お菓子作りの合間の休憩時間、いつものようにマダムとお話していると、マダムが姫に聞いてきたんです。
「白雪さんは、フランスへ行って本格的にパティシエの修行をする気はないのかしら?」って。マダムのお友達にお店を出しているパティシエの方がいて、姫さえよければ紹介してあげるわ、って。すっごいですの! でも……。
 ……姫はお菓子作りは大好きだし、ほんのちょっぴりだけ悩んじゃったんですけれど……姫は何のためにお菓子を作るのか、って考えたら……答えはすぐに出たんですの。
 せっかくのお菓子も、食べてもらえる人が側にいなかったらかわいそうですのものね♪ 姫はやっぱり、にいさまのためにお菓子やお料理を作るんですの♪ そして、にいさまの「おいしいよ」を聞くのが姫の幸せなんですの……♪ だから、姫はにいさまの側でにいさまだけのパティシエになります♪ それが……姫の決めたことなんですの♪
 姫がそう言うと、マダムはなんだか姫がそう言うのをわかっていたみたいににっこり笑って……知ってることは全部教えてあげるわね、って姫に言ってくれました♪


 ……待っててね……にいさま……♪
 ……はっ!? いっけない! またやっちゃいましたのー!!
 気がついたら、時計はすっかり2時半を過ぎてるんですの! 慌てて冷蔵庫から生地を取り出して、型に詰めようとしたら……。
 ピンポーン♪
 あーっ! にいさまが来ちゃいましたの!
 にいさまを待たせるわけにはいかないから、と、とりあえずこの場はこのままでにいさまを迎えに行きますの♪

「いらっしゃいませ、にいさま♪」

 姫のとびっきりの笑顔でご挨拶♪
 それに応えてにいさまも、「今日はお招きありがとう」なんて洒落っ気たっぷりに言ってくれたり♪ お互い顔を見合わせて……くすっと笑い合っちゃったりして♪
 にいさまをリビングに通したまではよかったんですけのけれど……肝心のお菓子はまだボウルの中。急いで型に流し入れてオーブンへ。本当は、にいさまがやってくるのに合わせて焼きあがるようにしたかったんですけれど、「白雪のお菓子が食べられるならいくらでも待つよ」なんて……♪ もう、にいさまったら♪ 嬉しいこと言ってくれますの♪

 ようやく作業も落ちついて、あとは焼きあがるのを待つばかり♪
 いつもはオーブンの前で、ドキドキしながらできあがりを待っているんですけど……今日はにいさまがいるから、それはなし。……だって……ちょっぴり恥ずかしい、ですもの♪ 
 でもやっぱり気になっちゃって……イスに座りながらなんとなく落ち着かない風に、オーブンの方を何度も見てしまいます♪

 そうこうしているうちに……うーん♪ お菓子の焼けるいい匂い♪ ……あら? にいさま、どうしたんですの?
 にいさまがお庭の方を眺めていたから近寄ってみると……まあ、猫ちゃんですの♪ お菓子の匂いにつられて来たのかしら?
 もうだいぶ大人の猫ちゃんで、茶色とミルク色のブチに、緑色の大きな目……。
 ……あれ? 姫、この猫どこかで……?
 それは、きっと……姫の記憶違いなのかもしれないんですのけれど……。でも……でも、にいさまが姫にリボンをくれた……あの日に見た猫ちゃんにそっくりで、あの日の小さな猫ちゃんもこうして大きな猫ちゃんになったんだって思えたんですの。
 姫もこのリボンをつけたままだと、この猫ちゃんと同じ……なのかしら?
 姫の大事な大事なリボン。……だけれど、このままじゃ……ずっと子供っぽいままなのかもって、思っていて……。それに……姫はやっぱり姫だから……。
 ……姫、にいさまに思い切って聞いてみることにしました。リボンをはずした頭は……やっぱりなんだかスウスウして寂しい感じがします。

「……ねえ、にいさま。姫……変じゃない?」

 それが今、姫に聞ける精一杯。
 じーっとにいさまの方を見つめて、なんだかとても長いような、あっという間のような時間のあと……にいさまは一言、「変じゃないよ」って言ってくれました♪
 それを聞いたら、姫、すっごく嬉しくなって♪ ……でもやっぱりリボンがないと自信がなくなってしまう気がすること、なんだか落ち着かないこと、ちょっぴり寂しいことをにいさまにお話しました。そうしたらにいさまは、突然姫の頭に手を置いて、

「リボンの代わりに、僕の手が置けるよ」

 って。

 ……にいさまの手、あったかい……♪
 にいさまの手から、その暖かさが体中に広がっていくみたいで……姫の不安や寂しさはもうすっかりなくなってしまっていました♪
 それでね、姫、すっごく嬉しくって……なんだか涙まで出てきちゃいましたの……♪ ふえーん、にいさまー!! 姫、ずっとずっとにいさまの側を離れないんですのー!

 急に泣き出した姫を、黙って受けとめてくれたにいさま。そんな2人の時間も、オーブンのチーン♪ という音で終わりを告げました。
 あ、マドレーヌが焼きあがったみたいですの♪

 それからは、にいさまと2人だけの素敵なティータイム♪
 姫のレシピで作ったマドレーヌは、にいさまにも大好評で大成功♪ 本当に子供みたいに喜んで、白雪のを食べちゃうともう他のは食べられないよね、なんて……姫、幸せ過ぎて、もうどうにかなっちゃいますの♪

 やっぱり姫は、にいさまのお料理番。だから……エプロンはなかなかはずせないと思うですのけれど……リボンははずしてもいいかな? って思いました。まだ人前ではずすのは、ためらいがちになっちゃうですけど、にいさまと一緒の時なら、もう全然寂しくないんですの♪♪♪
 だから、にいさま……今度、どっちの姫の方が好きなのか、教えてくださいね♪

          

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