メルクアーナ戦記

 

外伝 下
 ハールが、騎士団を集合させたのは次の日の朝であった。そこには、ホープとシアがいた。
「誘拐犯人共の居場所が分かった。我々は、今からそいつらの撃退と救出に向かう!」 
 ハールの言葉に、ざわめきがおこる。
「これから、隊を二つに分ける」
 そう言うとハールは、隊を二つに分けた。まず、ハールを隊長にした8名、そしてシアとホープが入る。
 二つ目は、ヤエルを中心とした12名という組み合わせである。
 ハールの部隊が奇襲を行い。その隙にヤエルの部隊が子ども救出に当たるという作戦である。
 シアがどうしてここにいるかというと、ハールが隊を集めたとき、一緒に来てしまい、ハールに何をするのか問いただした。ハールは、それを教えると自分も行きたくなり、強引についていくことにした。むろん、逆らえるはずがなかった。
 ホープは、当然、村の場所など詳しい男である。それに、もしかしたら彼の両親を殺した奴等が犯人かも知れない。そう思うと、仇を討たせてやりたいと考え、この部隊に入れた。
 ハールは、全員に説明を始めた。
「まず、我々の部隊が奇襲をかける。賊が混乱している内にヤエルの部隊が子ども達を救出する」
 ハールは、ここでいったん言葉を切った。
「もし、我々の部隊で子ども達を見つけても、助けることは出来ないと推測できる。その時には、誰か一人案内役として残しておくから、彼女の指示に従って欲しい」
 ハールは、また切る。
「以上、何か質問は?」
 そう言って、ハールは周りを見渡した。しばらくして何も返答がなかったのでここで説明を打ち切ることにした。
「よし、出発は2時間後だ。遅れるな!」
「解散!」
 ヤエルが、ハールの言葉のあとに続く。
「さて・・・・・・」
 解散したあとで、ハールがホープに話しかけた。
「お前の荷物を返さなくてはな」
 そう言うと、部屋を出て歩き出した。
「ついてこい」
 そう言われ、ホープがついていった。
 しばらく歩いて、ある部屋の前に入った。そこには、剣や槍などが多数立て掛けてあった。ここは、簡単な武器庫である。城の中では、堂々と武器を履いて歩けないので、この部屋に預けてある。こういった部屋は、人数の関係上、多数あった。ここには、ハール達の武器も置いてあった。
 ハールは部屋にはいると、隅に置いてあるホープの荷物の前にやってきた。ホープに荷物と言っても、鉄の棒−棍−と、小さい荷物があるだけであった。
「これだな?」
「ああ」
 ハールが確認するとホープも答える。
「しかし、良くこんな重いものを持っているな?」
「そうか?」
 ハールは、そう言うと棍を持とうとした。しかし、上がらないのである。何とか引きずることは出来た。ホープはハールを押しのけ、棍を軽々持つ。
「俺には、これぐらいがちょうどいい」
 そう言うと、荷物も掴んだ。
 ハールは、あきれていた。
「しかし、その重さの棒がもてるのだったら、剣ぐらいもう少しまともに扱えなかったのかい?」
「俺は、剣が苦手なんだ・・・・・・」
 ホープは、それだけ言うと何も言わなくなった。
「・・・・・・悪かった」
 ハールは、彼の父親が剣によって殺されたためと思って素直に謝った。

