ホワイトチョコレートガナッシュ


午前十一時。なんば駅前。もうそろそろ・・・来るはずなんだけど。普通なら逆。でも今回は少し違
う。・・・あの人とは、結構長い付き合い。付き合い始めてからは、まだ二ヶ月くらいなのだけど。
 「西野―」
顔を見ただけで、嬉しくなってしまう。自分でもちょっとキモいと思うけど、この人が好きだと気
付いた時から、ずっと大好きだと思い続けていたんだから、・・・許してください、と思う。
 「ごめんなー。ニュース見てたら、夢中になってしもて」
・・・全然遅れていないのに。多分この人は、人と待ち合わせをする時には、自分は五分くらい早く
来るべきだ、とでも思っているんだろう。・・・大事に思われてるんかな。・・・やといいのに。
 「さ、行こか」
・・・手が伸ばされる。俺も手を伸ばして、
 「・・・はいvv」
手が握られる。指を絡ませて、離れないように。少し冷たい体温が、指先を通って伝わってくる。彼
に会うんだと興奮してすっかり暑くなってしまった身体が、心地よく冷めていく。
 「冷たい?俺の手」
 「あ・・・大丈夫です。・・・逆に、何か嬉しいですvv気持ちいいし」
 「・・・そっかvv」
優しい笑顔。指が、更に密着する。・・・今、手、繋いでます。・・・ええ、恋人のように。恋人ですから。
 「今日・・・まず、何買います?」
 「・・・あー。ソファ欲しいんよ。・・・二人でぴったり座れる様なvv」
・・・恥ずいなぁ。でも、やっぱ嬉しい。
 「・・・あの、宇治原さん?」
 「うん?」
 「商店街は・・・さすがにバレません?」
場所が場所やし。
 「大丈夫やって。平日やもん」
・・・平日やからって・・・舞台はありますよ?
 「・・・・・・あかんの?」
・・・嗚呼もう。
 「・・・ダメな訳、無いじゃないですか」
負けてしまう。お願いだから、そんなに嬉しそうにしないで下さい。・・・もっと、好きになりそう。
 『昨日、関テレでな・・・
お互い同時に、手を離した。
 「・・・・・・」
 「・・・・・・」
女子高生であろう団体が通り過ぎる。・・・又、手を握られる。
 「・・・性懲りもなくー」
笑う。・・・何か・・・梶とか、菅さんに悪い感じ。・・・幸せすぎるんやもん。
 「・・・ええやろー、別にぃー」
拗ねると妙に可愛いねんなぁ、この人。
 「・・・あ、着いた」
白いビル。エレベーターで、四階まで上がる。ソファやカウチが、ぞろっと並んでいる。
 「・・・小さいの、ですか?」
 「うん。二人用やからね」
・・・やっぱ、そうなんかい。
 「赤いのがええなぁ・・・・・・あ、これなんかどうや?」
宇治原さんが指差したのは、DVDセットが似合いそうな、所謂ラブソファ。
 「・・・完璧に狙ってますね」
 「・・・うん。狙うね」
 『・・・お客様、ソファをお探しですか?』
 「・・・あー・・・赤いのがええんですよ。彼女が欲しい言うんですわ、ソファ」
 「ああー・・・そうですねぇ、・・・うーん、でしたら、やはりこういった形の・・・いいんじゃないでし
ょうか?他の形は・・・どうも大きくなりすぎると思うんですよ」
 「・・・そうですよねぇ・・・
ちらっと見られる。・・・俺はどれでもいいです。・・・貴方と一緒に居られるんだったら。
 「色は・・・赤ですよね?」
 「ええ、そうなんですけど・・・形はこれしか?」
 「・・・これしか・・・ありませんね。如何いたしますか?」
 「買いますわ。クレジットいけます?」
 「はい、ご使用になれますよ。・・・こちらへどうぞ」
ラブソファ・・・なぁ。ほとんど家で過ごせないのに。・・・まぁいいか。
 「西野―――。ついてくるー?」
又、手を差し伸べられる。でも、ここはさすがに・・・
 「いいです。ちょっと、他の椅子も見てます」
 「・・・ふ――――――ん・・・」
・・・ああもう、そんな目で見ないで下さい。ついていきたいですよ、ええ。何処でも。バレないんや
ったら。ここはバレるでしょう?僕だって、行きたいのを我慢して、ここにいるんですっ。
