3.【ぽかぽか陽気に見る夢】

 その日は、この春一番のぽかぽか陽気で、窓際ではいつものようにシマタとクロベがお昼寝をしていたの。
 だから美虎音もいつものように一緒にお昼寝。
 シマタ、クロベとこうやって日向ぼっこをしていると、なんだか懐かしいにおいがするの……。あの日も、今日みたいに暖かかった……。

※ ※ ※

 まだ美虎音がとってもちっちゃくて、大好きなにぃにと一緒に住んでいた時のことなの。その頃、家にいたのは美虎音が生まれる前からいたっていう大きな年寄り猫。人間で言うと、もうすっかりおばあちゃん。
 名前はつばき。
 甘いものが大好きなせいか、でっぷりなお腹をいつも引きずって近所を散歩していたんだけど、そのうち家の中で見かけることの方が多くなってきたの。
 美虎音は、つばきが窓際で日向ぼっこしていると、いつも駆け寄って隣でお昼寝してたの♪
 だって、とってもあったかいんだもん♪
 そんな姿の美虎音を見つけるたびににぃには「ふふ、兄弟みたいだな」って笑いながら、でも結局はにぃにもお昼寝に加わるの♪
 つばきを挟んでにぃにと美虎音。つばきはにぃにが抱きかかえるようにしているから、目の前にはにぃにのお顔がきて、とっても安心できるの♪ だから、いっつもすぐに夢の中へ落ちちゃうの♪

 いつごろのことだったかなぁ? つばきの姿を見かけなくなったの。
 また、散歩に出かけるようになったのかな? って思ったけど、最近はなんだか寝てばっかりで歩いているのもあんまり見かけなくなってたし、鳴き声も弱々しくてちょっと気になっていたの……。つばき、もしかして病気なのかなって……。
 そのことをにぃにに話すと、いつも「きっと、もうすぐ帰ってくるよ」って、笑いかけてくれたの、なんだかちょっと辛そうに……。
 きっと、にぃにには分かっていたんだと思うの。つばきが、もう、窓際でお昼寝してることはない、って。

 だから、久しぶりにつばきが現れたときは、にぃにはとってもびっくりしてた。それとは逆に、美虎音はわーい! って大はしゃぎで、また一緒にお昼寝できるのがとっても嬉しかったの♪

 でも、それはかなわなくって……。

 つばきは、トコトコと美虎音の足元までやってくると、なんだか安心したお顔でそのまま眠りについたの……。
 それからは、美虎音が「おーい」って大声をかけても、どんなに揺さぶっても、まぁるいお目目を開けることはなかったの……。
 本で読んだ『お星様になる』っていうのはこういう時のことなのかな、ってなんとなく思って……、

「ひっく……ひっく……うぅ……」

 涙が……止まらなくなっちゃって……。

 いつまでも泣き止まない美虎音を抱きかかえて、にぃにはこんなことを話してくれたの。

「猫って言うのはね、自分がお星様になってしまうとき、誰にも見えないところでひっそりと眠りにつくのが普通なんだよ。自分が弱っているところを誰にも見られたくないんだろうね。
でも、つばきは美虎音の前に現れた。美虎音のことがよっぽど好きだったんだろうね。美虎音の側が、一番安心にて眠りにつける場所だったんだよ。だから、美虎音がいつまでも泣いていちゃ、つばきも安心して眠れないだろ?」

 だから、美虎音は涙を拭いて、泣かないように努力して、その日は3人で最後のお昼寝をしました。

 それから、何日か経った後、もう誰もいないはずの窓際に誰かいるような気がして覗いてみると、そこには見知らぬ小さな猫が二匹、幸せそうに寝転がっていたの。
 ……そこは、つばきの場所なのに……
 そう思ったけど、あの日以来なんとなくそこには近づきづらかったし、追い払っちゃうなんて美虎音にはできなかったの……。だから、しばらくはそのままにしておくことにしたの。
 その日から毎日、二匹の猫はそこに寝転んでいて。ちょっと近づいてみようかな……、ってそう思ったのは、ぽかぽかな春の陽気と、一匹はその黒毛が、もう一匹はその縞模様が、つばきの黒縞を思い出させたから、かな。

 美虎音が近づくと二匹の子猫は全然びっくりしたりはしないで、「にゃーん……」「みゃあおぅ」と寝転がったまま顔だけをくるっとこちらに向けて、まるで美虎音を誘っているようだったの。
 その時、ほんの一瞬だけど、つばきがそこに見えたような気がして、この二匹は……つばきが美虎音の為に連れてきてくれたのかもしれない、って……そう思ったの。もしかしたら、つばきの子供だったのかもしれないなぁ……。
 だから、美虎音は久しぶりにいつもの場所でお昼寝をしました。ちょっぴり今までとは違うけれど、でもなんだか懐かしい雰囲気……。そして、段々と薄れゆく意識の中で、「よかった」っていうにぃにの声がはっきり……聞こえ……たの……。

 次の日、美虎音は二匹の子猫を抱えて、ソファーに座りながら雑誌を読んでいるにぃにの前に立って、こう言ったの。

「あのね、あのね、こっちの真っ黒いのがクロベで、こっちの縞々のがシマタ!」
「……♪ よろしくな、クロベ、シマタ!」

 その日から、家の中は今までと同じ……ううん、きっと今まで以上に賑やかになったのっ♪

※ ※ ※

「……にゃ〜ん……」

 ……あれ、美虎音いつのまにか眠っちゃってたみたい。
 クロベの声に気がついて起き上がってみると、辺りはすっかり真っ赤か。

「おや、猫が3匹寝てるのかと思ったら、美虎音じゃないか」

 忘れようのない声にはっと振りかえると、そこにはにぃにが立っていました。
 うー、にぃにはまたそうやって美虎音をからかうようなことを言うんだから……。

「駅前のケーキ屋が新装オープンで、ケーキ全品2割引だったから、美虎音と一緒に食べようと思って買ってきたんだ」

 うわぁ、ありがとうにぃに! 駅前のケーキ屋さんにはタヌキの形をしたケーキがあって、小さい頃から美虎音はそればっかり食べてたの♪
 シマタとクロベもなぜだかケーキが好きみたい。だけど、タヌキのケーキはチョコレートケーキだから我慢してもらって、イチゴの乗ったショートケーキを上げることにしてます。虫歯にならないように時々ね♪
 ケーキを食べていると、にぃにが「あれ、美虎音、泣いてるの?」って聞いてきたの。あ、あれ、おかしいの……。もう、泣かないって決めたのに……。

「にゃ〜ん」
「みゃ〜」

 え、クロベとシマタがこっちを心配そうに見ているの。……ああ、そうだよね。泣くことなんて、ないんだよね。
 だから、にぃににはとびっきりの笑顔で答えたのっ♪

「美虎音には、にぃにとクロベとシマタと、そしてたっくさんのお友達がいるから、大丈夫なのっ♪」