 そして、2時間後。
 『人形騎士団』20名はアルミルの森の入り口の来ていた。
「では、これから作戦に入る。一つ言っておく、今回の作戦は人質の救出を最優先にすること。決して、深追いをするな!」
 ハールは、まるで自分に言い聞かせるように、言い放つ。
 ハールは、全員を見渡し皆の決意を確認する。
「ヤエル、そっちの方は頼むぞ」
「分かりました」
 ヤエルは、ハールに向かって微笑みかける。その微笑みにいつも助けられているとハールは思っている。実際、ヤエルがいなかったら、とうに自分は騎士団を辞めていたのかもしれない。そう思うほど、ヤエルに対して、信頼していた。
「作戦開始」
 ハールの言葉と同時に、部隊は二手に分かれた。ハールは、まっすぐ隠れ村の方に向かう。そして、数時間後。ヤエルの部隊から、配置についたという伝令が来た。
 今回のハールとヤエルの位置は、ハールが村の南から強襲し混乱に乗じて、ハールの部隊の東に配置しているヤエルの部隊が子ども達を救出する手筈となっていた。
 ハールは、伝令を聞いて突撃を開始した。
 村の方があわただしくなった。
「どうやら、気づいたようだ」
「気づいてもらわないと、困るけどね」
 ハールの言葉にシアが返す。実際その通りだから苦笑するしかない。
「おいでなすった」
 ホープが言う。その進攻上には盗賊らしき男が、皮鎧と長剣を手にして十数人いた。それに向かって、突撃を行う。ホープは棍を、他の人間は剣を巧みに操り、盗賊達をなぎ倒していく。ハールの部隊も、さすがに無傷と言うわけにいかなかった。村にはいるまでの道で、ぞろぞろと盗賊が出てくる。そして、ハールは怪我をした者を下がらせる。そうこうしている内に、ハールの部隊は4人となってしまった。
「思ったより、戦力が整っている」
 ハールが、悔しそうに呟く。自分の部下は、盗賊ごときに負けないと、確信していた。しかし、結果はこの通り。子ども達を見つける前に全滅するのでは?そう思えて仕方がなかった。
 その時、無数の矢が降り注いだ。
「なっ・・・・・・」
 ハール達は、すぐさま矢の飛んできた方向を見ると、見慣れた色の鎧の部隊が矢の連射をしている。
「ハール!!こいつらは我ら『森林』に任せろ!お前らは先に進め!!」
 シークレットである。
「シークレット・・・・・・」
「もたもたするな!単にお前らだけに良い格好をさせたくないだけだ!だから早く行けっ!」
「済まない」
 ハールは短く感謝の意を表すとそのまま進んだ。
 そして我らは考え方は違えども、この森を愛してるのには変わりないと改めて実感した。

「ハール様・・・・・・」
 しばらくして。
 4人の内の一人であるエリィがハールに話しかけた。彼女は、騎士団に一番新しく入った騎士である。
 ちなみ、ここにいる4人とは、ハール、シア、ホープ、エリィである。
「なんだ?」
「あそこの建物から、泣き声が聞こえます」
 エリィは、少し離れた家に指を指しそう言った。
「本当か?」
「間違いない・・・・・・と思います」
「そうか、行ってみるか?」
 ハール達は、その建物に近づいた。混乱を招いているせいか、見張りらしき者はいなかった。
「入ってみよう」
 そう、ハールが言うと扉を開けた。
 そこには、紐で縛られている、これまでにさらわれた子ども達がいた。
「良かったぁ」
 シアは喜んだ。
 そして、彼女たちは紐をほどき始めた。
「エリィ、すぐにこの事をヤエルに知らせてくれ」
「はい・・・・・・でも隊長達は?」
「ここで、この子達を守る」
「分かりました」
 エリィはそう答えると、腰の鞄から鳩を出し白い紙を足にくくりつけ、ヤエルの元に飛ばした。そして自らヤエル達の道案内のため走り出した。
 シアを家の中に残し、外を見張っていたホープとハールは、あるものが目に見えた。
 一人の男が、子どもを一人、連れ去っていたのだ。
「しまった」
 ハールは叫んだ。
「姫、ここをお願いします」
「え?な、何よ?」
「子どもが、一人連れられていました。今から、追いかけますので、ここをお願いします」
 そう言うとハールは男の方向に走り出した。ホープも後に続く。シアは、突然ことにあっけにとられていた。
「ちょ、ちょっとぉ」
 シアはそれだけ言った。
 そこに、ヤエル達が到着した。そして、シアは、後のことをヤエル達に任し、自分はハールのあとを追いかけた。

