梅
AM10:00。
「・・・ん―――・・・」
目を開ける。・・・隣には何時も通りの顔。茂雄は眠たそうに、目を開けた。
「・・・お早うございます」
「・・・お早」
・・・変な関係だ。昨晩の事を思い出す。確か・・・うめだ花月で原西と打ち合わせをしてて、偶
然サバンナの二人と会って・・・話しこんで。一緒に帰った。茂雄は此処最近、自分の家に帰ってい
ない。心の内を打ち明けたのは、・・・二年位前。お互いひた隠しにして、今まで『付き合って』きた。
「・・・何か仕事あります?」
「・・・別に」
お互い起きたばかりで、よく話せない。
「・・・ん・・・」
キス。
「・・・藤本さん・・・」
気だるい目で、こっちを見つめてくる瞳。・・・茂雄は、これまでに会ってきた後輩とは違ってい
た。・・・こっちを何とか利用して、いい立場に行こうとしている。何回か他の後輩から、茂雄には気
をつけろと言われてきていた。でも、止まらんかった。好きになった途端、どんな助言も、俺の頭か
らは抜けていった。八木、一緒に番組をやっていた千鳥の二人、後輩、先輩には俺と茂雄のこんな
関係は知られていないが、原西だけは知っている。何回か相談もした。最初に打ち明けた時の、原
西の呆れた表情。・・・呆れられるのは分かっていたのに、何か辛かった。でも、気にしなかった。
「・・・茂雄」
電話が、嫌に耳につく様に音を鳴らした。
「・・・ちょっとごめんな」
茂雄から一端身体を離し、電話へ向かう。受話器の向こうから聞こえてきたのは、矢部の声。
『藤本さん?』
茂雄はだらしなく、俺の背中に圧し掛かる。
「・・・矢部?どーしたん?」
用があるなら、早く済ませてくれ。
『・・・随分邪険にあしらってくれますけど。お楽しみ中でした?』
お楽しみ中といえば、そうなるが。茂雄はつまらなそうに顔を歪めて、俺に抱きついてくる。可愛
いなぁ。身体めっちゃ細いし、・・・絶対そんじょそこらの不細工な女より可愛いと思うんだが。
「・・・まぁな」
『・・・今日、会えません?ちょっと仕事で、大阪に来てるんです』
全く。今日は茂雄とのんびりできると思ったが。・・・矢部のこのタイミングの悪さが、
何かいらつく。もっとタイミングよく、誘ってくれればよかったのに。
『・・・久しぶりに、話しませんか?』
・・・まぁええか。
「・・・ええよ、別に」
1時に、梅田。矢部が電話を切り、俺も受話器を元に戻した。・・・茂雄の方を向いて、又キスする。
「んっ、・・・ふっ、ぅんっ・・・・・・藤本さん、どっか行くんですか・・・?」
何も着させないまま、又ベットに押し倒した。足を広げさせ、身体を挿入する。
「・・・ああ・・・ちょっと、矢部とな・・・・・・一緒に、来るか・・・?」
腰を前後に振ると、茂雄は嬉しそうに声を上げる。ベットシーツを掴む手が、たまらない。
「・・・はい・・・んっ、ああっ、藤もっ、・・・あぁんっ、はぁっ、あっ、ああぁっ・・・!」
PM1:15。
梅田の中心を、少し外れた所にあるコンビニ。茂雄とやって、風呂に入って、梅田に向かった。矢部
は少し遅れてきて、申し訳なさそうにしているので、煙草を奢らせた。茂雄は最初、少し緊張していた
みたいだが、矢部が緩ませ、大分落ち着いたみたいだ。・・・雨が、止んでは降っている。
「・・・嫌な天気ですねぇ」
いい喫茶店があるというので矢部に案内してもらったが、生憎の雨で、その顔は酷く澱んでいる。
「・・・しゃあないやろ」
$10の浜本が今日の阪神戦を見に行くとか言うてたけど、この雨じゃ、多分中止だろう。
「それにしても・・・結構可愛いですね、藤本さんのお気に入り。高橋君、でしたっけ?」
矢部が、面白そうにこっちを見ている。茂雄はトイレ。
「・・・まぁな」
茂雄と居ると、『やりたい』という性欲が強くなり、一日に何回もしてしまう。恋愛感情はある。
でも、性欲の方が強い。・・・多分俺と茂雄の関係は、はたから見たら『セックスフレンド』だろう。
「・・・顔も結構可愛いし、身体も・・・。あんな子やったら、浮気したいなぁ」
思わずテーブルを叩いてしまう。矢部は少し驚いたような表情で、俺を見ている。
「・・・まさか・・・とは思ってましたけど。・・・藤本さんが、ねぇ・・・ま、分からなくも無いですよ」
矢部が若手を代わる代わる喰っているという噂を、周りから聞いている。相方との関係の相談と
かこつけて、矢部は自分の好みの若手を押し倒している。岡村という、本命が居るのに。元々岡村
との関係が『浮気』だから、別に気にしては居ないと矢部は言う。それに、自分は同情しているの
であって、最初から下心なんて持っては居ないとも。俺から見たら、下心で接しているようにしか
見えないんだが。・・・他は別にいい(別に俺が関与する問題でもないだろうし)が、茂雄は別だ。
「・・・でもねぇ、あの子にはちょっと気をつけたほうがいいですよ」
「・・・何でや?」
矢部は言いにくそうに、口を開いた。
「・・・どうも、一筋縄でまとまるようなタイプには見えないんですよ・・・」
俺は笑い飛ばした。茂雄は『好きだ』とか、そんな言葉を頻繁には言わないが、茂雄は俺の家に毎
日の様に入り浸り、その度に抱き合っているのに、・・・浮気なんて。・・・している訳が無い。
「お前の思い込みや。・・・茂雄は、浮気なんてせえへん」
そうや、浮気なんて・・・。
「・・・ほんまに気をつけて下さいね。痛い目、あいますよ」
痛い目なんか、あうか。
continue・・・ →