【1等賞をとるのっ!】

 

 もうすぐ、運動会なの!
 段々涼しくなってきて、最近はセミさんの声も聞こえなくなってきたから、もうすっかり秋の感じ。秋と言えばスポーツの秋♪ 美虎音、体を動かすのは大好きだから今ごろの季節は好きなの♪
 美虎音のクラスは黄色チーム。だから帽子も黄色なの♪ 黄色は虎さんの色だから、美虎音気に入っちゃった♪
 それでね、今日はリレーの選手を決める日なの。リレーって言ったら、運動会の花形種目だから美虎音絶対出たいの! 美虎音、走るのは結構得意だから選ばれるといいなぁ。にぃにだって、「美虎音は走るの早いな」って褒めてくれたことあるもん。あの時はとっても嬉しくなっちゃって、日が暮れるまで走ってたっけなぁ……。

「それじゃ、リレーの選手はこれで決定ですね」

 リレーの選手は推薦で決めるの。全員の投票が終わってみると……うわー、美虎音本当にリレーの選手に選ばれちゃったの! しかもアンカー! ふえー、ちょっと緊張しちゃうよ。でもでも、にぃにが見に来るんだもん、頑張らなくっちゃね!

「美虎音ちゃん、頑張ってね♪」
「美虎音ちゃん、応援してるからね♪」
「一緒に頑張ろうね、美虎音ちゃん♪」

 休み時間、お友達が美虎音の側にやって来て、美虎音のこと応援してくれたの♪ うん、みんな絶対優勝しようね♪ でも、一番応援して欲しい人はやっぱりにぃになのっ♪ よーし、頑張るぞー!

※ ※ ※

「よーい、ドンっ!」

走るのを練習するんだったら、ここの土手が一番なんだぁ。それにそれに、ここは色んなお友達のお散歩コースにもなってるから、それも楽しみなの♪ あ、そんなことを考えていたら、カイザーと羽幌さんがお散歩にやって来たの♪

「カイザー! 久しぶりなのー♪」

 カイザーは3丁目の羽幌さんの家のシェパードで、走るのがとっても速いの。あ、そうだいいこと思いついちゃった♪

「ねぇ、羽幌さん。カイザーと競走してもいいですか?」
「あら、どうしたの?」

 美虎音はもうすぐ運動会があること、そこでリレーの選手に選ばれたこと、しかもアンカーだから張り切っていることを伝えました。そうしたら、「あらあらそうなの。でも家のカイザーだって負けないわよ♪」って楽しそうに言って、美虎音はカイザーと競走することになりました♪

 そうやって、何度かカイザーと競走をしていると――カイザーには結局一度も勝てなかったんだけど――にぃにがシマタとクロベと一緒に来てくれたの♪ 美虎音、嬉しくなっちゃってにぃにの元へ真っ先に駆けつけたんだけど、「こら、練習中によそ見したらだめだろ」って怒られちゃったの♪ てへへ♪
 あとね、最後まであきらめたらだめだよ、とも言ってたの。そうしないと、ウサギとカメのウサギさんみたいになっちゃうからなんだって。うん、どんな時でも最後まで頑張らなきゃダメだよね。
 カイザーとバイバイをした後、日が暮れるまでにぃにとシマタとクロベの4人でリレーの練習をしたのっ♪ やっぱりにぃには速くって一回も勝てなかったの。でも、「僕が美虎音に負けるのも時間の問題だなぁ」だって♪ クフ♪ 美虎音、いつかにぃににも、シマタにも、クロベにも勝ってみせるの♪

※ ※ ※

 ついに運動会の日がやってきました!
 玉入れや綱引き、応援合戦! どんどん競技が進んでいって、どんどん興奮してきちゃったの! だから、美虎音も大きな声で頑張って黄色チームを応援したの♪
 それと同時に、段々美虎音の胸がドキドキしてきて、なんだかもうこのまま心臓が飛び出ちゃうんじゃないかっていうくらいのドキドキなの。だってだって、もうすぐ女子のリレー、美虎音の出番。さっきにぃにとお昼ご飯を一緒に食べたときに、絶対一番になるからねって約束してきちゃったし……。しかもにぃにったら、朝の4時に場所取りに並んでリレーが一番見やすい場所を取ったんだぞ、って、なんだか美虎音より張り切ってたんだよ♪
 あーもう、とっても緊張してたのー! えっと、こういうときは手のひらに『人』っていう字を書いて飲み込む真似をするといいって聞いたことがあるの。えっと、えっと……あーん、間違って『犬』って書いちゃったのー!

 そうこうしているうちに、ついに美虎音の出番がやってきて……リレーの始まりを告げるピストルの音が、バーンッ! って鳴りました!
 他のチームのアンカーもみんな速そうだけど、美虎音だってにぃにと一緒に頑張ったんだもん、絶対負けないの! にぃにと約束したんだから!

 第三走者までは黄色チームがトップでやって来ました! と、とにかく落ち着くために深呼吸を一回して、スー……、ハー……。そして、美虎音はトップでバトンを受け取りました!
 初めのうちは、練習の成果か、とっても体が軽くってウサギさんになったみたいで、これならいけるの♪ って思ってました。でも、残り半分を過ぎたところで、左右から追いかけてくる気配がしてきて……。それでも美虎音は一生懸命走ったの! にぃにと約束したんだもん!
 でも、右側からは赤い帽子が、左側からは青い帽子が美虎音の目の前に出てきて……。きっとこのままビリになっちゃうんだ……そう思った時、左手にビデオカメラを持ったにぃにが見えて、「美虎音ー! 頑張れー! あきらめるなー!」っていうにぃにの声が聞こえてきて……。
 そうだよね、あきらめたらそこで終わりなんだよね。このままじゃ、本当にウサギさんになっちゃうもん。美虎音はあきらめないのっ……!

※ ※ ※

「なぁ美虎音、そんなに落ち込まないで。優勝したんだから、さ」

 そう、運動会は黄色チームが勝利! だったんだけど、でも、美虎音は4位中3位……。せっかく頑張ったのに……、にぃにとも約束したのに……

「美虎音、ほらおいで」

 美虎音がずっとうつむいて歩いていると、にぃにが突然美虎音の目の前でしゃがみこんで肩車してくれるって言ってきたの。小さい頃はにぃにによくおねだりをして、肩車してもらってたなぁ……。にぃにの肩に乗ってると、にぃにより大きくなった気がして、キリンさんになった気分で♪ それに、とっても暖かかったから大好きだったの♪ 肩車してもらったのなんて、もうずっと昔のことだから、美虎音嬉しくなってにぃにの肩の上に乗りました。

「おっとと。はは、美虎音少し太ったんじゃないか?」
「違うもん! 大人になっただけなのっ!」
「あはは♪ ほら、元気になった」

 え? にぃに、もしかして美虎音を元気付けるためにわざと……? 「やっぱり美虎音は元気なのが一番だな」。そう言って微笑むにぃにのお顔はここからじゃよく見えなかったけど、でも、とっても嬉しかった♪

「にぃに、美虎音ね、次は頑張って絶対1位とるのっ!」
「お、そうか。それは楽しみだな」

 にぃに、今日は美虎音の応援に来てくれてどうもありがとう♪ 美虎音、もうちょっとで4位になっちゃうところだったけど、にぃにが応援してくれたから頑張れることができたの。にぃにの声が聞こえたあの時、みんなで練習した時の走りができてたんだと思うの。だから、にぃに……これからもずーっと一緒にいてね♪

「カラスが鳴くからかーえろー♪」

 

 

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