客の半分くらいは、仮面を着けて正体を隠している。そんな連中の異様な視線が注がれる中、熊のような男に鎖を引かれて、透き通るように肌の白い少年がとぼとぼと歩いてくる。もちろん全裸で、首に巻いた鎖にはナンバーのついたタグが付けられている。少年の性器にはまだ毛は生えていない。寒くもないのに鳥肌が立っていて、瞳はガラスのように精気がない。やがて少年はステージの上に横たわらされる。係員らしい男が少年の膝を開いて性器と肛門がよく見えるようにしたり、四つん這いにさせたり、いろいろな姿勢をさせて「商品」を見せる。係員が何か英語で言うと、何人かの「紳士」が静かに手を上げる。指名された三人ほどがステージに上がって、「商品」を吟味するんだ。体や、顔や、性器に触れる。肛門に指を差し込む。
「味見っていうところだね」と、僕はホテルに案内してくれた「友人」に言った。ところが彼は、
「なあに、本当の味見はこれからさ」と薄く笑って言うんだ。
彼によると、この「吟味」はまだこれから希望者がいる限り数組行われる。その中で、「味見」したい者を募って代表がそれをやる。その「味見」の意味するところはもちろん性交だ。あまり何人もに「味見」させるわけには行かないので、代表がそれをやり、後は見物する。そして、落札が行われる。まあ、骨董品のオークションみたいに大声を張り上げるわけじゃなく、一種の名刺に書いた値段一発で決まる。無論もっとも高い値段を付けた者が落札するんだ。
そんな話を聞いている間にも、ステージには男どもがかわるがわる上がって、無遠慮な「吟味」を続けていた。その間少年は全く無抵抗で、時に太い指が肛門を蹂躙した時など、ピクリと反応するだけだ。声一つ立てない。ほとんど、人形のようでさえある。
友人の話によると、全くの手つかずでこの品評会に出される「商品」はほとんど無いと言っていいらしい。というのは「密輸」を担当する船員らが、「明日をも知れぬ根なし草」といった雰囲気の中にいることと無縁ではない。手つかずの「商品」は確かにそうでないより価値があるだろうが、目の前にエサをまかれて大人しくしている野犬もいない。友人が新入りの船員から話を聞いて、それを僕に教えてくれた。密輸ドキュメントだね。
その時の獲物は中学に上がったばかり位で、ゲームセンターなんかに入り浸ってた所を人売組織とゆかりのある組員に目を付けられて、うまく拐かされたらしい。船に乗せられたときはまだ薬が効いていて酩酊状態に近かったらしい。丁重に毛布にくるんであったのを、外海に出るや、甲板に連れ出して、大人三人がかりでびりびりと服を引き裂いてあっという間に裸に剥いてしまった。新入り君はただ唖然としてその様子を見ているばかりだったらしい。少年は叫び声をあげて、悪態をつくけれど、四方を海に囲まれた船上で、その声はむなしく空にこだまするだけだった。やがて少年はよってたかって四肢を甲板に押しつけられて、足には、鉄球のついた鎖が縛り付けられた。これは絶望の枷だ。「商品」として船に乗せられた人間の中には、万に一つの望みをかけて、海に身を投げるやつがいるそうだ。もちろん助かるはずもないが、商品としてはそれでパアだよね。ところがこのボール&チェーンによって、身を投げても、死あるのみということは確実となる。吹きっさらしの寒い船上で、少年は全裸で股を広げられて、よってたかって犯されるんだ。乗組員は7、8人だが、彼らが交代で少年の口や肛門を使う。仕事の合間のできたヤツが順番待ちで次々に少年に襲いかかるから、少年は一晩中休むことを許されず、男たちの者をくわえさせられるんだ。新入り船員も最初こそ呆然としていたが、「お前もやれよ」って仲間に言われて、初めて少年のバックを犯した。苦しみあえぐ少年の姿を見る内に、嵐のような感情に襲われて、狂ったように腰を使ったって言うよ。朝が来たとき少年は男たちの精液にまみれて、それこそ、体中の穴という穴、前後は言うに及ばず、耳や鼻の穴に至るまで白濁に犯されて、死体のように横たわっていたそうだ。
僕はそんな話を思い出しながら、今目の前にいる品定めされている少年のガラスのような瞳を見た。そして考えた。彼はここに連れられるまで、どんな仕打ちを受けてきたろう。そしてこれから売られていった先で、どんな運命が待っているんだろうってね。だけどそんな、センチメンタルな思いが砕け散るような光景を、僕はその日、見ることになったんだ。