自家製同人誌の作り方
■はじめに
ショタ同人としては、もちろん知人友人にはまだまだ「先輩」の方が多いものの、活動年数としてうちも相当長い部類になってきました。
この世界では、人気のない、マイナーな、たくさん本の売れないサークルのことを、人気の「大手」に対し「ピコ手」と言います。
正確な語源は知りませんが、ピコというのが非常に小さなものを意味する接頭辞であると同時に、コピーをひっくり返したものになっているところからきていると見て、ほぼ間違いないでしょう。
「ピコ手」小規模サークルとコピーに何の関係があるのかと言いますと、それは、印刷屋さんに本の制作を頼む場合、ロット、つまり一回に、同じ版で作る本の数が多ければ多いほど、一冊当たりの制作単価が安くなり、利幅が大きくなるのです。逆に言えば、部数が少なければ無茶苦茶な値段をつけないと採算割れします。オフセット印刷における、同人誌として常識的な値段をつけて採算の取れる最低ロットは200と考えています。これでだいたい、半分(100部)売れれば印刷代が出るくらいの価格設定にすると、おおむねよくある「同人誌の普通」の値段になります。
最近はオンデマンドと言って、物理的な版を起こさないため小ロットでも比例してコストが安くなり、少部数でも印刷屋さんが使えるようになってきましたが、オフセットであれば、ショタというマイナージャンルの上にその中でもピコ手のうちとしては、一種の道楽、気合い入れて書いた作品だから記念、みたいな感じで、採算度外視で無理に200作っていました。
うちでいえば、売る気、売れる見込みが20部から50部程度以下の見通しの時、また突発的で、イベントギリギリに本を作りたい時、印刷屋を使わずに、本を作る。昔は作成が手描きだろうとワープロ文書だろうと、コピーしてホッチキスで綴じて売るものですから、これをコピー誌と呼び、オフセット本と対比しました。つまり小規模サークルは、めったにオフセットなんか作れず、コピー誌専門なので、その意味からもピコ手と呼ばれるわけです。
コピーだと、部数は一部単位で自由に設定でき、コストが100円の本に50円かかれば、残り50円が利益というわけで、何部売れようと売れまいと、赤字も黒字もびっくりするようなことにはなりません。「利益率」は何部売っても上がらないということでもあります。
ところでこの、印刷屋を通さない自家製本は、僕が同人に足を踏み入れた頃から比べると、ずいぶんと変容しまして、単にコピー誌と呼べなくなっています。
このコーナーでは、僕が実際にてがけた経験をもとに、さまざまな自家製本の作り方をまとめたいと思います。一部ですが、僕独自と思われるノウハウも含まれています。
■印刷
紙に書くか、パソコンで最初から書くかという原稿作成法は、印刷屋に原稿を出す場合も同じく出てくる差異です。問題はこのあと、どうやって印刷するかによって、それらの扱いが変わるということです。
1.コピー
コンビニなどにあるコピー機で、原稿を印刷するというものです。もっとも古典的な方法で、原稿がデジタルであれば、まず家庭用プリンタで印刷して、ということになります。紙原稿にセリフを書いた紙を糊で貼り込んで、なんてのもできます。カラーコピーでフルカラー表紙なんかも可能ですが、意外とコストがかかります。失敗が多いとえらいことになってきますね。それと特殊な紙は使えない。意外と絵はきれいに出ない。といった欠点があります。特に薄墨っぽいのは全く出ないか汚く黒ずんでだめですね。
2.プリンタ印刷(インクジェット系)
だいたいエロショタの原稿なんてのは、あまりどうどうと知人が来るかもしれないコンビニなんかで印刷できないものです。また一方、僕は一時期、安いコピーサービスが近場に全くないところに住んでいました。かといって、自宅にコピー機を持ってる方はあまりいませんよね。僕ももちろんありません。
