カレーライスの男
オフ。大抵、菅さんと遊びに行くんだが、今日は用事があると言って、断られてしまった。
しっかし、絶対可笑しいよな、六人グループのメンバーの中で、四人がゲイ(ランディーズの二人は
バイらしいが)なんて。まぁ、芸人という職業は、意外と同性愛者を作りやすい。先輩や後輩、
同期。数え上げればきりが無い。俺は、ノーマルだ。
『西野〜!』
・・・やっぱ分かりやすいな、この人の顔。
「結構早かったですね」
そう。菅ちゃんに断られた時、丁度横には宇治原さんが居て、じゃあ代わりにという事で、宇治原
さんと買い物する事にした。・・・さすが元京大生。俺や梶とは、顔つきが違う。不細工やけど、賢そう。
というか、実際賢いんか。・・・でも、皆思いもせえへんのやろなぁ。この真面目そうな顔をした好青
年が、毎晩毎晩、友達であり相方でもある、菅さんの身体を舐め回して、セックスしてる事なん
て。しかも、菅さんは宇治原さんに骨抜きになっていて、楽屋だろうがロケ中だろうが、キスを
迫っている事。・・・ランディーズの二人はそんなに濃くなく、薄くもなく、均整が取れた感じだ。
菅さん、宇治原さんの何処がええんかなぁ。性格?セックスが上手?顔が好き?ペニスが大き
い?身体の相性がいい?・・・顔とペニスの大きさは、俺としては認めたくなかったりするんだが。
「・・・何?じろじろ見て」
「・・・え?・・・いや、何でも無いです」
この細い身体が、毎日菅さんの身体を抱いている。・・・うーん、分からん。何処がええんや?
「・・・ふーん・・・」
俺やって、宇治原さんがそれ程魅力が無い男とは思っていない。顔はお世辞にもいいとは言えな
いが、周りが言う(菅さんは口だけで、本当は不細工とは思っていないかもしれないし)程不細
工では無いし、優しいし、頭いいし、そんなに特別貧乏って訳じゃないし、芸人としても才能が
ある方だとは思うが・・・セックスとなると、普通・・・じゃないのか?指テクがあるとは思えないし、
キスは・・・したくもないが、した事が無いので分からない。身体の相性だろうか?結局、恋愛がど
れだけ長続きするかは、セックス、身体の相性によって違うと思う。身体の相性が悪くとも、愛す
る事はできるだろう。しかし、それは長続きはしないだろう。人間は身体を求める。セックスがよ
ければ、どんなにキスが下手でも、頭が悪くても、許せてしまうくらい、セックスは重要だ。俺はノ
ーマルなので分からないが、男同士でのセックスにおいても、それは同じだと思う。身体の相性が
いいから、と理由づけられるような気がしてならない。・・・そんなにええんやろか、身体の相性。
「西野?」
周りが皆ホモセクシュアル、バイセクシュアルばかりだからだろうか。俺は時々、どうして男女間
の恋愛が、「普通」で「当たり前」なのだろうと思う。此処には大勢居るのに。「大多数」とは違う、
恋愛感覚を持った男達が。男とやるセックスと、女とやるセックスには、どんな違いがあるんやろう。
性器?・・・本当にこの世の中の人で、性器の形の違いが、男とのセックスと、女とのセックスの違
いを裏付けると納得できる人がいるんだろうか?・・・俺はそうは思わない。子供を作る事=セッ
クスと思われているなら、そんなセックス、止めてしまえ。俺はそんなに頭が良くないが、そんな
馬鹿馬鹿しい理屈が、同性愛者は認められるべきではないという理由を確かなものにする事は無
いのだという事は、はっきりと分かる。俺はノーマルだけど、同性愛者を差別したりしない。
夜。色々と買い物をしているうちに、時が過ぎてしまい、すっかり遅くなってしまった。宇治原さ
んの提案で、宇治原さんの家で呑む事にした。ビールが足りないかもしれないという事で、宇治原
さんは近くのコンビ二に行っている。宇治原さんから鍵を預かったのだが、もしかして菅さん
がいるかもしれないという事で、最初にドアフォンを鳴らす様に言われた。・・・ラブラブやなぁ。
「ここか・・・」
ドアフォンを鳴らす。・・・と、いきなりドアが開き、
「宇治原ぁ〜!お帰り〜〜〜っっ!!」
いきなり菅さんに抱きつかれ、廊下に倒れてしまう。
「・・・西野・・・?何で・・・?」
ちょっと待って・・・あの、尻の感触がめっちゃ柔らかいんやけど。改めて、菅さんを見る。げっ。
これは・・・俗に言う、裸エプロンって言う奴とちゃうん?・・・え―――・・・嘘やろ。しかも、菅さ
ん異様に似合ってるやん。結構可愛いし。・・・鎖骨や太ももに、キスマークが残っている。
「・・・あの・・・菅さん?その格好・・・」
宇治原さん、何時も菅さんにこういう事してもらってるんか・・・?