 ハール達は、男を追いかけていると、一軒の大きな屋敷についた。
「ここは?」
 ハールは、その建物を見ながら、呟いた。
「ここは、元村長の家だよ」
「なんと・・・・・・?」
 ハールは驚く。
 無理もない、この屋敷は、貴族が住んでいてもおかしくないような大きさである。
「ここに、入ったのは間違いなさそうだな?」
「ああ、そうだな。足跡も付いている」
 ホープは、地面に指さす。そこには、真新しい靴後があった。
 ふと、後ろに誰かの気配があった。二人が振り向くと、誰かが走ってくる。二人は、身構えたが、それはすぐに味方であるということが分かった。シアである。
「姫っ!」
「探したわよ」
「子ども達はどうしたのです?」
「ヤエルに任した」
「なぜです?危険ですよ」
「なに言ってんのよ。ここからがおもしろいのじゃない」
 シアはそう言うと、軽く微笑む。
「それに私だって、だてハールのしごきに耐えてないわよ」」
 ハールは、ため息をついた。シアはこう言うと、てこでも動かないだろう。
「分かりました。ただし、危なくなったら、すぐに逃げて下さい。あなたは、ここの王女なんですから・・・・・・」
「わっかてるわよ」
 本当にわかっているのだろうか?そう疑問に思うハールであった。
「じゃ、いくわよ」
 シアが、扉を開ける。