じゃ、プリンタで印刷したものを、そのまま製本してやろうと。紙を一シメ単位で買い、インクは詰め替え。特にうちのように文字中心の本だと、いくらトナーを画面真っ黒に使おうと真っ白けに線画だろうと1枚10円なり5円は変わらないコピーに比べれば、リーズナブル、もしくはコスト安かもしれないのです。
それにコピー機にかじりつかずコーヒー飲んでのんびり待てばいいのも、いいですね。
また、特殊紙が使えます。表紙向けに光沢やソフト光沢などを僕も使ったことがあります。
さらに、フルカラー印刷などですと、最近のフォトインクジェットの六色、七色インクの特性をフルに活かせば、非常に美しい表紙も作成可能です。
インクジェットの場合、どうしてもインクの耐水性には弱さがあります。フルカラーインクジェットプリンタ本を制作された某大手さんも、そのへんの警告は裏表紙にきっちり書かれていますね。あと、耐光性もイマイチみたいです。「太陽と教室」あたりの光沢紙の表紙も、光がバリバリ当たるところに置いていたものは、茶色く退色してしまいました。またモノクロで、文字中心はともかく、フルカラー印刷やベタ、アミの多用をすれば、コストはその分、上がります。特にインクジェットのカラーインクは高価で、計算もしにくいのでいつの間にか採算割れの本になってしまう可能性もあります。
このパターンにおいては紙原稿は、スキャンしてデジタル原稿化します。
文字も絵もPDFファイルにしてしまうと、連続した本として扱ってくれるため、印刷もただ待つだけでとても楽です。プリンタの機能によっては、両面印刷から帳合(綴じる順番に原稿を重ねる)まで自動でやってくれます。
※ ワープロ文書と挿絵を合体させる方法(リンク 準備中)
2.プリンタ印刷(レーザープリンタ系)
家庭用レーザープリンタが、特にA4モノクロはずいぶん安くなりました。印刷のクオリティは(絵でも字でも)コピーとは比べものになりません。インクジェットと比べた場合、絵は、色数において劣るものの、鮮明で、文字は圧倒的にレーザーに軍配が上がります。また、印刷後のものは水にも光にも強く、長期保存でも劣化しにくく、印刷屋のオンデマンドに匹敵すると言っていいでしょう。小説本サークルさんでは、ずいぶん前からレーザープリンタによる自家製本を作られているところがありますし、イラストや漫画のサークルさんでも、最近本当の「コピー機のコピー本」の割合はかなり減ってきました。うちも最近、フルカラーレーザープリンタを入手し、「秘密の部屋」の製作に使用しました。
原稿の制作法については、インクジェットと全く同じですが、カラーの場合は独特の注意が必要です。フォトショップで作成した原稿は、ポストスクリプトに対応したプリンタでないとうまく出ないとか、印刷屋さんに出す場合と同じく、四色のインクトナーでの出力であることから、CMYKで原稿を作らないと色が思ったようにならないなど。しかしこれも、印刷屋への入稿と違い、テスト出力がいくらでもできるので、調整が可能ですね。
■製本・綴じ方
1.綴じ方のパターン
・片面印刷、袋折、片線綴じ
僕が一般でイベントに初めて参加した頃は、これが主流でした。コピーの場合は両面印刷が難しいという事情もあったでしょうね。紙の片面、例えばB4に2P分割り付け、半分に折ってそれを重ねて二枚になった方をホチキスで留めるわけです。僕も作ったことはありますが、どうも手製の安っぽさ全開な気がして好きではなく、確か一度きりしか使わなかった手法です。
ただ紙が薄い場合(普通のコピー用紙は64kgくらい)、漫画やイラストでは裏写りが気になりますし、また丈夫さの面でも二枚分の厚さになってる強みがありますので、今でも使われる手法です。
・両面印刷、片線綴じ
