【冬の扉】
SCENE秋那 『小さなお客さん』
……こうやって落ち葉の絨毯に寝そべっていると、空の高さに改めて驚かされる。そんな季節。今は暖かいそうだけど、今夜は相当冷え込むらしいから、風邪をひかないように気をつけなくちゃ。
そもそもこうやって公園に寝そべっているのは、にぃちゃんからのお誘いがあったからなの。
昨日の学校の帰り道のこと。
「今度のライブ、にぃちゃん来てくれるかなー。いつも来てくれるから、心配はないと思うんだけど……。でも、なんか最近忙しそうだし……。」
なんてことを考えながら歩いていると、横断歩道の手前の曲がり角から猫耳の生えた女の子が現れました。
「あっ、秋那ちゃんなの!」
「こんにちは、美虎音ちゃん」
曲がり角から現れたのは、美虎音ちゃん。猫耳といっても、別に本当に生えているわけじゃなくって、そういう帽子をかぶってるってことなんだけど。これがあるから、遠くからでもすぐ分かっちゃうんだよね♪
どうやら美虎音ちゃんも学校の帰りみたいだったから、途中まで一緒に帰ることにしました。せっかくだから、どこか途中で寄り道していってもいいしね♪
美虎音ちゃんにそのことを話してみると、結局、商店街の方を回って帰ることになったんだ。
私のお気に入りの楽器屋さんに、美虎音ちゃんのお気に入りのペットショップ。美虎音ちゃんのお気に入りは、普段あたしが行かないような所ばっかりで、こういうのもたまにはいいなぁ、なんて思いました。経験に勝る勉強は無い! なんてね♪
1時間くらいかな……? 見て回ったのは。遅くなるといけないし、そろそろ帰ろうとした時、「お、秋那! 美虎音! ちょうどよかった」っていう声が後ろから聞こえてきたの。
「にぃちゃん!」
振り返って、その顔を確かめる。なんだか、頬が緩むのが抑えられないかも♪ あ、でも「ちょうどよかった」ってどういうこと?
「あのさ、二人とも明日空いてるかな?」
あたしが、どういうこと? って聞くと、友達から映画のチケットを3枚貰ったんだけど、明日までだからどうしようか迷ってたんだって。そこにちょうどよくあたしたちが歩いていたってこと♪ 寄り道してよかったかも♪
最近はなんだか忙しそうで、あんまりにぃちゃんと会う機会もなかったし、せっかくにぃちゃんが誘ってくれたんだもん、あたしが断る理由なんてないよね♪ 勿論、美虎音ちゃんだってOK!
というわけなんだけど、そういえば何の映画なのか確認してなかったっけ。
そう思って、昨日にぃちゃんから貰ったチケットをよーく見てみると……どうやら海外製のアニメみたい。アニメかぁ……。アニメなんて、ちっちゃい頃にぃちゃんと一緒に見てたくらいで、最近はあんまり接点がない、かも。
でも、どうやら何かの動物が主人公のようだから美虎音ちゃんは喜ぶんじゃないかな? あ、美虎音ちゃんには悪いんだけど、どうせならあたしは字幕の方がいいかも♪
そう考えると、なんだか楽しくなってきちゃって。ついつい歌を……。
「Supposing I’m a squirrel, I’m always together with you〜♪」
「うわー! 秋那ちゃん、すごいのっ♪」
どうやら、美虎音ちゃんが来たみたい。今日は、シロクマ……の帽子かな?
「てへへ♪ 歌、聞かれちゃったかな?」
「秋那ちゃんの歌って、リスさんも大好きなんだね♪」
え? リス? 美虎音ちゃんの指差す方を見てみると、確かにそこには一匹のリスがいました。頬をパンパンに膨らませて。
どうやらお客さんは一人じゃなかったみたい♪
でも、そろそろ行かないとにぃちゃんとの待ち合わせ時間に送れちゃうかもしれないから、またね♪ 小さなお客さん♪
「さ、美虎音ちゃん、そろそろ行こう」
「……、はいなの♪」
美虎音ちゃんはちょっと名残惜しそうだったけど、また会えるといいね♪
SCENE美虎音 『大きなお友達』
美虎音たちとにぃには、駅の前で待ち合わせてるの。にぃにが、今日は午前中は用事があるから、映画館の近くの駅で待ち合わせようよ、って言ったからなの。
なんだか最近にぃには忙しいみたいで、美虎音とちーっとも遊んでくれないから、一緒に映画を見られるなんてとってもワクワクなのっ♪
「ちょっと早く着いちゃった、かな?」
駅のシンボルにもなっている大時計を見上げながら、秋那ちゃんがそう言ったの。うーん、にぃにとの約束の時間まではまだ30分もあるの……。やっぱり、今日はなんだかお馬さんみたいに早足だったのかな? でも仕方ないよね♪ だって、にぃにに会えるんだもん♪ にぃにに会えるんだったら、美虎音、お馬さんよりもチーターよりも速く走れるかも♪
そんなことを考えていたら、ちょうど向かい側からにぃにが歩いてくるのが見えて……。
「にぃにー♪ こっちなのー♪」
思わず叫んじゃったの♪ 周りの人は、一瞬ビックリしてこっちの方を見たけど、すぐに戻っちゃった。にぃにはなんだか、お顔を真っ赤にしてこっちにやってきました。んー……美虎音、なんだか失敗しちゃったのかな?
