Nobody knows
思い出したくない。思い出さない方がいい。
「哲夫さ〜ん」
劇場の近くをうろうろしていると、川島が声をかけてきた。・・・横に彼氏は居ない。
「ん?どうしたん?」
「今晩。空いてますか?」
最近、麒麟と千鳥と俺と西田で番組をやっていた為、会う機会が多くなった。・・・ほんまの事
を言うと、あいつには会いたくない。会うと、あの顔を見ると、ついあの事を思い出すから。
「空いてるけど・・・」
川島なら、あんな事はしないだろう。・・・愛されているから、愛しているから。
「呑みに行きません?・・・僕と、田村と、哲夫さんと西田さんと、千鳥の二人で」
・・・何時か、こうなると思っていた。・・・腹をくくるべきだろう。向こうは、そうだろうし。
「・・・・・・ええよ」
川島が笑った。と、川島の携帯が鳴り、数分話をすると、俺に申し訳なさそうに、でも嬉しそ
うに劇場に戻っていった。・・・相手は田村だろう。田村以外に、あんなに嬉しそうにしない。
あの日。一月の中頃だったか。・・・そう考えると、つい最近の事だった。・・・もう何年も、前の
事のように感じる。そう感じたいのかもしれない。昔の事だと、忘れたいのかもしれない。
「・・・・・・」
仕事が終わり、西田と飯を食って、珍しく一人で家に帰っていた。
「・・・・・・あ」
携帯の音が鳴った。・・・大悟からだった。俺は何も気にせずに、通話ボタンを押した。
「・・・もしもし、大悟?」
『・・・哲夫さん?』
何時もと、同じ声が聞こえてくるだろうと思っていた。大悟の声は、少し震えていた。
「・・・大悟?・・・何かあったんか?」
数秒ほど、大悟は何も言わなかった。・・・何も言えなかったんだろう。
「・・・大悟?」
あの時、大悟にあんなに優しくしなかったら、こんな風にはならなかったかもしれない。
『・・・哲夫さん。哲夫さんの家、・・・行ってもいいですか?』
「・・・え?・・・あ、ああ・・・うん・・・」
大悟の声が、寂しそうで、俺は気付いた時には、そう答えていた。・・・大悟は十分もしないう
ちに、俺の家のドアホンを押した。元々、最初から家の近くには来ていたらしかった。
「・・・とりあえず、何か飲むか?」
大悟は何も言わずに、頷いた。大悟の目は赤くなっていた。・・・多分、泣いていたんだろう。
「・・・ほい、お茶」
「・・・有難う御座います」
大悟はそう言って、差し出されたコップを受け取った。大きな溜息を吐く。
「・・・何か、あったんやろ?」
大悟は、また何も言えなくなる。しかし、俺としては何も説明してくれないのも許せない。酷
いと言われそうだが、いきなり部屋に入れてくれと言われて、入れている立場にもなれ。
「言い。・・・俺に言いたくて、来たんやろ?」
大悟は俺にそう言われて覚悟を決めたのか、口を開いた。
「・・・ノブと、喧嘩したんです」
・・・まぁ、大体予想はできたが。
「・・・ふぅん」
煙草を咥え、火を点けた。大悟に薦めるが、煙草を吸う気分にはなれない、と断られた。
「・・・僕、ノブと喧嘩した事、無くて」
だろうな。あんだけ仲がよければ、喧嘩もせんやろ。ノブも、あんまキレへんし。
「・・・どうしたらええか、わかんないんです」
「・・・ああ」
煙草を口から離し、息を吐く。
「・・・何か、知らんうちに・・・哲夫さんに、会いたくなって」
何時もの威勢のよさはどこへやら、大悟の目は、捨てられた猫みたいにこっちを見上げてい
る。・・・マゾヒストの目。濡れた目。・・・ノブに抱かれている時しか見せない、『可愛い』目。
「・・・どうして欲しい?」
・・・それぐらい、口で言って欲しい。その口は、飾りとちゃうやろ?
「・・・抱いて下さい」
・・・その言葉は、感情を含んでいないように軽かった。
「・・・ええんか?」
「・・・はい。壊して、下さい」
・・・馬鹿のように愛しい、と思った。
「・・・風呂、浴びてくるわ。・・・そうやな・・・」
その目は、貪欲に罵声と屈辱を欲しがっていた。・・・だから、
「・・・・・・」
押し倒し、ジーンズを脱がし、下着を脱がして、ジーンズで足首を縛って、濡らしもしないで、
アナルにバイブを突っ込んだ。大悟の身体は、真っ直ぐに伸び、硬くなる。足が震えている。
「・・・ぁっ、う・・・!」
スイッチを押す。鈍い機械音と共に、バイブが大悟の身体にめり込んでいく。
「・・・痛いか?」
大悟が、両目に涙を浮かべて頷いた。
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