のその言葉で「よし子さん逃亡事件」に関わったみんなから、安堵の溜め息が漏れていた。おやつ時から続いていた緊張の糸もこれで緩めることができた、ってわけだな。
これで各々自分の仕事に戻れる、そう思っていた時き、伊織の発言がまだ事態は完全に終わってはいないということに気付かせてくれた。
「で、結局なんでこんなことになったわけ?」