 ホープ達は、床に付いている足跡をたどっていった。逃げた男がわざと残したのか、足跡を消そうとした跡が見あたらなかった。
「罠か?」
 ホープは、呟いた。
「いいじゃない、罠と言っても相手は一人かもしれないわよ。それに、これで疑心暗鬼を起こさせて何か企んでるかも?」
 シアが無邪気に話す。ハールはうなずいて、それに同意した。
「それもありますね」
「でしょ?だったら、ここで考えないで最後まで行ってみない?それからでもいいじゃない」
「わかりました。そうしましょう。いいか、ホープ?」
 ハールが、ホープに向かって訪ねた。
「かまわない。俺は、あんたらに捕まっている身分だ。ただ・・・・・・」
「ただ、何よ!」
 シアが、ホープに対してきつく話す。彼女の場合、彼が自分より弱い人間と認識しているため、この様に強く出ることができた。その考えは、後に間違いと気づくのだが・・・・・・。
「この足跡、ここで切れてるぜ」
 ホープは、そう言うと目の前の扉を指差した。
「じゃあ、さっさと開けましょう」
 シアは、扉を開ける。そして、慎重に部屋に入った。その部屋は少し薄暗い部屋である。奥に、もう一つ扉があるのが見える。その下に、ホープ達が見た子どもの服を着ている人形が置いてあった。
「人形!?誘い込まれた?」
 ハールが、それに驚いていると中から声がした。
「ようこそ。見事でしたよ、いきなり奇襲されるとは思いもよりませんでしたけどね」
「何を言っている。おとなしく他の子ども達を返せ!!」
「ああ、それは出来ませんねぇ。どうしても返して欲しければ、私のところまで来て下さい。ほら、その目の前の扉の向こうですよ。ただし、私の部下を倒してからね」
 その言葉が終わるのと同時に、入ってきた扉がいきよいよく閉まった。
「何!?」
 ハール達は、それぞれの武器を構えた。
「誰か・・・・・・いる!」
 ホープが、静かに言った。一瞬、緊張が走った。その時、シアが、叫びをあげた。
ハールが駆け寄ると、シアの右腕から、血が流れていた。
「い、いきなり斬られた」
 シアは、それだけ言うと、もう一度剣を構えた。
「気をつけろ!暗闇に、まぎれている」
 ホープは、叫んだ。ハールはホープを見ると、すでにいくつかの傷を作っていた。
 突然、声が聞こえる。
「恐いか?恐いだろう?」
 その声は先ほどの声とは違った。おそらく、暗やみに紛れて彼らに切りつけている人間だろう。
 ハールが、何かを言いかけようとしたが、先に切りつけられ、言葉を出すことが出来なかった。
 ホープは、焦っていた。相手の気配が全く感じないのである。これはハール、シアとも同じである。
 その焦りが出てしまい、相手の気配を読もうとしても、余計に読めないでいた。
「ヒーッヒッヒッヒッヒ。これで終わりにしてやる」
 男の狂喜めいた声が聞こえた。これでやられると、思っていたがその前に別の声が聞こえた。
「ホープらしくないわね」
 その声は、高く良く通る声だ。それと同時に、剣を弾く音が聞こえた。その音がしたところに明かりが灯った。その姿は、どう見ても普通の村の少女という姿であり、片手にダガー、片手に松明を持っていた。その松明は、もう一人、黒装束の男が映る。
「シリニア!」
「もう、何やってんのよ。墓参りにどれだけ時間をかける気?」
 シリニアと呼ばれた少女は、不満そうな声を上げた。
「遅れると、お前の使いに言ったはずだ?」
「知らないわ、聞いてないわよ?」
「え?」
 ホープは困惑した。確かに、言ったはずである。
「私は、ただあなたが捕まっていると聞いただけよ」
「あいつめ」
 ホープは、合点がいった。あの小男は、シリニアにそれだけをいっただけなのだ。もしかすると、遅れるという前に、彼女が飛び出したのかもしれない。
「おしゃべりは、そこまでにしてもらおう」
 男が、静かに言い放つ。
「一人増えたところで、変わりはしない」
「そう?」
 ホープに松明を渡したシリニアは、それだけ言うと、一瞬消えた。そして、黒装束の男の後ろに現れた。
「何?!」
 それは、ホープ以外の全員が言った。シリニアは、首筋にダガーを当てながら、微笑んだ。
「これでもかしら?」
 シリニアは、そう言うとホープに向き直った。
「この男は、私が押さえるから、先に行って」
「しかし・・・・・・」
 ハールは迷った。鎧も何もない一本のダガーを持った少女を、このまま置いて行っていいものだろうか?
「その男は、訳ありなんだな?」
 シリアとの会話で落ち着きを取り戻したホープが叫んだ。シリニアは、こくんと頷く。ホープは、それを見て、ハール達に向き直った。
「行こう」
「し、しかし・・・・・・」
「彼女なら大丈夫。死にはしない」
 ホープは、それだけいうと、向こうの扉をくぐった。ハールとシアは、しかたなくそれに追いかけた。
 シリニアは、それを見届けると、男にあてたダガーをはずす。それを見た男はすぐに飛びさった。そして、間合いを開ける。
「ふふふ、自己犠牲か?好きな男を逃がして、自分が死ぬか?それも良かろう。望み通り殺してやろう」
 男の言葉に対して、軽く受け流すと、シリニアは、笑いだいした。
「・・・・・・?・・・・・・何が、おかしい?」
「私は、あんたなんかに殺される気は、全くないわよ。ギルドを裏切ったお前なんかにね!」
「ほう、その余裕消してやろう」
「消せるかしら?」
 そう言うと、シリニアは手に持ったダガーを、一振りした。するとそのダガーから黒い刀身が見えた。それを見て、男が驚愕した。
「そ、その、く、黒いダガー・・・・・・!?まさか、『ブラック・ニードル』か?」
「ご名答」
「あ、アサシンギルドの長がなぜ?」
「一つはホープを助けるため、もう一つはギルドを裏切った男が、ここにいるという情報を得たから・・・・・・ついでにね」
「つ、ついで」
「そうよ」
 シリニアは笑いながら、ダガーを構えた。男は恐怖した。ブラック・ニードルは、すでに現役を引いていると聞いていたので、安心して裏切ったのである。それほどまで彼女は恐れられている。普段は、ホープにアサシンであることを隠すように言われているが、こういうことなら話は別である。
「私の名を刻んで地獄でダンスでもして来なっ!」