普通のコピー用紙でもいいのですが、70kg以上の両面印刷に耐える用紙を使い、裏表に印刷して片側をホチキスで綴じる方法です。最近のプリンターはたいがい両面印刷に対応していますから、コピー機ではせっかく片面きれいにいったやつが裏面刷る時詰まるとか、非常に面倒だったこれが、簡単にできるようになりました。よく使われています。
・両面印刷、中綴じ
僕が短編小説本で頻用する手法です。例えばA4の紙に、裏表4P分割り付けます。4Pの本なら、表に1、4、裏に2、3となります。手作業でやる場合、ページ数が多いと割り付けが非常に複雑で、コピーでは七面倒でやってられないんですが、プリンタだと自動小冊子モードで帳合(綴じる順に紙を重ねる)までやってくれるものもあります。うちのプリンタではA5本以外は全自動では難しいのですが、二面割り付けさえできれば、PDFにした原稿ファイルのページを上下から真ん中に(具体的には文字では説明しづらいですが)という感じで指定して印刷していけば、簡単です。
これを帳合できた状態で半分に折り、表紙は別で多くはちょっといい紙を使ったりカラー印刷をして重ね、真ん中を中綴じ用ホチキス(
)で綴じるのです。誤解もあるのですが、業務用のでかいホチキスと違い、普通のホチキスと同じ10号針使用で、上側が回転するようになっているだけのものは、文房具の専門店でないとみかけないだけで、価格も安いものです。
僕がこの手法を愛用するのは、まず半もしくは全自動帳合、そしてホチキスを当てるのに紙を揃えるのも簡単で、制作が楽なこと、綴じの両側が一枚の紙なので実は丈夫なこと、ノド(紙の綴じ側)がめいっぱいあるので、見やすいこと、一枚の紙で、裏表繋がったようなユニークな表紙が作れること、表紙にホチキスの針が見えないので、見栄えがよいこと、などたくさんの理由があります。
ただしこの手法においては、本が分厚くなるに従い、真ん中の方のページが(横から見ると)飛び出して不細工になるので、厚い本には向きません。しかしそれでも、袋折りよりはページ数がかせげ、コスト的には両面片線に勝るのです。一枚の紙に4Pを割り付けられるわけですからね。
2.製本
・ホチキス綴じ
自家製本においては、99%これです。薄い本なら普通の10号針、普通のホチキス。分厚くなれば業務用ホチキスがいります。僕は「無間」の制作を印刷屋に断られた際買った(が結局使わなかった)のですが、とても高いです。10号針を使う中綴じホチキスは文房具感覚で買える値段で、普通のホチキスとしても使えるので、持っていて損はないでしょう。
・ビニダイン製本
前述「無間」が、たくさんのゲストをお呼びして84Pもの規模になったにも関わらず、印刷屋に断られ、何とかして自家製でやろうとして、僕が調べて独自に挑戦した方法です。
詳細はこちら(写真入り、準備中)
参考にしたページ
シカボン製本術……原稿作りからていねいに実践記録の体裁で解説されています。項目10あたりからビニダインを使った製本について述べられています。
製本屋さん工房……ここに紹介されている製本器はかなり素晴らしそうです。この中の丈夫な接着コーナーを参考にしました。
キハラビニダイン……楽天全体に検索をかけても販売店が見つかりません。僕はハンズで見つけました。一応常時取り扱いです。落丁した本の補修や手芸用途が考えられており、水性で水で粘度を調整でき、乾くと透明で柔らかいビニール樹脂状となります。無論乾いてしまえば耐水性に問題はありません。
手間はかかりますが、奇跡的に初めての試みが見通し通りいけました。
大きなホチキス針で分厚い紙を綴じると、どうしても紙に歪みが出ます。失敗もしやすく、それに綴じしろも多めに必要です。84Pは本来自家製で手に負える厚さではないのです。
ビニダインによる製本は、見栄え、丈夫さ、できた本の扱いやすさともにホチキスの比ではありません。手間がかかるので僕ももう一度やることがあるかどうかはわかりませんが、あれだけ苦労したのだからノウハウを残しておくべきだと考え、このページを作りました。
2008.7.17記す