「ああ、これ?・・・可愛えやろぉ♪」
いや、可愛いけど。
「・・・菅さん・・・いっつもしてるんですか?裸・・・エプロン」
「ん―――・・・この前は・・・ナースやったかなぁ、ブルマ・・・とかもしたと思うわ」
菅さんが、ナースやブルマ・・・宇治原さん、相当ムッツリやん。菅さんノリノリやし。ちょっと
待って、って事は、高井さんも似た様な事、した事あるんか・・・?・・・嫌や〜。そらな、分かるよ?好
きな奴の、裸エプロンが見たいっていうのは。せやけどなぁ・・・・・・相手は相方なんやで?
「菅ちゃ〜ん!」
この呑気な声は・・・
「宇治原〜〜〜っっ!!」
菅さんは宇治原さんに気づくと、すぐ抱きついた。そしてそのまま、深くキス。宇治原さんは慣
れているのか、裸エプロンの菅さんを見ても、俺ほど慌てたりしない。宇治原さんは菅さんを
抱っこしながら、戸惑う俺を差し置いて、中に入っていく。・・・何か、いきなり濃かったなぁ。
「・・・ふーん、じゃあ、宇治原と西野、ずっと梅田におったん?」
菅さんが、適当におつまみを作って、持ってきてくれる。・・・未だに菅さんは、裸エプロン。菅
さんは、午前中はずっと家でのんびりしていたのだが、だんだんと暇になっていき、宇治原さん
に貰った合鍵で、何時もの様に宇治原さんの家に向かい、エプロンに着替え、待っていたらしい。
それにしても・・・何処を見たらいいのか分からない。菅さんは本当にエプロン以外は何も付け
ておらず、時々、可愛い尻が見えてしまう。おつまみをテーブルの上に置くと、迷う事無く、宇治原
さんの腰の上に。・・・宇治原さんも、満更じゃなさそうだ。絶対お邪魔やんなぁ、俺・・・。
「・・・なぁ宇治原ぁ、宇治原のビール、・・・頂戴?」
菅さんが、とろんとした目でそう言うと、宇治原さんは菅さんにキスをし、そのまま菅さん
の口内に、自分の口内のビールを流し込む。菅さんの喉が、動く。・・・ほんまに、好きやねんなぁ。
「・・・・・・宇治原ぁ、・・・俺、もう・・・」
菅さんはそう言うと、エプロンの肩紐をはずし、腰紐に手を掛けた。
「あかん、あかんて!西野がおるやろ!」
・・・見せ付けてる気は無いんだろうが、・・・そうかと思ってしまう。
「・・・いいですよ、俺は別に」
俺がそう言うと、宇治原さんは菅さんを抱っこし、俺を申し訳なさそうな目で見ながら、寝室ら
しき部屋へ入っていった。・・・菅さん、妙に色っぽかった。俺の前とは違う、菅さん。宇治原さ
んは何時も、あんな菅さんを見てきたんだろうか。・・・何か悔しい。あの人は、特別なのだ。
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