ジレンマ



最近、よく泣きそうになる。昔は気にも留めてなかった、これがいけない事なんて。ていうか、
求められてんだからしょうがないじゃん?と思ってた。でも、いろんな人の話を聞く度に怖
くなる。俺、いけない事してるんだ。もう止めなきゃいけないんだ。・・・早く、止めなきゃ。
 「・・・・・・亮君・・・」
でも困った事に、・・・もう身体の隅々に染み込んじゃってるんだよなぁ。亮君は既婚者だし、
子供も作っちゃってるし。正直な所、亮君の奥さんと子供の事はどうでもいい。ただ、結婚す
るまではしょっちゅう求めてきたくせに、結婚したら、時々しか求めてこない。我慢できな
い。絶対軽く思われてるし、俺。昔は好きって沢山言ってきたのに、今は全然だしなぁ・・・。
 「・・・敦!待った?」
・・・デート。・・・不倫相手との、ね。
 「・・・ちょっとかな。十分くらい」
少し寒い。指先冷えてんなぁ・・・
 「・・・ちょっと冷たいな。・・・何か、喫茶店でも行こか?」
亮君が、両手で俺の手を合わせる様に温めた。温かい。・・・家庭の匂い。
 「・・・うん」
右手を握られ、すっと引かれる。
 「いいの?見られても」
 「・・・いいよ」
どっちなんだろう。たくさん人がいるからバレないだろうってのと、俺が好きだからバレて
もいいってのと。・・・年かなぁ、後の方だったらいいのにって思うのは。・・・嬉しいんだよな。
 「亮君・・・」
もう止めよう。こんな関係。
 「ん?」
でも、亮君とセックスする度に、たまらなく好きだと思ってしまう。
 「・・・ううん、何でもない」
何でもなくない、止めなきゃ、はっきり言わなきゃ。今言うんだ、亮君に。
 「そっか」
・・・嗚呼、好きだ。

新宿駅南口から少し行った所にある、スターバックス。もう十時過ぎ。平日だからなのか、そ
れ程人はいない。奥の、二人用の席。店を見渡せる側に座る。亮君はコーヒーを買いに行って
る。・・・何時も、俺のワガママを聞いてくれる亮君。時々周りも呆れるぐらい、亮君は俺に従
順だ。まぁ友達以外皆知らないからね、・・・夜になれば、ベッドの上では反対になる事。
 『それでさ、昨日の・・・』
それにしても、バレないもんだなぁ。いや、バレてても騒がれてないんだよな。こんなもんか。
俺が亮君と一緒に店に入ってきて、ぎゃあぎゃあ何か言われるかと思ったけどなぁ・・・・・・。
 「・・・敦?どーしたん?」
亮君の声で、はっとした。
 「・・・何でも無いよ。ありがと」
 「ええよ、これぐらい」
優しいよなぁ、マジで。・・・セックスしてる間は、あんなにスケベでサディストなのにな。
 「・・・今日、・・・泊まってくの?」
何時もは、セックスを終えると、すっと帰ってしまう。・・・嫁と子供がいるから。嫌だな、何か
そう考えると哀れになってくる。俺なんて、何時でも亮君に捨てられる存在なんだよなぁ。
もちろん相方っていう関係はそのまんまだから、相方としてはつきあっていかなきゃいけ
ない。あー、つれぇわマジで。・・・今は別れないって言ってるけど、まだ分かんないよなぁ。
 「・・・あかん?」
・・・嬉しいという気持ちと、大丈夫だろうかという気持ち。何時もこれだ。
 「・・・別に、いいよ」
嗚呼、そんなに無邪気に微笑まないで。お願いだから。・・・辛くなる。
 「・・・亮君っ」
・・・断らなきゃ。やっぱ駄目だって。
 「ん?」
セックスしたい。セックスしたい。セックスしたい。セックスしたい。セックスしたい。セ・・・
 「・・・いや、何でもない」
もう少しだけ。もう少ししたら、関係を切るから、もう少しだけ。

ベッドの上。何時ものようにシャワーを浴び、亮君の待ってるベッドへと向かう。ごくっと
唾を飲む。・・・後何回だろう。まともにこうして、亮君とセックスできるのは。怖いなぁ・・・。
 「こっちおいで、敦」
足を開いて、こっちに手を伸ばしてくる。すっと抱きついた。
 「・・・ええ子やなぁ」
亮君はそう言って、俺を優しく抱き上げた。首、首筋、肩にキスされていく。跡、残るなぁ・・・
 「今日は、随分素直やな」
 「・・・素直だといけない?」
何時も、イライラしてるんじゃないの?俺のワガママに。
 「いや、あかん事はないけど・・・」
今度は、唇へ。キスをしながら、亮君の肩に、腕をかける。
 「んっ・・・ふ、ぁっ・・・ん・・・」
周りとか見ると、途端に羨ましくなる。未婚者ね。板倉とか、馬場とかいいよなぁ。結婚なんて
めんどくさいもん相方はしてないから、やり放題だよな。あぁ、・・・結婚してなかったら。
 「・・・んっ・・・嫌、んっ・・・」
尻を撫で回され、揉まれる。亮君、鼻息荒いなぁ。
 「・・・敦・・・」
・・・俺が、亮君にずっと俺の事を見て欲しいって思うのは、ワガママかな?
 「・・・敦?・・・泣いてる・・・ん?・・・どうしたん?」
亮君の馬鹿、何でそんなに優しいんだよ。俺、二番なんでしょ?亮君の二番なんでしょ?だ
ったらいいじゃない、無理やり襲っても。辛いよ亮君。もっと乱暴にしてよ、優しくしない
で。・・・亮君に優しくされる度、抱きしめられる度に辛くなるよ。俺、一番になりたいよ・・・。
 「・・・何でもない」
亮君、俺とHしたいんでしょ?だったら早くしようよ、そんなに見つめないでよ。
 「何でもなくない!!そんな敦、抱きたくないよ・・・」
 「何でだよ!俺、・・・玩具になるよ?・・・亮君、Hな事、したいんでしょ・・・?」
早くセックスしようよ。何もかも忘れさせて。・・・ねぇ、早く。亮君に抱きしめられる。嗚呼、
そんな事されたら、俺・・・。涙がぽろぽろぽろぽろ、流れてく。止められないのが悔しい。
 「・・・俺、二番なのに。何時でも捨てられる存在なんでしょ?」
・・・嗚呼、黙ったりしないでよ。
 「敦、ごめん」
・・・謝んないでよ・・・!
 「・・・確かに俺は、一番に敦の事は愛せない」
・・・・・・。
 「でも!俺はずっと愛してる、敦とケンカした時やって、別れたいなんて思った事ない」
・・・亮君の馬鹿。
 「敦。絶対俺、お前を捨てたりせんから」
 「・・・いいの?奥さんに隠さないといけないよ?」
 「・・・ええのっ。・・・そら浮気は悪い事やってのは分かってる、知ってる。でもな、それでも
敦が好きやの。敦がおらんかったら、敦とHできなかったら、俺、生きてかれへん」
・・・・・・亮君っ・・・
 「・・・おっ」
亮君に抱きついた。
 「・・・好きだよ、亮君」
背中に腕を回される。
 「・・・俺も、好きだよ」
キスをする。押し倒される。キスをされる。・・・亮君、好きだよ。
 「・・・ぁ、ん・・・嫌、ぁ・・・」
股を大きく広げ、太ももにキスをし、舐める亮君。・・・何か嬉しい。俺今、亮君に愛されてる。






continue・・・