フォンダンショコラ


『ロマンスの神様』なんて曲がある。可愛い曲だ。恐らく、ロマンスの神様って奴は居る。でも、俺
には、その神様を待つ時間は、もう無い。実力行使である。俺の恋愛は、それで成り立つ・・・はず。
 「・・・・・・ん―――・・・」
綺麗な肌。ニキビも無く、細すぎて骨が見えてしまう事もあるが、・・・今は少し太ったのか、骨が見
えず、端正な顔立ちになっている。眉毛は薄くて、瞼は窪んで、睫毛が綺麗に生えている。
 「・・・・・・」
この顔が、俺以外の奴のものなんて。しかも、その相手が・・・
 「・・・西野ぉ・・・」
・・・何でや。絶対、俺の方が可愛いのに。宇治原は可笑しい。俺のとびきり可愛い顔を見すぎて、慣
れちゃったの?だから、西野みたいなのを好きになったの?俺のこの、くりくりした目。普通の女
より、全然長い睫毛。柔らかそうな唇。丁度いい具合の身体。・・・・・・欲しくないの?俺の事。
 「・・・宇治原・・・」
唇をなぞる。絶っ対、西野なんかに渡してたまるか。俺のもんや。大体、寝言までが西野なんて。悔
しい。・・・もう、許さない。宇治原の身体の上にまたがり、シャツのボタンを外し、ぬぐ。・・・俺の方
が、全然好きやもん。西野より、俺の方が。宇治原の手を優しく包み込んで、俺の胸の方に当てる。
宇治原は変に思ったのか、少し顔を歪ませる。・・・綺麗な手。胸を、揉ませる。・・・あー、この感触。
 「・・・西・・・野・・・?」
・・・・・・む―――。
 「・・・西野じゃないよ・・・」
そう耳元で小さく呟いて、キスをした。
 「んっ・・・・・・!?」
宇治原は目を覚まして、起き上がった。
 「菅ちゃん・・・?・・・・・・って!そのかっこ・・・」
首に腕をかけて、ぴったりと密着させる。
 「あかんって!何か、服着な・・・!」
そう。俺は、素っ裸なのである。
 「嫌」
 「・・・菅・・・ちゃん?」
西野、一杯この唇に、キスしたんやろなぁ。
 「・・・宇治原・・・気付いてるよね?・・・俺の気持ち」
そこまで鈍感じゃないよね?
 「・・・うん。でも、俺・・・」
宇治原はふらっとよろめいて、倒れてしまう。自分でも気付いてないみたいだ。今日、ラジオの放
送後。皆で夕飯を食べて、宇治原をバーに誘って、俺、沢山酒を呑ませた。宇治原は昔から、酒には
弱い。本当はしたくなかったんだけど、そうするしかなくて。何も気付かない宇治原に、良心は痛
んだ。少し嫌だった。やって、俺、西野に宇治原を取られたくなくて、してるんやなぁって思うと、
俺、西野に負けてるって認めてるんだなぁって、思って。・・・でも、しょうがない。方法が無いんだ。
 「分かってる。・・・西野がいるから、したくないんやろ?」
 「・・・・・・うん」
そんな優しい所も好きなんだけど、ごめんね、今は邪魔。
 「・・・宇治原・・・
迫る。凄く近くなる。宇治原は必死に止めるけど、俺だって負けない。
 「・・・ええやん、酔っ払って、やってもうたって言えば・・・
大体、こんな可愛いのが相方で、好きって言われて、手ぇ出さん方がおかしいんよ?
 「・・・菅ちゃん・・・」
 「・・・なぁ、ええやろ?・・・お願い、一回だけ。・・・ね?」
その目に、俺だけを映して。
 「・・・俺、何でもするよ?フェラだって、騎乗位だって、・・・宇治原がしたい事、何でもして?」
一晩だけ、俺を愛して。
 「・・・でも・・・」
 「一晩。一晩だけでいいの。・・・お願い、・・・一晩だけ、抱いて」
 「菅ちゃん・・・」
宇治原、俺の頬を包み込んで、キスした。

 「・・・宇治原―ぁ、朝やでー」
ああもう、そんな無防備な顔しないで。・・・誤解するよ?そんな無防備な顔、俺にしか見せてない
んじゃないの?って。西野しか、好きじゃないくせに。そんな顔、せんといてよ。・・・お願いだから。
 「う・・・ん・・・、今・・・何時?」
 「・・・キスしてくれたら教える」
俺、目をつぶる。
 「・・・十時三十分・・・か」
畜生、携帯電話なんか、大嫌いだ。
 「・・・朝飯・・・
 「・・・口移しでよかったら、あげる」
宇治原は無言で、俺から逃げようとする。・・・逃がさないんだから。
 「・・・菅ちゃん」
何よ、その目は。
 「・・・やって・・・H、してくれへんかったもん」
一回だけならいいやん。・・・普通の奴なら、喜んでのってくるだろうに。ちょっと苦労するやろな
ぁと思ったよ、宇治原をその気にさせるには。でも、俺、そんなにあかんの?西野の代わりにはな
らんの?・・・ええやん、西野なんかだけじゃ、満足できへんやろ?・・・浮気しても、ええやん。
 「・・・菅ちゃん・・・」
 「・・・宇治原が、好き」
多分ね、西野が宇治原の事を好きなくらい、いやそれ以上だって言っていいくらい、好きだよ。
 「・・・それだけ、覚えてて」
その賢い、脳みその一部に、しっかり書き込んでおいて。油性のぶっとい黒いマジックで、脳みそ
が潰れそうな位の力で、びっくりするくらい、大きく。・・・他のものを、消してしまうくらいに。
 「・・・絶対、奪いにいくから」
その優しい眼差しも、低くて冷静な声も、皆全部、俺のものにして、しまい込むんだから。
 「・・・楽しみにしてます。・・・でもね。俺も負けないよ」
出た!京大に入らせた、そんじょそこらには無い、負けず嫌い!!
 「・・・俺だって、負けないよ」
虜にしてあげる。何時も何時も何時も、俺の事しか考えられないくらい、夢中にさせてあげる。毎
日抱きたくなるような、身体になるんだから。毎日好きだと言いたくなる様な、魅力的な人間にな
るんだから。何時もキスしたくなるような、柔らかくてたまらない、唇になってみせるんだから。
 「・・・好きだよ、宇治原」
 「・・・モテる男は辛いわ」
・・・そうやね。恐らく芸人界の中ではトップクラスの可愛子ちゃんに、迫られたもんね。
 「・・・すぐ欲しくなるよ、俺の事」
甘い甘いチョコレートみたいな、俺の事をね。でも、このチョコレートはそんなに甘くないよ。最
初は驚く程甘くて、ほんのり酒の香りがしていい感じになるけど、酔ったら最後。ビターな味で、
仕留めてみせる。逃がさないよ。西野みたいに、無防備でほわほわした、マシュマロじゃないよ。
 「・・・・・・はぁ」
その溜息さえも、俺のものに。



continue・・・