にぃにと美虎音たち、ちょうど同じ時間に待ち合わせ場所に来るなんて、やっぱり離れていたってちゃんとつながってるの♪
結局、映画が始まるまではまだ時間があるから、近くの喫茶店で一休みすることにしたの。今日は結構暖かいんだけど、ずーっと外にいたからちょっと寒くなってきちゃって。
「ちょっと寒くなってきたから、ホットココアでも飲んで暖まろうな」なんて、にぃにったら、美虎音の考えてることはぜーんぶお見通しなの♪
喫茶店で秋那ちゃんのライヴのこととか、美虎音の学校で飼っているウサギさんのこととかお話したりして、すっかり体もポカポカになったところで、早速映画を見に行くの♪
映画館ではにぃにを挟んで、右側に美虎音、左側に秋那ちゃん。
映画館の中が暗くなって、象さんの鳴き声よりも大きなブザーの音が鳴って、いよいよ始まるみたい。映画館って、大きくって暗いから、美虎音、ちょっと苦手なんだけど、にぃにが一緒だから、ぜんぜん平気だよ♪ 本当なら、にぃにの手を……握れたら……よかったんだけど……。にぃには腕を組んで座ってるから、仕方ないよね。
この映画はリスさんが主人公なの♪ プック、っていう名前みたい。リスさんが、お母さんを探しに色んなところを旅するっていうお話……だと思うんだけど……美虎音には何を言ってるかよく分からないの。だって、英語なんだもん!
下に文字がばーって出るけど、美虎音、漢字苦手だからあんまりよく分からないの……。
でもでも、キリンさんとかゾウさんとか色んな動物さんがいーっぱい出てくるし、お歌もいっぱい歌ったりするから、美虎音ウキウキしてくるの♪
リスさんがお歌を歌ってるシーンで、なんだか左の方から鼻歌が聞こえるな? と思ったら、秋那ちゃんが楽しそうに歌ってたの♪ あは♪ 秋那ちゃんって、ホント歌が好きなんだぁ。
そして、お話が最後の方に近づいてきて……リスさんがお母さんに会うところなんか……美虎音……なんだかとっても感動しちゃって……ぐすっ……プック、よかったね……ぐすっ……。
そんな風に泣いていたら、にぃにが「ほら」って、ハンカチを貸してくれたの♪ あとで、このハンカチをにぃにに返そうと思ったらグシャグシャだった……の。えへへ……♪ ちゃんと洗って返すからね♪
「……にぃに、とっても面白かったのっ♪」
「うん、あたしも結構楽しめたよ♪」
美虎音たちがにっこり笑いながらそう言うと、にぃにも「喜んでもらえると、僕も嬉しいよ」って、にっこり笑顔なの♪
……あ! そうだ! 美虎音、いいこと思いついちゃったの♪
「にぃに! プックに会いに行くの!」
「え? 映画はもう終わっただろ?」
「……♪ にぃちゃん、早く行こう♪」
美虎音と秋那ちゃんで片手ずつ、戸惑ったお顔をしたにぃにの手を引っ張って、あの公園まで走っていったの♪
「はぁ、はぁ、……ここにプックがいるのかい?」
お昼に秋那ちゃんと待ち合わせをしていた場所まで行って、美虎音は大きな声でリスさんのことを呼んだの! 「プックー! 出ておいでー!」って。でも、プックはなかなか出てきてくれなくて……。ちょっと、しょんぼり下を向いちゃったんだけど……秋那ちゃんが美虎音の肩をポン、と叩くと……。あ! そうなの! って思い出したら、秋那ちゃんが歌い始めました♪
「Supposing I’m a squirrel, I’m always together with you〜♪」
秋那ちゃんの歌が公園に広がって、その歌をじーっと聴いていると……前の茂みからガサッていう音がして、プックが出てきたの♪ やっぱり、頬をぷっくりさせてるから昼間に会ったのと同じリスさんなのっ♪
「ほら、にぃに、プックなの♪」
にぃには少しビックリした様子だったけど、「よろしく、プック」ってご挨拶してくれたの♪ うん♪ これで、にぃにもプックとお友達なの♪
あ!
プックったら、美虎音の手の上からにぃにの頭の上にジャンプしたと思ったら、そのまま秋那ちゃんの頭の上までのぼって行っちゃったの! あはは♪ プックの一番のお気に入りは秋那ちゃんなのっ♪
「あははは♪」
「あーん、もう! にぃちゃんったら笑わないでよー!」
そうやって、みんなで一緒に笑ってると……ひゃっ! 美虎音のほっぺたに何か冷たいものが触ったような気がして……お顔を空に向けてみると……。
「お、雪か……」
「今日の夜は冷え込むって天気予報で言ってたから……」
わぁ……初雪なの……♪ 雪を見てると、なんだか急に体が冷えてきちゃったような気がして……にぃにに抱きついちゃった♪ にぃには、「お、おい、美虎音」って慌ててたんだけど……だって、にぃには暖かいんだもーん♪
そうしたら秋那ちゃんも「ウフフ♪ にぃちゃん、美虎音ちゃんだけ、ってことはないよね?」って言って、美虎音が抱きついてる方とは反対側の腕を組んだの♪
「おいおい、これじゃ動けないよ」
なんてにぃには言うけど、離してあげないの♪ そうしたら、にぃにも勘弁したみたいで、「じゃあ、今度冬支度の買い物にでも出かけようか。プックも始めてるみたいだしね♪」って言ってくれたの♪
にぃに、今日は本当にありがとう♪ とっても、とーっても暖かな一日だったの♪