 「・・・じゃあ全部終わったら、又こっち来るから」
 「・・・はい」
宇治原さんの姿が、小さくなる。・・・はぁ。緊張する。あの人が苦手なんじゃない、自分に少し、プレ
ッシャーを感じるのだ。やって、俺はあの人ほど、頭がよくないから。多分、俺とあの人が同じテス
トをしたら・・・30点、いや、50点ぐらいは、点が違う。何時も不安。あの人が、俺の、馬鹿でくだ
らない話に呆れていやしないやろうか、とか。でもあの人なら、そう感じていても、人にそうは思
わせない。もちろん、その話し手にも。・・・優しい人やから。不安になるんです、ものすっごく。
 「・・・・・・」
何で赤なんやろ?・・・そういえば、菅さんが赤、好きやったなぁ。二人用・・・まさか、まさかな。でも、
菅さんも宇治原さんの事、好きやって言うてたなぁー。でも、俺の事好きやって言うてくれて
る。・・・でも正直言って、俺か菅さんかって言うたら、菅さんを選ぶやろうし。
 「西野っ。・・・どーしたん?そんな顔して」
宇治原さんの相方が、菅さんじゃなかったらええのに。
 「・・・何でも無いです」
早足で歩く。・・・手を掴まれる。
 「・・・何かあるやろ」
 「・・・何も無いです」
こんなくだらない事、言う必要も無いでしょう?
 「・・・言うてみ。聞いたるから」
・・・そんな優しい顔、せんといて下さい。
 「・・・・・・店、出ましょう」
ここじゃ、恥ずかしいから。
 「・・・・・・ああ」
店を出る。ビルを出て、捕まえられる。
 「・・・言いなさい」
じっと、俺を見つめる目。逃げる事を、許さない目。
 「・・・不安なんです」
 「・・・・・・不安?」
 「ほんまに・・・僕の事、好きで居てくれるんかなって」
 「・・・・・・西野・・・」
 「・・・菅さんの方が、ええんちゃうんかなって」
・・・ああ、言ってしまった。
 「・・・ちょっと待て」
宇治原さんが、不思議そうな顔をして。
 「・・・何でそこで、菅ちゃんなん?」
・・・何でって。
 「・・・やって・・・
 「・・・可愛いから?やから、・・・菅ちゃんに走るかもって思った?」
・・・やって。
 「・・・きっぱりフッたよ。・・・告られました。フリました。・・・これでも駄目?不安?」
抱きしめられる。駄目とか、不安とかとちゃうんです。宇治原さんに好きって言われて、安心する
事もあるんです。ただ・・・菅さんと親しそうに話してる宇治原さんの事見ると、嫌なんです。
 「・・・どうしたら、信じてくれる?」
・・・菅さんを嫌いになって下さい。・・・なんて言える筈もなく。
 「・・・好きって、言って下さい」
・・・それだけで、単純な俺は、貴方を信じてしまうでしょう。
 「・・・・・・好きだよ」
・・・。
 「・・・もう一回」
 「・・・好き」
 「・・・もう一回」
 「・・・大好きや」
 「・・・ほんまにですか?」
 「・・・おう。好きすぎて可笑しくなりそうなくらい、好きや」
嬉しくて、抱きついた。俺、抱きしめられて。宇治原さんの腕の力、凄く強くて。・・・少し痛くて、で
も、嬉しくて。・・・何か、自分で勝手に決め付けて締め付けてたもの、全部楽になった気がして。
 「・・・・・・西野、ちょっと・・・な、言いたい事、あんねん」
しばらくして、宇治原さんが腕を緩めて、そう口を開いた。
 「・・・はい?」
 「・・・今日から・・・一週間、うちの姉ちゃん、旅行行ってんねん」
・・・まさか。・・・やって、それやったら、俺。
 「・・・俺ん家、泊まらん?その間」
・・・どうしよう。嬉しすぎて、何か、一生分の運、使っちゃったような気がするんですが。
 「・・・・・・いいんですか?」
 「・・・もちろん」
・・・半・・・同棲って奴?
 「・・・ダメ?」
俺、顔を横に振って。
 「・・・良かったぁー。・・・さ、ビール買って帰ろ?パジャマとか色々、揃えてあるから♪」
・・・菅さんすいません。・・・ほんまにすいません。
 「・・・はいっ」



continue・・・