 数秒後、男の断末魔が響きわたった。

 シアが3つ目の扉を開けた。
 中には、一人の男が椅子に座っていた。
「ようこそ。我が館へ」
 男が、静かに話す。
 ハールとシアが身構える。
「『我が館』とは、恐れ入る。人様から奪ったものだろう?」
 ハールが、叫ぶ。
「まあ、そうですが、前の住人は、いなくなったものでね。この世から」
「殺したのでしょう?」
「間違いでは無いですね」
 男は、静かに言い放つ。
「それで、他の子ども達は?」
 シアは、聞く。
「もう、ここにはいませんよ。あなた方が、いま、助けてますからね」
「じゃあ、私たちはあなたを捕まえて終わりという訳ね?」
 シアが、剣先を男に向けて言う。
「いえいえ、終わりじゃありません。なぜなら、私は捕まることが無いからです」
 男は、そう言うと立ち上がった。そして、近くにあった剣を構える。
「じゃあ、力づくで捕まえるしかないわね」
 シアが微笑んだ。それと同時に、ハールとシアが走り出した。
「ま、待てっ!」
 ホープが叫んだが、それを無視して走り出していた。
「えいっ」
 シアが、先手をとる。男に向かって剣を振るうが、男は傍らの剣を抜きはなち、受けとめるとシアごとはじき飛ばした。
「きゃあっ」
 シアが壁にぶつかる。しかし、ぶつかる直前、ホープが受けとめた。
「姫っ!」
 ハールが、叫んだ。しかし、ホープが受けとめたので、ほっとした。
「大丈夫か?済まない、私のために」
 シアがホープに気遣う。
「気にするな」
 ホープは、一言だけ言う。
 さて、ハールだが、彼女は男に対して、何発も攻撃を与えていた。男は、攻撃出来ず受けにまわっていた。
「さすが、ハール」
 シアは感嘆した。なんといっても、シアの剣の先生でもあるのだ。そんな彼女が負けるとは思わなかった。しかし、ホープはそうは思わなかった。男が笑っているのである。ハールも、それがわかっていたので攻撃を辞めなかった。
 暫くして疲れが出てきたのか、その動きは鈍ってきた。男はそれを見逃さず、動きが止まった一瞬をついて、攻撃に転じた。今度は、男の攻撃を受けることになった。しかし、今までの疲れからまともに防御できず、彼女もはじき飛ばされた。
「ハール!!」
 シアが叫ぶ。二人が、駆け寄る。
「すまない、負けました」
「いいのよ、あそこまで戦ってくれたのだから」
 ぼろぼろのハールをシアが抱き抱えた。シアが見たところ効き腕の骨が折れている様だ。他にも、傷があった。
 ホープは、それを見て男に振り返った。
「どうしました?私を捕まえるのでは、無かったのですか?」
 男は、あざけ笑う。
 ホープが、男に振り返った。
「今度は、あなたが相手ですか?棒切れ一本で勝てるとでも?」
「そうだホープ。お前は、私に負けたのだぞ・・・・・・」
 シアが、ホープに叫んだ。
「心配ない。俺が勝つ」
 ホープは、一言そう言う。
「ハール」
「何だ?」
 ホープに呼ばれたハールは、力弱く答える。
「『八極流』の真髄は、攻めにあり。受けにまわれば、負けと聞かなかったか?」
「なぜ・・・・・・」
 ハールは、驚いて『そのことを』と続けようとしたが、言葉が出なかった。ホープの雰囲気が変わっていたからだ。
「久しぶりだな。シューレイ」
「ほう、私の名前を知っているとは。しかし、変ですね私はあなたなど見たこともありませんが?」
「だろうな。俺も、今まで思い出せなかった。しかし、その剣を見て思い出した。お前は、俺の親父の仇だ」
「一体どこで?」
「この村だ。忘れたとは言わせんぞ。親父を後ろから殺しているのを一瞬だけ見ている。その剣だけは、俺は忘れない」
「後ろから?ああ、思い出しました。あの、剣士ですね?いやあ、弱かったですよ。強そうに見えましたが、そうでもなかったですね。剣を抜かせることなく勝てましたからね」
 ホープに怒りがこみ上げてきた。しかし、ホープはそれを押さえて、もう一つの話題を訪ねた。
「もう一つ、この村の子どもはどうした」
「ここのですか?」
 シューレイは軽く笑った。
「じゃあ、我々『赤旗』は、人数が減っていないかわかりますか?」
 この言葉で、ホープ達は理解した。
「洗脳か?」
