コウはガトーを羨んでいたが、ガトーの目にはコウの身体も十分に美しく整って見える。
 まだまだ荒削りではあるが、それ故に若さと躍動感に満ち、生命力に溢れている。筋肉も非常にバランスよく付いているし、こうしてみると少々着痩せする様で、案外がっしりとしていた。

 張りのある胸に手を滑らせる。親指の腹で胸の突起を弄ると、そこはすぐに張り詰めた。
「んっ……や、ガトぉ……」
 ぬるりと口内を蹂躙する舌の感触と、初めての場所への愛撫とに、コウは無意識にも逃れる仕草を見せる。
 しかし、既にガトーも抑えが効かなくなりつつあった。腕を掴んでベッドに上体を縫い止め、唇を離す。
「逃げるな」
 涙目のコウを見詰め、低く呟く。
 コウはしゃくり上げそうになるのを堪え、ガトーを見詰め返した。そして、懇願する様な、不安げな色を滲ませた紫の瞳に合い、意を決する。

「……逃げないでくれ……」
 眦にそっと舌先が触れる。涙の雫を掬い取り、苦しげに吐き出された言葉に、コウは泣き笑いの様に顔を歪めた。

「逃げない。俺は、ここにいるから」

 ガトーの瞳が見開かれる。
「大丈夫。怖くない……怖くない」
 自分に言い聞かせる様に呟く様子に、たまらずガトーはコウを抱き締めた。
「怖くなどあるものか。私は……お前に危害を加えるわけではない」
 耳朶を甘噛みし、耳の穴を舐りながら甘い囁きを送り込む。
 頼りなく震える身体を強く抱き、そのまま首筋へと吸い付く。
「っあ……や……」
「厭か?」
 尋ねながら、首筋に沿って舌を這わせる。
 小刻みに震える身体が愛しくて。
 ………………愛しくて。

「厭か?」
 もう一度尋ねる。
 コウは緩く首を横に振った。
「いや……じゃない………………」
 ガトーを見詰め、少し虚ろな微笑みを浮かべる。
「……うん。もう……言わない……」

 精一杯の虚勢なのだろう。
 ガトーの中に、ひどく暖かく優しい感情が広がっていく。
 思わずガトーが浮かべた笑みに引かれてか、コウの方からもガトーを抱き締める。そして、回した手の甲を自分の口元に押し当てた。

 ここまで来るとガトーも、コウの仕草の全てに堪らなく煽られる。

「声を……聞かせてくれ……」
 手を口から離させようとするガトーに、首を振って抗議する。
「『いや』って言っちゃいそうだから厭だ」
「何故だ。厭ではないのだろう?」
「うん……何でだろう……っぁ……ん」
 本格的に考え込もうとするコウに、ガトーは慌てて愛撫の続きを施した。
 あまりにも一本気なコウは、同時に二つの事をこなせない。考え込んで、この行為を無に帰す事だけは避けたかった。

 首筋から鎖骨の窪みへ。道筋に点々と紅い花が咲く。
「いた……何?」
 強く吸われると微かな痛みが走る。
 ガトーはそれに答えず、コウの腕を持ち上げて二の腕の柔らかいところへと同じ行為を繰り返した。
「っ……」
 コウの視界にも、紅い刻印が見える。
「噛むなよ」
「歯は立てていない」
「だって……痕付いてる……」
「これは……キスマークだ」
「え? キスマークって、口紅の跡の事じゃないのか?」
「名称は同じだがな」
「へえ……やっぱりガトーって色々知ってるんだな……」

 お前が何も知らないだけだ……と言うにも思い至らず、ガトーは真っ白なコウに自分の色を刻み込む事に酔っていた。
「ぅ……ん……」
 ぞわぞわと背筋を駆ける感覚が何なのか分からず、ただ、尻の据わりの悪さに腰が揺らぐ。
 再び鎖骨を彷徨い胸に落ちていくガトーの唇を、ただ心地よく感じた。
「ひっ……ぁ…………ん、何?」
 慣れない刺激を受ける度に何だと尋ねられると行為が止まる。

 漸く辿り着いた突起を舌で転がす様に舐め取ると、反射的に身体が跳ねた。
 ここまで来るとガトーにも口で説明する事ができない。行為で示すしかなかった。

「黙って私に任せる事は出来ないか?」
「ご……ごめん……」
 謝られると、心なしかコウを苛めている様な気分に陥る。
「いや……謝る程の事でもないのだが……」

「っ……く……ぁ…………」

 ガトーの再びの攻めに、シーツを握りしめて感覚に耐える。
 コウのものは十分に熱を孕み、後少しの刺激で達する事が出来る程に昂っていた。
「……何か……変……」
「すぐに慣れる」
 舐め、吸われる度に更に血液を含んで膨張していく。
 辛くなり、コウの手は自然にそこへと伸びた。それに気付き、ガトーはコウの手を取りベッドに押さえつける。