「そうです。子どもというのは、非常に純粋で、かつ意志の弱いものですからね、簡単です。ちなみにここの子どもも10年経ちましたからね、成長もしてますよ。今、どこで暗殺をしているのやら」
「き、貴様ぁー!!」
 ホープは、鉄棍を捨てた。
「気でも狂いましたか?武器を捨てるなんて・・・・・・」
 そこまで言ってシューレイは気がついた。ホープの雰囲気が一段と変わった。シューレイは、彼の逆鱗にさわったことを感じた。
「お前なんか、武器なんかいらない。この拳で十分だ!」
「出来ますか?私は、強いですよ。なにせ、あなたの父は剣を抜く前に・・・・・・」
 しかし、シューレイはそれ以上言えなかった。ホープが、突然シューレイの前に立ち、その胸に肘を打ち込んだ。その勢いでシューレイが吹っ飛ぶ。
「親父は、抜けなかったんじゃない。俺を守るため、抜かなかったんだ!」
 シューレイは、体勢を立てなおすとホープに向かって剣を振り下ろした。しかし、その剣は、完全に振り下ろされることが無かった。腕が水平になる瞬間、ホープは腕の横にまわり、肘に向かって掌を振り上げた。肘に当てた瞬間、シューレイの肘の肉が吹き飛んだ。
「ぐおおおおおおおおっ」
「こんな、経験は無いだろう?肘に対して、俺の気を送り込んでお前の肘の血脈と喧嘩させた。それに筋肉が耐えられなかったんだな」
「き、貴様」
 シューレイが、剣をもう片方の手に持って襲いかかった。それは、ホープに対してではなく、ハール達にだ。しかも、ハールは動けないでいた。
「こいつらを、人質に取れば手足も出まい」
 シューレイは勝ち誇って、走り出した。しかし、それよりも早くホープがシューレイの前に出た。
「どけぃ!」
 ホープを振り払うように剣を振り回す。ホープはそれを数ミリで見切った。
「この、外道」
 ホープが吠えた。その瞬間ホープの動きが尋常でない速さになった。ホープが上段蹴りを放つ。それが、きれいに入る。しかし、一発だけでなかった。それが入った瞬間、逆から次の蹴りがシューレイを襲った。そして、次々とシューレイを蹴り込んだ。その速度は残像が残るほどで、人間の限界を超越した動きであった。
「恐い・・・・・・」
 シアは、初めてこの男に恐怖という感情を抱いた。
 ホープは、まだ蹴り続ける。シューレイの姿は、だんだん変形していった。
「ホープ!!」
 少女の声が聞こえた。シリニアである。その声にホープはハッとなり技を止めた。すでにシューレイは息をしていなかった。
 シリニアは、ホープに近づいた。
「ホープ」
「済まない。また、心配をかけたな」
 ホープは、シリニアに謝った。そして、倒れているハールに近づいた。
「診せて見ろ」
 そう言うと、ホープはハールの腕を見た。腕はきれいに折れていた。これで、骨がボロボロになっていたら、修復は不可能であろう。しかし、骨はきれいに二つに折れていると診た。
「くっ」
 ハールは、苦痛のうめき声を上げた。
「済まない。痛かったか?」
「当たり前じゃない」
 シリニアがハールの代わり代弁した。ホープは、その時、呼吸を変えた。呼吸をある一定の方法で行うことにより、自分の気を練り上げる。ホープは自分の掌をハールの腕に添えると、掌に気を集中させた。
 しばらくして、集中を辞めた。そして、シリニアに布切れと木の棒を持ってこさせた。木の棒を添木にして、布でそれを巻いた。
「どうだ?痛みは消えただろう?」
 ホープが、訪ねた。ハールは痛みを感じていなかった。
「ああ、すまない」
「とりあえず、応急処置をしたからな。腕を思いっきり動かすと痛みが再発するぞ」
「わかった。気をつけることにしよう」
 ハールは、そう言うと立ち上がった。ふと、シアを見ると彼女はふるえていた。
「姫?どうしたのです?」
「こ、恐いのよ」
「ホープですか?ならば、彼を怒らせるようなことをしなければ良いのです。今の彼を見てみなさい。殺気も何も感じないでしょう?」
 シアはホープを見た。確かに殺気を感じない。そのことで安心したのか、その場で立ち上がった。
「で、でも、なぜ、あの試合で私なんかに負けたの?」
 シアは、まだ恐怖が抜けきっていないようだったが、疑問が残っていたので聞いてみた。
 ホープはぽつりとつぶやいた。
「俺は、剣が苦手なんだ・・・・・・」