「やっ……ガトー…………」
「大人しくしていろ」
 意味も分からないまま激しく首を振る。

 それを見ているとこれ以上焦らすのも可哀想に思え、ガトーは身体の位置をずらした。
コウの両手を、より強く押さえる。

「っあ!……っや、ガトーっ!!  何なっ……何っ!?」
 コウは突然の強すぎる刺激にパニックを起こした。

 しかし、手はベッドに押さえつけられ、両の足もガトーの身体で抑え込まれて身動きが取れない。

 コウの一物は、ガトーに深々と銜えられていた。
 十分に大人の形をしているものの、粘膜に触れるのは初めてである。あまりに強い感覚は、快楽とも苦痛とも、コウには判別できなかった。
「き……汚い……よ…………?」
 声が喉に引っかかり、妙な具合に裏返る。
 ガトーは答えず、舌を窄めて裏筋を舐め上げた。

「ひっ……ぁ、やっ、ガトー、はなっ……離し……てっ……」
 振り解こうと藻掻く腕もままならず、コウは今にも失禁してしまいそうな刺激に耐える。ガトーの口に含まれているという事実が枷となり、後半歩のところで達することが出来ない。
「……んっ……ぁン…………はなせよぉ…………」
 再び泣き始めてしまった事に多大なる罪悪感が押し寄せる。ガトーは焦って舌技を激しくした。

 細くした舌先を先端の割れ目へとねじ込む。コウの身体は痙攣した様に震え、口からは引きも切らず甘い声が零れ続けた。
「いっ……やぁ、もぅ……たす……けて…………」
 意味もなく首を振り、戦慄く唇で悲鳴に似た声を上げる。
 声に応える様に、ガトーは口の中のものを強く吸い上げた。

「ガトー、いや、ぁ、あぁっっ!!」

 ひときわ高い声が上がる。これ以上踏み止まることもできない。脳裏が一瞬にして白く灼けた。

 身体を小刻みに震わせ、コウは達した。自慰などとは比べものにならない失墜感に襲われ、半ば意識を放棄する。
 上目遣いにコウの様子を確かめながら、ガトーはコウ自身を最後まで扱き上げ、放出を助けてやった。

「は……ぁ…………っ…………」
 ガトーはコウの放ったものを嚥下した後、起き上がり、コウの頭を撫でた。汗ばんだ額に張り付いた黒髪をそれとなく解いてやる。コウはそれに応じて虚ろな視線をガトーに向けた。

「大丈夫か?」
「………………うん。何とか、へーき…………」
 紅潮した顔で微笑む。快楽に潤んだ瞳が、無意識なのだろうが、ひどく扇情的だった。

 ガトーの中でずくりと雄が疼く。

 しかし、今のガトーにとっての最優先事項はコウのことだけである。
 とろとろと微睡んでいるコウの額や頬に口づけを繰り返しつつ、手近なタオルで汗の滲む身体を拭ってやる。

 心情は、完全に父親であった。

「……ん…………ぁ、ガトー……?」
「何だ?」
 少しふらふらしながら起き上がる。その不安定な様に、ガトーは思わずコウの背を支えた。

「俺も、する」

「は?」

「俺もする!」

 支えていたガトーの手を緩やかに解き、ずるずるとベッドの上で身体の位置を変える。そして、ガトーの股間に顔を埋めた。

「なっ、き、貴様!!」
「だって……ガトーのだって、こんなになってる……」

「私はいい! 必要ないっ!!」
 ガトーを無視して、目の前にあるいきり立ったものをちろりと舐め上げる。
「うっ……コウ、貴様……」
 コウの髪を掴んで引き離す。痛みと、それ以外の何かに涙を浮かべ、コウはきつくガトーを睨んだ。

「………………やっぱり、俺のこと、嫌い?」

「…………────だから、何故そう言う話になるのだ」
「だって……俺ばっかりで……俺だって、ガトーに我慢なんてして欲しくないのに……入れられないのは俺の所為だろ? だったら、せめて、これくらい……そりゃ、上手く何て出来ないだろうけど……」

 まるっきり、きかん気の強い子供の表情である。

 ガトーは暫く黙ってコウを見詰め、深く溜息を吐いた。
 コウの気持ちも、言いたい事も、分からないわけではない。思っていたよりも子供扱いしていた事に気付き、自分に苦笑する。

 そう言えば、コウももうそろそろ二十歳を越している……筈ではあるまいか。

「コウ、本当に後悔せず、私を受け入れるな?」
「何でそうやって何度も確認するんだよ。いい、って、何回言えば分かるんだっ!」
「あ、ああ………………分かった。コウ、私の腹を跨ぐ様に座れ」
「?…………うん」

 何となくガトーが理解を示してくれた事を悟って、コウは素直に従った。ガトーの腹の上に座る。コウも決して軽くない筈だが、ガトーの腹筋は十分にコウを支える。

 しかし。

「違う。私に背を向けて座るんだ」
「うん…………何、するんだ?」
 くるりと身体の向きを変える。不安になり、肩越しにガトーを振り返ると、大きな手が頭に乗せられた。
「その……だな、さっきの…………続きを……してくれないだろうか?」
「怒ってない?」
「怒ってなど……さっきは少し驚いただけだ」
「分かった」

 コウは上体を倒し、緊張に軽く唾を飲み込むと、ガトーのそれをそろりと舐めた。
 ふるりと反応を返すそこに、コウは少しずつ、確かめる様に舌を這わせる。
 されたのは先のが初めてだし、するのはこれが初めてだ。全てが手探りなのだから仕方がない。

「…………苦い」

「厭なら、いつでも止めていいんだぞ。無理をさせたいわけではないのだからな」
「……でも、ガトーさっき……俺の、飲んだろ」
「私は私、お前はお前だ。私がしたからといって、お前がせねばならないと言う義務もない」
「でも、する。ちゃんと出来るから、俺」
 意を決してぱくりと口に含む。しかし、とても根元まで含みきる事の出来る大きさではなかった。

 勢いに任せたはいいものの、そこからは真面に舌を動かす事が出来ず、結局口から出す。

「えーと……どうすればいい?」
「…………私がお前にした様に……行動を辿ればいい」
 細かな指示を下すなどという淫らがましい事などできよう筈もなく、ただ抽象的にコウに指示する。
「分かった…………けど、こんな大きいの、口に入らないぞ」
「似た様にすればいい」
「……うん」

 もう一度顔を近付け、雄の臭いを漂わせているものに舌を這わせる。

 コウが奉仕を再開したのを感じ、ガトーも行為を開始した。
 コウの太腿を両手で掴み、軽く上体を起こす。そして目の前で未だ硬く口を閉ざしている蕾に顔を近付けた。

「っひぁ……や、ガトー、何するんだ!?」
「慣らすのだろう。濡らさなくては指の一本も入らないからな」
「だからって! 汚いだろ!?」

「黙るのではなかったか? それに、厭だとも言わない、と言った筈だが……今、言ったな」

 瞳いっぱいに涙を溜めながら、コウはぐっと泣き言を呑み込んだ。
 どんな無理も一生この手で通せそうだ。ガトーは苦笑に表情を弛ませた。
 コウの見せる様子、全てが愛おしくてならない。

 舌先を窄めて蕾へと唾液を送り込む。襞の一つ一つを解す様に舌を蠢かせた。

「ふ……ぁ……ん……………ガトぉ…………気持ち悪い……」
 だが気持ちが悪いだけではないようだった。
 ひっきりなしに上がる声がひどく甘い。更には一物も復活を遂げ始めている。
 そっとそれに手を添わせると、コウの背は勢いよく撓った。

「やっ!……ぁ、触るなっ……」
 逃げがちな腰を引き寄せる。抗議など、聞く耳を持たない。
 かくりと肘が折れ、腰だけを上げた形でガトーの上に突っ伏す。ガトーの雄がぬるりと頬を這った。荒い息がかかり、ガトーも身震いする。
「コウ……無理はしなくてよいのだからな」
 もう一度繰り返す。ガトーの我慢も、既に限界を超えていた。

「無理なんてしてない!」

 それでも精一杯に強がってみせる様が堪らなく可愛らしい。
「では、受け止められるというのだな」
「…………ガトーの馬鹿ぁ……」
「……では……いくぞ」
「ん……」
 律儀にガトーの声に反応し、コウは再び張り詰めた根に舌を這わせた。
「……くっ……」

 微かな喘ぎと共に、巨根が一際膨張する。
「……っ!!」
 勢いよく吐き出された熱い迸りを受け止めきれず、コウは激しく噎せた。

 殆どは口で受けることも出来ず、顔にかかる。咄嗟に目を閉じた為、瞳に入らなかったことは幸いだった。

「ご……ごめっ……」
「無理をするな。……十分だ」
 コウの蕾から手と顔を離し、そっと仰向けに寝かせる。

 白濁した粘液にまみれた顔が、壮絶に淫らだ。なまじ幼げな容貌をしている為か、背徳感は並ではない。

 どんな様子がガトーを誘うのかにも全く思い至らぬ様で、コウは指で顔に付いた精液を拭ってはぺろぺろと舌先で舐め取っている。
 再びガトーの腰に重い衝撃が走る。
 ガトーは慌てて、しかし辛うじてポーカーフェイスを装いながら、側のタオルで顔を拭ってやる。

 コウは放心状態でなされるがままだった。

−続−
作 蒼下 綸

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