 子ども達の救出は、うまくいったようで、建物から出てくるハール達にヤエル達がやってきて、そのことを報告した。ヤエルは、シリニアを見て不思議な顔をしたが、ハールがホープの仲間ということを説明したことで、納得したようだ。

 隠れ村のある小丘にある墓の前。
 彼女らは一人の男の墓参りにつき合っていた。ホープが一つの墓に近づく。その時、ハールは、あることに気がついた。その墓が、自分の師である人物の墓であった。
 ホープは、シリニアが持ってきた酒を軽くかけた。
「父さん、久しぶりだな」
 ハールは驚いた。まさか、師の息子とは思っていてもいなかった。
 一通り祈りを済ましたホープにハールが訪ねた。
「あなた、フェルム師の・・・・・・」
「ああ、俺は『八極流』剣士フェルム・レンティングの息子、ホープ・レンティングだ」
「そうとは知らずに、私は疑っていたのだろう」
 ハールは膝から崩れ落ちた。彼女は、実は村に突入するまで彼のことを、誘拐犯の一味と疑っていたのである。
「気にするな。何もかも終わったじゃないか」
 ホープが、ハールにそう言った。その言葉に、ハールは、何か肩からおりた。ホープは、それだけ言うと、墓の近くの木の下を掘り始めた。しばらくして、一振りの剣が出てきた。それは、どちらかというと、曲刀といったほうがよいであろう。ハールは見覚えがあった。師の剣だ。ホープは、それをハールに差し出した。
「受け取ってくれ。この刀を・・・・・・」
「そ、それはできない!その剣・・・・・・刀は、あなたの父の形見だろう?」
「だからこそ受け取って欲しい。俺にとって父の形見は『八極流』の剣技だと思っている。その、剣術が生きているのであれば・・・・・・俺は満足だ」
「しかし・・・・・・」
 ハールは、まだ拒もうとした。
「それに、俺もその剣を学んだが、どうもしっくり来なくてな。また『八極流』はこの刀が無いと、100%の剣とは言えない」
 ハールは、ここまで言われ、あきらめた。確かに、この剣術を行うためにはこの刀が必要でもあった。
「わかった。ありがたく受け取ることにしよう」
 ハールは、そう言うと受け取った。
「さて、用事も終わったし、帰ろうか」
 ホープはそう言う。シリニアはその言葉に対して頷いた。
「では、城まで帰ろう」
 ハールは、ホープに対してそう言った。彼女は、完全に城に帰るものと思っていた。
「いや、城には帰らない」
「なぜ?」
「師匠が、一人で待っているんだ。早く帰らないと何を言われるかわかったものじゃない」
「そうか・・・・・・」
 苦笑いするホープに、ハールが寂しそうに呟く。
「わかった。でも、たまにはこちらに来いよ」
「ああ、わかった」
 ハールと、ホープは手を組み合わせた。そのあと、ホープとシリニアは姿を消した。
「じゃあ、私たちも帰ろうか?」
 ここまで、何も話さなかったシアがハールに向かって話しかけた。
「そうですね」
 ハールが、同意する。
「彼らに、また会えるかな」
「姫、どうしてです?」
 ハールは、歩きながら訪ねた。
「もう一回、本当の勝負をしたいのよ」
「そうですか!それだと、姫はもっと強くならないといけませんね?」
「手伝ってくれる?」
「かまいませんよ」
 シアは、どうしてもホープに勝ちたかった。今度は手加減無しの勝負で・・・・・・。

 数年後、彼らは共に戦う事になるのだが・・・・・・それは別の話である。

Fin

 

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